あなたのライカ

さかしま

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第十八話

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「うわ、爪なくなってる。これって生えるのかな……」

 寝起きの眼前に包帯の解かれた自分の手を持ってきて落ち着いて見ると、俺の身体の現状にようやく気付く。
 手のひらがタコを茹でたように赤く、パンパンに腫れている。黒く変色していないだけよかったけど、俺の身体の末端という末端は思いの外重症だった。

「お前、ダン中尉他全員掘り出したらしいからな。切断しなくて本当によかった。雪国の獣人じゃなかったら指なんて残らなかったぞ」
「いらしてたんですね、大佐!」

 起きたときに気付いてはいたけれど、この大佐のにおいは幻覚かと思った。がばっと上半身を起き上がらせベッドに座り、久しぶりの群れのボスに気持ち尻尾を振って犬のようにはしゃぐ。

「これ、みて、すごい、えっと、水ぶくれ、真っ赤なお餅? がぷくってなってるみたいですよ! 鼻ちょうちん! そんな感じですよこれ、うっわぁ。ね、大佐、これ、みてすごい触ります? 大佐の熱なら俺、我慢しますよ」
「触らんし落ち着け。隣の部屋でダン中尉が寝てて、壁が薄い。結局駅は工事入ることになったからな、犯人は捕まえたが任務は失敗。気持ち砕けてる最中なんだから声落としてやれ」
「あ、そうですね。慰めないとですね。でも歯は欠けてるなーって気付いてたんですよ。舌触りで。みんなのこと口で引っ張り出してましたからね。見てくださいよ、ほら、いーっ」
「そういうことを笑い話にすんな。本当に冗談ヘタクソだな」
「俺が笑い飛ばさなかったら現場にいてやれなかったって大佐は逞しい筋肉をしょんぼりさせて背中丸めたままじゃないですか。ほら、変に唇曲げないんですよ。泣きそうに見えます。今回泣いていいのはダンくんなんですから。さ、ナイスガイは歯が命なんでしょう? ニッて笑って見せてください。俺、大佐の笑顔気に入ってるんです」
「ライカ……」

 手が自由に動かせたならその両頬をひっぱり揉みしだくのに、自分の体温ですら痛みに変わる手でそれをやるのは少しつらくて頬に触れない程度添えるだけ。けれどしょんぼり顔の大佐はそれだけでくすぐったそうに目を細めた。

「あの、俺ほんとに泣いちゃいそうなんでもうちょっと声落としてもらっていいですか……」
「あ、ごめんねダンくん」

 聞こえていたらしい。大佐から手を離して隣の病室に謝ると、部屋の入り口にハロルド様を見つけて嬉しさにパッと顔が笑顔になる。

「本当にダルムシュタット大佐とはなにもないんですか?」
「当たり前です! 俺の好みはハロルド様です!」
「いちゃつくのやめてくださーい。独り身にはほんとーに毒でーす」

 先日の告白大会も聞き苦しかったですよと今度は反対隣からマイルの声が飛んできた。うーん、本当に壁が薄い。経費削減かつ暖房優先の造りらしい。
 ハロルド様がひとり先行してベッドから降りて歩いていられるのは、単に救助が一番早かったからだ。もこもこの毛皮で丹念にあたためたおかげで健康そのもの。ちなみに他の隊員は妹の連れてきた狼たちの毛皮のお世話になっていたので、見捨てたわけではない。
 隣駅の町病院の手続きや大佐への連絡もろもろは全てハロルド様が行ってくれたらしい。つまり、特に指揮はとらない代わりに雑務はしますとついてきたハロルド様が、一番の功労者だった。

「お兄ちゃんきたよー、おはよー」
「おはようアリビナ」

 そうこうしているうちに、毎日顔をみせにやってきてくれる妹がついに大佐と対面してしまった。アリビナは一目で俺の親族と分かる顔立ちをしているので、さすがの大佐も一瞬ほど呆けていた。

