62 / 73
一年経って
しおりを挟むツバキ先生の特訓を終えるのに一年かかってしまった。
辛く長い一年だった……。
思い出すだけでも泣けてくる。何度逃げ出そうとしたことかっ。
ツバキ先生による魔法訓練、ミルフィによる戦闘訓練、その合間に詰め込まれたダンジョン探索。
先生の転移魔法で世界各地どこにでも足を運ぶことができる。
知らない国の全く情報もないダンジョンに放り込まれ、人知れずダンジョンを攻略していく日々。
無茶苦茶だ……ミルフィだけでもとても大変だったのに、そこに先生が加わるだなんて。
私、良く一年も耐えたと思う。そんな私を褒め称えたいくらい。
「いや、一年もかかってしまったのはアリスが度々逃げ出そうとするからじゃないか。アリスが真面目に特訓を受け入れてくれれば、もっと早く終わったはずだよ」
「一日中ぶっ倒れるまで毎日特訓してたら、一週間で死ぬわよ。もっと良心的なスケジュールだったら私だって素直にやってたし……」
「ツバキはあまり時間をかけたくはなかったんだよ。その想いは汲み取ってあげてくれたまえ。アリスが死ぬ死ぬ言うから、少しは優しくしてあげたしね」
「あれで、優しく……? やめて、私の中の優しさの基準が崩れるから! 常識的な優しさを学んでから発言して!」
あんな特訓に優しさなんて一かけらも感じられなかった。並みの人間であれば、即死レベルの所業よ。
――私? 頑丈さには自信があるわ!
……こんなことで誇りたくはなかったけど。
「それにしても……ここ、本当に辺境の街? 私来るとこ間違えてない?」
「間違えていないよ。ここ一年で随分と大きくなったらしい。住居者も増えたし、街付近のダンジョンもかなり多くなったみたいで、国内屈指のダンジョン都市なんて呼ばれてるそうだよ」
特訓している間、外部の情報は一切耳に入ってこなかった。
というよりも、先生が意図的に遮断していたみたいだけど。そのせいで、私はここ一年の出来事を一切知らない。
住民の増加? ダンジョンの増加? 国内屈指のダンジョン都市? 何それ初耳。
探索者ってそういう情報収集も仕事の内だと思うのだけど、私はいいのかしら。
「じゃあ、この門に並ぶ行列はそのせいってこと?」
「そうだね。探索者半分、移住希望者二割、商人二割、それ以外が一割ってとこかな」
ミルフィの言う通り、探索者の数が異様に多い。
ダンジョン都市と言うだけあって、ここを拠点に活動する探索者が増えたってことかな。
外から見える街の雰囲気もなんだか騒がしさが増しているように思える。
前のような落ち着いた様子はどこかへ消え去ってしまったらしい。
悪くはないけど、前の感じは結構好きだったなんだけどなぁ。なんてことをぼんやりを考える。
そのまま、ミルフィにいろいろと聞いていると、私のローブの裾がくいっと引っ張られた。
後ろを振り返ると、小さな子供たちが五人ほど興味津々な様子でミルフィと私を見上げている。
私はしゃがみ、子供たちと視線を合わせた。
「どうしたの?」
「おねえちゃん、そのリスさんとお話しできるの?」
「できるよ。というか、この子は元々お話しできるリスだからね」
「君も少女も間違えないでくれるかな。ボクは世界でも一番愛らしいカーバンクルさ。リスではないから気を付けてくれたまえ」
ミルフィが自慢げにそう言うと、子供たちはわぁっと騒ぎ立てる。
こんなナリで話すのは珍しいだろう。もっとおしゃべりしたいと口々に言う。それに私の冒険の話も聞きたいという子もいた。
まあ、まだ検問までは時間があるし、丁度いいかな。
私の頭の上でのんびりしているミルフィを胸に抱き、子供たちに付き合うことにした。
「それじゃ、ミルフィとの出会いからお話ししてあげるね。ちょうど一年前くらいの事なんだけど――」
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ファンタジー成り上がり譚。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
【完結】悪役令嬢ではありません。肩書きはただの村人ですが、いつの日か名だたる冒険者になっていた。
小田
ファンタジー
ポッチ村に住む少女ルリは特別な力があったのだが、六歳を迎えたとき母親が娘の力を封印する。村長はルリの母の遺言どおり、娘を大切に育てた。十四歳を迎えたルリはいつものように山に薬草を採りに行くと、倒れていた騎士を発見したので、家に運んで介抱すると。騎士ではなく実は三代公爵家の長男であった。そこから彼女の人生は大きく動き出す。
特別な力を持つ村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。
なろう、エブリスタ、カクヨム掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる