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第一章.死後の世界へ
§2.故郷は駆け足に7
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浄土で初めて迎える朝。昨夜の静寂が嘘のように街は活気と慌ただしさに溢れ、人々の生活を照らし出す。
早足で歩くサラリーマンは駅へと急ぐ。仲良く三つ並んだ黒のランドセルはヤンチャに動き回る。気怠そうに歩く青年は夜勤の帰りだろうか。
皆それぞれの生活があり、それぞれを精一杯生きている。
これから一日が始まる。これから浄土での生活が始まるのだ。
――そんな夢を見た。
やはりというかなんというか、寝坊した。
例のごとく始発の通過音で目覚めた真由美は、案の定二度寝を決行。人間、夜寝るときよりも二度寝で得られる幸福感の方が勝っているのだから不思議なものだ。
リスクを犯して得られる快楽がそうさせるのか、単に自分の弱い部分が睡眠時に出安いのかは定かでないが、兎にも角にも真由美は束の間の熟睡に浸り、六時半にセットしていたアラームを完全にスルーした。
対する太一といえば、こちらも滅法朝には弱い。どれ位かといえば毎日、母に起こしてもらわなければ起きれないほどだ。
特に、今日は連日の疲労と合わさり、太一の睡眠は相当に深いものだった。
そんな彼らが起きれたのはほんの偶然。まさに奇跡、神の恩恵だ。
たまたま寝返りを打った真由美が、手元に置いていた目覚まし時計代わりの携帯電話を吹っ飛ばし、それが偶然にも太一の顔面へダイブしたのだ。
「ぐっ、痛ってぇ……なんか俺、昨日も激痛からの覚醒じゃなかった?」
クリーンヒットした額を撫でながら、そんな苦情を飛ばす太一。確かに、昨日もベッドからの転落で目覚めている。霊体になった太一の朝は痛みと共にやってくるのだろうか。
と、そんなネガティブポエムめいた感想はさておき、ここからが真の修羅場。痛みからの覚醒など取るに足らない出来事に他ならない。
嫌な予感を胸に、太一が吹っ飛ばされてきた携帯で時間を確認すると、時刻は七時四十分。昨日、電気を消す前に真由美が言っていた起床時間を一時間以上オーバーしているではないか。
最悪の未来を想像した太一は急いでロフトに眠る真由美へと駆け寄り、強く揺する。
「真由美ちゃん起きろ! やべぇぞ!! なにがやばいか俺にはよく分からんが、君がテンパるのは目に見えているからマジやべぇ!!」
「んー……いいんですよぉ……今日はホリデイなのれす……」
「いやっ、ちょっと可愛いからアレだけど、そんな自分本位な休日とか無いからね!? それとも、俺と真由美ちゃんの二人で迎えた初めての朝フォーエバー記念日みたいな? あ、やだこれ、すごく響きがエッチい!」
「もぉぉぉ、うるさいれすよぉ! いま何時だと思ってるんですかぁ!?」
阿呆な妄想にうつつを抜かす太一に、真由美の雷が落ちる。それによって我を取り戻した太一は、右手に持ったままだった携帯を真由美に提示。すると、真由美の表情が一瞬で凍りつく。
「あ、あれ……? うわぁぁぁぁ! なななな、なんで!? さっき五時前だったじゃないですか!?」
これぞ二度寝の罠。
あとちょっと、あと五分といった油断が心の隙間に生息する魔物を呼び覚ます。呼び起こされた魔物は、詐欺師も白目を向くような手口で人を誘惑し、弱った心に甘い汁を吸わせる。そして、その対価に時間を奪い取るのだ。
「落ち着いて、大丈夫だから! これからなにすんのか知らないけど、きっと間に合うから!」
「やだやだやだやだぁ! 今日は休むぅ!!」
キャラ崩壊も甚だしい真由美を必死に宥める太一。今こそ秘められた兄力の見せ場だ。
意気込んだ太一はロフトの梯子に右足を掛け、真由美を包むよう両手を伸ばす。右手は首元に、左手は膝裏へとポイントを決め、気張って一気に持ち上げる。
「よっしゃきたっ!! お姫様抱っこぉぉぉ!!」
「あ、あ、あ、あふぅ……」
抱き上げた瞬間暴れられることを覚悟していたのだが、とんだ肩透かし。真由美は熱っぽい表情で太一を見つめたまま、押し黙ってしまったのだ。
突然口を閉じた真由美に疑問を感じつつも、太一は必死に真由美をロフトから下ろす。
真相としては、少女趣味な真由美はお姫様抱っこというメルヘンに強い憧れを持っていただけのことなのだが――無論、太一にそれを察する余裕はない。
勢いで抱き上げてしまったが、これが意外としんどい。元より暴れられて中断するのが関の山だと思っていたのだが、とんだ誤算だった。
いくら真由美が小柄の痩せ型だからといっても、流石に三十キロ以上はあるだろう。母親に米五キロのお使いを頼まれても「重いから嫌だ」と断るのに、よもやその六倍もの重さを抱え、ましてや床に移動させるなど、相当な重労働に違いない。
「霊体のくせに体重あるとか、世の中ままならねぇなっと、よいしょぉ!」
久々に出した本気で、朝から太一の体力は一気にレッドゾーン入りしてしまった。
唯一の救いは昨晩、寝る前のやり取りを掘り返されなかったことだろうか。正直、半分は眠っていたため詳しい内容までは覚えていない。その後、真由美はなにか返答をしたのだろうか。自分の問いに肯定していないだろうか。
不安は尽きない。そして、まだ太一には不安を言葉で解決する勇気は持てそうにない。
(まぁ、いきなりって言っても無理っすわな。なんたって二年近く告れない小心者だし)
太一は、ぶり返しそうになる不安に無理やり理由を付けて、心の片隅へと追いやった。言い訳が言い訳なだけに、少し悲しい気持ちになったのはいうまでもない。
ともあれ、そろそろ両腕が限界に近付いているため太一は止む無く思考を放棄。敷きっぱなしになった布団の上へ真由美を座らせた。
「さって、お兄ちゃんが髪を梳かしてあげようじゃぁないのっ! 寝癖の召喚士なんてみんながっかりだぞ?」
「お、お願いします……」
「へ?」
真由美は火照った顔のままそう言うと、こくりと頷く。
反発心からくる意識の覚醒を狙って用意した茶番だったのだが、まさかお願いされるとは。太一自身、予想だにしなかった展開に思わず焦燥感を覚えてしまう。
しかし、焦る太一の気持ちを知らず、真由美は熱い眼差しを向け続けている。これには屈強の兄力を持った太一でも、流石に生唾を呑み込んだ。
(ブランケット巻き巻きにも、薄緑の洗濯物にも、シャワーの誘惑にも動じなかった俺のエタニティーハートが……こんなことで……)
数々のラッキースケベチャンスを打ち倒してきたことから、太一は自分の兄力に絶対の信頼を置いていた。自分はブレない、清く正しい心の持ち主だ。そう思っていたのだが、まさかこんなことで崩れてしまうとは。
太一の心に蔓延る悪魔の誘惑。ねじ曲がった思考を全力で抑えに入るが、そこは流されやすい太一だ。ザルのように穴だらけの防波堤など意味をなさなず、感情はいとも簡単に漏れ出し、太一の脳へと伝達されていく。
触れたい、触れたい、触れたい。その柔らかそうな髪の毛に。見たい、うなじ、見たい。そして、宙に舞うシャンプーの香りを感じたい。
変態でもいいじゃないか――
「だって、妹萌だものっ!」
覚醒した本能は太一の行動意欲を掻き立てる。
昨日から発覚していたことだ。一度は割り切って、本能の赴くままに行動できたではないか。なにを今更恐れることがある。これは煩悩ではない。妹の世話をする心優しき兄の様。
兄力を持つ者の定めなのだ。
新しい可能性を開花させた太一は、テーブルに置かれた櫛に手を伸ばす。いつもならここで、なにかしらのトラブルが起こるのだろうが、真由美は依然としてされるがまま状態。太一の目から見ても不審な点は見当たらない。
今回ばかりは天が太一を味方した。
軽い手つきで櫛を持った太一は、指の間でそれをくるくると回す。高校の授業中に練習したペン回しの応用だ。
「テンションリラ~ックス! いくぜメイキンッ!!」
櫛を天空に突き上げキメポーズ。満足のいった太一は真由美の髪の毛に櫛を通す。
瞬間、太一の腕に伝わる柔らかい感触。絡まることなく櫛は滑るように毛先へと落ちる。おおよそ、この癖っ毛からは想像できないほどの艶やかさ。男のゴワゴワした髪とは似ても似つかない繊細さ。そして、宙に舞うシャンプーの香りが太一に至福を与えてくれるのだ。
太一は素直に感動する。初めて触れる異性の髪に、心の底から感動する。
(サラサラストレートも好きだけど、こういうふわったした髪の毛もいいっすね)
そんな感想を胸に、太一は真由美の髪の毛を器用な手つきで整えていく。