「大佐、いくら大佐でも、俺の妹にブラッシングさせてくれなんて言ったりそんな目で見たら噛みますからね。俺の信用が一気に崩れると思ってください」
「安心しろ、俺にはお前だけだ。むしろお前に似ている娘でもだめなんだなと自分にゾッとした」
「なにこの人、お兄ちゃんの浮気相手? どっちと付き合ってるの?」
「……微妙なところです」
「恋人なら即名乗り出てほしいところなんですけど……。俺の恋人はハロルド様だけだよアリビナ」

 それから隊員の半数が問題なく動けるようになったころ、俺たちはリラに戻って休養をとったり職場復帰を迎えていた。
 俺はハロルド様と一旦同棲をやめ、アリビナと一緒に暮らしている。恋人だろうと裸族と妹はどうしても一緒に住ませたくなかった。当たり前のように「やっぱり服なんて着なくていいんじゃない」と頬を膨らませて着ない宣言をする裸族が増えそうで怖かったのだ。

「どーしてお兄ちゃんの家なのにあの男のニオイがこんなに強くするのよぉ! それよりもなんであたしがそのベッドで寝なきゃいけないの! うぅ……交尾のニオイは薄まっててもなんか気持ち悪い!」
「だって俺、そのベッドで寝たら発情しちゃう。ごめんね、むり」
「わかってるわよ! わかってるからって文句もなく受け入れるだなんてしたくないの! お兄ちゃんも他の獣人に番の使ってたベッド貸すなんて浮気どころか破局してるからそうなってもいいよって言ってるようなものなんだからね! 他の獣人に案内して襲われても和姦なんだからね!」
「そんな常識があるの? こわ、肝に命じとく」

 性的なことに目覚めていない子どものころに群れを出た俺の獣人文化は結構穴ぼこだ。対してアリビナは文字算術の勉強が追いついていないので、互いに知識の穴を埋めるように過ごしていた。俺が職場復帰してからは、昼間のアリビナはお隣のジャクソン老夫婦に可愛がられている。

「ライカちゃん、アリビナちゃん、ひ孫のマーシャが来ているの。会っていかない?」
「ぜひ! わあ、マーシャちゃん首座るようになったんですねえ。狼のお兄ちゃんとお姉ちゃんだよー、わん、わーん」
「え、そのわんわんってなに……」
「犬っぽく吠えると受けがいいんだ。獣人なんて見た目ただの人間だからな。わおん」
「あたしたち狼でしょ! そんな飼い犬みたいなわざわざ人間に聞き取りやすい媚売ってる声質で吠えたってあざといだけじゃない……」
「あざとくしてるんだよ。アリビナも吠えてみな。人はこれで嬉しそうに笑うんだよ。恋人ができたら腕に抱かれながらやってみるといい」
「も、もう! お兄ちゃん!」

 真っ赤に頬を膨らませるアリビナと別れ、俺はと言えば、休日限定通い彼氏というやつをしている。
 白いフローリングに壁、高い天井も真っ白で、けれどカーテンや家具は深い黒。モダンな高級感はどことなく冷たさを感じるけれど、所々に置かれた小さな鉢植えから緑が見えて逆に微笑ましい。新しくしつらえたベッドはふたりで眠ることを前提にしたダブル。上半身を起き上がらせればテレビも見られる室内レイアウトだ。俺の部屋とそう変わらない広さなのに、街中心部だから家賃は倍ほどもする。
 刺客も減ってきたしわだかまりなく円満に同棲解除ができる時期だからと離れたのに、ハロルド様の新居の居心地がすごくいいので、お昼を一緒に食べて、街に出掛けたり部屋で寛いだり、夕食を食べて、お風呂に一緒に入って、えっちして、お風呂にまた一緒に入って、おんなじベッドで寝て翌日に帰宅するのを習慣にしようと画策中だ。

「士官学校を逃げ出したかったんです。結局それすらできない小心者でしたが」

 戦争なんて真っ平ごめんだった。身長があっても筋肉がつかない体質で悪目立ちして。無能もいいところだ。
 そう自分を貶めるように笑うくせに、耳元で自分の心臓の音を聴いているように顔が赤いから、それが心の傷だと気付かないわけがない。
 戦争が長期化するくらいなら、どんな手を使ってでも早く終わらせたかった。その言葉を有言実行したからこそ今のハロルド様があるんだろう。

