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私はフラグを叩き折る
1個目 私はフラグを叩き折る
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――私には前世の記憶がある。
思い出したときは「わあああああ」と叫んで転げまわったよ……。
いま考えると、赤面してしまう。
違和感はずっとあったんだよね。
まだ幼く、家の中さえも自由に動き回ることは出来なかったから、本当に些細な違和感。
両親の名前や、私たちが住む王都の名前。
そして『ガブリエラ・リンドバーグ』という自分の名前。
なんか知ってるなー? どうしてかなあ……?
まあいいか!
なんて、のほほんと考えていた過去の自分を殴り飛ばしたい。
あれは5歳の誕生日のことだ。
家族や使用人に見守られ、はにかみつつも淑女の真似事をして挨拶を終えた私は、「ガビーも10歳になれば学園に通うことになる。そのための家庭教師を選んだよ」とお父様に言われた。
「がくえんですか?」
そう問いかけた私に「貴族としての勉強や魔法を教えてくれるところでね、王立リッチモンド学園という名前だよ」と優しく抱きしめながら説明してくれたお父様の言葉を聞いた瞬間、頭の中にドカーンと雷が落ちた。
その名前、知ってるっ!!
【100のフラグと魔法のキス】で出てくる学園だ!
どうりで違和感があったはずだよ。王都と学園が舞台のアニメで、お父様はこの国の宰相かつ最大貴族の一つリンドバーグ公爵家の当主。お母様は王国に舞う蝶として名高い他国から嫁いできた王女様。私はその娘にしてアニメのヒロインをいじめる悪役令嬢ガブリエラだ!
なるほど! だから知ってたんだね、うんうん。
って、ええええええええ?!
私、悪役令嬢じゃん……。
その後のことはよく覚えていない。
まだパーティーは途中だったはずだけど、あまりの衝撃に気を失ってしまったのだ。
気が付いたら自分のベッドに寝転び、顔面蒼白のままうんうん唸っていた。
そして前世の記憶を頼りに、必死にアニメの内容を思い出した。
【100のフラグと魔法のキス】
通称フラキス。
女性ファンが多く、毎年のように続編が制作されては大ヒットしたアニメである。
もちろん私もドハマりして、アニメもコミックもゲームも買い漁ったのを覚えている。
あまりの人気っぷりにゲームほかのメディアミックスもされた、まさに前世を代表する作品だ。
そんなフラキスだけど、とある特殊な魔法の素質を持つヒロインが、学園に編入してきたことから物語は始まる。
ガブリエラの婚約者でこの国の第二王子トーマスは、その魔法を詳しく調べたいという理由でヒロインに近づき仲良くなっていく。
魔法研究の第一人者として『賢者』の異名を誇るトーマスは、ヒロインの周りに起こる数々のトラブルから時に魔法で、時に身を挺して救い続け、いつしか二人は恋に落ちてしまう。それでも婚約者を裏切ることは出来ないとトーマスは考え、それを受け入れるヒロイン。
「このキスだけで恋愛感情はなかったことにしよう」
そう悲しく告げ、思い出の場所で秘密のキスをする。
これで物語は終わるはずだった。
たまたまトーマスを探していたせいで、そのキスをすぐ近くで見てしまったガブリエラは、ヒロインを憎悪する。
もともと、仲良くなる二人をあの手この手で妨害するも上手くいかずにヤキモキしていたガブリエラは、知られれば重大な罪になる禁忌の魔法を使ってヒロインを動物に変えてしまう。
魔法の研究が趣味だったトーマスによって、なんとか卒業パーティー前日に元に戻ることが出来たヒロイン。
本作最大の見せ場として、卒業パーティー中にガブリエラは断罪され、王国から追放。めでたく結ばれた二人は、幸せな未来を願い仲良く暮らしていくというのがおおまかなストーリーだ。
うん。何度思い返してみても、私はあんまり悪くない気がする。
まだ出会ってもいない浮気性の王子様なんて心底どうでも良いし、ヒロインに悪感情なんて微塵もない。
むしろ、真っ直ぐで飾らない性格と可憐な容姿、どんないじめにも負けず勉学に励み、トーマスと一緒にガブリエラを倒したラストシーンでは、感情移入して「ガブリエラざまぁ!」と声に出して泣いてしまったほどだ。
いじめたりしなければ大丈夫だよね?
