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第十二話*
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内戦があれば東へ西へ。南だろうが北だろうが、大佐はどこにでも馳せ参じる。そのための筋肉。そのための権力。どうせ誰かの下につくなら尽くせる相手がいいと、俺が自分で選んだ上官だった。その選択に後悔はないし、我ながら見る目があったと自賛してまわりたいほどでもある。
フリードリヒ・ダルムシュタット大佐。
彼を一言で表すならば、筋骨隆々が口頭一番に出てくるだろう。男として憧れないはずもないくっきり浮き上がった大胸筋と六つに割れた腹筋。ガチムチッとした上腕二頭筋に雄っぱい。ゴツく分厚い身体にそぐわぬ俊敏な動きは重力の不思議を思い浮かべさせられる。それでいて細やかで器用な指使いを俺の毛皮ブラッシングで披露してくれるのだから、神は肉体美に機能性を兼ね備えさせ大佐に授けたらしい。外面がもう満点の男であるのに、マッチョが無理という見た目の好みがある人を内面性で恋に落としてくるような頼れる兄貴分の性格は、神の意図を感じずにはいられない。
神は二物も三物も大佐に大盤振る舞いだ。
髪の毛を三ミリだろうが切れば反応してくれる洞察力に、気さくで厚情な性格は多くの人から好かれるものだろう。思いきりのいい豪傑さには安心感とどこか放っておけない母性本能が刺激されて、彼の進む道ならば仕方がないとつい連れ添ってしまう。
ただしく正義の人を好むのなら、彼を選べば間違いはない。だからこそ、そんな彼の直属の部下からの信頼は揺るぎない。
「お前らには悪いが、年越しは戦地で迎えることになった」
この国は本当にどこもかしこも忙しい。最近はさらに忙しさを増したように思う。それだけ長い年月にわたり領地を広げ守ってきたからなのだが、今や守った民に寝首をかかれる本末転倒さに呆れてしまう。
在中軍も決して弱くはないはずなのになあ……。
「ああああ!? もうなんでですか?! なんで今この時期ッ?!」
「だよなあ。俺もゆっくりと年越ししたかったんだが」
「休暇! キューッカッ! 消えた! ドコ!」
「出兵は東の経済特区にある小都市トゥシアタウンだな。街の半分と港が占拠されて物資が帝都に回らなくなってきたらしい。あ、これまだ情報規制入ってるから外に漏らすなよ」
「バカ?! なんであと二週間待てなかったんですか! つか一週間前に言ってくれ!」
「本当にな。俺もせめて出兵に一週間は時間が欲しかったんだが決まったもんはしゃーないよなあ。俺ンとこにゃ火急案件しか来ん」
「戦場にも祝祭日はあるだろふざけんな年末年始は家族恋人友人と過ごすのがどんな家庭でも恒例のはずだろォに!」
「敵さんにゃ休日がなかったようだ。可哀想だな。俺たちも可哀想だが」
「誕生日には戻ってこれますかね?」
「うむ、みんな元気があって喜ばしい。言いたいことは聞いてやるが三日後出発だから各自心の準備しとけよ。ライカの誕生日は月末近くだろ、その前には戻れるはずだ。……たぶんな」
「俺、戦場から帰ったら大佐の作ったケーキでハロルド様にお祝いされたいです」
「なら南からフルーツ取り寄せるか。まず生きて帰るぞ」
「ですね」
「あ、俺も食べたいです」
「ん、マイルもおいで。みんなで食べようか」
「アアアアアフラグッ! やめて! 激戦を呼び込まないでやめてくださいオレらはあんたらじゃねーんだ死んでしまいます!」
揺るぎないと言いつつ、たまに信頼が揺れることもあるが、おおむねダルムシュタット隊の仲はそれでも良好だ。嘆きの声は気安さと信頼の積み重ねに許されたストレス緩和でもあり、本気で嫌がっていてもちゃんと平穏な年越し休暇の諦めは各自で受け入れているだろう。受け入れているはずだ。
げえげえな非難の嵐を受けてもじゃあやっぱりナシでとはならないところが職業軍人のさがだった。
それでも止まない嘆きの声に、ついにハロルド様が事務書類をデスクに叩きつけ「黙りなさい」と威圧を利かせた視線と声に隊内は静けさに包まれ散っていく。さすがダルムシュタット隊救いの知性派。俺を押し退け隊のトップツー入りしただけある眼光の鋭さ。そうだ、ハロルド様はどうするのか。
ちら、と大佐に視線をやると、連れていく気はないとアイコンタクトを受けたので頷く。
待機命令は大佐にしてもらいたいところだが、どうやらそれは俺の仕事になったらしい。
自宅に帰ると家事全般はハロルド様の役割になる。俺がなにかをするのはもう諦めた。出立の準備は軍でやるので、作ってもらった料理を美味しくいただきシャワーを浴びて、自堕落にソファに深く腰かけ足を投げ出す。ついでシャワーから出てきたハロルド様はダークブラウン色の落ち着いた寝間着を着て本を片手に隣に座る。冬限定で完全に裸族は封印したようだ。春先にはまたパンツも履かない裸族に戻るだろうけど。
狼の俺を暖に読書をすることが日課になったハロルド様は、俺が狼モードにならずに待っていただけでなにか話があるのだと察してくれるから、ハロルド様だってきっと髪を三ミリ切っただけで気付いてくれる人種なのだと思う。特に仕事の面での察しのよさは群を抜いている。恋愛面も対応して欲しいくらいには的確に見透かして、言いづらくてまごついていれば「ああ、なるほど」となにを言いたいかすら察してくれるのだ。
「私は留守番ですか」
「……護衛は大佐の屋敷から派遣されるので心配はありません。まあ俺と大佐ほどの安心感はあげられないかもですが」
「なんですか、それ」
はぁ、と苛立ちと失望が混じったような大きなため息で返され困ってしまう。
もともと前線での役割を期待されていないまま隊に迎え入れたと知れば不機嫌は増すだろうか。いや、自分の役割を心得てこの隊に来てくれたはずだ。俺たちに室内勤務が向かないように、適材適所はわきまえているはず。
「一緒に来たいわけではないですよね?」
「疎外感の解消には同行以外ないと考えていますよ」
「でも無理について来ようとするわけでもないように見えます」
「ええ。留守番するつもりです。ひとりで」
最後の一言が当てつけがましく、その意図の通り胸に刺さった。毎夜のルーチンとしての読書も今日は読む気にならないと本は閉じられたままハロルド様の手の中で、むしろ本を乗せられるように軽くそれで頭を叩かれて、また鼻から抜ける程度の吐息で失望される。
わからない。なんで不機嫌に当てつけてくるのかわからない。失言なんてしてないはずなのに……。
「……え、もしかして、単純に心配してくださってるんですか?」
「……してほしくないようですね。どうせ私は役立たずですよ。一般人より動けるだけで軍人としては底辺ですとも。体力もスタミナもそうありません。もう五年後は中年太りすらしているだろう木偶の坊に心配などされたくないでしょうね」
ムッと唇の曲線が歪んで不機嫌さが増すも、相反して俺の唇はにんまりと弧を描き喜びに溢れる。
「まさか、嬉しいです!」
なんてわかりづらいんだ。言葉足らずで介護してくれてた人らしい。
座っていた距離を詰めて肩に緩くもたれはにかむ。「ハロルド様と離れるのはすごく嫌です」と、そうちゃんと言えばいくらかは納得したようで不機嫌もなりを潜めていく。
「俺、たくさん死地で暴れてますけどまだ死んだことないんですよ。なので安心して心配してください」
「それ、安心できるようなセリフではありませんよ。焼死は痛かった、と同レベルです」
「怪我は仕方のないことですもん。痛いのは我慢できますけど好きではないので、むしろすごく嫌なので、内緒ですが実のところ内戦とか大嫌いです」
「秘密にしなくてもいいと思いますが。……引きとめたくなるようなことを言うのはわざとなんでしょうかね」
ほんのりと赤くなりながらもハロルド様は俺の肩を抱いてそのまま横になる。狼モードにしか許されていなかったたわむれに身体が硬直するも、蒸気立つようなほかほかの顔を胸にぺたりくっつけていればいろんな欲が脳裏に浮かんで心臓が早まっていく。
今ならできる。くっつける。そういう雰囲気だ。
妙な自信に急かされて、見上げるようにハロルド様を見つめて目を合わせ、身をよじるように顔を近づけ瞼を閉じる。ためらいの指先が頬に触れて添えられて、どきんと心臓がひときわ大きく跳ねた。そして一日一回以上は避けられていたキスが唇に、……来なかった。
前髪の生え際に落とされたキスに不満が爆発しそうだ。何歳児だ。しわしわと唇が波打ち萎む。本当に俺より十も年上なんだろうか。まさか本当に枯れているとでも言うのか。失望のため息を吐き出したいのは俺の方である。声を大に言い切りたい。
この失望は正当であり関係を再確認または発展させるために多少の荒事も不可欠だろう、と!