太一の優しく撫でるようなブラシ捌きに、真由美も首ったけ。火照った顔をより一層とろけさせて、されるがまま太一に身を預けている。
彼女のそんな姿が、また太一のやる気に火を点けてしまい、気付けば髪を梳かすだけだったはずが、ヘアメイクまで熟してしまうハマりよう。癖っ毛を生かし、ふんわりと立体感のあるトップ。向かって右サイドに結われた小振りな三つ編みは太一の遊び心。
小学生の時に起こった空前のミサンガブームで、職人と言われるまで編み続けて培った技術の賜物だ。作ったミサンガを至る所に身に付け、影でレゲエジャンキーと言われていたのはまた別の話――
「うむ。なかなか満足のいく出来に仕上がったな」
元がショートだった故にあまり派手なアレンジは難しかったが、それでも真由美の髪の毛は見違えるほど綺麗に整っていた。これには太一も素直に感服。中学生にしか見えなかった真由美の少し大人びた姿に思わず息を飲んだ。
馬子にも衣装、天然にはキュートな髪型といったところか。
「オーケーオーケー! んじゃまぁ、ごたいめーん!」
と、意気込んだものの肝心の手鏡が見つからない。せっかくこんなに可愛く仕上がったのだから、まずは本人に見せてやるべきだろう。真由美が女の子である以上、まさか持っていないということはないはずだが。
しかし、そこは頭の回転に定評のある太一。すかさず真由美の携帯を開く。女の子の携帯を勝手に開くのは少し躊躇われたが、画面ロックを掛けていないのを見るに、やましいことはないと判断する。あとは携帯のカメラを自撮りモードで展開し、真由美と向かい合わせれば簡易手鏡の完成だ。
太一は軽やかな手つきで携帯を操作する。
「んーと、カメラは……あったあった。んじゃまぁ仕切り直して、開け! ビューティーコロシ――うへぇ!? く、九時!?」
カメラアプリを探していた太一の目に映ったのは、画面上に小さく表示されたデジタル時計。時刻は九時を示している。
具体的な出発時間は聞かされていなかったものの、起床時の真由美の取り乱し具合を考えれば時間が無いことは歴然。後悔はしていないものの、太一は思いの外ヘアメイクを楽しみすぎてしまったことを反省した。
やはり、天は太一の味方などしていなかったのだ。
「真由美ちゃんすまん! 美のプロフェッショナルはまた今度やったげるから、猛ダッシュで着替えてくれっ!」
「ほ、ほぇ?」
なんとも素っ頓狂な返事をする真由美。だが寝起き同様、携帯のディスプレイを正面に突きつけられれば夢の魔法もとけるというもの。たちまちに真由美の顔は蒼白する。
「分かったろ!? あっち向いててあげるから、速攻で着替えてくれ!」
「は、ははは、はいっ!」
流石にここまで切迫した状況下では、軽口を叩く気にもなるまい。太一は真由美に背を向け、ついでに自分の準備も始める。
就寝時に脱いだワイシャツを手早く羽織り、一気にボタンを占める。当然のことだが、真由美が男物の寝巻きなど持っているはずもなく、せめて寝苦しくないようにとブレザーとワイシャツは脱いでおいたのだ。
とはいえ、寝坊常習犯だった太一の着替えは超絶に早い。あっという間に全てのボタンを占め、目にも留まらぬ速さでネクタイを結っていく。
開始からものの一分で着替えは完了。そして、断りなしに真由美の櫛を借り、申し訳程度に髪の毛を梳かす。
「真由美ちゃん、オッケー!?」
「お、オッケーです!!」
対する真由美も、女の子とは思えないほどの早着替え。彼女もまた度重なる寝坊で鍛えられているのだ。
真由美の早着替えに対して煮え切らない気持ちはあるものの、今だけは感謝。浄土生活の初日がぐだぐだ昼からスタートなど御免被りたい。
真由美の返事を聞いた太一は勢いよく踵を返す。そして、太一が目にした真由美の姿は――
「お、俺の努力の結晶が……」
視界に入った真由美の姿は、黒のレディススーツに、ベージュのタイツ。昨日とほぼ変わらない。
しかし、問題は髪型だ。
太一がこだわり抜いてセットした髪は、一体どんな着替え方をしたらこんな風になるのかというくらいに乱れている。この焦燥感の元凶がヘアメイクにあるというのに、それが跡形もなく崩れているとなると、なんのために時間を割いたのかが分からなくなってしまう。
これには太一も焦燥感を忘れて、ただただ落胆する他になかった。
「さぁ、行きましょっ!!」
太一の気も知らず、真由美は元気いっぱいのガッツポーズをして出発を促すのだった。
♦︎♦︎♦︎
後生支援組合。
新しく浄土へ来た人間の登録から、文字通りその後の生活支援、更には個々の霊魂管理まで担っているという。浄土に於ける国家公務員のようなものだろうか。
そんなお堅い場所に迷い込んだ二つの影。一人は田舎者丸出しの学生服を着た修学旅行生。一人は黒いビジネススーツに身を包んだ女子中学生。
おおよそこの場に似つかわしくない二人は、真っ直ぐエレベーターホールへと進む。
「いやぁ~、まさか都庁がうんちゃら支援センターだとは思わなかったわ!」
「そうですね。私も初めて来たときはびっくりしましたよ」
修学旅行生さながらのリアクションを取る太一に、真由美は笑顔で応対する。太一は久々に来た大都会新宿に、真由美は朝のお姫様抱っこに、各々の理由でご機嫌な様子だ。
家を出る前はどうなるかと思ったものだが、ここに来るまで目立った渋滞もなく一時間と掛からず到着することが出来た。また、目的地が都心ということもあり、真由美の暴走運転が披露されなかったのも太一の上機嫌を助けている。
「でもさー、なんちゃらナランチャセンターが都庁を占領しちゃったら、本来の都庁はどうなんのさ?」
「も、もはや原型が……え、えっと、今私たちが居る方が本土での第一庁舎に位置するんですが、浄土ではここが支援センター、向こうの第二庁舎が都庁という感じになってます」
「ふーん、なるほどね。都庁の仕事が片方の庁舎で収まるんだな……本土の庁舎はデカすぎたってことか」
真由美の解説に皮肉を吐く太一。
都民でなかった太一にとって東京の高層ビル群は憧れであり、同時にコンプレックスでもあった。隣接しているはずなのに、何故こんなにも違うのか。東京に来るたび、太一はそんな悔しさを感じられずにはいられなかった。
「ま、まぁ、本土と浄土では違うことも多いですから、きっと必要だったんですよ……ほ、ほら、エレベーター来ましたよ」
「そういうもんかね?」
絶好のタイミングで来たエレベーターに助けられ、真由美は太一に移動を促す。この話はここまで、という意味が込められているのは言うまでもない。
それを察した太一は釈然としない気持ちのまま、素直にエレベーターへと乗り込んだ。
見たことも無いような数の階床ボタンに囲まれ、エレベーターは目的のフロアへと上っていく。
都内の絶景を一望出来る展望タイプのエレベーターを期待していた太一だったが、残念なことに目の前に広がるのは鉄の壁。これでは隣のビルに潜む敵との凄まじい銃撃戦が繰り広げられない、と頭の悪い落胆を強いられていた。
しかしながら、高層ビルというだけあって上向速度には優れている。太一が見当違いの皮肉を口にする前に、目的のフロアへと到着してしまった。
甲高いベルの音が響き、一拍おいてドアが開く。真由美は開ボタンを押して、太一に先に降りるよう指示を出す。
そして、太一がホールに出たことを確認すると、自分もそそくさとエレベーターを後にした。
「はい、到着です。正面に見える七番窓口が目的地ですので!」
ゴール目前でテンションだだ上がりの真由美。初回の業務がもうすぐ完遂できるという彼女の心境を考えれば当たり前のことだろう。
そんな真由美を尻目に、太一はフロア全体を見回していた。
後生支援センター十六階。
内側を囲うように設置されたカウンターテーブルと、その奥には幾つものオフィスデスクが広がっている。おおよその外観は市役所といったところだろう。
太一の年齢的にはあまり親しみのない場所ではあるが、それでも数回の引越しがあったおかげで全くの無知ではない。小学生の頃はよく「好きなお菓子買ってあげる」という甘い言葉に釣られて、買い物の荷物持ち兼市役所での荷物番をさせられたものだ。
「どうしたんですか?」
「い、いや、なんでもない」
真由美に声を掛けられ、太一はふと我に返る。ついつい思考があらぬ方向へと行ってしまい、謎の感慨に耽っていた。すぐに話を脱線させてしまう、太一の悪い癖だ。
「とりあえず、窓口へ行きましょうか。回帰登録したら椎名さんも晴れて浄土民ですよ」
「また知らねぇ単語が出てきたけど……それは後で窓口の人に聞くとして、そうだね。とりま窓口へ行こうか」
