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次の獲物
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数年の月日が流れ、辺境では『銀髪のシャル』という盗賊が話題となっていた。
二刀使いのエリーゼと組み、時には単独で峠を通る人間を襲う。
標的とするのが、人身売買や違法取引を行っている闇商人や、行き過ぎた乱暴を働く盗賊ばかりのため、界隈では一種の義賊扱いされていた。
尤も、お上としては襲う相手がどうあれ盗賊は盗賊に変わりなく、銀髪のシャルはお尋ね者としてそこかしこに賞金額の記載された似顔絵が貼られている。
時々その近くに、婚約破棄されて逃げ出したとかいうお姫様の似顔絵も貼られていたが、こちらは風雨に晒されてボロボロになっていた。
「仮に新しい似顔絵だったとしても、同一人物だとは誰も思わないでしょ」
斥候はそう言って、一仕事終えてアジトに帰ってきたシャルロッテを見やった。
侯爵令嬢だった頃はおろしていた髪をきつく縛り、昏く蒼い瞳には鋭さが垣間見える。
盗賊として過ごした数年間は確実に彼女の容姿を精悍なものに変えていた。
「ますます良い女になったよな、うん」
隙あらばシャルロッテを口説こうとして断られているエリーゼが満足そうに呟く。
「ところで全員が揃ったところで、報告良いかな?」
斥候が、エリーゼ、シャルロッテ、雑用係をぐるりと見回す。
そして、一瞬の間をおいて仕入れてきた情報を口にした。
「王が崩御した」
その言葉に雑用係はさりげなくシャルロッテを見やったが、シャルロッテはいつも通りの無表情で斥候の話に耳を傾けている。
「まぁ長いこと臥せってたって話だしね。ってことは、次は王子が王様になるのかい」
エリーゼの言葉に、斥候はこくりと頷く。
「そう。第一王位継承者のドゥム王子が近日中に戴冠する。それで、本題はここから」
斥候は軽く息を吸い、何でもないことのように続けた。
「ドゥム王とチェルシー王妃は、近日、辺境への行幸の際にこの峠を通る」
エリーゼが口笛を吹き、シャルロッテの肩を抱こうとして手を払いのけられる。
「シャル、どうする? 今度は口だけじゃなくて首もざっくりいっちまうか?」
「まさか。王を襲うなんてリスクだけ高くて見返りの少ないことはしません」
一方的な婚約破棄への復讐を冗談交じりに唆すエリーゼに、シャルロッテはあくまでも一盗賊としての当たり障りのない意見を返す。
実際、今さら復讐してやろうという気は特に無かった。
「それがね、シャル、居るんだよ、そのリスクだけ高くて見返りの少ないことを計画してる連中が」
斥候はそう言って、陰鬱な表情になった。
「最近、ここらで新興の荒くれ盗賊集団が幅をきかせてきてるだろ? あいつら、王の行幸をこの峠で狙う予定らしい」
ここで初めて、シャルロッテの表情が僅かに動いた。
「本当か? 奴ら、調子に乗り過ぎにも程があるな」
エリーゼは腰の刀をガチャリと叩く。
「よし、シャル、今度の仕事は決まった。図に乗ったお馬鹿さん達をちょっと締め上げてやろうぜ」
ドゥム王はともかく、チェルシー王妃はシャルロッテの異母妹であり、口には出さないがそれなりに姉妹の情があるらしいことは、何となく感づかれていたらしい。
ついでに、先程の話を聞いて、チェルシーが危ない目に遭わないかシャルロッテが心配したことも。
笑いながら肩に回されたエリーゼの手を、シャルロッテは珍しく払いのけなかった。
二刀使いのエリーゼと組み、時には単独で峠を通る人間を襲う。
標的とするのが、人身売買や違法取引を行っている闇商人や、行き過ぎた乱暴を働く盗賊ばかりのため、界隈では一種の義賊扱いされていた。
尤も、お上としては襲う相手がどうあれ盗賊は盗賊に変わりなく、銀髪のシャルはお尋ね者としてそこかしこに賞金額の記載された似顔絵が貼られている。
時々その近くに、婚約破棄されて逃げ出したとかいうお姫様の似顔絵も貼られていたが、こちらは風雨に晒されてボロボロになっていた。
「仮に新しい似顔絵だったとしても、同一人物だとは誰も思わないでしょ」
斥候はそう言って、一仕事終えてアジトに帰ってきたシャルロッテを見やった。
侯爵令嬢だった頃はおろしていた髪をきつく縛り、昏く蒼い瞳には鋭さが垣間見える。
盗賊として過ごした数年間は確実に彼女の容姿を精悍なものに変えていた。
「ますます良い女になったよな、うん」
隙あらばシャルロッテを口説こうとして断られているエリーゼが満足そうに呟く。
「ところで全員が揃ったところで、報告良いかな?」
斥候が、エリーゼ、シャルロッテ、雑用係をぐるりと見回す。
そして、一瞬の間をおいて仕入れてきた情報を口にした。
「王が崩御した」
その言葉に雑用係はさりげなくシャルロッテを見やったが、シャルロッテはいつも通りの無表情で斥候の話に耳を傾けている。
「まぁ長いこと臥せってたって話だしね。ってことは、次は王子が王様になるのかい」
エリーゼの言葉に、斥候はこくりと頷く。
「そう。第一王位継承者のドゥム王子が近日中に戴冠する。それで、本題はここから」
斥候は軽く息を吸い、何でもないことのように続けた。
「ドゥム王とチェルシー王妃は、近日、辺境への行幸の際にこの峠を通る」
エリーゼが口笛を吹き、シャルロッテの肩を抱こうとして手を払いのけられる。
「シャル、どうする? 今度は口だけじゃなくて首もざっくりいっちまうか?」
「まさか。王を襲うなんてリスクだけ高くて見返りの少ないことはしません」
一方的な婚約破棄への復讐を冗談交じりに唆すエリーゼに、シャルロッテはあくまでも一盗賊としての当たり障りのない意見を返す。
実際、今さら復讐してやろうという気は特に無かった。
「それがね、シャル、居るんだよ、そのリスクだけ高くて見返りの少ないことを計画してる連中が」
斥候はそう言って、陰鬱な表情になった。
「最近、ここらで新興の荒くれ盗賊集団が幅をきかせてきてるだろ? あいつら、王の行幸をこの峠で狙う予定らしい」
ここで初めて、シャルロッテの表情が僅かに動いた。
「本当か? 奴ら、調子に乗り過ぎにも程があるな」
エリーゼは腰の刀をガチャリと叩く。
「よし、シャル、今度の仕事は決まった。図に乗ったお馬鹿さん達をちょっと締め上げてやろうぜ」
ドゥム王はともかく、チェルシー王妃はシャルロッテの異母妹であり、口には出さないがそれなりに姉妹の情があるらしいことは、何となく感づかれていたらしい。
ついでに、先程の話を聞いて、チェルシーが危ない目に遭わないかシャルロッテが心配したことも。
笑いながら肩に回されたエリーゼの手を、シャルロッテは珍しく払いのけなかった。
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