決めた。出兵する前にえっちしよう。こちとら誕生日を迎える前に殉職するかもしれないのだ。
隊のパートナー持ちは今頃みんな自分の片割れと離れがたくイチャイチャしてるんだろうな。羨ましい。羨ましくて唸ってしまう。ハロルド様の肩に顔を埋めてぐずぐず唸る。あやすように頭を撫でられるが、そんなので誤魔化されてやれるほど俺は若くも年取ってもないのだ。見えない尻尾はブンブンと振れているけど、出してないから振ってないのと同じことなのである。
明日の朝出立ということで何重にも荷をチェックして解散し、それぞれ帰宅して明日に臨む。しばらくはレーションで食い繋がなければならないので、最後の晩餐として豪華な食卓を囲むことにした。
いつもより高い牛のお肉を焼き、冬には割高な野菜と果実を贅沢に添える。焼けば黒焦げ肉だったハロルド様が、わざとほんのり表面を焦がす程度の絶妙な焼き加減でお肉を焼けるようになってどれくらい経っただろう。手料理を始めてたった数ヶ月しか経っていないのに、ハロルド様は俺よりも多くの調味料を使いこなし、俺より美味しいコーヒーを淹れられるようになった。卵割りはたまに失敗するものの、それと多少味付けが全て甘味寄りになっている以外に非の打ち所のないパーフェクトな大人だ。
これでインポテンツだったらもう性交はすっぱり諦めようと思う。さいわい俺にだって自分を慰める右手は健在してあるのだから、無理強いはしない。
「今日は俺が食後の紅茶淹れますね。暖まるやつです」
注いだ紅茶を警戒なく飲んでくれるのだから、信頼関係を利用している事実に罪悪感が刺激される。
「この紅茶美味しいですね。いつもより甘い」
「そうですか? 薬との相性よかったのかな」
「……薬?」
申し訳ないが、しれっと舌を出して肯定する。
「離れたくないだとか、置いていきたくない人ができたことがこれほど嬉しいものとは思わなかったです」
命令が下されればどこへでも行ってきた。嘆く部下の気持ちを本当の意味で理解することなく、淡々と仕事を受けて帝都に戻る日々だった。それなのに今の生活に慣れてしまえば、現にすでに一度短期出兵も済ませているのに今さらもうどこにも行きたくないと思ってしまう程度には、俺は我が儘になってしまったらしい。
部下たちの罵詈雑言を思い出せば昨日までとは打って変わって部下たちと全く同じことを大佐に言いたくなるだろうから、そんな自分の変わり身に苦笑してしまう。
「仮に戦死でもしたら未経験のまま軽いキスだけ思い出して死ぬのかあと思っちゃって」
それでもいいっちゃいいんだろうけど、後悔と心残りで幽霊にでもなってハロルド様の肩にぶら下がるだろう自分を想像して首を振る。なんてかっこわるい。せめて足元で番犬している動物霊になりたい。
「なので、抱かれ潰して置いていきます。ん、なんか言葉が変だな、あってます?」
「多少おかしいです」
「ですよね。でも、無事に帰ってくる気はあるんですけど、どうなるかはわからないので強行させていただきます」
聞くところによると薬の性能は遅延性なのでシャワーを浴びる猶予は残されている。怒っているのか呆れているのか、ハロルド様は重たい表情でカップの中に残った紅茶を見つめていた。それでもお小言も苦言もないのだから、背中を引っ張られる感覚を受けながら「身体きれいにしてきますね」と浴室に向かった。
練習は昨日に済ませていたので、本番の今日は思いきりよく洗って慣らした。自分の指じゃあの大きさは再現できないけれど、少しは痛みも薄れるだろう。明日のために自分に薬は使っていない。命を賭ける場には薬に浸けられていない健全なる肉体で参戦すべきだ。本当は負荷も与えたくないけど、ここはわりきろう。
身長に相応しいあの大きさに俺の尻はめりっと破けることは明白で、そう思うと金たまがひゅんと縮んで気が重たくなる。いや、でも、未知の体験にはわくわくする気持ちもあるので興奮はしているのだけれど。
シャワーから出ると寝間着を着ようかひとしきり悩んで、結局パンツ一枚でいいやと思考を捨てた。居間はテーブルに空になったティーカップがあるのみで、ハロルド様は俺の元寝室でベッドに座り俺を待っていた。
ほかほかに上気した顔色で表情をしかめている。
「薬入りの、全部飲んじゃったんですか? 過剰摂取はさすがによくないと思いますけど……」
「……過剰なほど入れてたんですか? 即効性ではなかったようで騙されました。今、後悔しているところなので黙ってください」
「甘くて美味しかったんですね……」
ハロルド様はたまに可愛い行動をとる。ぐうの音もでないほど好きなところだ。
過剰というほどは入れていないけれど、口を閉ざして完勃起が見てとれるスラックスのテントに苦笑し、媚薬と一緒に買っておいたローション瓶を片手にぴったりと真横に腰掛ける。俺のベッドはもはやハロルド様のにおいが馴染んでいて、なまじ鼻がいい分それだけで胸が震えてしまう。
ごろごろ転がってにおいを堪能したくなる。これは俺の中の動物の部分のさがだ。
「あの、一回手でします?」
「……その方がいいのであれば」
「え、う、うぅん……? 俺のお尻、ハロルド様のを受け入れるには処女すぎて狭いので……、たぶんもどかしくってハロルド様がつらくなるかと……?」
入れて出し入れするだけ? なにを言う。それが難しい。知識しかないのだから薬で快楽を補助してみたけれど、感度が良すぎても男にはだめだ。俺たちはいい年した童貞で、男として普遍の拗らせ気味なプライドがある。ハロルド様はどうか知るよしもないが、俺にはそういうプライドがあるのだ。
三擦り半どころか亀頭の天辺をすぼまりにくっつけただけで果てられたら、ハロルド様にかける言葉を真っ裸で思考しなければならない。ハロルド様が感覚過敏で翌朝にようやく頭を抱えるくらい今はどうでもいいからとがっついたって、俺はシラフなのだから明日のハロルド様のことを今のハロルド様と同列に気にしてしまう。
スラックスの上からテントを撫でるとハロルド様は息を呑んで固まった。いたずらしている気分に気が引けるのと同時にほんの少しどきどきと興奮し始めて唾を飲む。
ハロルド様の足の間に座り、スラックスのボタンを外してチャックを下ろすと目の前にボロン勃ち上がる巨根。咥えることに抵抗はないが、舐めたらもう今日はキスしてもらえなさそうだなと直感して両手を添える。触れただけでかちんこちんに反り返る敏感さは薬のお陰だろう。指先でカリ首を撫でればとぷとぷと透明な液体が流れて、それを刷り込むようにしこしこと手を上下に動かした。
硬くて、熱い。
強弱をつけながら片手で亀頭を手のひらでぐにぐに回しこね、もう一方で脈打つペニスを扱えば、噛み殺された吐息が頭上で漏れる。
ちゃんと、気持ちよくさせられてる……。
そう思えば胸の奥がじんわりと熱くなって、顔の赤面が背に腹に降りてくるように、次第に俺の股間も反応していく。……触ってないのに。
