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二択
しおりを挟む通路内を泳ぎ進めていくも、依然として壁は赤く変色したまま。
おそらく私を捕まえるか排除するかしないと、この通路の警戒態勢は解除されないのではないか。それがミルフィの推測だ。
それには私も同意見。この通路内を、さっきと同じような鮫が何体か徘徊している。
奴らは私を探しているのだろう。見つからないように探索するのは結構疲れるのだが。
「ボクとしてはさっさと倒した方が楽だと思うんだけどね。ほら、時間もないことだし」
「そ、それはもう少し様子を見てからっ。あれを倒していいのかわからないし、ちょっと不気味だし……」
水中を二足歩行で走り回る鮫なんて不気味に過ぎる。
正直言えば、関わりたくない部類の”侵略者”だ。
ムッキムキの手足に鮫の体、つぶらな瞳が不気味さを助長している。
通路の陰から行く先を徘徊している鮫を見る。
……やっぱり怖いわ。
「アリス、ボクは夕飯抜きっていうのは困るんだけど。ツバキに比べたらあんな気持ち悪い鮫如き、大したことないと思うけど」
「先生とあんなの比べないで。先生と比べたら大抵のものは何ともないわ」
「じゃあ、倒してしまおうよ」
「嫌よ。気持ち悪いもの」
「矛盾しているね」
「それが人間の心ってものよ。覚えておきなさい」
ミルフィに人間の感情というものを教え込む。この子は使い魔ゆえか人の気持ちを推し量ることが苦手だ。
少しは人の心を学んで、ご主人様を労わるということを覚えてほしい。
とはいえ、ミルフィの言いたいこともわかる。
そろそろ覚悟を決めて探索を進めないと、先生の決めた時間に間に合わない。
鮫を倒して探索を進めるか、遅くなってもいいから鮫を避けていくか。
改めてそう考えると二択が成立しないことに気が付いた。
どう考えても、私の感情を殺してでもここは進まなければならない。
なぜなら――先生が怖いから!
時間に遅れたらどうなることか……想像するのも嫌になる。
「というわけで、とっとと探索してさっさと帰りましょう。先生に怒られたくないから」
「理由はどうあれ覚悟は決まったみたいだね。それじゃ、はい」
「? これは?」
ミルフィが短槍の詰まった筒を手渡してきた。
矢筒ならぬ槍筒。いや、そうではなく。これで何をしろと?
「見るのも近づくのも触るのも嫌そうだから、遠くから槍を投げればどうかと思って。使い捨ての短槍だよ。筒一つに三十本。それがあと百あるから、投擲の練習にも丁度いいじゃないか。鮫を倒して探索も進められて投擲の技量も上がる。一石二鳥どころじゃないね」
「こ、こんなときに……鍛錬……?」
「こんな時だからだよ。大丈夫。身体強化して投げた槍なら、軽々と貫けるはずさ。いくら外しても槍はいっぱいあるし、足りなくなっても魔力で作れるから失敗は気にしなくてもいい。それじゃ、元気よく行ってみようか」
もう何を言っても意味はないだろうなぁ……。
諦めて槍を手にした私は、身体強化を施し数十メートル先にいる鮫を目掛け、槍を投擲した。
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