トーマスとの婚約を回避するか、万が一婚約してしまっても熨斗を付けてヒロインにプレゼントしてあげれば万事解決!
王族なんて面倒くさそうだし、どうせなら私だって恋愛結婚したいもの。
それにぬくぬくとした今の生活も捨てられないっ!
前世の記憶は、そのほとんどが【フラキス】に関することばかりで、私が何歳だったかも、どうして死んだのかも曖昧だ。そもそもここが本当にアニメの世界なのか、よく似た全く別の世界なのかもわからない。だったらやれることは多くない。
そう。フラキスが爆発的人気となった理由の一つ。
多種多様なフラグの中から、私が不利になるフラグを潰してまわるのだ!
題名の通り、フラキスには膨大な量のフラグが存在する。
アニメでは明かされなかったが「もしここで違う選択肢を選んでいたら?」そんな感じで、ゲーム版【フラキス】では裏の裏の話まで網羅した、圧倒的ボリュームかつ繊細なストーリーが楽しめたのだ!
そしてなにより!!
ゲーム版【フラキス】の第二作には新ヒロインが登場する。
そう、私ことガブリエラだ!
『もしもガブリエラがヒロインだったら』
これをテーマにした第二作目は、登場人物全員に100個のフラグがあり、正しい選択をすることで、主軸となる婚約者トーマスを含む多種多様な攻略キャラときゃっきゃうふふなキャンパスライフが過ごせる上に、アニメでは判明しなかったガブリエラの心情を知ることができ、その我儘で高飛車な性格さえ可愛いと思える、とても面白いゲームだった。もちろん私もやりこんだ一人だ。
この世界でも、選択肢さえ間違えなければ、断罪されることもなく幸せな未来を手にすることも出来るはず!
目指せ危険フラグ回避!
手に入れろ恋愛結婚!
お前は悪役令嬢だって?
どんとこいっ!
私の幸せのためなら、悪役っぽく高飛車な振る舞いだってしてあげようじゃないの!
優しくて大好きな両親のためにも、不自由ない今の生活を守るためにも、危ない橋は渡らないけどね!
フラグクラッシャーとして突き進むべく、私は行動を開始する。
思い出したときは「わあああああ」と叫んで転げまわったよ……。
いま考えると、赤面してしまう。
違和感はずっとあったんだよね。
まだ幼く、家の中さえも自由に動き回ることは出来なかったから、本当に些細な違和感。
両親の名前や、私たちが住む王都の名前。
そして『ガブリエラ・リンドバーグ』という自分の名前。
なんか知ってるなー? どうしてかなあ……?
まあいいか!
なんて、のほほんと考えていた過去の自分を殴り飛ばしたい。
あれは5歳の誕生日のことだ。
家族や使用人に見守られ、はにかみつつも淑女の真似事をして挨拶を終えた私は、「ガビーも10歳になれば学園に通うことになる。そのための家庭教師を選んだよ」とお父様に言われた。
「がくえんですか?」
そう問いかけた私に「貴族としての勉強や魔法を教えてくれるところでね、王立リッチモンド学園という名前だよ」と優しく抱きしめながら説明してくれたお父様の言葉を聞いた瞬間、頭の中にドカーンと雷が落ちた。
その名前、知ってるっ!!
【100のフラグと魔法のキス】で出てくる学園だ!
どうりで違和感があったはずだよ。王都と学園が舞台のアニメで、お父様はこの国の宰相かつ最大貴族の一つリンドバーグ公爵家の当主。お母様は王国に舞う蝶として名高い他国から嫁いできた王女様。私はその娘にしてアニメのヒロインをいじめる悪役令嬢ガブリエラだ!
なるほど! だから知ってたんだね、うんうん。
って、ええええええええ?!