しこしこ擦る手を休めず、ふ、と息を吹き掛ければペニスはぴくんと反応して、鈴口からとろりと新たなカウパーを垂らす。それを掬ってくちゅくちゅ音を立てさせながらカリ首をシゴき、亀頭を優しく指で撫で上げる。ペニスが脈打ち、鈴口がパクつき始めたらぎゅっとペニスを握って上下させる手を早めた。
しこしこして、浮き上がったペニスの血管をごりゅごりゅとコスり、ひたすら鈴口を手のひらでぐりぐりマッサージする。繰り返し、強弱をつけて、ペースなんてものもなく慣れさせない。
「で、ます……っ」
切羽詰まった声にあわせてきつくペニスを根元から絞り上げると腰が一度ビクンと揺れて、待ち構えていた手のひらにびゅくんびゅくんと精子が吐き出される。ペニスは手のひらのなか痙攣していたけれど、おさまるころにはまた頭を上げてぬらぬらてかっていた。
さすが、これが薬のちから。ごくりと息をのむ。
休むことなく勃起を続けるペニスに二度目をとシーツで手を拭きもう一度触れようとすれば、その手首を掴まれて顔を上げる。上気して額が汗ばんだハロルド様の熱の籠った瞳に、俺の琥珀の瞳がきらりと反射した。
「膝、乗ってください」
「え、あ、……もういれ……」
「違いますよ! ……いえ、違わなくもないですが、……貴方だって一度出してからした方がいいでしょうが」
それは、ハロルド様がしてくれる、ということだった。
パンツを脱いでペニス同士をくっつけるよう向き合いその膝に座ると、「こっち向きですか……」と呟かれて恥ずかしいしくじりをしたことにようやく気付いた。それでも今さら背中を預ける体勢に仕切り直すなんてこれまた恥ずかしいことをできる余裕もなくて、ハロルド様にからだを預けるよう額を胸にくっつけて、ぐに、と甘えるようにペニスをペニスに擦りつける。ハロルド様のを手で触っていただけなのに、俺のはすっかり興奮して勃ちあがりとぷとぷと溢れるカウパーに濡れていた。
腰に添えられた手のひらの熱で「ひぅっ」と若干のけぞって、その反応に熱に浮かされている視線と目があって、目と目をあわせたままハロルド様は俺のペニスをご自分のペニスと一緒に手に包む。若干俺のペニスに比重を置いて、俺がしこしこしたように手の動きを始めていく。なのに、さっき俺が一度も顔を見なかった当てつけのように、視線が外れない。
股間からの快楽と羞恥心でじんわり瞳が涙に潤む。一粒頬に落とせばハロルド様はそこに口付けてくれて、ペニスの付け根からジンとした甘い快楽がせりあがって、手のひらで口を塞いでぎゅっと瞼を閉じる。
「ふっ」
「んっ……♡」
早まる手つきと共に耳に吐息をかけられ、快感に悶えるように背中が丸まりハロルド様の肩に額をつけてはくはくと息をする。仕返しだ。いや、ちがう。
おしおきだ……。
「ぁぅ……♡ ぁっ♡ っは♡」
ふたり分のカウパーが混じりあい、じゅぷじゅぷとあわ立ちながらとろとろにペニスが攻められていく。じぶん以外の熱がこんなにきもちいいなんて、知らなかった。いつのまにか首に腕を回して抱きつくようなかたちで、ハロルドさまもおれのぺニスを扱っている反対のうでは腰にまわしていた。
どちらからともなくこしをゆらして、ペニスをペニスで撫であいながらこつんこつんとそのてにうちつける。きもちいい。快楽にせすじがそれると、ペニスのつけねをぎゅうっとにぎられて、しぼられて、めのまえがちかちかする。
やだ、あっ、
せりあがってくる、あ、ぁ、あ……♡
「でっ、あ♡ でま、っ……♡」
まえかがみにハロルドさまにぎゅうぎゅうにだきついたら、びゅくびゅくとじぶんの精えきがはらにとび散っていく。まだイッてるのにやわくぺにすをなでられながら、かたで息をして、こきゅうを整える。それなのに、射精したばかりのペニスの鈴口をいつまでもぐにぐにと指先で遊んでいるから、はふ、はあ、とハロルド様の胸に吐息を落とし、じんじんとペニスの甘い痺れに喘ぎながら抱きついていた腕を緩めて離れた。
「んっ♡ あうぅ……♡」
いつまでいじるんですか、と、訴えるように涙目で見上げると、黒い瞳が細められ、反射的に俺も瞼を閉じる。今まで触れる程度しかしてこなかったのに最初から舌を絡めるキスをして、いっぱいいっぱいに求めあう。
俺たちは初心者なのでかつんと歯と歯をぶつけたり、角度を変えたら口から外れたりしていたけれど、何度も重ねればぎこちなさはなくなっていく。
入れられた舌に上顎を撫でられれば、狼の姿を初めて見せたとき、口のなかに指を入れられたことを思い出した。生理現象で唾液が出てくるのを、今はちうちうとハロルド様の舌と一緒に吸っている。
こんなふうになれるとは、思ってなかった。うっすら瞼を開けばハロルド様と目があって、びくんと肩が揺れて唇の間から顎によだれが垂れ落ちる。そのまま離れていってしまったキスを名残惜しいと思いながら目をそらして腕でそれを拭った。
「いれて、いいですか?」
当たり前のことを聞くから、真っ赤に染まった身体でちょっと笑ってしまった。
俺が自分のお腹にかけてしまった精子を拭き取ると、ハロルド様はそこでようやく服を脱ぎ、俺が用意していたローションを自分のペニスにかけていた。俺は俺でベッドに四つん這いになって準備する。
「ある程度、ほぐしてあるので……。ローションいれたりかけたりで、そのまま、いれてください……」
「入りますかね……」
「ゆっくりやれば、いけますよ。……俺がしたいので、お願いします。ハロルド様と最後までえっちしたいです」
膝を立たせ枕を胸から腹を支えるように抱き、尻を差し出す。片手で腰の位置を固定され、そうしてゆっくりと侵入してくる異物の圧迫感に息が止まるものの、気遣うように背筋を撫でる手のひらにあわせ、なんとか深呼吸を繰り返して受け入れていく。
「……ぅ、……っ…………」
……誤魔化せない。
痛いのと逃げ場のない圧迫感で涙が枕に沈んでいく。思いきりよく慣らしたはずのそこはやはりまだ狭く、指で届かなかったところが破られるように拓かれて、ぐっと歯を食い縛る。
うぐぅ……ぜったい……お尻切れた……。
あんなに元気だったペニスはしぼんで重力に垂れ下がっている。
「っ、腕、伸ばせますか?」
「ぅ……?」
ぐすんと枕を抱きしめていた右腕をハロルド様の方へ向かわせると、手のひらを尻のすぼまりに近づけそこを指で触れさせられた。
「これですべて入りましたよ」
そこはハロルド様のぺニスの根元と、俺の尻の穴の塞がれた出入口だった。
「っ~! わかってますよお!」
真っ赤になって、叫ぶ。それでもいくらかは圧迫感から気が削がれたのか、お腹からペニスのかたちがなんとなく分かって、気持ちよさとは別のところの充足感に心が騒ぐ。
「動きますが、我慢できなくなったら言うか逃げるか殴るかしてください」
「なぐりませんよ……やくそくしたじゃないですか……」
「……そうでしたね。ですが、まあ、叩かれる程度は受け入れますよ」