「私は、逃げ出すことができなかったくせに、逃げ出せなかった場所で保身のために多くを犠牲にできる人間なんですよ」

 ――またか……。
 じっとりと汗ばんでいた身体がさらりと乾き始めたばかりだというのに、相変わらずハロルド様は自己評価が厳しく、ピロートークは楽しさの欠片もない賢者タイムに台無しにされている。これを腕枕で静かに聞いていられる俺は本当にハロルド様が好きなんだなと、ひとり納得するほどだ。

「ようやく終わるはずだったんです。全てがどうでもよく思えた。刑務所の暮らしは憧れでしたよ。誰も私を利用できないでしょう?」

 どうだろう。刑務所の中でもやりようはある。けれど同意してほしそうなので頷いておく。

「ハロルド様って、エゴイストですもんね。自分のためにしか生きられない」
「ええ。だからペットなんて論外です。私は貴方を飼いません。私は私だけに手一杯で、世話など到底できかねます」
「それは……、残念です」

 どの口が言うんだろう。植物すら無理だった人があんなに完璧に俺をお世話してくれていたのに。この部屋にいったいいくつ鉢植えがあるのか。
 ハロルド様は今や炊事洗濯裁縫だって軽くこなし俺をもてなしてくれているのに、理想が高いのか、いつまでも初心者の皮を被って発言してくる。
 俺の手料理の質が落ちたと言われたときはとてもイラッとしたものだ。今思い出すだけで眉間にシワが寄り唇が曲がっていく。

「ただ、そんな私の老後を貴方が台無しにしたので、責任はとってもらいたいと考えています」

 むむ、と曲がっていた口がぽかんと開いて、呆けた顔で首をこてんと傾ける。

「……つまり、俺が飼い主ですか?」
「飼われるのはごめんです。ですが、まあ、……尽くされるのは、普通。……いえ、それなりに、好きです」
「す、き……?」

 最後の一言だけが頭のなかにリフレインする。好き。確かに聞き取った。今まで俺が言うだけだった言葉だ。
 ……そんな、尽くされるのがお好きって知ってたら俺だってご飯美味しく作れるように努力欠かさなかったのに!
 尽くす。尽くそう。苛立ちなんてすっかりどこかに弾けとんで、心強い決意に色付いた顔がにやけだす。
 なのに、もう一回と擦り寄ろうとした俺とは真逆にハロルド様は顔を苦悩に歪めてしまう。

「それでも、貴方に好かれる要素なんて、私にはなにもないでしょう……」

 突然、お付き合いするまで何回も俺自身に思ってたことを、ハロルド様が言い出した。

「ぷ、ははっ、決めつけがひどいなあ」

 くつくつ笑って、唇にキスをする。もうハロルド様は俺からのキスを避けることなく受け入れてくれる。舌で舐めたら口を開いて食われるほどだ。

「ハロルド様は、俺のこと、すごく好きなんですね」

 嫌な顔はするけど否定はしないハロルド様に、自分で言って、そうだろうと自分で頷き嬉しくなる。出会い頭の俺に、安心しろとぎゅうぎゅうにハグしてやりたい。
 ハロルド様は好いてくる相手だろうとむやみやたらに自分に近付けることをさせない人だ。俺だけにこの距離を許してくれている。ちゃんとそれを、俺はもう、自覚している。他部署の女の子たちに俺が牽制してまわる日々だ。

「好いてくれる人を好きになっちゃうのはわりと普通のことじゃないですか? ハロルド様も最初はそうだったんじゃないですか? 俺がハロルド様を好きだから、好きになってもいいかな、なんて思ってくれたんじゃないんですか?」

 ハロルド様は前提を見失っている。

「一目惚れ舐めないでください。汚職軍人だろうとアタックしにいった頑固な恋ですよ。俺はこれからもっとハロルド様に尽くして尽くして、ご褒美もらって、愛してもらって、ずーっと逃がさないんですからね。なにせ俺はハロルド様がとても、とっても、大好きなので!」

