100のフラグとさようなら

馬近

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私はフラグを叩き折る

6個目 パンツの話

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 オシャレがしたい。
 唐突に思いついてしまった。

 ルーシーが我が家の一員となり早一年が経過した。
 フラグらしいフラグは見当たらず、ハンナとは違い、熱心だけどお茶目な家庭教師にも恵まれた。悩みの種になりつつあった滑舌の悪さも解消し、私はすくすくと成長。どうすれば魚を食べられるかをルーシーと一緒に考える平和な日々を送っている。
 
 内地にある王都では魚を食べる習慣があまりなく、精々が庶民的な店で川魚を提供している程度だとルーシーが教えてくれた。お魚おいしいのになと思いつつ、どうして知っているのだと聞かれてしまうと困るので、お魚調理計画は一時棚上げ中である。残念。

 ところで、ルーシーと池を眺めたり庭を駆け回る私に用意されているのは膝下にフリルがついた上品なワンピースと、子供パンツのみ。外に出ることもないし、ドレスを着るのはお勉強中か家族との食事くらい。決して、何着もドロドロに汚してしまったせいではないと思いたい。生暖かく見守る侍女たちの視線にも負けない所存だ。ごめんなさい。

 まあまだ幼女の域を出ていないからね。汚さないように気をつけていても、芝生の上をゴロゴロ転がる私とルーシーに敵はいない! お父様とお母様に見つかるとめちゃくちゃ叱られるし、服を汚せばやっぱりお説教されるけれど、やめられない止まらないなのだ!
 
 前世が何歳だったのかは記憶が曖昧模糊としていてわからないけれど、いまの私は完全に幼女を満喫している。フリーダムだ!

 さてその子供パンツなのだけど、いわゆるドロワーズではなく前世でも使っていたような無地の綿パンツだ。これはここ一年で気が付いたことだけれど、元々がアニメの世界だからなのか人の目に触れない場所は物凄く雑なのだ。
 
 例を挙げよう。料理は美味しい。下味もしっかりしているし、見映えのするフルコース的な食事もある。でも使用人の食事は芋とパンとスープとお肉だけ。私が口にする料理も、日替わりだけど週毎のローテーション。料理人の腕も良く、素材も十分にあるのに、常に同じものが食卓に並ぶのだ。どう考えてもおかしいのに、誰も何も言わない。飽きないのかな?
 
 服にしてもそうだ。ドレスやワンピースはもちろん、使用人の着る仕事着さえも丁寧な作りで目を見張るほどなのに、パンツは無地なのだ。しかも白色しかない。専属侍女のアメリアに頼み込んで見せてもらった下着も、お風呂の際にチラッと確認した他の侍女の下着も、全て白一色の無地。彩りが足りない。

 ご都合主義的な技術力はあるのに、応用力がまるでない。これは貴族だけではなく、庶民も同じだとルーシーと家庭教師の先生が教えてくれた。
 
 確かに、アニメやゲームの中で、あの子の下着は何色でーとか多種多様な料理の蘊蓄を延々と語られても困っただろうけれど、今はここが現実だ。そう花も恥じらう乙女としては、食にもこだわりたいし、せっかくならオシャレがしたい。幼女とは言え、人生にはドキリとしちゃうような秘密がほしいのだ。我が友ルーシーも賛成したから間違いない!

 ないなら作ってしまおう!
 我が家には圧倒的な財力がある。どれくらいかと言えば、家から一歩も外に出たことがないのに、使用人の年間収入を軽く超える額をポンと使えてしまうくらいだ。お父様は悪いことをしているに違いない! と心配になるほどだけれど、上位の貴族としてはこれでも節制していると聞いて、やはり世の中はお金なのねと真顔になってしまったこともある。でも自分が使えるなら遠慮はしない! 経済の活性化なのだ! オーホッホっ!

