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35.心機一転

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 入院してから一週間後に昊は退院した。

 肋骨骨折の完治まで三ヶ月はかかるが、コルセットをして無理しなければ職場復帰は可能だと医者から説明を受けた。

 入院中は洋と一緒に洋母が見舞いに来たり、店の同僚達が見舞いと言う話題作りに来たりはしていたが、一度も昊の両親は見舞いに来ていなかった。

「実家が遠すぎて来んじゃねぇって脅した」


 どついた。

「いたーい!どうして殴るのさ!?」

「殴るだろ!」

 刺されて心配した両親を脅すってどんな親不孝者だと洋が怒鳴る。

「俺が死んだらいくら自分達に遺産が入るかって言ってた」

「毒親じゃねぇか」

 殺されかけた息子になんてことを言うんだと洋は怒りを露わにするが

「俺もお前らが死んだらどんくらい遺産入るの?って聞き返した」

 どっちもどっちだった。

「とりあえず一千万入るらしい。後、自分達が死んだら銀行に連絡する前に通帳の名義変更しとけって言われた」

 本人死亡を連絡した時点で銀行の口座が凍結してしまうとの事らしい。

「良親じゃねぇか」
 
 一之瀬家はブラックジョークが好きな口が悪いだけの暖かい家だそうだ。

「今度、俺の親に会ってみる?」

「家どこ?」

「今はアメリカ」

 遠すぎると苦情を出した。
 両親共に海外出張で日本に居ないそうだ。

「俺が誰かと結婚するなら勝手にしろ。家事育児は分担してやれ。式代に500万までなら振り込んどくから写真は送れ。余った金で新婚旅行にでも行ってこい。孫の写真だけは送れだってさ」

「ご両親フリーダム過ぎない!?」

 フリーダムだからこそ息子もフリーダムに生きてきたんだと言われれば納得せざるを得なかった。




---------




「退院おめでとう」

 洋の家に行けば洋母がご馳走様を作ってくれていた。
 流石キャバクラの厨房を任されているだけあって料理上手である。

 外食が多い昊からすれば久しぶりの手料理だ。

「母ちゃんまじで飯うめぇ···」

「あんたも贅沢する仕事じゃなくなるんだから料理くらいできるようにならないと」

「·····はい」

 昊の職場が繁華街に向かう途中にあるから洋母が弁当を作って持って行ってあげると言う。

「どうせ「節約」とか言ってカップ麺ばかり食べたりするんでしょ?」

「········」

 

 図星。



「そんな生活してたら治るもんも治らないよ。むしろ別の病気にかかるわよ」



 ご最もでございます。




 洋母の小言を聞きながら身体を小さくしている昊の隣で洋がクスクス笑っていた。

 

 

 
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