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姫
しおりを挟む「――いらっしゃい、アリス。いつものでいいかい?」
「ええ。私はレアチーズケーキ、ミルフィはハチミツたっぷりのパンケーキ。それと紅茶ね」
店に入ると、マスターが渋い声をかけてきた。
いつもと同じものを注文し、定位置に座る。
テーブル席に向かう途中、常連のおじいさんたちと挨拶を交わし、些細なコミュニケーションを取る。
彼らは親切で、私を孫のように扱ってくれるいい人たちだ。
それに、彼らの昔の話を面白おかしく話してくれることもある。それが意外と楽しい。
「――話を聞いているのですか!? 私に、このショートケーキなるもののレシピを教えなさい。私には姫のため、このケーキを作れるようになる義務があります!」
先ほどから騒ぎ立てているメイドさんが、怒鳴り散らすようにマスターに詰め寄る。
何とも理不尽な理由で、店のレシピを求めているみたいだ。
門外不出のレシピをマスターが教えるはずもないのに。
「だから、さっきから言ってるだろう? レシピを教えることはできねぇ。どうしてもレシピを知りたいなら、食べて盗め。それができねぇなら諦めろ」
「私に盗人のようなことをしろと!? そのような恥ずかしいマネができるはずもないでしょう!!」
言っていることがめちゃくちゃだ。人にものを頼む態度でもないし。
私はおじいさんたちに視線を向ける。すると、おじいさんたちは私の視線に気づき、呆れたように大きく溜息を吐いて肩を竦めた。
なるほど。彼らも私と同じ気持ちみたい。
「ミルフィ、声をかけて落ち着かせなさいよ。メイドさん好きなんでしょ?」
「アリス、君も中々無茶なことを言うね。確かにボクはメイドが大好きではある。しかし、ああも騒ぎ立てては興醒めだよ。メイドとはもっと格式高く、お淑やかであるべきだ。理想とは程遠い。現実とはこうも上手くいかないものなんだね」
ミルフィはやれやれと溜息を吐き、私の頭の上からテーブルに移る。
丁度、私たちの注文したケーキを、美人店員のアンナさんが運んできてくれた。
「はい。レアチーズとパンケーキね。紅茶はいつものよ。ごめんなさいね、騒がしくて。マスターにももう少し言い方を変えてほしいとは言っているんだけど」
「気にしないで。マスターのせいではないし」
「そう言ってもらえるとありがたいわ。これ、サービス。いつものようにはいかないかもしれないけど、ゆっくりしていってね」
そう言って、アンナさんは片目を瞑り、私にブルーベリーソースを、ミルフィには追加のハチミツを置いてカウンターの奥に戻っていった。
「うん。やはりアンナ嬢は素晴らしいね。落ち着きと大人の色気がある。それに気遣いもできるなんて、最高の女性だね。このハチミツはありがたく使わせてもらうとするよ」
「なんだか申し訳ないわ」
「アリス、人の好意は素直に受け取るものだよ。それが、相手に対しての礼儀となるんだからね」
まあ、それもそうか。
ミルフィの言葉に納得し、私はブルーベリーソースをケーキにかけた。
うんうん。やっぱりこの組み合わせが最高なのよね。
フォークで一口サイズを取り、口に入れようとした瞬間――。
「――失礼。少しお話しさせていただいてもよろしいですか?」
「……え?」
私たちのテーブルの側に、優雅にお茶とケーキを味わっていた桃色の髪の美少女が立っていた。
この子、どこかで見たことあると思ったけどやっぱり。
さっき、メイドさんが姫って呼んでたし、どうやら私の記憶に間違いはないみたいだ。
「申し遅れました。私はマリエッタ・エル・アラキスタ。アラキスタ王国第二王女のマリエッタです」
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