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6.六節
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新月の宴。連れてこられた娘達の吟味は酒呑童子の役目であった。あれほどまでに娘を喰らうのを楽しみにしていたはずだったのだが、ある晩からそれは消え始めた。目の前に現れた銀色の女鬼、腕に抱いたはずなのに、翌朝には跡形もなく消えていた。夢だったのかとも疑ったが、寝台に残っていた白銀の長い髪に夢幻ではなかったと知らされた。
「お前ら、好きにしていいぞ。」
酒呑童子の言葉に鬼たちが我先にと立ち上がった。はじめの頃はあの女鬼を忘れようと若い娘を抱いた。しかし渇望は強くなり、今は他の女を抱く気にもなれなかった。ただ頭としての娘達に瞳術を掛けるだけの義務的になり始めた。ふと周りを見渡した。何時もは居るはずの茨木童子の姿が見えなかった。
「茨木童子はどうした?」
酒呑童子は近くの鬼に問うた。すると驚いた顔をしたのはその鬼の方だった。
「頭聞いてないのか?茨木童子なら婆様の命でしばらく婆様の住まいに行くって言ってたぞ。」
聞いてない、そう思った酒呑童子はすぐに立ち上がった。老婆鬼の住まいは酒呑童子でも入ることの可能な洞窟であった。洞窟の奥には泉があるとその老婆鬼は言っていたが、ある一定の場所より入ることは許されなかった。
「そこまでぞ、酒呑童子。」
掠れた乾き声が洞窟に反響した。この場に来たのは幼い頃と今の二回だけであった。
「婆様、茨木童子はどこに居る?」
その言葉に醜老な顔を綺麗に歪ませて笑う鬼。そして洞窟の奥を一度見た。
「今禊ぎの最中よ。茨木童子は暫く帰れんがそのうち返す。それは約束しよう。」
酒呑童子の先を読むような老婆鬼の言葉に何も言えなくなった。
「茨木童子には会えないのか?」
まどろっこしい事は嫌いな酒呑童子は老婆鬼に真っ直ぐに問う。小さく声を漏らした老婆鬼は皺だらけの唇を動かした。
「我以外には会えぬ。そういう結界の中に居る故な。」
ニタリと笑う老婆鬼に何も言えなくなった。黙って帰路を歩き出した酒呑童子の足が急に止まった。思い出したかのように振り返った酒呑童子は老婆鬼を真っ直ぐに見た。
「ここの女鬼の中で銀の髪の女鬼は居るか?」
真っ直ぐ過ぎる悪びれない視線に老婆鬼は眉を動かした。酒呑童子が言っている女鬼とは間違いなく茨木童子のことであろう。
「銀など珍しき鬼よな。そのような女鬼は見たこともないわ。」
老婆鬼は偽りを話した。現にこの山にも銀の鬼はたった一人しか居なかった。
「何故そのような事を聞く?」
老婆鬼の年寄り染みた節介な心と全てを守るための心がせめぎ合う。
「一夜の夢の如き女鬼が居たのさ。また会いに来ると思ったが来なかった。」
この山の女達は一度酒呑童子と関係を持つと何度も足を運ぶようになる。しかし最近その酒呑童子に門前払いを喰らうと女達が喋っていたのを老婆鬼は思い出す。酒呑童子は間違いなく娘に会いたがっているのだろう。茨木童子とてその気持ちは同じであろう。ただ老婆鬼は年寄り染みた節介をしてはならぬ、と心に刻んだ。
「我とて今までに見た銀の鬼は茨木童子だけよ。」
節介はしないと誓ったばかりだった老婆鬼は種を言葉に埋めた。しかし酒呑童子にはその意味は分からなかった。これでいい、そう老婆鬼は思った。酒呑童子と茨木童子が想いを寄せ合った所で鬼に未来はないのだから。
その夜、茨木童子は娘を産んだ。密やかな誕生に立ち会ったのは老婆鬼だけであった。暗い柘榴色の髪に黄金色の瞳。その容姿はまるで酒呑童子そのものだった。
「お前ら、好きにしていいぞ。」
酒呑童子の言葉に鬼たちが我先にと立ち上がった。はじめの頃はあの女鬼を忘れようと若い娘を抱いた。しかし渇望は強くなり、今は他の女を抱く気にもなれなかった。ただ頭としての娘達に瞳術を掛けるだけの義務的になり始めた。ふと周りを見渡した。何時もは居るはずの茨木童子の姿が見えなかった。
「茨木童子はどうした?」
酒呑童子は近くの鬼に問うた。すると驚いた顔をしたのはその鬼の方だった。
「頭聞いてないのか?茨木童子なら婆様の命でしばらく婆様の住まいに行くって言ってたぞ。」
聞いてない、そう思った酒呑童子はすぐに立ち上がった。老婆鬼の住まいは酒呑童子でも入ることの可能な洞窟であった。洞窟の奥には泉があるとその老婆鬼は言っていたが、ある一定の場所より入ることは許されなかった。
「そこまでぞ、酒呑童子。」
掠れた乾き声が洞窟に反響した。この場に来たのは幼い頃と今の二回だけであった。
「婆様、茨木童子はどこに居る?」
その言葉に醜老な顔を綺麗に歪ませて笑う鬼。そして洞窟の奥を一度見た。
「今禊ぎの最中よ。茨木童子は暫く帰れんがそのうち返す。それは約束しよう。」
酒呑童子の先を読むような老婆鬼の言葉に何も言えなくなった。
「茨木童子には会えないのか?」
まどろっこしい事は嫌いな酒呑童子は老婆鬼に真っ直ぐに問う。小さく声を漏らした老婆鬼は皺だらけの唇を動かした。
「我以外には会えぬ。そういう結界の中に居る故な。」
ニタリと笑う老婆鬼に何も言えなくなった。黙って帰路を歩き出した酒呑童子の足が急に止まった。思い出したかのように振り返った酒呑童子は老婆鬼を真っ直ぐに見た。
「ここの女鬼の中で銀の髪の女鬼は居るか?」
真っ直ぐ過ぎる悪びれない視線に老婆鬼は眉を動かした。酒呑童子が言っている女鬼とは間違いなく茨木童子のことであろう。
「銀など珍しき鬼よな。そのような女鬼は見たこともないわ。」
老婆鬼は偽りを話した。現にこの山にも銀の鬼はたった一人しか居なかった。
「何故そのような事を聞く?」
老婆鬼の年寄り染みた節介な心と全てを守るための心がせめぎ合う。
「一夜の夢の如き女鬼が居たのさ。また会いに来ると思ったが来なかった。」
この山の女達は一度酒呑童子と関係を持つと何度も足を運ぶようになる。しかし最近その酒呑童子に門前払いを喰らうと女達が喋っていたのを老婆鬼は思い出す。酒呑童子は間違いなく娘に会いたがっているのだろう。茨木童子とてその気持ちは同じであろう。ただ老婆鬼は年寄り染みた節介をしてはならぬ、と心に刻んだ。
「我とて今までに見た銀の鬼は茨木童子だけよ。」
節介はしないと誓ったばかりだった老婆鬼は種を言葉に埋めた。しかし酒呑童子にはその意味は分からなかった。これでいい、そう老婆鬼は思った。酒呑童子と茨木童子が想いを寄せ合った所で鬼に未来はないのだから。
その夜、茨木童子は娘を産んだ。密やかな誕生に立ち会ったのは老婆鬼だけであった。暗い柘榴色の髪に黄金色の瞳。その容姿はまるで酒呑童子そのものだった。
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