「はいっ!」
元気よく返事をする真由美と共に、二人は歩き出す。
といっても、目的の七番窓口までは徒歩十歩。『ついに始まる真の浄土生活』なんて回想を入れる間も無く到着してしまった。
「お、おはようございます」
初任務というだけあって、緊張丸出しで窓口担当に挨拶をする真由美。すると、一番手前に座っていた事務員らしき女性が真由美の声に反応し、こちらへと歩いてくる。
「はい、おはようございます。今日はどうされました? ここは回帰窓口で、生活相談窓口はあっちですよ」
「へ……?」
幼い顔立ちが故か、おどおどした挙動が故か。どうやらこの女性は真由美のことを浄土誘導員として認識できていないようだ。
これには太一も込み上げてくる笑いを我慢できず、その場で笑い崩れてしまう。
当の真由美はというと、浄土誘導員として扱ってもらえなかったことに相当なショックを受けたようで、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「くははぁっ、違うよ受付のお姉さん。確かに浮浪児みたいなくしゃくしゃの髪の毛してるけど……ぷぷっ、その子はあれだよ。浄土誘導員の真由美ちゃんだよ?」
「は、はぁ……」
笑いを必死に堪え、太一は事務員の女性に説明を促す。しかし、ニヤニヤした太一の説明などなんの説得力持たない。女性は太一の説明に適当な相槌をうつと、正面に立つ二人の顔を交互に見て、最終的に首を傾けてしまった。
太一としては彼女の理想的すぎる反応に笑い転げていたいのだが、真由美を放って置くわけにもいくまい。
「ぷっ、ふぅー。ほら、ちゃんと自己紹介しなさいよ。お兄ちゃんは真由美ちゃんに失礼な人間になって欲しくないぞ」
「そ、そうでした」
太一の小馬鹿にしたような口振りに全くの気付かず、真由美はキリッと表情を引き締める。研修中に配られた、支援センターでの応対マニュアルは何度も音読したのだ。今こそ練習の成果を発揮せねばならない。
そして、真由美は一歩前へ出る。
「鳩山本土保安局所属、香川真由美です。案件コードKL-4835Aの達成報告及び、対象者の椎名太一様をお連れいたしました」
これが練習の成果。真由美は一字一句噛むことなく、マニュアル通りの台詞を言ってのけた。真由美自身、物凄い達成感に満たされている。
のだが、残念なことに真由美には浄土誘導員としての貫禄が全くと言っていいほどない。
故に――
「ライセンス、提示してもらってもいいですか?」
「え? あ、はい……」
やはり真由美は残念な星の下に生まれたのだろう。せっかくのキメ顏も虚しく、証拠品の提示を求められるなど。そして、あまりの残念さに太一の我慢は限界を突破する。過呼吸症候群になるのではないかというくらいに笑い転げてしまった。
「酷すぎます……」
「いやぁ~、ごめんごめん。なんかさ、最初は俺も中学生と勘違いしちゃったわけじゃん? 他の人の目から見てもやっぱそう映るのかって思うと、ついね。しかも、それが関係者ってなるとさ……ぷぷっ」
「わ、笑わないでくださいって!」
「ごめんごめん。でも大丈夫、真由美ちゃんはそのままが一番可愛いから」
「か、かわっ!?」
誘導員ライセンスの提示によって、なんとか受付をパスすることが出来た。最後の最後まで事務員の女性は腑に落ちない顔をしていたが、証拠品がある以上はむやみに扱えない。偽装の可能性を考えなくもないが、こんな馬鹿丸出しの二人がそんな器用なことをできるとも思えない。ならば、認めるしかなかろう。
女性は諦めて二人をカウンターに座らせたのだった。
「今、担当者を呼びますので、こちらへ必要事項を記入してお待ちください」
一度デスクに戻った女性はA4サイズの紙を持って戻ってくると、真由美にそれを渡す。おそらくは案件達成についてなにか書くのだろう。
受け取った真由美はデスク隅に置かれたペンを取り、早々に記入を開始する。
「はい、椎名さんも名前を書いてください」
「なにこれ? 婚姻届?」
「ち、違いますよっ!!」
おもいきり取り乱す真由美をスルーして、太一は渡された用紙に目を走らせる。『霊魂回帰誓約書』というタイトルの記載された用紙には『この度、◯年◯月◯日を以て、私は浄土に完全移住いたします。つきましては生者への干渉、及び一部の例外を除いた本土への出入りを一切しないことをこの書面で誓います』といった内容が書かれている。
「これ、普通は最後に書く書類じゃねぇの……?」
ポツリとそんな感想を述べる太一。
とはいえ、出された以上は書くしかあるまい。
この誓約書を見た後だと、真由美が手紙を書くのを渋った理由がよく分かる。あれは完全に生者への干渉とみなされるだろう。
しかし、サインする前のことだ。あのとき、お偉いさんに誓った覚えはない。
限りなくグレーな不安に駆られつつも、太一は下部の対象者氏名の部分に名前を記入。ちなみに隣の項目には担当誘導員といった項目があり、そこには可愛らしい丸文字で香川真由美と書かれている。
太一が真由美の丸文字に少しほっこりしていると、真由美も似たようなことを考えていたのか――
「わわっ! 椎名さん、字お上手ですね」
「ん? あぁ、小学校の頃に習字やってたからね」
といっても、母親指導の自宅教室だ。毎日泣きながら筆を握っていたなど恥ずかしくて言えるはずもない。小四の時に我慢できなくなり、家の壁に墨をぶちまけて引っ叩かれたのをきっかけに辞めてしまったが。
「いや~、あの手紙からは想像できなかったですよぉ。あ、親御さん気付いてくれま――んぐっ!?」
「ば、ばかっ!!」
ついさっき不安に思っていたことがいきなり明るみに出そうになり、焦った太一は真由美の口を押さえつける。間一髪、太一のファインセーブもあってか、周りの人々は気にも留めず仕事に打ち込んでいる様子。
いきなり重罪人のレッテルを貼られずに済んで、太一は安堵する。まったく真由美のうっかりには困ったものだ。
だが、そんな安堵も長くは続かなかった。
「あら? 随分と仲がいいのね?」
「え?」
「鳩山さんのところは、誘導員と対象者のお付き合いを黙認してるのかしら?」
不意に掛けられた女性の声。突然の出現に驚いてしまったが、その後の猫なで声を聞くに、自分たちを茶化したものだとすぐに判断できる。
秘密をバラされそうになり焦る太一がとった体勢は、完全に事務室へ背を向ける形であり、真由美に覆い被さるように見えるのは必然。声の主からしたら抱き合っている、もしくはキスしていると見られても可笑しくはない。
太一は冷静に説明しようと考え体を戻そうとするが、予想だにしなかった衝撃が襲う。
「むむむむっ! ふはっ、ななななな中村さんっ!? ち、ちがっ、ここれは!」
女性の言葉を真っ向に受け取った真由美は、太一を突き飛ばし圧迫から逃れ出る。なにか言い訳をしなければと模索するが、冷静さの欠いた思考が真面な意見を出すわけもなく、真由美の脳はショートしてしまった。
そんな真由美の反応に満足したのか、女性は笑顔でカウンターの椅子を引くと、そこにゆっくりと腰掛けを下ろす。そして、興味の対象を太一に移した女性は目を細めてじっくりと太一を見つめ出した。
必然的に見つめ合う形になった二人。
正面で自分を真っ直ぐ見つめる美人に太一は思わず息を飲む。
年の頃はおそらく二十代中頃。グレー地に白いストライプの入ったベストとスカート、そこから覗く白いブラウスの着こなしは、まさにOLファションそのものである。愛嬌溢れる目鼻立ちとを引き立てる、綺麗に揃えられたミディアムボブは色素の薄い黒。中肉中背の体つきからは特出したところは見当たらないものの、服装とのギャップが太一の男心をくすぐる。
と、太一が固唾を飲んで言葉をまっていると――
「あなたが椎名君ね。んー、写真のがかっこよかったかな……フォトショで加工したでしょ?」
「いきなりなにその絡み!?」
意表を突かれた太一は思わず仰け反り、その反応がお気に召したのか女性は満面の笑みを浮かべる。完全に遊ばれていることは理解できるのだが、名前も知らぬ相手故になかなか突破口が思いつかない。
この場でゆいいつ相手のことを知っている真由美に救いを求めようにも、先のショックから未だに立ち直れておらず、ぶるぶると震えたままだ。そもそも真由美のスペックでは救世主にはなれまい。
「ってか、お姉さんはどちら様っすか?」
「あら? 意外と切り替え早いのね」
報復を諦めた太一は、この茶番を打ち切るべく話を根本から変えると判断。女性も空気を読んだのかイヤらしい笑みを消し、太一の話に応じる姿勢をとる。