心持ち、どこか嬉しそうな声色だった。
ハロルド様は、俺を気遣ってかゆっくりと動いていった。たまに円を描き、たまに奥の奥までぐっぐっと突いてくる。
これ、気持ちよくなれるのか、なんて思っていたくせに、そうやって肌と肌が中までくっついてからの、奥の奥までを突かれると、ぽたぽたとペニスから汁が漏れるような、じんわりとしたなにかを感じはじめてわずかばかり腰が揺れる。鈍く重いのに、でも、たぶん、もっとほしくて。
おれ、おく、だめかも……。
自覚するときゅっとナカが締まって、くぐもった息が漏れる。優しくナカを動いていたペニスは次第にずちゅんずちゅんと肉ひだに絡めるよう出し入れされて、奥に打ち付けられるたびに神経がピクンと反応してからだが汗ばむ。何度も何度も腰を打ち付けられるうちに乱れていく呼吸と、落ちてきた黒髪が敏感になった肌を撫でる、そのぞわぞわと粟立つような、微かな刺激に喉が鳴る。
「っは、ぁ……」
「んっ……」
何度か小刻みに動き、射精で最奥に押しつけられる。低いうめき声のあと、腹のナカで痙攣するペニスのちりちりとか細い快楽の波が、もどかしくてたまらない。
抜かれたあとの解放感はむしろ居心地が悪くて、ベッドに擦り付けるお尻はひくひくと寂しがっているようにも思えた。鈍痛ながらも向き合うよう振り向けば、先ほど座っていたシーツの部分にはローションとは別の多少の赤色で濡れていて、ちょっと笑った。破瓜みたいだ。処女を捧げた感が増して俺としては嬉しかったのに、ハロルド様には気まずそうに謝られてしまった。
ハロルド様のぺニスは尻に入っていたときより小振りになったものの、まだ勃っていた。もう二、三回は出さなきゃおさまらないだろう。
「あの、次は……向い合わせで……したい、です……」
「……物好きですね」
「きもちよかったですよ……? 初めてだったのに、ここ、半勃ち気味ですもん……」
腰をカバーするように枕をあて、ごろんとベッドに仰向けになり足を開いてハロルド様を受け入れる。先ほどまで入っていただけあって今度はすんなりと挿入されるものの、今度はナカからおへそに向かって押し上げられる感覚に自然と腰が浮く。ハロルド様は俺の顔の横に腕をついて、抱き込まれるように黒髪のカーテンに閉じ込められた。このシチュエーションが、どうしてこうも下半身に響く。
「す、すきです……」
「っそう、ですか……」
なかのものが、おっきくなった。
ぐぽぐぽと再開された刺激に揺られながら顔の横で自身を支えるハロルド様の腕に手を絡め、額を擦り寄せる。与えられる熱にうだりぐったりとした瞳でハロルド様を見上げると、同じように熱の溶けた吐息で見つめ返されきゅんとお尻が締まった。見つめあえばピストンは止まって、おずおずと腕を伸ばして頬に手を添えればハロルド様はそれに応えるように頬を擦り寄らせる。
胸のなかがなにかに詰まっていく。いっぱいに溢れていく。
そのまま上半身を起き上がらせて、はみあうように口付けを重ね、首に腕を回す。ナカにペニスは入ったまま、手でしていたときのようにハロルド様のお腹に乗って、体重と重力にまかせてぎゅうぎゅうに腰を揺らした。
最後までお尻では射精できなかったけど、勘違いしようもなく、気持ちよかった。
何度か奥に出されたりお腹にかけられたり、やわやわな俺のペニスを自分で抜いたりハロルド様に抜いてもらったり、そうして体力の限界で俺を下敷きにベッドに沈み込むハロルド様を抱きとめる。
「重くないんですか……」
戦場で意識をなくした大佐を背負うこともあるから、そんなに重いとは思わなかった。それでもベッドの中で誰かの名前を出したくはなかったので、男のプライドを尊重するようにキスで誤魔化す。ちゅっと唇を啄むと、背に腕を回され俺をハロルド様の上になるようごろんと俺を巻き込みながら身体の向きを仰向けにするものだから、くすくすと笑った。笑えばむっと、今度はハロルド様が恥ずかしさを誤魔化すように、キスされた。そのまま唇で触れあって、べたべたなまま、少し眠った。
朝日に目を覚まし、時計を見れば出発にいい時間帯だった。一度起きてシーツを取り替えたりシャワーを浴びたりしていたので身体は重いが、それほどつらくもない。体力のある種族でよかった。
ハロルド様は重たく瞼を閉じたまま寝入っている。起こさないまま行こうか考えて、やっぱり名残惜しくて忍び足でこめかみにキスをする。
行きたくないなあ。それでも行くんだけど。
自分の半生はすでに職業軍人で、これからもそれは変わらない。だから、これから何度も同じような朝を迎えるんだろう。
ため息ひとつでそれを受け入れ、もう一度キスをして、離れる。離れようとしたら、手を引かれ、行くなと起きがけのすれた視線になじられ苦笑する。
「行ってきますね」
指を掴む手のひらを、優しく振りほどく。傷ついたように瞳が細まって、苦々しい表情でハロルド様が呟いた。
「大事なことは清く正しくと言ったのは、貴方でしょうに……」
拗ねる声にようやく合点がいって、もう一度苦く笑って謝った。
「そうですね。清く正しく、キスは一日何回でもしたいです。……して、ほしかったんですよ、ずっと」
気だるく起き上がったハロルド様に腕を引かれ、触れるだけの口付けをする。額と額をくっつけてはにかめば、くすぐったそうに、ハロルド様も観念して小さく笑った。
行ってきますね。今度こそハロルド様から離れたのに、ちょっとだけ表情を失敗して、行きたくない顔になってしまったのが心残りだ。
フリードリヒ・ダルムシュタット大佐。
彼を一言で表すならば、筋骨隆々が口頭一番に出てくるだろう。男として憧れないはずもないくっきり浮き上がった大胸筋と六つに割れた腹筋。ガチムチッとした上腕二頭筋に雄っぱい。ゴツく分厚い身体にそぐわぬ俊敏な動きは重力の不思議を思い浮かべさせられる。それでいて細やかで器用な指使いを俺の毛皮ブラッシングで披露してくれるのだから、神は肉体美に機能性を兼ね備えさせ大佐に授けたらしい。外面がもう満点の男であるのに、マッチョが無理という見た目の好みがある人を内面性で恋に落としてくるような頼れる兄貴分の性格は、神の意図を感じずにはいられない。
神は二物も三物も大佐に大盤振る舞いだ。
髪の毛を三ミリだろうが切れば反応してくれる洞察力に、気さくで厚情な性格は多くの人から好かれるものだろう。思いきりのいい豪傑さには安心感とどこか放っておけない母性本能が刺激されて、彼の進む道ならば仕方がないとつい連れ添ってしまう。
ただしく正義の人を好むのなら、彼を選べば間違いはない。だからこそ、そんな彼の直属の部下からの信頼は揺るぎない。
「お前らには悪いが、年越しは戦地で迎えることになった」
この国は本当にどこもかしこも忙しい。最近はさらに忙しさを増したように思う。それだけ長い年月にわたり領地を広げ守ってきたからなのだが、今や守った民に寝首をかかれる本末転倒さに呆れてしまう。
