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一枚の紙と不穏な石
しおりを挟む「……な~んにもないわねぇ」
扉の奥はただ広大な空間が広がっているだけだった。
これまでと全く同じ。
苦労してあの門番らしき鮫を倒したのは一体何のためだったのか。
「さっさと帰りましょう。これ以上いても何も出てこないわ」
「いやいや、アリス。ちゃんとあるから。隠蔽の結界が張られているだけだから」
「……知らない。私はそんなもの知らない」
足早に部屋を去ろうとする私を、ミルフィが強引に止める。
放して。せっかく見ないふりをしていたのに。
私は何も関わりたくないの。私の知らないところで勝手にやって。
「そんなわけにはいかないよ。ボクはアリスの使い魔だし、このダンジョンの探索をしたのはアリスだ。ボクが勝手にお宝を横取りするなんてことはできないよ」
「いいわ。あげる。あれはミルフィのものよ。使い魔とか気にしなくていいから」
「アリス、目を逸らさないでおくれ。もしかしたら、ちゃんとしたものかもしれないじゃないか」
「嫌よ! なんか禍々しい魔力を放ってるじゃない! あんなのと関わりたくないの!」
そう。
隠蔽の結界が施されている宝箱は、とてつもなく禍々しい魔力を放っていた。
下手したら、あの魔力だけで一国を亡ぼしてしまうほどの魔物が生まれてしまうのではないかと思うくらい禍々しい。
そんなものと関わってしまえば、確実に良くないことが起こるに違いない。
だから、私は見て見ぬ振りをして帰ろうとしたのだ。
ツバキ先生には悪いけれど、何もなかったって報告をするつもり。
……まあ、私が嘘ついてるかどうかなんてすぐばれてしまうのだろうけど。
先生に嘘が通じたためしがない。なぜかいつも見破られてしまう。
その上、嘘がバレると拷問まがいの魔法訓練が待ち構えている。
しかし、あれから私も成長した。
王都の学園、辺境での探索者生活を経て習得した処世術というものを、先生に披露してみせよう。
今度こそ、先生を騙しきってみせる!
「意気込んでいるところ悪いけど、アリスが嘘を付いてもボクが報告するから意味ないよ」
「ミルフィは黙ってなさい。先生の前で声を発したら尻尾の毛むしり取るから」
「嘘でもそんな恐ろしいことは言わないでほしいね……というか、すでに報告はしているんだけど」
「……ぇ?」
今、なんて?
すでに報告している? 誰に?
「ツバキに決まっているじゃないか。アリスが嘘を付いてでも帰ろうとしていることも全部報告済みだ。アリスが帰ってくるのを楽しみに待っているそうだよ」
「……ダメじゃん。もうあの宝箱開けるしかないじゃない」
「アリス、よく覚えておくといい。他人をその気にさせるためには、まず逃げ道をなくすんだ。選択肢を減らしておけば、必ず乗ってくれるはずさ」
それもう一種の脅迫ね。
退路を断って無理矢理従わせているようなものよ。
しかし、それが有効的なのも事実。現に私は今選択肢を失い、箱を開けざるを得ないのだから。
ミルフィが結界を解くと、部屋の中心にぽつりと小さな宝箱が現れた。
相変わらず禍々しい魔力。なんだか空気が重くなっているような……。
そして、嫌々ながらも私は宝箱を開けた。
その中身は――
「一枚の紙と石?」
どこかで見たことのあるような一枚の紙。
見慣れない文字が書かれている。内容は良くわからないが、日記のようなものらしい。
わからないものはとりあえずミルフィに渡す。
もう一つの石。拳ほどの大きさの真っ黒な石で、禍々しい魔力の正体はこの石だった。
触っているだけで心を蝕むその石に関して、どうしていいか分からなかったので、正直壊してやりたかったが、ミルフィが預かってくれた。
「大したお宝ではなかったわね。ここまで苦労したのに……」
「ああ。ボクとしては大満足の結果だけどね。目的は果たしたし、早く帰ろうか。突かれているだろうから、ゆっくり休むと良いよ」
「そうするぅ……」
ミルフィの持つ転移石で、私たちはダンジョンを出た。
こうして、「海底洞窟」での探索は終了した。
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