「この度、貴方を担当させていただく、ポスチュマスカウンセラーの中村春香と申します。そこそこ長い付き合いになると思うから、よろしくね」
女性――春香は、サラサラのミディアムボブをふわりと揺らし、笑顔で太一に軽く会釈。今さっき切り替えが早いとは言われたものの、春香の切り替えの方が幾分も早く、それでいて自然なものだ。
太一は春香のあまりに自然な会釈に釣られて頭を下げる。
「よ、よろしくっす」
「うん。それじゃ、この書類いただいちゃうわね」
太一のぎこちない会釈を引き続き笑顔で見届けた春香は、机の上に置きっ放しになっていた誓約書へと手を伸ばす。そして、手に取った誓約書にざっと目を通すと、手元で用紙をくるりと回転させて太一の元へと戻す。
「あ、ここ今日の日付入れてもらっていい?」
「うっ、すんません……ってか、これって普通は説明終わってから書くもんじゃないんすか?」
太一は手元に戻ってきた書類を眺め、先刻の疑問を口にする。
無理やり納得してみたものの、書類が完成していないのであれば話は別だ。生者への干渉や本土への出入りをするつもりはないが、冒頭に書かれた『浄土に完全移住』という文章が引っかかる。
やはり浄土での暮らしがどんなものなのか、まず最初になにをするべきなのか、その辺の説明をしっかり受けてから署名したい。
しかし、不信感を募らせる太一とは裏腹に、春香の表情は変わらず笑顔を保ち続けている。
「う~ん、そうね。ちゃんと説明してあげたいんだけど、まずは……まゆちゃんを解放してあげていいかしら?」
「へ?」
そう言って、春香が太一から目線を隣に座る真由美へと移すと、真由美は素っ頓狂な反応を返した。
さっきのショックから未だ立ち直れていない真由美は、今の今まで繰り広げられていた太一と春香のやり取りをなに一つとして把握していない。故に、春香は厳しい表情で真由美を見ると、表情にマッチした言葉を投げつける。
「へ? じゃないわよ……まったく。もう研修じゃないのよ? 独り立ちしたんでしょ?」
「は、はいっ、そうでした!」
「だったらぼーっとしてないで、しっかりしなさい。あなたの仕事は彼をここに連れて来るまでで、ここからは私の仕事。いつまでもここに居座ってられるほど、鳩山さんのところも暇じゃないでしょ?」
最初の猫なで声からは想像できないほど凜とした声色で、真由美を注意する春香。かといって、頭ごなしに叱りつける理不尽なものでもない。その証拠に真由美には落ち込んでいる様子はなく、むしろ午後からの仕事を頑張ろうという決意さえ見て取れる。
声色一つでこうも人をやる気にさせるとは、伊達にカウンセラーを名乗っているわけではないということか。
「では、私は戻ります!」
完璧に乗せられてしまった真由美は元気よく椅子を引いて立ち上がり、一礼の後にくるりと軽快に踵を返す。
春香は、そんな真由美の姿を微笑ましげに見ているのかと思えば、そうではない。真由美を見ていた太一が正面へ顔を戻すと、春香は既に目線を太一の方へと向けていた。
「ほら、椎名くん。まゆちゃん、帰っちゃうよ。ちゃんとお礼は言った?」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。
だが、春香の言葉は驚くほど素直に太一の心へと広がっていく。
――伝えなきゃ。
脳裏を過る言葉と共に、太一は勢いよく立ち上がる。
「ま、真由美ちゃんっ! 待って!!」
フロア全体に響き渡りそうな大きさの声を持って、太一は真由美を引き止める。
お役所でこんな馬鹿でかい声を上げるのはきっと悪いことなのだろうが、今だけは関係ない。だって、ちゃんと言葉で伝えなければならないのだから――
突然かけられた大声に、真由美は思わず足を止めて振り向く。
振り向いた先、視界に映り込む少年の姿は、普段のおちゃらけた雰囲気を全く感じさせない生真面目な表情だった。
交わる二人の視線と、暫しの沈黙。
太一はそのまま目を逸らさずに、一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと真由美へと近付いていく。これまでのことを一つ一つしっかりと思い出しながら、ゆっくりとゆっくりと。
「ありがとうございました」
その言葉は思いの外すんなりと声になった。
路頭に迷った自分をここまで導いてくれたこと。死を受け入れられない自分に未来を与えてくれたこと。
ただただ、湧き上がる感謝の言葉。
「そ、そんな、私はなにも……」
「ううん。俺、迎えに来てくれたのが君でよかった」
真由美は不器用で、不慣れで、誘導員としてはお世辞にも有能とはいえない。もしも担当が真由美でなかったのなら、もっと円滑に進んだのかもしれないし、ベテラン誘導員なら太一の不安を簡単に拭い去ってくれたのかもしれない。
しかし、どんなに有能な誘導員が来たとしても、太一はやっぱり真由美を選ぶだろう。
不器用な分、必死になって相手にぶつかっていく。不慣れな分、頭を悩ませて試行錯誤してみる。でも、失敗ばかりで、いつも両目に涙を溜めている。
そんな誰よりも人間臭い少女。
真由美があまりに人間臭いが故に、太一は命と共に失いかけていた人間らしさを思い出せた。死人としてではなく、もう一度人間として生きようと思えたのだ。
「俺、まだやりたいこととか分かんないけど、真由美ちゃんが連れて来てくれたこの世界で頑張ってみるよ」
真由美は俯いたままなにも言わない。小刻みに震える背中を見るに、彼女はきっと泣いている。
そんな姿を愛おしいと思う気持ちは不謹慎なものだろうか。心の奥で揺らめく感情は胸を締め付ける。しかし、太一はその痛みに気付かないふりをしてやり過ごす。
この気持ちの答え合わせは今でなくていい。
だから――
「だから、またね」
絶対にまた会うために“さよなら”ではなく“またね”と言葉を掛ける。
「ま、またね……?」
顔を上げた真由美はやっぱり泣いていた。
泣かせるために言ったつもりはないが、自分の言葉を親身に受け止めてくれているのが分かって、少しだけ嬉しくて、少しだけ恥ずかしい。
そんな気持ちを隠すかのように、太一は真由美へと右手を伸ばす。
「ん、ほら」
真由美はキョトンとした表情で太一の右手を見つめる。どうやら太一の計らいは伝わらなかったらしい。
「あ~……再会を願っての握手して欲しいなぁなんて思ったわけよ」
「え……? あっ、はいっ!!」
太一の言葉を聞いた真由美はそそくさとスカートで右手を拭い、太一の右手を掴む。心臓が激しく脈打ち、込み上げてくる空気は熱風にも等しい。恥ずかしくて、胸が痛くて、出来ることならこの場に倒れてしまいたい気分だが、その全ての衝動を掻き消す感覚が存在する。
――この手を離したくない。
真由美の胸に湧き上がる感情は、今にもヘタってしまいそうな身体に喝を入れ、右腕の感覚を脳へと強く伝達する。それによって心は浮き彫りになり、抱いていた感情が一過性のものではないことが露わになっていく。
気持ちを言葉にしたい。せめて昨晩のことを、苦手だなんて思ってないよ、と言ってやりたい。
しかし、そんな感情は不意に終着を迎えてしまう。真由美が葛藤している間に、ゆっくりと太一の手が離れ始めたのだ。
「次に会うとき俺は対象者じゃないからさ、その……もっと普通に接して欲しいんだ」
恥ずかしい気な表情を隠すように、離した右手を髪の毛の隙間に突っ込む太一。そんな姿をどこか可愛く思った真由美は思わず笑顔になる。
そして、彼女は思う。
絶対にまた会える。その時までにちゃんとした言葉を考えておこう。
だから今は――
「う、うん。つ、次に会うときは……もっと色んなお話をしたい、その……わ、私の話ももっと聞いて欲しいな……」
「え?」
いきなり敬語が吹っ飛んだことや、タメ口を全然使いこなせていないことなど。驚く要因はたくさんあった。だが、太一はもっと別のことに驚き、言葉を詰まらせた。
――もしかしたら、出会って初めて素で話せたのかもしれない。
太一がそのことを追求しようとするも、真由美はさっきのお返しと言わんばかりに太一の疑問を掻き消し、次の言葉を紡ぐ。
「だから……その……た、たたた太一くん……またね」
途切れ途切れではあるが、言いたいことを言い終えた真由美はその場でクイックターンを決め、早歩きでエレベーターホールへと行ってしまった。
全く予想しない展開に置いてけぼりの太一は、呆然とその場に立ち尽くす。
(前言撤回。こんなに顔を真っ赤にして、一生懸命に声を出している姿が素のはずがない。可愛すぎる)
内心でそんなことを思い浮かべ、太一もまた回帰窓口へと戻って行く。