 犬歯が見えるようかちりと歯を鳴らしてにんまり笑んでみせる。アリビナを見て可愛いと思った動作を、俺もどんどん取り入れる気でいる。それくらいハロルド様に良く見られたいと思っているのに、それでもハロルド様の安心は得られなかったのか、難しい表情で俺を見つめ探ってくる。
 俺の彼氏はこんな面倒男だけど、そこが可愛いところだ。

「まあ、貴方がそういうつもりだということは、受け取っておきます。では、私は今から暫定的に貴方のものだと思っておきますので。……慰めも、どうも。感謝しなくもないです。手始めに、ご褒美になにか欲しいものはありますか?」
「……え?」
「なんですか、その顔」
「あ、い、え、いえ、すみません。思いがけない言葉で、少々フリーズしてしまいました」

 突然ハロルド様が俺のものになった。この本人のお墨付きに生娘のように顔が真っ赤になってしまうが、どうしようもない。仕方ない。ハロルド様だって不意打ちには弱いのだから。
 う、だとか、あ、だとか、しどろもどろになりながら、欲しいものを考える。ああ、この聞き方、俺と大佐の関係に対抗してるのかもしれない。そう思えばますます顔の熱が高くなる。むしろ嬉しすぎて全身から湯気でそう。

「あ、の……では、その……。モノではないんです。でもその、すごく……ずっと思っていたことがあって……」
「ずっと? なんですかそれ、さっさと言えばよかったでしょうに」
「な、名前を……」

 ハロルド様は、俺のことを二人称で呼ぶ。唯一ハーウィンとの口喧嘩でフルネームを会話に出してくれていたけれど、それだけ。そのときにしか、聞いたことがない。

「まだ、ハロルド様から一度も、ちゃんと呼ばれたことがないので……。ライカと、呼んでもらい……たい……です……」

 だめです?
 ドキドキと心臓が高鳴る音を、その振動を身に見上げれば、ハロルド様はわずかばかり思案したのち「いいでしょう」と頷いた。

「では、貴方もそろそろ、その様付けを止めてください。最初から気になってたんですよ。どう見てもあなたはダルムシュタット大佐との距離ばかり近いじゃないですか。浮気相手にされてても気付かないままの滑稽な道化にでもされてる気分で不愉快だったんですよ」
「そ、それこそはやく言ってくださいよお! だいぶ心象悪かったんじゃないですか!」
「ええ。貴方から先にどうぞ」
「うっ……」

 ただ名前を呼ぶだけなはずなのに、結構これは恥ずかしい。
 言葉に詰まった俺を前にハロルド様は愉快げに目を細め、近づく唇はいじわるにこめかみに落とされる。どうした、言ってみろと視線で促される。

「は……」

 顔が、熱い。

「はろ、るど……っは、はりー、ハロルド……ハル……さん……。ハロルドさん……」
「……どう呼んでもらっても構いませんが、敬称は本当に必要ですか?」
「っハ、……ハロルド、……ハロルド、さん……。……うぅ……さんは必要です……!」
「そうですか。まあ、だいぶマシになりましたから、それでいいです」
「ん、」

 いじわるに焦らされていた唇がようやく口に落とされる。これがご褒美みたいに舌で口内を愛撫され、溢れる唾液をこぼさないよう乱れる呼吸の合間に飲みくだす。

「ライカ、」
「んぅ……っ」

 濡れて敏感になった唇に熱い吐息と共に名前を呼ばれ、ぴきんと脊髄から身体が跳ねる。俺の反応に気を良くして、食べられるような荒いキスに呼吸は置いてきぼりで、酸欠と幸福にぽろりと涙が落ちる。ぎゅうぎゅうに抱きしめあう身体は、ふたりとものぼせあがるほど熱かった。

「は、はろるど、さん……、ま、ん、んんぅ……、ちゅ、っ、はぁ、ま、まって……」
「……なんですか、言いたいことがあるならさっさと言ってください。野暮ったいことは聞きたくありませんよ」