私、悪役令嬢じゃん……。
その後のことはよく覚えていない。
まだパーティーは途中だったはずだけど、あまりの衝撃に気を失ってしまったのだ。
気が付いたら自分のベッドに寝転び、顔面蒼白のままうんうん唸っていた。
そして前世の記憶を頼りに、必死にアニメの内容を思い出した。
【100のフラグと魔法のキス】
通称フラキス。
女性ファンが多く、毎年のように続編が制作されては大ヒットしたアニメである。
もちろん私もドハマりして、アニメもコミックもゲームも買い漁ったのを覚えている。
あまりの人気っぷりにゲームほかのメディアミックスもされた、まさに前世を代表する作品だ。
そんなフラキスだけど、とある特殊な魔法の素質を持つヒロインが、学園に編入してきたことから物語は始まる。
ガブリエラの婚約者でこの国の第二王子トーマスは、その魔法を詳しく調べたいという理由でヒロインに近づき仲良くなっていく。
魔法研究の第一人者として『賢者』の異名を誇るトーマスは、ヒロインの周りに起こる数々のトラブルから時に魔法で、時に身を挺して救い続け、いつしか二人は恋に落ちてしまう。それでも婚約者を裏切ることは出来ないとトーマスは考え、それを受け入れるヒロイン。
「このキスだけで恋愛感情はなかったことにしよう」
そう悲しく告げ、思い出の場所で秘密のキスをする。
これで物語は終わるはずだった。
たまたまトーマスを探していたせいで、そのキスをすぐ近くで見てしまったガブリエラは、ヒロインを憎悪する。
もともと、仲良くなる二人をあの手この手で妨害するも上手くいかずにヤキモキしていたガブリエラは、知られれば重大な罪になる禁忌の魔法を使ってヒロインを動物に変えてしまう。
魔法の研究が趣味だったトーマスによって、なんとか卒業パーティー前日に元に戻ることが出来たヒロイン。
本作最大の見せ場として、卒業パーティー中にガブリエラは断罪され、王国から追放。めでたく結ばれた二人は、幸せな未来を願い仲良く暮らしていくというのがおおまかなストーリーだ。
うん。何度思い返してみても、私はあんまり悪くない気がする。
まだ出会ってもいない浮気性の王子様なんて心底どうでも良いし、ヒロインに悪感情なんて微塵もない。
むしろ、真っ直ぐで飾らない性格と可憐な容姿、どんないじめにも負けず勉学に励み、トーマスと一緒にガブリエラを倒したラストシーンでは、感情移入して「ガブリエラざまぁ!」と声に出して泣いてしまったほどだ。
いじめたりしなければ大丈夫だよね?
トーマスとの婚約を回避するか、万が一婚約してしまっても熨斗を付けてヒロインにプレゼントしてあげれば万事解決!
王族なんて面倒くさそうだし、どうせなら私だって恋愛結婚したいもの。
それにぬくぬくとした今の生活も捨てられないっ!
前世の記憶は、そのほとんどが【フラキス】に関することばかりで、私が何歳だったかも、どうして死んだのかも曖昧だ。そもそもここが本当にアニメの世界なのか、よく似た全く別の世界なのかもわからない。だったらやれることは多くない。
そう。フラキスが爆発的人気となった理由の一つ。
多種多様なフラグの中から、私が不利になるフラグを潰してまわるのだ!
題名の通り、フラキスには膨大な量のフラグが存在する。
アニメでは明かされなかったが「もしここで違う選択肢を選んでいたら?」そんな感じで、ゲーム版【フラキス】では裏の裏の話まで網羅した、圧倒的ボリュームかつ繊細なストーリーが楽しめたのだ!
そしてなにより!!
ゲーム版【フラキス】の第二作には新ヒロインが登場する。
そう、私ことガブリエラだ!
『もしもガブリエラがヒロインだったら』
これをテーマにした第二作目は、登場人物全員に100個のフラグがあり、正しい選択をすることで、主軸となる婚約者トーマスを含む多種多様な攻略キャラときゃっきゃうふふなキャンパスライフが過ごせる上に、アニメでは判明しなかったガブリエラの心情を知ることができ、その我儘で高飛車な性格さえ可愛いと思える、とても面白いゲームだった。もちろん私もやりこんだ一人だ。
この世界でも、選択肢さえ間違えなければ、断罪されることもなく幸せな未来を手にすることも出来るはず!
目指せ危険フラグ回避!
手に入れろ恋愛結婚!
お前は悪役令嬢だって?
どんとこいっ!
私の幸せのためなら、悪役っぽく高飛車な振る舞いだってしてあげようじゃないの!
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