在中軍も決して弱くはないはずなのになあ……。
「ああああ!? もうなんでですか?! なんで今この時期ッ?!」
「だよなあ。俺もゆっくりと年越ししたかったんだが」
「休暇! キューッカッ! 消えた! ドコ!」
「出兵は東の経済特区にある小都市トゥシアタウンだな。街の半分と港が占拠されて物資が帝都に回らなくなってきたらしい。あ、これまだ情報規制入ってるから外に漏らすなよ」
「バカ?! なんであと二週間待てなかったんですか! つか一週間前に言ってくれ!」
「本当にな。俺もせめて出兵に一週間は時間が欲しかったんだが決まったもんはしゃーないよなあ。俺ンとこにゃ火急案件しか来ん」
「戦場にも祝祭日はあるだろふざけんな年末年始は家族恋人友人と過ごすのがどんな家庭でも恒例のはずだろォに!」
「敵さんにゃ休日がなかったようだ。可哀想だな。俺たちも可哀想だが」
「誕生日には戻ってこれますかね?」
「うむ、みんな元気があって喜ばしい。言いたいことは聞いてやるが三日後出発だから各自心の準備しとけよ。ライカの誕生日は月末近くだろ、その前には戻れるはずだ。……たぶんな」
「俺、戦場から帰ったら大佐の作ったケーキでハロルド様にお祝いされたいです」
「なら南からフルーツ取り寄せるか。まず生きて帰るぞ」
「ですね」
「あ、俺も食べたいです」
「ん、マイルもおいで。みんなで食べようか」
「アアアアアフラグッ! やめて! 激戦を呼び込まないでやめてくださいオレらはあんたらじゃねーんだ死んでしまいます!」
揺るぎないと言いつつ、たまに信頼が揺れることもあるが、おおむねダルムシュタット隊の仲はそれでも良好だ。嘆きの声は気安さと信頼の積み重ねに許されたストレス緩和でもあり、本気で嫌がっていてもちゃんと平穏な年越し休暇の諦めは各自で受け入れているだろう。受け入れているはずだ。
げえげえな非難の嵐を受けてもじゃあやっぱりナシでとはならないところが職業軍人のさがだった。
それでも止まない嘆きの声に、ついにハロルド様が事務書類をデスクに叩きつけ「黙りなさい」と威圧を利かせた視線と声に隊内は静けさに包まれ散っていく。さすがダルムシュタット隊救いの知性派。俺を押し退け隊のトップツー入りしただけある眼光の鋭さ。そうだ、ハロルド様はどうするのか。
ちら、と大佐に視線をやると、連れていく気はないとアイコンタクトを受けたので頷く。
待機命令は大佐にしてもらいたいところだが、どうやらそれは俺の仕事になったらしい。
自宅に帰ると家事全般はハロルド様の役割になる。俺がなにかをするのはもう諦めた。出立の準備は軍でやるので、作ってもらった料理を美味しくいただきシャワーを浴びて、自堕落にソファに深く腰かけ足を投げ出す。ついでシャワーから出てきたハロルド様はダークブラウン色の落ち着いた寝間着を着て本を片手に隣に座る。冬限定で完全に裸族は封印したようだ。春先にはまたパンツも履かない裸族に戻るだろうけど。
狼の俺を暖に読書をすることが日課になったハロルド様は、俺が狼モードにならずに待っていただけでなにか話があるのだと察してくれるから、ハロルド様だってきっと髪を三ミリ切っただけで気付いてくれる人種なのだと思う。特に仕事の面での察しのよさは群を抜いている。恋愛面も対応して欲しいくらいには的確に見透かして、言いづらくてまごついていれば「ああ、なるほど」となにを言いたいかすら察してくれるのだ。
「私は留守番ですか」
「……護衛は大佐の屋敷から派遣されるので心配はありません。まあ俺と大佐ほどの安心感はあげられないかもですが」
「なんですか、それ」
はぁ、と苛立ちと失望が混じったような大きなため息で返され困ってしまう。
もともと前線での役割を期待されていないまま隊に迎え入れたと知れば不機嫌は増すだろうか。いや、自分の役割を心得てこの隊に来てくれたはずだ。俺たちに室内勤務が向かないように、適材適所はわきまえているはず。
「一緒に来たいわけではないですよね?」
「疎外感の解消には同行以外ないと考えていますよ」
「でも無理について来ようとするわけでもないように見えます」
「ええ。留守番するつもりです。ひとりで」
最後の一言が当てつけがましく、その意図の通り胸に刺さった。毎夜のルーチンとしての読書も今日は読む気にならないと本は閉じられたままハロルド様の手の中で、むしろ本を乗せられるように軽くそれで頭を叩かれて、また鼻から抜ける程度の吐息で失望される。
わからない。なんで不機嫌に当てつけてくるのかわからない。失言なんてしてないはずなのに……。
「……え、もしかして、単純に心配してくださってるんですか?」
「……してほしくないようですね。どうせ私は役立たずですよ。一般人より動けるだけで軍人としては底辺ですとも。体力もスタミナもそうありません。もう五年後は中年太りすらしているだろう木偶の坊に心配などされたくないでしょうね」
ムッと唇の曲線が歪んで不機嫌さが増すも、相反して俺の唇はにんまりと弧を描き喜びに溢れる。
「まさか、嬉しいです!」
なんてわかりづらいんだ。言葉足らずで介護してくれてた人らしい。
座っていた距離を詰めて肩に緩くもたれはにかむ。「ハロルド様と離れるのはすごく嫌です」と、そうちゃんと言えばいくらかは納得したようで不機嫌もなりを潜めていく。
「俺、たくさん死地で暴れてますけどまだ死んだことないんですよ。なので安心して心配してください」
「それ、安心できるようなセリフではありませんよ。焼死は痛かった、と同レベルです」
「怪我は仕方のないことですもん。痛いのは我慢できますけど好きではないので、むしろすごく嫌なので、内緒ですが実のところ内戦とか大嫌いです」
「秘密にしなくてもいいと思いますが。……引きとめたくなるようなことを言うのはわざとなんでしょうかね」
ほんのりと赤くなりながらもハロルド様は俺の肩を抱いてそのまま横になる。狼モードにしか許されていなかったたわむれに身体が硬直するも、蒸気立つようなほかほかの顔を胸にぺたりくっつけていればいろんな欲が脳裏に浮かんで心臓が早まっていく。
今ならできる。くっつける。そういう雰囲気だ。
妙な自信に急かされて、見上げるようにハロルド様を見つめて目を合わせ、身をよじるように顔を近づけ瞼を閉じる。ためらいの指先が頬に触れて添えられて、どきんと心臓がひときわ大きく跳ねた。そして一日一回以上は避けられていたキスが唇に、……来なかった。
前髪の生え際に落とされたキスに不満が爆発しそうだ。何歳児だ。しわしわと唇が波打ち萎む。本当に俺より十も年上なんだろうか。まさか本当に枯れているとでも言うのか。失望のため息を吐き出したいのは俺の方である。声を大に言い切りたい。
この失望は正当であり関係を再確認または発展させるために多少の荒事も不可欠だろう、と!