あまりに呆気ない幕切れを残念に思う気持ちもあるが、胸の奥でなにか甘酸っぱい気持ちが広がっていることに太一は気付き、また見ないふりをした。
早足で歩くサラリーマンは駅へと急ぐ。仲良く三つ並んだ黒のランドセルはヤンチャに動き回る。気怠そうに歩く青年は夜勤の帰りだろうか。
皆それぞれの生活があり、それぞれを精一杯生きている。
これから一日が始まる。これから浄土での生活が始まるのだ。
――そんな夢を見た。
やはりというかなんというか、寝坊した。
例のごとく始発の通過音で目覚めた真由美は、案の定二度寝を決行。人間、夜寝るときよりも二度寝で得られる幸福感の方が勝っているのだから不思議なものだ。
リスクを犯して得られる快楽がそうさせるのか、単に自分の弱い部分が睡眠時に出安いのかは定かでないが、兎にも角にも真由美は束の間の熟睡に浸り、六時半にセットしていたアラームを完全にスルーした。
対する太一といえば、こちらも滅法朝には弱い。どれ位かといえば毎日、母に起こしてもらわなければ起きれないほどだ。
特に、今日は連日の疲労と合わさり、太一の睡眠は相当に深いものだった。
そんな彼らが起きれたのはほんの偶然。まさに奇跡、神の恩恵だ。
たまたま寝返りを打った真由美が、手元に置いていた目覚まし時計代わりの携帯電話を吹っ飛ばし、それが偶然にも太一の顔面へダイブしたのだ。
「ぐっ、痛ってぇ……なんか俺、昨日も激痛からの覚醒じゃなかった?」
クリーンヒットした額を撫でながら、そんな苦情を飛ばす太一。確かに、昨日もベッドからの転落で目覚めている。霊体になった太一の朝は痛みと共にやってくるのだろうか。
と、そんなネガティブポエムめいた感想はさておき、ここからが真の修羅場。痛みからの覚醒など取るに足らない出来事に他ならない。
嫌な予感を胸に、太一が吹っ飛ばされてきた携帯で時間を確認すると、時刻は七時四十分。昨日、電気を消す前に真由美が言っていた起床時間を一時間以上オーバーしているではないか。
最悪の未来を想像した太一は急いでロフトに眠る真由美へと駆け寄り、強く揺する。
「真由美ちゃん起きろ! やべぇぞ!! なにがやばいか俺にはよく分からんが、君がテンパるのは目に見えているからマジやべぇ!!」
「んー……いいんですよぉ……今日はホリデイなのれす……」
「いやっ、ちょっと可愛いからアレだけど、そんな自分本位な休日とか無いからね!? それとも、俺と真由美ちゃんの二人で迎えた初めての朝フォーエバー記念日みたいな? あ、やだこれ、すごく響きがエッチい!」
「もぉぉぉ、うるさいれすよぉ! いま何時だと思ってるんですかぁ!?」
阿呆な妄想にうつつを抜かす太一に、真由美の雷が落ちる。それによって我を取り戻した太一は、右手に持ったままだった携帯を真由美に提示。すると、真由美の表情が一瞬で凍りつく。
「あ、あれ……? うわぁぁぁぁ! なななな、なんで!? さっき五時前だったじゃないですか!?」
これぞ二度寝の罠。
あとちょっと、あと五分といった油断が心の隙間に生息する魔物を呼び覚ます。呼び起こされた魔物は、詐欺師も白目を向くような手口で人を誘惑し、弱った心に甘い汁を吸わせる。そして、その対価に時間を奪い取るのだ。
「落ち着いて、大丈夫だから! これからなにすんのか知らないけど、きっと間に合うから!」
「やだやだやだやだぁ! 今日は休むぅ!!」
キャラ崩壊も甚だしい真由美を必死に宥める太一。今こそ秘められた兄力の見せ場だ。
意気込んだ太一はロフトの梯子に右足を掛け、真由美を包むよう両手を伸ばす。右手は首元に、左手は膝裏へとポイントを決め、気張って一気に持ち上げる。
「よっしゃきたっ!! お姫様抱っこぉぉぉ!!」
「あ、あ、あ、あふぅ……」
抱き上げた瞬間暴れられることを覚悟していたのだが、とんだ肩透かし。真由美は熱っぽい表情で太一を見つめたまま、押し黙ってしまったのだ。
突然口を閉じた真由美に疑問を感じつつも、太一は必死に真由美をロフトから下ろす。
真相としては、少女趣味な真由美はお姫様抱っこというメルヘンに強い憧れを持っていただけのことなのだが――無論、太一にそれを察する余裕はない。
勢いで抱き上げてしまったが、これが意外としんどい。元より暴れられて中断するのが関の山だと思っていたのだが、とんだ誤算だった。
いくら真由美が小柄の痩せ型だからといっても、流石に三十キロ以上はあるだろう。母親に米五キロのお使いを頼まれても「重いから嫌だ」と断るのに、よもやその六倍もの重さを抱え、ましてや床に移動させるなど、相当な重労働に違いない。
「霊体のくせに体重あるとか、世の中ままならねぇなっと、よいしょぉ!」
久々に出した本気で、朝から太一の体力は一気にレッドゾーン入りしてしまった。
唯一の救いは昨晩、寝る前のやり取りを掘り返されなかったことだろうか。正直、半分は眠っていたため詳しい内容までは覚えていない。その後、真由美はなにか返答をしたのだろうか。自分の問いに肯定していないだろうか。
不安は尽きない。そして、まだ太一には不安を言葉で解決する勇気は持てそうにない。
(まぁ、いきなりって言っても無理っすわな。なんたって二年近く告れない小心者だし)
太一は、ぶり返しそうになる不安に無理やり理由を付けて、心の片隅へと追いやった。言い訳が言い訳なだけに、少し悲しい気持ちになったのはいうまでもない。
ともあれ、そろそろ両腕が限界に近付いているため太一は止む無く思考を放棄。敷きっぱなしになった布団の上へ真由美を座らせた。
「さって、お兄ちゃんが髪を梳かしてあげようじゃぁないのっ! 寝癖の召喚士なんてみんながっかりだぞ?」
「お、お願いします……」
「へ?」
真由美は火照った顔のままそう言うと、こくりと頷く。
反発心からくる意識の覚醒を狙って用意した茶番だったのだが、まさかお願いされるとは。太一自身、予想だにしなかった展開に思わず焦燥感を覚えてしまう。
しかし、焦る太一の気持ちを知らず、真由美は熱い眼差しを向け続けている。これには屈強の兄力を持った太一でも、流石に生唾を呑み込んだ。
(ブランケット巻き巻きにも、薄緑の洗濯物にも、シャワーの誘惑にも動じなかった俺のエタニティーハートが……こんなことで……)
数々のラッキースケベチャンスを打ち倒してきたことから、太一は自分の兄力に絶対の信頼を置いていた。自分はブレない、清く正しい心の持ち主だ。そう思っていたのだが、まさかこんなことで崩れてしまうとは。
太一の心に蔓延る悪魔の誘惑。ねじ曲がった思考を全力で抑えに入るが、そこは流されやすい太一だ。ザルのように穴だらけの防波堤など意味をなさなず、感情はいとも簡単に漏れ出し、太一の脳へと伝達されていく。
触れたい、触れたい、触れたい。その柔らかそうな髪の毛に。見たい、うなじ、見たい。そして、宙に舞うシャンプーの香りを感じたい。
変態でもいいじゃないか――
「だって、妹萌だものっ!」
覚醒した本能は太一の行動意欲を掻き立てる。
昨日から発覚していたことだ。一度は割り切って、本能の赴くままに行動できたではないか。なにを今更恐れることがある。これは煩悩ではない。妹の世話をする心優しき兄の様。
兄力を持つ者の定めなのだ。
新しい可能性を開花させた太一は、テーブルに置かれた櫛に手を伸ばす。いつもならここで、なにかしらのトラブルが起こるのだろうが、真由美は依然としてされるがまま状態。太一の目から見ても不審な点は見当たらない。
今回ばかりは天が太一を味方した。
軽い手つきで櫛を持った太一は、指の間でそれをくるくると回す。高校の授業中に練習したペン回しの応用だ。
「テンションリラ~ックス! いくぜメイキンッ!!」
櫛を天空に突き上げキメポーズ。満足のいった太一は真由美の髪の毛に櫛を通す。
瞬間、太一の腕に伝わる柔らかい感触。絡まることなく櫛は滑るように毛先へと落ちる。おおよそ、この癖っ毛からは想像できないほどの艶やかさ。男のゴワゴワした髪とは似ても似つかない繊細さ。そして、宙に舞うシャンプーの香りが太一に至福を与えてくれるのだ。
太一は素直に感動する。初めて触れる異性の髪に、心の底から感動する。
(サラサラストレートも好きだけど、こういうふわったした髪の毛もいいっすね)
そんな感想を胸に、太一は真由美の髪の毛を器用な手つきで整えていく。
太一の優しく撫でるようなブラシ捌きに、真由美も首ったけ。火照った顔をより一層とろけさせて、されるがまま太一に身を預けている。
