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お師匠
しおりを挟む森の中を歩いていると、少しずつ記憶の靄が晴れていくような気がする。
それとは反対に、森の中は徐々に霧が濃くなり先が見えなくなっていく。
それでも、どこをどう進めばいいかがわかる。まるでずっと、何十何百回とこの道を通ったかのように体が覚えているみたい。
そうして森の中を進んでいくと、小さな美しい湖に行き当たる。
森を包む深い霧、いつの間にか青空を隠していた夜の帳、暗闇で明るく差し込む月の光が合わさってとても幻想的な景色に、思わずため息を零す。
「綺麗……」
「これは中々見物だね。街では決して見れない自然の美しさだ」
あまりの美しい光景に、目を奪われる私たち。ケイトなんて、言葉すら失くしている。
景色に見惚れて忘れていたが、ここは森の中。しかも辺りは夜の闇に包まれ身動きは取れない。
暗い森の中を歩き回るのは厳禁、というのは探索者なら誰しもが知っていること。
今日はここで野宿をするしかない。そう思い、諦めてどこか腰を落ち着けられる場所を探していると
「――こんな辺鄙なとこに来るなんて誰かと思えば……随分と久しぶりねぇ、馬鹿弟子?」
その声を聞いた瞬間、私は全てを思い出した。
村でどんな生活をしていたかも、この声の主が何者かも。
……そして、お師匠がどれだけ恐ろしい人だったのかも、全て。
「お、おお、おひさっ、しぶりですねっ。お、お元気でしたか、お師匠!」
刻みこまれた恐怖が私の体を支配する。
動揺して声が裏返る。恥ずかしさと恐ろしさで、穴を掘って埋まりたい気分。
意を決し後ろを振り返り、お師匠と目を合わせることなく即座に土下座をした。
「会って早々土下座だなんて、自分がしたことを理解してるみたいね。いろいろと言いたいことはあるけれど、場所を変えましょう。うちにいらっしゃい。そちらのお嬢さんと飛んでるマスコットも歓迎するわ。ああ、それと――おかえりなさい、アリス」
思いもよらない優し気な声音に、バッと顔を上げる。
長い黒髪が美しく靡く儚げな絶世の美女と言っても過言ではないその姿。何年たっても変わりないようで……。
見た目は二十歳前後だが、年齢不詳。自称千年を生きる魔女、と言っているが真偽不明。
「セーラー服」という、どこかの国の学生服を好んで着用。永遠の十七歳でいたいという謎のこだわり。
……あまり変なことを言うと、死すら生温いお仕置きが待っているから、私は何も言わない。
とりあえず、ちゃんと挨拶しよう。
「……た、ただいまです、お師匠。黙って出て行ってごめんなさい」
「細かいことは後でって言ったでしょ? それと、お師匠はやめなさいっていつも言ってるはずだけど」
「……ツバキ先生」
そう呼ぶと、にっこり笑って私の頭を撫でる。
その感触が酷く懐かしくて、泣きそうになったのは秘密。
そうして、私はお師匠であり先生であり育ての親でもある、ツバキ・クロバの下へ帰ってきたのだった。
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