決めた。出兵する前にえっちしよう。こちとら誕生日を迎える前に殉職するかもしれないのだ。
隊のパートナー持ちは今頃みんな自分の片割れと離れがたくイチャイチャしてるんだろうな。羨ましい。羨ましくて唸ってしまう。ハロルド様の肩に顔を埋めてぐずぐず唸る。あやすように頭を撫でられるが、そんなので誤魔化されてやれるほど俺は若くも年取ってもないのだ。見えない尻尾はブンブンと振れているけど、出してないから振ってないのと同じことなのである。
明日の朝出立ということで何重にも荷をチェックして解散し、それぞれ帰宅して明日に臨む。しばらくはレーションで食い繋がなければならないので、最後の晩餐として豪華な食卓を囲むことにした。
いつもより高い牛のお肉を焼き、冬には割高な野菜と果実を贅沢に添える。焼けば黒焦げ肉だったハロルド様が、わざとほんのり表面を焦がす程度の絶妙な焼き加減でお肉を焼けるようになってどれくらい経っただろう。手料理を始めてたった数ヶ月しか経っていないのに、ハロルド様は俺よりも多くの調味料を使いこなし、俺より美味しいコーヒーを淹れられるようになった。卵割りはたまに失敗するものの、それと多少味付けが全て甘味寄りになっている以外に非の打ち所のないパーフェクトな大人だ。
これでインポテンツだったらもう性交はすっぱり諦めようと思う。さいわい俺にだって自分を慰める右手は健在してあるのだから、無理強いはしない。
「今日は俺が食後の紅茶淹れますね。暖まるやつです」
注いだ紅茶を警戒なく飲んでくれるのだから、信頼関係を利用している事実に罪悪感が刺激される。
「この紅茶美味しいですね。いつもより甘い」
「そうですか? 薬との相性よかったのかな」
「……薬?」
申し訳ないが、しれっと舌を出して肯定する。
「離れたくないだとか、置いていきたくない人ができたことがこれほど嬉しいものとは思わなかったです」
命令が下されればどこへでも行ってきた。嘆く部下の気持ちを本当の意味で理解することなく、淡々と仕事を受けて帝都に戻る日々だった。それなのに今の生活に慣れてしまえば、現にすでに一度短期出兵も済ませているのに今さらもうどこにも行きたくないと思ってしまう程度には、俺は我が儘になってしまったらしい。
部下たちの罵詈雑言を思い出せば昨日までとは打って変わって部下たちと全く同じことを大佐に言いたくなるだろうから、そんな自分の変わり身に苦笑してしまう。
「仮に戦死でもしたら未経験のまま軽いキスだけ思い出して死ぬのかあと思っちゃって」
それでもいいっちゃいいんだろうけど、後悔と心残りで幽霊にでもなってハロルド様の肩にぶら下がるだろう自分を想像して首を振る。なんてかっこわるい。せめて足元で番犬している動物霊になりたい。
「なので、抱かれ潰して置いていきます。ん、なんか言葉が変だな、あってます?」
「多少おかしいです」
「ですよね。でも、無事に帰ってくる気はあるんですけど、どうなるかはわからないので強行させていただきます」
聞くところによると薬の性能は遅延性なのでシャワーを浴びる猶予は残されている。怒っているのか呆れているのか、ハロルド様は重たい表情でカップの中に残った紅茶を見つめていた。それでもお小言も苦言もないのだから、背中を引っ張られる感覚を受けながら「身体きれいにしてきますね」と浴室に向かった。
練習は昨日に済ませていたので、本番の今日は思いきりよく洗って慣らした。自分の指じゃあの大きさは再現できないけれど、少しは痛みも薄れるだろう。明日のために自分に薬は使っていない。命を賭ける場には薬に浸けられていない健全なる肉体で参戦すべきだ。本当は負荷も与えたくないけど、ここはわりきろう。
身長に相応しいあの大きさに俺の尻はめりっと破けることは明白で、そう思うと金たまがひゅんと縮んで気が重たくなる。いや、でも、未知の体験にはわくわくする気持ちもあるので興奮はしているのだけれど。
シャワーから出ると寝間着を着ようかひとしきり悩んで、結局パンツ一枚でいいやと思考を捨てた。居間はテーブルに空になったティーカップがあるのみで、ハロルド様は俺の元寝室でベッドに座り俺を待っていた。
ほかほかに上気した顔色で表情をしかめている。
「薬入りの、全部飲んじゃったんですか? 過剰摂取はさすがによくないと思いますけど……」
「……過剰なほど入れてたんですか? 即効性ではなかったようで騙されました。今、後悔しているところなので黙ってください」
「甘くて美味しかったんですね……」
ハロルド様はたまに可愛い行動をとる。ぐうの音もでないほど好きなところだ。
過剰というほどは入れていないけれど、口を閉ざして完勃起が見てとれるスラックスのテントに苦笑し、媚薬と一緒に買っておいたローション瓶を片手にぴったりと真横に腰掛ける。俺のベッドはもはやハロルド様のにおいが馴染んでいて、なまじ鼻がいい分それだけで胸が震えてしまう。
ごろごろ転がってにおいを堪能したくなる。これは俺の中の動物の部分のさがだ。
「あの、一回手でします?」
「……その方がいいのであれば」
「え、う、うぅん……? 俺のお尻、ハロルド様のを受け入れるには処女すぎて狭いので……、たぶんもどかしくってハロルド様がつらくなるかと……?」
入れて出し入れするだけ? なにを言う。それが難しい。知識しかないのだから薬で快楽を補助してみたけれど、感度が良すぎても男にはだめだ。俺たちはいい年した童貞で、男として普遍の拗らせ気味なプライドがある。ハロルド様はどうか知るよしもないが、俺にはそういうプライドがあるのだ。
三擦り半どころか亀頭の天辺をすぼまりにくっつけただけで果てられたら、ハロルド様にかける言葉を真っ裸で思考しなければならない。ハロルド様が感覚過敏で翌朝にようやく頭を抱えるくらい今はどうでもいいからとがっついたって、俺はシラフなのだから明日のハロルド様のことを今のハロルド様と同列に気にしてしまう。
スラックスの上からテントを撫でるとハロルド様は息を呑んで固まった。いたずらしている気分に気が引けるのと同時にほんの少しどきどきと興奮し始めて唾を飲む。
ハロルド様の足の間に座り、スラックスのボタンを外してチャックを下ろすと目の前にボロン勃ち上がる巨根。咥えることに抵抗はないが、舐めたらもう今日はキスしてもらえなさそうだなと直感して両手を添える。触れただけでかちんこちんに反り返る敏感さは薬のお陰だろう。指先でカリ首を撫でればとぷとぷと透明な液体が流れて、それを刷り込むようにしこしこと手を上下に動かした。