彼女のそんな姿が、また太一のやる気に火を点けてしまい、気付けば髪を梳かすだけだったはずが、ヘアメイクまで熟してしまうハマりよう。癖っ毛を生かし、ふんわりと立体感のあるトップ。向かって右サイドに結われた小振りな三つ編みは太一の遊び心。
小学生の時に起こった空前のミサンガブームで、職人と言われるまで編み続けて培った技術の賜物だ。作ったミサンガを至る所に身に付け、影でレゲエジャンキーと言われていたのはまた別の話――
「うむ。なかなか満足のいく出来に仕上がったな」
元がショートだった故にあまり派手なアレンジは難しかったが、それでも真由美の髪の毛は見違えるほど綺麗に整っていた。これには太一も素直に感服。中学生にしか見えなかった真由美の少し大人びた姿に思わず息を飲んだ。
馬子にも衣装、天然にはキュートな髪型といったところか。
「オーケーオーケー! んじゃまぁ、ごたいめーん!」
と、意気込んだものの肝心の手鏡が見つからない。せっかくこんなに可愛く仕上がったのだから、まずは本人に見せてやるべきだろう。真由美が女の子である以上、まさか持っていないということはないはずだが。
しかし、そこは頭の回転に定評のある太一。すかさず真由美の携帯を開く。女の子の携帯を勝手に開くのは少し躊躇われたが、画面ロックを掛けていないのを見るに、やましいことはないと判断する。あとは携帯のカメラを自撮りモードで展開し、真由美と向かい合わせれば簡易手鏡の完成だ。
太一は軽やかな手つきで携帯を操作する。
「んーと、カメラは……あったあった。んじゃまぁ仕切り直して、開け! ビューティーコロシ――うへぇ!? く、九時!?」
カメラアプリを探していた太一の目に映ったのは、画面上に小さく表示されたデジタル時計。時刻は九時を示している。
具体的な出発時間は聞かされていなかったものの、起床時の真由美の取り乱し具合を考えれば時間が無いことは歴然。後悔はしていないものの、太一は思いの外ヘアメイクを楽しみすぎてしまったことを反省した。
やはり、天は太一の味方などしていなかったのだ。
「真由美ちゃんすまん! 美のプロフェッショナルはまた今度やったげるから、猛ダッシュで着替えてくれっ!」
「ほ、ほぇ?」
なんとも素っ頓狂な返事をする真由美。だが寝起き同様、携帯のディスプレイを正面に突きつけられれば夢の魔法もとけるというもの。たちまちに真由美の顔は蒼白する。
「分かったろ!? あっち向いててあげるから、速攻で着替えてくれ!」
「は、ははは、はいっ!」
流石にここまで切迫した状況下では、軽口を叩く気にもなるまい。太一は真由美に背を向け、ついでに自分の準備も始める。
就寝時に脱いだワイシャツを手早く羽織り、一気にボタンを占める。当然のことだが、真由美が男物の寝巻きなど持っているはずもなく、せめて寝苦しくないようにとブレザーとワイシャツは脱いでおいたのだ。
とはいえ、寝坊常習犯だった太一の着替えは超絶に早い。あっという間に全てのボタンを占め、目にも留まらぬ速さでネクタイを結っていく。
開始からものの一分で着替えは完了。そして、断りなしに真由美の櫛を借り、申し訳程度に髪の毛を梳かす。
「真由美ちゃん、オッケー!?」
「お、オッケーです!!」
対する真由美も、女の子とは思えないほどの早着替え。彼女もまた度重なる寝坊で鍛えられているのだ。
真由美の早着替えに対して煮え切らない気持ちはあるものの、今だけは感謝。浄土生活の初日がぐだぐだ昼からスタートなど御免被りたい。
真由美の返事を聞いた太一は勢いよく踵を返す。そして、太一が目にした真由美の姿は――
「お、俺の努力の結晶が……」
視界に入った真由美の姿は、黒のレディススーツに、ベージュのタイツ。昨日とほぼ変わらない。
しかし、問題は髪型だ。
太一がこだわり抜いてセットした髪は、一体どんな着替え方をしたらこんな風になるのかというくらいに乱れている。この焦燥感の元凶がヘアメイクにあるというのに、それが跡形もなく崩れているとなると、なんのために時間を割いたのかが分からなくなってしまう。
これには太一も焦燥感を忘れて、ただただ落胆する他になかった。
「さぁ、行きましょっ!!」
太一の気も知らず、真由美は元気いっぱいのガッツポーズをして出発を促すのだった。
♦︎♦︎♦︎
後生支援組合。
新しく浄土へ来た人間の登録から、文字通りその後の生活支援、更には個々の霊魂管理まで担っているという。浄土に於ける国家公務員のようなものだろうか。
そんなお堅い場所に迷い込んだ二つの影。一人は田舎者丸出しの学生服を着た修学旅行生。一人は黒いビジネススーツに身を包んだ女子中学生。
おおよそこの場に似つかわしくない二人は、真っ直ぐエレベーターホールへと進む。
「いやぁ~、まさか都庁がうんちゃら支援センターだとは思わなかったわ!」
「そうですね。私も初めて来たときはびっくりしましたよ」
修学旅行生さながらのリアクションを取る太一に、真由美は笑顔で応対する。太一は久々に来た大都会新宿に、真由美は朝のお姫様抱っこに、各々の理由でご機嫌な様子だ。
家を出る前はどうなるかと思ったものだが、ここに来るまで目立った渋滞もなく一時間と掛からず到着することが出来た。また、目的地が都心ということもあり、真由美の暴走運転が披露されなかったのも太一の上機嫌を助けている。
「でもさー、なんちゃらナランチャセンターが都庁を占領しちゃったら、本来の都庁はどうなんのさ?」
「も、もはや原型が……え、えっと、今私たちが居る方が本土での第一庁舎に位置するんですが、浄土ではここが支援センター、向こうの第二庁舎が都庁という感じになってます」
「ふーん、なるほどね。都庁の仕事が片方の庁舎で収まるんだな……本土の庁舎はデカすぎたってことか」
真由美の解説に皮肉を吐く太一。
都民でなかった太一にとって東京の高層ビル群は憧れであり、同時にコンプレックスでもあった。隣接しているはずなのに、何故こんなにも違うのか。東京に来るたび、太一はそんな悔しさを感じられずにはいられなかった。
「ま、まぁ、本土と浄土では違うことも多いですから、きっと必要だったんですよ……ほ、ほら、エレベーター来ましたよ」
「そういうもんかね?」
絶好のタイミングで来たエレベーターに助けられ、真由美は太一に移動を促す。この話はここまで、という意味が込められているのは言うまでもない。
それを察した太一は釈然としない気持ちのまま、素直にエレベーターへと乗り込んだ。
見たことも無いような数の階床ボタンに囲まれ、エレベーターは目的のフロアへと上っていく。
都内の絶景を一望出来る展望タイプのエレベーターを期待していた太一だったが、残念なことに目の前に広がるのは鉄の壁。これでは隣のビルに潜む敵との凄まじい銃撃戦が繰り広げられない、と頭の悪い落胆を強いられていた。
しかしながら、高層ビルというだけあって上向速度には優れている。太一が見当違いの皮肉を口にする前に、目的のフロアへと到着してしまった。
甲高いベルの音が響き、一拍おいてドアが開く。真由美は開ボタンを押して、太一に先に降りるよう指示を出す。
そして、太一がホールに出たことを確認すると、自分もそそくさとエレベーターを後にした。
「はい、到着です。正面に見える七番窓口が目的地ですので!」
ゴール目前でテンションだだ上がりの真由美。初回の業務がもうすぐ完遂できるという彼女の心境を考えれば当たり前のことだろう。
そんな真由美を尻目に、太一はフロア全体を見回していた。
後生支援センター十六階。
内側を囲うように設置されたカウンターテーブルと、その奥には幾つものオフィスデスクが広がっている。おおよその外観は市役所といったところだろう。
太一の年齢的にはあまり親しみのない場所ではあるが、それでも数回の引越しがあったおかげで全くの無知ではない。小学生の頃はよく「好きなお菓子買ってあげる」という甘い言葉に釣られて、買い物の荷物持ち兼市役所での荷物番をさせられたものだ。
「どうしたんですか?」
「い、いや、なんでもない」
真由美に声を掛けられ、太一はふと我に返る。ついつい思考があらぬ方向へと行ってしまい、謎の感慨に耽っていた。すぐに話を脱線させてしまう、太一の悪い癖だ。
「とりあえず、窓口へ行きましょうか。回帰登録したら椎名さんも晴れて浄土民ですよ」
「また知らねぇ単語が出てきたけど……それは後で窓口の人に聞くとして、そうだね。とりま窓口へ行こうか」
「はいっ!」
元気よく返事をする真由美と共に、二人は歩き出す。
といっても、目的の七番窓口までは徒歩十歩。『ついに始まる真の浄土生活』なんて回想を入れる間も無く到着してしまった。
「お、おはようございます」