 まずはパンツに刺繍や色付けをしてもらおう!
 そう決めた私は、すぐさまアメリアに調べてもらい、針仕事が得意な侍女に突撃した!
 休憩中にいきなり現れた私にドギマギする侍女に非礼を詫びてから、やって欲しいことをお願いすると、きらりと目を輝かせて了承してくれた。考えたこともなかったそうだ。

 マヤという名前の侍女を協力者に、試行錯誤が始まった。アメリアも興味津々なので、私の我が儘で手伝ってもらっていると周知し、なるべく集まって時間を作った。外で遊ぶ時間を減らした私とルーシーも、服などを汚さなくなったことで叱られなくなりニッコニコだ。

 試行錯誤とは言ったけれど、染色や刺繍など元々の技術力は前世と同じくらい高い。僅か数日で目処が立ち、それを原案として出入りの商人に製作を依頼。結果、発案から約二週間で完成品を手にすることが出来たのだった。

 満面の笑みで完成品を届けにきた商人は、是非とも商品化をしたいと頭を下げる。でも簡単な細工をしただけだし、すぐに真似されるのではと訊ねると、新しい商品には二年間の専売が認められていて、余所が扱うには高額な使用料が必要となる法律が定められているとのことだった。
 
 それならばと考えた結果、商品が売れた利益は商人の取り分を除き五等分にし、私とマヤとアメリア、後見をお願いする我が家、残りはその分の値段を下げて手に取りやすい価格にしてもらうことに決めた。マヤとアメリアが受け取れませんと騒いだけれど、お金は大事よ! と熱弁をふるいブランド名に名前を貸してもらうこと、新しいアイデアが出たら協力すること、商人との取引を丸投げすることで渋々ながら納得してもらった。

 
 こうして売り出されたマヤブランドの新パンツは、話を持って行った貴族女性を中心にそれはもう売れた。公爵家が後見のため、信用はバッチリだし、人より先に新しいものを欲しがる令嬢たちから絶大な支持を得たようだ。
 
「品数を絞り、小出しにすることで高く売れました」と報告する商人に、主も悪よのうとニヤリとしたのは秘密だ。違和感なく悪役令嬢しちゃった自分にドキドキしたのも秘密だ。

 とんでもない売れ行きにこのまま流れに乗るしかない! とアメリアブランドの庶民向け下着の販売を開始。お手頃価格で、淡い色、小さなフリル付きパンツだ。少し高めの刺繍入りもある。
 
 当然ながらこちらも若い女性を筆頭に、店頭に並んだ途端に完売するほどの人気っぷりで、好きな女性に贈りたい商品ナンバーワンにも選ばれるほどになった。正直、怖い。
 
 満を持して発売したルーシーブランドは、小さな子供向けに動物を編み込んだ可愛らしい仕様のパンツと、同時発売のスカートやワンピース、ズボンを連動させた尻尾付きパンツだ。何をしても売れたせいで、自分でもちょっとおかしくなっていたと思う。売上が順調そのものなので趣味を盛り込んでみたのだ。いつでもどこでもルーシーと一緒。犬だけではなく、猫も猿も馬も思いつく限り全部のしっぽを作ってもらった。スカートやズボンのお尻部分からぴょこっと出ているしっぽが可愛い自信作だ。
 
 私も部屋着として愛用している。可愛い。

 パンツ騒動のおかげで、権利使用料もがっぽり。目論見通り、色とりどりのパンツが国の隅々まで行き渡った。オシャレこわい。

 その後、お母様の提案で、マヤは新商品開発に専念することが決まった。本人のやる気も漲っていて、公爵家と商人が共同で運営する店舗の責任者になり、日夜がんばっている。
 
 アメリアは、侍女を辞める気はないとのことだった。皆に内緒でありがとうと伝えたら、一つだけお願いがあると言われ、ぎゅっとハグをした。満足してくれたようで何よりだ。それだけで良いのだろうか? でもなんだか嬉しい。

 大騒動が終息した最後の最後に、ブラを忘れていたことを思い出した。新しい騒動が巻き起こる予感がするので、私の成長に合わせて提案するつもりだ。どうせなら、なりきりルーシーセットとして犬耳カチューシャも欲しい。
 この世界のどこかに獣人はいるのだろうか?

 この感じだと、料理の発展もちょちょいのちょいかも知れない。悲願の魚料理まで突っ走るしかない! そう改めて決意した。
 
 余談だけど、動物パンツもかなり売れた。商人やマヤ曰く、街のあちこちでしっぽを揺らす子供を見かけるようになったそうだ。
 
 いつか自分の目で確かめてみたい。
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