硬くて、熱い。
強弱をつけながら片手で亀頭を手のひらでぐにぐに回しこね、もう一方で脈打つペニスを扱えば、噛み殺された吐息が頭上で漏れる。
ちゃんと、気持ちよくさせられてる……。
そう思えば胸の奥がじんわりと熱くなって、顔の赤面が背に腹に降りてくるように、次第に俺の股間も反応していく。……触ってないのに。
しこしこ擦る手を休めず、ふ、と息を吹き掛ければペニスはぴくんと反応して、鈴口からとろりと新たなカウパーを垂らす。それを掬ってくちゅくちゅ音を立てさせながらカリ首をシゴき、亀頭を優しく指で撫で上げる。ペニスが脈打ち、鈴口がパクつき始めたらぎゅっとペニスを握って上下させる手を早めた。
しこしこして、浮き上がったペニスの血管をごりゅごりゅとコスり、ひたすら鈴口を手のひらでぐりぐりマッサージする。繰り返し、強弱をつけて、ペースなんてものもなく慣れさせない。
「で、ます……っ」
切羽詰まった声にあわせてきつくペニスを根元から絞り上げると腰が一度ビクンと揺れて、待ち構えていた手のひらにびゅくんびゅくんと精子が吐き出される。ペニスは手のひらのなか痙攣していたけれど、おさまるころにはまた頭を上げてぬらぬらてかっていた。
さすが、これが薬のちから。ごくりと息をのむ。
休むことなく勃起を続けるペニスに二度目をとシーツで手を拭きもう一度触れようとすれば、その手首を掴まれて顔を上げる。上気して額が汗ばんだハロルド様の熱の籠った瞳に、俺の琥珀の瞳がきらりと反射した。
「膝、乗ってください」
「え、あ、……もういれ……」
「違いますよ! ……いえ、違わなくもないですが、……貴方だって一度出してからした方がいいでしょうが」
それは、ハロルド様がしてくれる、ということだった。
パンツを脱いでペニス同士をくっつけるよう向き合いその膝に座ると、「こっち向きですか……」と呟かれて恥ずかしいしくじりをしたことにようやく気付いた。それでも今さら背中を預ける体勢に仕切り直すなんてこれまた恥ずかしいことをできる余裕もなくて、ハロルド様にからだを預けるよう額を胸にくっつけて、ぐに、と甘えるようにペニスをペニスに擦りつける。ハロルド様のを手で触っていただけなのに、俺のはすっかり興奮して勃ちあがりとぷとぷと溢れるカウパーに濡れていた。
腰に添えられた手のひらの熱で「ひぅっ」と若干のけぞって、その反応に熱に浮かされている視線と目があって、目と目をあわせたままハロルド様は俺のペニスをご自分のペニスと一緒に手に包む。若干俺のペニスに比重を置いて、俺がしこしこしたように手の動きを始めていく。なのに、さっき俺が一度も顔を見なかった当てつけのように、視線が外れない。
股間からの快楽と羞恥心でじんわり瞳が涙に潤む。一粒頬に落とせばハロルド様はそこに口付けてくれて、ペニスの付け根からジンとした甘い快楽がせりあがって、手のひらで口を塞いでぎゅっと瞼を閉じる。
「ふっ」
「んっ……♡」
早まる手つきと共に耳に吐息をかけられ、快感に悶えるように背中が丸まりハロルド様の肩に額をつけてはくはくと息をする。仕返しだ。いや、ちがう。
おしおきだ……。
「ぁぅ……♡ ぁっ♡ っは♡」
ふたり分のカウパーが混じりあい、じゅぷじゅぷとあわ立ちながらとろとろにペニスが攻められていく。じぶん以外の熱がこんなにきもちいいなんて、知らなかった。いつのまにか首に腕を回して抱きつくようなかたちで、ハロルドさまもおれのぺニスを扱っている反対のうでは腰にまわしていた。
どちらからともなくこしをゆらして、ペニスをペニスで撫であいながらこつんこつんとそのてにうちつける。きもちいい。快楽にせすじがそれると、ペニスのつけねをぎゅうっとにぎられて、しぼられて、めのまえがちかちかする。
やだ、あっ、
せりあがってくる、あ、ぁ、あ……♡
「でっ、あ♡ でま、っ……♡」
まえかがみにハロルドさまにぎゅうぎゅうにだきついたら、びゅくびゅくとじぶんの精えきがはらにとび散っていく。まだイッてるのにやわくぺにすをなでられながら、かたで息をして、こきゅうを整える。それなのに、射精したばかりのペニスの鈴口をいつまでもぐにぐにと指先で遊んでいるから、はふ、はあ、とハロルド様の胸に吐息を落とし、じんじんとペニスの甘い痺れに喘ぎながら抱きついていた腕を緩めて離れた。
「んっ♡ あうぅ……♡」
いつまでいじるんですか、と、訴えるように涙目で見上げると、黒い瞳が細められ、反射的に俺も瞼を閉じる。今まで触れる程度しかしてこなかったのに最初から舌を絡めるキスをして、いっぱいいっぱいに求めあう。
俺たちは初心者なのでかつんと歯と歯をぶつけたり、角度を変えたら口から外れたりしていたけれど、何度も重ねればぎこちなさはなくなっていく。
入れられた舌に上顎を撫でられれば、狼の姿を初めて見せたとき、口のなかに指を入れられたことを思い出した。生理現象で唾液が出てくるのを、今はちうちうとハロルド様の舌と一緒に吸っている。
こんなふうになれるとは、思ってなかった。うっすら瞼を開けばハロルド様と目があって、びくんと肩が揺れて唇の間から顎によだれが垂れ落ちる。そのまま離れていってしまったキスを名残惜しいと思いながら目をそらして腕でそれを拭った。
「いれて、いいですか?」
当たり前のことを聞くから、真っ赤に染まった身体でちょっと笑ってしまった。
俺が自分のお腹にかけてしまった精子を拭き取ると、ハロルド様はそこでようやく服を脱ぎ、俺が用意していたローションを自分のペニスにかけていた。俺は俺でベッドに四つん這いになって準備する。
「ある程度、ほぐしてあるので……。ローションいれたりかけたりで、そのまま、いれてください……」
「入りますかね……」
「ゆっくりやれば、いけますよ。……俺がしたいので、お願いします。ハロルド様と最後までえっちしたいです」
膝を立たせ枕を胸から腹を支えるように抱き、尻を差し出す。片手で腰の位置を固定され、そうしてゆっくりと侵入してくる異物の圧迫感に息が止まるものの、気遣うように背筋を撫でる手のひらにあわせ、なんとか深呼吸を繰り返して受け入れていく。
「……ぅ、……っ…………」
……誤魔化せない。
痛いのと逃げ場のない圧迫感で涙が枕に沈んでいく。思いきりよく慣らしたはずのそこはやはりまだ狭く、指で届かなかったところが破られるように拓かれて、ぐっと歯を食い縛る。
うぐぅ……ぜったい……お尻切れた……。