初任務というだけあって、緊張丸出しで窓口担当に挨拶をする真由美。すると、一番手前に座っていた事務員らしき女性が真由美の声に反応し、こちらへと歩いてくる。
「はい、おはようございます。今日はどうされました? ここは回帰窓口で、生活相談窓口はあっちですよ」
「へ……?」
幼い顔立ちが故か、おどおどした挙動が故か。どうやらこの女性は真由美のことを浄土誘導員として認識できていないようだ。
これには太一も込み上げてくる笑いを我慢できず、その場で笑い崩れてしまう。
当の真由美はというと、浄土誘導員として扱ってもらえなかったことに相当なショックを受けたようで、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「くははぁっ、違うよ受付のお姉さん。確かに浮浪児みたいなくしゃくしゃの髪の毛してるけど……ぷぷっ、その子はあれだよ。浄土誘導員の真由美ちゃんだよ?」
「は、はぁ……」
笑いを必死に堪え、太一は事務員の女性に説明を促す。しかし、ニヤニヤした太一の説明などなんの説得力持たない。女性は太一の説明に適当な相槌をうつと、正面に立つ二人の顔を交互に見て、最終的に首を傾けてしまった。
太一としては彼女の理想的すぎる反応に笑い転げていたいのだが、真由美を放って置くわけにもいくまい。
「ぷっ、ふぅー。ほら、ちゃんと自己紹介しなさいよ。お兄ちゃんは真由美ちゃんに失礼な人間になって欲しくないぞ」
「そ、そうでした」
太一の小馬鹿にしたような口振りに全くの気付かず、真由美はキリッと表情を引き締める。研修中に配られた、支援センターでの応対マニュアルは何度も音読したのだ。今こそ練習の成果を発揮せねばならない。
そして、真由美は一歩前へ出る。
「鳩山本土保安局所属、香川真由美です。案件コードKL-4835Aの達成報告及び、対象者の椎名太一様をお連れいたしました」
これが練習の成果。真由美は一字一句噛むことなく、マニュアル通りの台詞を言ってのけた。真由美自身、物凄い達成感に満たされている。
のだが、残念なことに真由美には浄土誘導員としての貫禄が全くと言っていいほどない。
故に――
「ライセンス、提示してもらってもいいですか?」
「え? あ、はい……」
やはり真由美は残念な星の下に生まれたのだろう。せっかくのキメ顏も虚しく、証拠品の提示を求められるなど。そして、あまりの残念さに太一の我慢は限界を突破する。過呼吸症候群になるのではないかというくらいに笑い転げてしまった。
「酷すぎます……」
「いやぁ~、ごめんごめん。なんかさ、最初は俺も中学生と勘違いしちゃったわけじゃん? 他の人の目から見てもやっぱそう映るのかって思うと、ついね。しかも、それが関係者ってなるとさ……ぷぷっ」
「わ、笑わないでくださいって!」
「ごめんごめん。でも大丈夫、真由美ちゃんはそのままが一番可愛いから」
「か、かわっ!?」
誘導員ライセンスの提示によって、なんとか受付をパスすることが出来た。最後の最後まで事務員の女性は腑に落ちない顔をしていたが、証拠品がある以上はむやみに扱えない。偽装の可能性を考えなくもないが、こんな馬鹿丸出しの二人がそんな器用なことをできるとも思えない。ならば、認めるしかなかろう。
女性は諦めて二人をカウンターに座らせたのだった。
「今、担当者を呼びますので、こちらへ必要事項を記入してお待ちください」
一度デスクに戻った女性はA4サイズの紙を持って戻ってくると、真由美にそれを渡す。おそらくは案件達成についてなにか書くのだろう。
受け取った真由美はデスク隅に置かれたペンを取り、早々に記入を開始する。
「はい、椎名さんも名前を書いてください」
「なにこれ? 婚姻届?」
「ち、違いますよっ!!」
おもいきり取り乱す真由美をスルーして、太一は渡された用紙に目を走らせる。『霊魂回帰誓約書』というタイトルの記載された用紙には『この度、◯年◯月◯日を以て、私は浄土に完全移住いたします。つきましては生者への干渉、及び一部の例外を除いた本土への出入りを一切しないことをこの書面で誓います』といった内容が書かれている。
「これ、普通は最後に書く書類じゃねぇの……?」
ポツリとそんな感想を述べる太一。
とはいえ、出された以上は書くしかあるまい。
この誓約書を見た後だと、真由美が手紙を書くのを渋った理由がよく分かる。あれは完全に生者への干渉とみなされるだろう。
しかし、サインする前のことだ。あのとき、お偉いさんに誓った覚えはない。
限りなくグレーな不安に駆られつつも、太一は下部の対象者氏名の部分に名前を記入。ちなみに隣の項目には担当誘導員といった項目があり、そこには可愛らしい丸文字で香川真由美と書かれている。
太一が真由美の丸文字に少しほっこりしていると、真由美も似たようなことを考えていたのか――
「わわっ! 椎名さん、字お上手ですね」
「ん? あぁ、小学校の頃に習字やってたからね」
といっても、母親指導の自宅教室だ。毎日泣きながら筆を握っていたなど恥ずかしくて言えるはずもない。小四の時に我慢できなくなり、家の壁に墨をぶちまけて引っ叩かれたのをきっかけに辞めてしまったが。
「いや~、あの手紙からは想像できなかったですよぉ。あ、親御さん気付いてくれま――んぐっ!?」
「ば、ばかっ!!」
ついさっき不安に思っていたことがいきなり明るみに出そうになり、焦った太一は真由美の口を押さえつける。間一髪、太一のファインセーブもあってか、周りの人々は気にも留めず仕事に打ち込んでいる様子。
いきなり重罪人のレッテルを貼られずに済んで、太一は安堵する。まったく真由美のうっかりには困ったものだ。
だが、そんな安堵も長くは続かなかった。
「あら? 随分と仲がいいのね?」
「え?」
「鳩山さんのところは、誘導員と対象者のお付き合いを黙認してるのかしら?」
不意に掛けられた女性の声。突然の出現に驚いてしまったが、その後の猫なで声を聞くに、自分たちを茶化したものだとすぐに判断できる。
秘密をバラされそうになり焦る太一がとった体勢は、完全に事務室へ背を向ける形であり、真由美に覆い被さるように見えるのは必然。声の主からしたら抱き合っている、もしくはキスしていると見られても可笑しくはない。
太一は冷静に説明しようと考え体を戻そうとするが、予想だにしなかった衝撃が襲う。
「むむむむっ! ふはっ、ななななな中村さんっ!? ち、ちがっ、ここれは!」
女性の言葉を真っ向に受け取った真由美は、太一を突き飛ばし圧迫から逃れ出る。なにか言い訳をしなければと模索するが、冷静さの欠いた思考が真面な意見を出すわけもなく、真由美の脳はショートしてしまった。
そんな真由美の反応に満足したのか、女性は笑顔でカウンターの椅子を引くと、そこにゆっくりと腰掛けを下ろす。そして、興味の対象を太一に移した女性は目を細めてじっくりと太一を見つめ出した。
必然的に見つめ合う形になった二人。
正面で自分を真っ直ぐ見つめる美人に太一は思わず息を飲む。
年の頃はおそらく二十代中頃。グレー地に白いストライプの入ったベストとスカート、そこから覗く白いブラウスの着こなしは、まさにOLファションそのものである。愛嬌溢れる目鼻立ちとを引き立てる、綺麗に揃えられたミディアムボブは色素の薄い黒。中肉中背の体つきからは特出したところは見当たらないものの、服装とのギャップが太一の男心をくすぐる。
と、太一が固唾を飲んで言葉をまっていると――
「あなたが椎名君ね。んー、写真のがかっこよかったかな……フォトショで加工したでしょ?」
「いきなりなにその絡み!?」
意表を突かれた太一は思わず仰け反り、その反応がお気に召したのか女性は満面の笑みを浮かべる。完全に遊ばれていることは理解できるのだが、名前も知らぬ相手故になかなか突破口が思いつかない。
この場でゆいいつ相手のことを知っている真由美に救いを求めようにも、先のショックから未だに立ち直れておらず、ぶるぶると震えたままだ。そもそも真由美のスペックでは救世主にはなれまい。
「ってか、お姉さんはどちら様っすか?」
「あら? 意外と切り替え早いのね」
報復を諦めた太一は、この茶番を打ち切るべく話を根本から変えると判断。女性も空気を読んだのかイヤらしい笑みを消し、太一の話に応じる姿勢をとる。
「この度、貴方を担当させていただく、ポスチュマスカウンセラーの中村春香と申します。そこそこ長い付き合いになると思うから、よろしくね」
女性――春香は、サラサラのミディアムボブをふわりと揺らし、笑顔で太一に軽く会釈。今さっき切り替えが早いとは言われたものの、春香の切り替えの方が幾分も早く、それでいて自然なものだ。
