物理最強信者の落第魔法少女

あげは

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帰省と言う名の逃走

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「ふわぁ~……」

 がたがたと揺れる馬車の中、心地よい微睡みを感じながら、穏やかな街道をゆっくりと進んでいく。
 あぁ……なんて素晴らしい日和、なんて平和なひととき!

「……アリス、女の子が大口開けて欠伸だなんて、はしたないわよ」

「いいじゃない。どうせ誰かが見てるわけじゃないしぃ……」

 馬車は貸し切り。私、ケイト、ミルフィ以外には誰も乗っていない。
 私が堂々と欠伸をすると、ケイトがすかさず注意してきた。

「それにしても、本当によかったのかしら……」

「今さら気にしても仕方ないでしょ? いつもいっぱい働いているんだから、ちょっと休んだって誰も文句は言わないわ」

 事の発端は、私が未踏破ダンジョンを攻略したということが、各地に広まってしまったこと。
 珍しい素材やアイテムを求めて、王国各地から探索者だけでなく貴族が辺境に押し寄せてきた。
 あれから、心休まる日々は無かった。
 彼らは何故か私の居場所を知っているのではないかと疑うほどに、私が行く先々に表れる。
 果ては、居候しているケイトの家まで押しかけ、ギルドでも対応に追われているケイトにまで被害が及んでしまった。
 このままではいけないと思い、一念発起した私はギルドマスターから無理矢理ケイトの休みをもぎ取り、ケイトを連れ私の故郷へと帰省することにした。
 帰省という名目で、街を離れることができた。私の行き先を知っているのはギルドマスターと秘密のカフェ「ヘブン」のマスターとアンナさんのみ。
 これはいわば、帰省と言う名の戦略的逃走なのである!

「戦略的、というほど大層なものではないけどね」

 黙らっしゃい、変態カーバンクル。
 マスターがお土産に持たせてくれたパンケーキを独占するとか、何たる所業……っ!
 後で絶対に痛い目に遭わせてやるんだから、覚悟してなさい!

「アリスの故郷って辺境の街のさらに奥、国境付近にある小さな村って言ってたわね。本当にこんなところに村なんかあるの? 特に何も見えないけど」

「大丈夫……だと思うわ。私も記憶が曖昧だけど、村があるのは本当。そろそろ、お師匠の結界を通るはず」

 無意識に発した言葉に、首を傾げる。
 お師匠? お師匠って……誰の事だっけ?
 あれ……なんか頭がぼんやりして、記憶が……。

「ちょっと、どうしたの? 急に黙り込んで……」

「アリスの師匠かぁ。会うのが楽しみだね」

「待って……私、師匠なんて」

「大丈夫だよ。君の記憶にかけられた靄はすぐに晴れるさ。だって――それをかけた原因に会いに行くのだろう」

「え……」

 ミルフィは何かわかったようなことを言っている。
 何のことか訊ねようとしたとき、体が何かを通り抜けた感覚を受けた。
 おそらくこれが結界なのだろう。窓から覗く景色が一変した。
 突然、平屋の家が数軒立ち並ぶ村の中にいて、村人たちが忙しなく動き回っている。
 その光景にどこか懐かしい思いを感じた。心の奥底から感慨深い何かがこみ上げてくる。
 いきなり姿を現した村の存在に、ケイトが目を見開きキョロキョロと落ち着きなく視線を動かしている。
 御者のお兄さんが着いたことを教えてくれた。

 馬車を降り、無意識に私の足が向かった先は村の中ではなく、少し離れた森の中。
 その森の中におそらく私の記憶に靄を掛けた人物がいるのだろう。
 緊張と懐かしさを胸に、私はゆっくりと森の中を進んでいった。






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