あんなに元気だったペニスはしぼんで重力に垂れ下がっている。
「っ、腕、伸ばせますか?」
「ぅ……?」
ぐすんと枕を抱きしめていた右腕をハロルド様の方へ向かわせると、手のひらを尻のすぼまりに近づけそこを指で触れさせられた。
「これですべて入りましたよ」
そこはハロルド様のぺニスの根元と、俺の尻の穴の塞がれた出入口だった。
「っ~! わかってますよお!」
真っ赤になって、叫ぶ。それでもいくらかは圧迫感から気が削がれたのか、お腹からペニスのかたちがなんとなく分かって、気持ちよさとは別のところの充足感に心が騒ぐ。
「動きますが、我慢できなくなったら言うか逃げるか殴るかしてください」
「なぐりませんよ……やくそくしたじゃないですか……」
「……そうでしたね。ですが、まあ、叩かれる程度は受け入れますよ」
心持ち、どこか嬉しそうな声色だった。
ハロルド様は、俺を気遣ってかゆっくりと動いていった。たまに円を描き、たまに奥の奥までぐっぐっと突いてくる。
これ、気持ちよくなれるのか、なんて思っていたくせに、そうやって肌と肌が中までくっついてからの、奥の奥までを突かれると、ぽたぽたとペニスから汁が漏れるような、じんわりとしたなにかを感じはじめてわずかばかり腰が揺れる。鈍く重いのに、でも、たぶん、もっとほしくて。
おれ、おく、だめかも……。
自覚するときゅっとナカが締まって、くぐもった息が漏れる。優しくナカを動いていたペニスは次第にずちゅんずちゅんと肉ひだに絡めるよう出し入れされて、奥に打ち付けられるたびに神経がピクンと反応してからだが汗ばむ。何度も何度も腰を打ち付けられるうちに乱れていく呼吸と、落ちてきた黒髪が敏感になった肌を撫でる、そのぞわぞわと粟立つような、微かな刺激に喉が鳴る。
「っは、ぁ……」
「んっ……」
何度か小刻みに動き、射精で最奥に押しつけられる。低いうめき声のあと、腹のナカで痙攣するペニスのちりちりとか細い快楽の波が、もどかしくてたまらない。
抜かれたあとの解放感はむしろ居心地が悪くて、ベッドに擦り付けるお尻はひくひくと寂しがっているようにも思えた。鈍痛ながらも向き合うよう振り向けば、先ほど座っていたシーツの部分にはローションとは別の多少の赤色で濡れていて、ちょっと笑った。破瓜みたいだ。処女を捧げた感が増して俺としては嬉しかったのに、ハロルド様には気まずそうに謝られてしまった。
ハロルド様のぺニスは尻に入っていたときより小振りになったものの、まだ勃っていた。もう二、三回は出さなきゃおさまらないだろう。
「あの、次は……向い合わせで……したい、です……」
「……物好きですね」
「きもちよかったですよ……? 初めてだったのに、ここ、半勃ち気味ですもん……」
腰をカバーするように枕をあて、ごろんとベッドに仰向けになり足を開いてハロルド様を受け入れる。先ほどまで入っていただけあって今度はすんなりと挿入されるものの、今度はナカからおへそに向かって押し上げられる感覚に自然と腰が浮く。ハロルド様は俺の顔の横に腕をついて、抱き込まれるように黒髪のカーテンに閉じ込められた。このシチュエーションが、どうしてこうも下半身に響く。
「す、すきです……」
「っそう、ですか……」
なかのものが、おっきくなった。
ぐぽぐぽと再開された刺激に揺られながら顔の横で自身を支えるハロルド様の腕に手を絡め、額を擦り寄せる。与えられる熱にうだりぐったりとした瞳でハロルド様を見上げると、同じように熱の溶けた吐息で見つめ返されきゅんとお尻が締まった。見つめあえばピストンは止まって、おずおずと腕を伸ばして頬に手を添えればハロルド様はそれに応えるように頬を擦り寄らせる。
胸のなかがなにかに詰まっていく。いっぱいに溢れていく。
そのまま上半身を起き上がらせて、はみあうように口付けを重ね、首に腕を回す。ナカにペニスは入ったまま、手でしていたときのようにハロルド様のお腹に乗って、体重と重力にまかせてぎゅうぎゅうに腰を揺らした。
最後までお尻では射精できなかったけど、勘違いしようもなく、気持ちよかった。
何度か奥に出されたりお腹にかけられたり、やわやわな俺のペニスを自分で抜いたりハロルド様に抜いてもらったり、そうして体力の限界で俺を下敷きにベッドに沈み込むハロルド様を抱きとめる。
「重くないんですか……」
戦場で意識をなくした大佐を背負うこともあるから、そんなに重いとは思わなかった。それでもベッドの中で誰かの名前を出したくはなかったので、男のプライドを尊重するようにキスで誤魔化す。ちゅっと唇を啄むと、背に腕を回され俺をハロルド様の上になるようごろんと俺を巻き込みながら身体の向きを仰向けにするものだから、くすくすと笑った。笑えばむっと、今度はハロルド様が恥ずかしさを誤魔化すように、キスされた。そのまま唇で触れあって、べたべたなまま、少し眠った。
朝日に目を覚まし、時計を見れば出発にいい時間帯だった。一度起きてシーツを取り替えたりシャワーを浴びたりしていたので身体は重いが、それほどつらくもない。体力のある種族でよかった。
ハロルド様は重たく瞼を閉じたまま寝入っている。起こさないまま行こうか考えて、やっぱり名残惜しくて忍び足でこめかみにキスをする。
行きたくないなあ。それでも行くんだけど。
自分の半生はすでに職業軍人で、これからもそれは変わらない。だから、これから何度も同じような朝を迎えるんだろう。
ため息ひとつでそれを受け入れ、もう一度キスをして、離れる。離れようとしたら、手を引かれ、行くなと起きがけのすれた視線になじられ苦笑する。
「行ってきますね」
指を掴む手のひらを、優しく振りほどく。傷ついたように瞳が細まって、苦々しい表情でハロルド様が呟いた。
「大事なことは清く正しくと言ったのは、貴方でしょうに……」
拗ねる声にようやく合点がいって、もう一度苦く笑って謝った。
「そうですね。清く正しく、キスは一日何回でもしたいです。……して、ほしかったんですよ、ずっと」
気だるく起き上がったハロルド様に腕を引かれ、触れるだけの口付けをする。額と額をくっつけてはにかめば、くすぐったそうに、ハロルド様も観念して小さく笑った。
行ってきますね。今度こそハロルド様から離れたのに、ちょっとだけ表情を失敗して、行きたくない顔になってしまったのが心残りだ。
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