太一は春香のあまりに自然な会釈に釣られて頭を下げる。
「よ、よろしくっす」
「うん。それじゃ、この書類いただいちゃうわね」
太一のぎこちない会釈を引き続き笑顔で見届けた春香は、机の上に置きっ放しになっていた誓約書へと手を伸ばす。そして、手に取った誓約書にざっと目を通すと、手元で用紙をくるりと回転させて太一の元へと戻す。
「あ、ここ今日の日付入れてもらっていい?」
「うっ、すんません……ってか、これって普通は説明終わってから書くもんじゃないんすか?」
太一は手元に戻ってきた書類を眺め、先刻の疑問を口にする。
無理やり納得してみたものの、書類が完成していないのであれば話は別だ。生者への干渉や本土への出入りをするつもりはないが、冒頭に書かれた『浄土に完全移住』という文章が引っかかる。
やはり浄土での暮らしがどんなものなのか、まず最初になにをするべきなのか、その辺の説明をしっかり受けてから署名したい。
しかし、不信感を募らせる太一とは裏腹に、春香の表情は変わらず笑顔を保ち続けている。
「う~ん、そうね。ちゃんと説明してあげたいんだけど、まずは……まゆちゃんを解放してあげていいかしら?」
「へ?」
そう言って、春香が太一から目線を隣に座る真由美へと移すと、真由美は素っ頓狂な反応を返した。
さっきのショックから未だ立ち直れていない真由美は、今の今まで繰り広げられていた太一と春香のやり取りをなに一つとして把握していない。故に、春香は厳しい表情で真由美を見ると、表情にマッチした言葉を投げつける。
「へ? じゃないわよ……まったく。もう研修じゃないのよ? 独り立ちしたんでしょ?」
「は、はいっ、そうでした!」
「だったらぼーっとしてないで、しっかりしなさい。あなたの仕事は彼をここに連れて来るまでで、ここからは私の仕事。いつまでもここに居座ってられるほど、鳩山さんのところも暇じゃないでしょ?」
最初の猫なで声からは想像できないほど凜とした声色で、真由美を注意する春香。かといって、頭ごなしに叱りつける理不尽なものでもない。その証拠に真由美には落ち込んでいる様子はなく、むしろ午後からの仕事を頑張ろうという決意さえ見て取れる。
声色一つでこうも人をやる気にさせるとは、伊達にカウンセラーを名乗っているわけではないということか。
「では、私は戻ります!」
完璧に乗せられてしまった真由美は元気よく椅子を引いて立ち上がり、一礼の後にくるりと軽快に踵を返す。
春香は、そんな真由美の姿を微笑ましげに見ているのかと思えば、そうではない。真由美を見ていた太一が正面へ顔を戻すと、春香は既に目線を太一の方へと向けていた。
「ほら、椎名くん。まゆちゃん、帰っちゃうよ。ちゃんとお礼は言った?」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。
だが、春香の言葉は驚くほど素直に太一の心へと広がっていく。
――伝えなきゃ。
脳裏を過る言葉と共に、太一は勢いよく立ち上がる。
「ま、真由美ちゃんっ! 待って!!」
フロア全体に響き渡りそうな大きさの声を持って、太一は真由美を引き止める。
お役所でこんな馬鹿でかい声を上げるのはきっと悪いことなのだろうが、今だけは関係ない。だって、ちゃんと言葉で伝えなければならないのだから――
突然かけられた大声に、真由美は思わず足を止めて振り向く。
振り向いた先、視界に映り込む少年の姿は、普段のおちゃらけた雰囲気を全く感じさせない生真面目な表情だった。
交わる二人の視線と、暫しの沈黙。
太一はそのまま目を逸らさずに、一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと真由美へと近付いていく。これまでのことを一つ一つしっかりと思い出しながら、ゆっくりとゆっくりと。
「ありがとうございました」
その言葉は思いの外すんなりと声になった。
路頭に迷った自分をここまで導いてくれたこと。死を受け入れられない自分に未来を与えてくれたこと。
ただただ、湧き上がる感謝の言葉。
「そ、そんな、私はなにも……」
「ううん。俺、迎えに来てくれたのが君でよかった」
真由美は不器用で、不慣れで、誘導員としてはお世辞にも有能とはいえない。もしも担当が真由美でなかったのなら、もっと円滑に進んだのかもしれないし、ベテラン誘導員なら太一の不安を簡単に拭い去ってくれたのかもしれない。
しかし、どんなに有能な誘導員が来たとしても、太一はやっぱり真由美を選ぶだろう。
不器用な分、必死になって相手にぶつかっていく。不慣れな分、頭を悩ませて試行錯誤してみる。でも、失敗ばかりで、いつも両目に涙を溜めている。
そんな誰よりも人間臭い少女。
真由美があまりに人間臭いが故に、太一は命と共に失いかけていた人間らしさを思い出せた。死人としてではなく、もう一度人間として生きようと思えたのだ。
「俺、まだやりたいこととか分かんないけど、真由美ちゃんが連れて来てくれたこの世界で頑張ってみるよ」
真由美は俯いたままなにも言わない。小刻みに震える背中を見るに、彼女はきっと泣いている。
そんな姿を愛おしいと思う気持ちは不謹慎なものだろうか。心の奥で揺らめく感情は胸を締め付ける。しかし、太一はその痛みに気付かないふりをしてやり過ごす。
この気持ちの答え合わせは今でなくていい。
だから――
「だから、またね」
絶対にまた会うために“さよなら”ではなく“またね”と言葉を掛ける。
「ま、またね……?」
顔を上げた真由美はやっぱり泣いていた。
泣かせるために言ったつもりはないが、自分の言葉を親身に受け止めてくれているのが分かって、少しだけ嬉しくて、少しだけ恥ずかしい。
そんな気持ちを隠すかのように、太一は真由美へと右手を伸ばす。
「ん、ほら」
真由美はキョトンとした表情で太一の右手を見つめる。どうやら太一の計らいは伝わらなかったらしい。
「あ~……再会を願っての握手して欲しいなぁなんて思ったわけよ」
「え……? あっ、はいっ!!」
太一の言葉を聞いた真由美はそそくさとスカートで右手を拭い、太一の右手を掴む。心臓が激しく脈打ち、込み上げてくる空気は熱風にも等しい。恥ずかしくて、胸が痛くて、出来ることならこの場に倒れてしまいたい気分だが、その全ての衝動を掻き消す感覚が存在する。
――この手を離したくない。
真由美の胸に湧き上がる感情は、今にもヘタってしまいそうな身体に喝を入れ、右腕の感覚を脳へと強く伝達する。それによって心は浮き彫りになり、抱いていた感情が一過性のものではないことが露わになっていく。
気持ちを言葉にしたい。せめて昨晩のことを、苦手だなんて思ってないよ、と言ってやりたい。
しかし、そんな感情は不意に終着を迎えてしまう。真由美が葛藤している間に、ゆっくりと太一の手が離れ始めたのだ。
「次に会うとき俺は対象者じゃないからさ、その……もっと普通に接して欲しいんだ」
恥ずかしい気な表情を隠すように、離した右手を髪の毛の隙間に突っ込む太一。そんな姿をどこか可愛く思った真由美は思わず笑顔になる。
そして、彼女は思う。
絶対にまた会える。その時までにちゃんとした言葉を考えておこう。
だから今は――
「う、うん。つ、次に会うときは……もっと色んなお話をしたい、その……わ、私の話ももっと聞いて欲しいな……」
「え?」
いきなり敬語が吹っ飛んだことや、タメ口を全然使いこなせていないことなど。驚く要因はたくさんあった。だが、太一はもっと別のことに驚き、言葉を詰まらせた。
――もしかしたら、出会って初めて素で話せたのかもしれない。
太一がそのことを追求しようとするも、真由美はさっきのお返しと言わんばかりに太一の疑問を掻き消し、次の言葉を紡ぐ。
「だから……その……た、たたた太一くん……またね」
途切れ途切れではあるが、言いたいことを言い終えた真由美はその場でクイックターンを決め、早歩きでエレベーターホールへと行ってしまった。
全く予想しない展開に置いてけぼりの太一は、呆然とその場に立ち尽くす。
(前言撤回。こんなに顔を真っ赤にして、一生懸命に声を出している姿が素のはずがない。可愛すぎる)
内心でそんなことを思い浮かべ、太一もまた回帰窓口へと戻って行く。
あまりに呆気ない幕切れを残念に思う気持ちもあるが、胸の奥でなにか甘酸っぱい気持ちが広がっていることに太一は気付き、また見ないふりをした。
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