 俺だってこの雰囲気を壊すのは嫌だ。でも、ハロルドさんに乗っかられていても立ち上がろうとする、我慢できない、どうしようもない、男の子の部分が主張して言うことを聞いてくれないのだ。

「っ、……た、勃っちゃい、ました……」
「……やっぱり、感度増してますね」
「ううぅ……!」

 自分が快楽に弱いみたいな言い方をされると恥で消えたくなる。鼻がいいからフェロモンにダイレクトで襲われてるだけなのに。
 もう一度しますかと聞かれて頷けるほど、俺はえっちに素直ではなかった。だって、筋肉痛になるのはハロルド様……ハロルドさんだし……。

「なにか失礼なこと考えましたね。いいでしょう、お気遣いに感謝して手でしてあげます」
「いらないです! ほんと、まって、まってまってまっ、うあっ……♡」

 逃げようとした身体を腕でホールドされて、せっかく履いたパンツはするりと脱がされ勃起ペニスが手に掴まれる。

「ライカ」
「わうぅっ……♡」

 耳に直接名前を囁きかけられて、腰が砕ける。こんなの、逃げられるはずがなかった。


 俺もハロルドさんも有言実行の男なので、夕暮れ方に手を繋いで街を歩く。行きたいカフェはふたりで探して、歩調はゆっくりと、沈みきる夕陽を観光客の中で眺めきっても急かされることはなかった。
 眺めのいい窓側の席で、美味しいご飯に甘いデザート。お土産は春のクリスタライズドローズ。正直バラの砂糖付けと言いきりたいくらい名前には興味がないけど、語感が美しいからほろりと口から出ていく。人の言葉を覚えるのは、だから楽しかった。なにより、おいしいし。

「ハロルドさん、どーぞ」

 ハロルドさんは砂糖を丸かじりするような男なので、甘味なら素手だろうと差し出せばすぐに屈んでそのまま口にしてくれる。好きな人と好きな場所を歩くだけで耳の先がジンジンと甘く痺れるのに、目が合えば目を細められ、汗ばむ手のひらも軽く鼻で笑い握り返してくれている。
 身が焼けるように、胸が熱くなる。
 このくすぐったい幸福を知ってしまえば、もうこれなしには生きられない。

「ケーキに散らしたらおいしいですよ。作って明日軍に持って行くのでお昼のデザートに食べましょう」
「甘いものばかり作るようになりましたね」
「ええ、俺はハロルドさんに尽くす男なので。愛情表現うるさいですか?」
「……ダルムシュタット大佐の元に足繁く通っていなければ許容範囲内といったところです」
「むう」

 いまだに俺の交友関係を邪推するハロルドさんは、本当にご自分に自信がない。これからも付き合っていくだろうとてもめんどくさいところだ。でも好かれてると感じてちょっと嬉しいから、嫌気がさすこともない。
 いいさ、いつかいやというほどに分かってもらう。
 そのために何度だって告白もする。
 理解させてやるとも言える。

 ――あなたが俺のものと言うのなら。

 俺はもう、ずっと、あなたのものだったのだから。

「そこはレシピ伝授が終わるまで大目に見てください。一応マイルと一緒にスイーツ講座受けてるのでふたりきりではないんですよ?」

 話題の中で増えた名前にハロルドさんは顔をしかめる。たまに作ったスイーツ目当てでロッジオくんも増えるとは言わない方がいいだろう。

「お顔強張ってますよ」
「生まれつきです」
「ふふっ、そうですか」
「私も一度、受講します」
「やです。好きな人にごちそう作りたいんです。ハロルドさんがお菓子まで作れるようになったら困ってしまいます」
「困ればいいでしょう」
「お断りしまーす」
「……ライカ」
「うっ、うぅ……、すき……。で、でもどうねだられようとこればかりはだめなんです!」

 ついてきたらだめですよと口を酸っぱく言い聞かせる。すると、諦めたように繋いでいた手に力を込められ、その可愛らしい不機嫌さに目を細めて笑った。
 身長相まって威圧的に感じる視線でも、不満に曲がった唇が、俺にとってはずいぶんと可愛らしく、そして、やっぱり。
 とても、美しく思えるのだった。

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