追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

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「――ママ!」

 幼い子供の声が聞こえる。
 聞いたことがあるような、そんな声。
 それが夢だと理解するのに時間はかからなかった。

「……。」

「ママ、こんどはあっちいこ!」

 だんだん視界が鮮明になってくると、そこは見慣れた懐かしい景色が広がっていた。
 手をつないで歩いている仲睦まじい母娘の姿。
 王国では珍しいきれいなの少女、幼い私がそこにはいた。
 隣には、長い黒髪を一つに束ね、『和服』で腰に『刀』を佩いた美しい女性。私のママだ。
 ママとはよく、故郷の村の近くにある森で冒険者のまねごとをしていた。
 元冒険者というママは幼い私に多くのことを聞かせてくれた。
 森の歩き方、薬草の採取、心得など、幼い私には少し難しい話もあったが、ママと過ごす時間はとても幸せだったことを覚えている。

(ママは今どこにいるのだろうか……。)
 
 ついついそんなことを考えてしまう。
 ママのことで思いを馳せていると、いつの間にか夢の中の時間が進んでいた。
 ママと二人で食事をしている際、幼い私は、拙い言葉で一生懸命話しかけていた。

「ママ!ママ!リリね、おおきくなったら、ママみたいに、ぼうけんしゃになるんだ!
 それでね、すーっごいぼうけんしてっ!ママにいーっぱいおはなしするのっ!」

 ……そうだった。
 こんな小さいときから冒険者になりたいって思ってたんだっけ……。
 私の言葉を聞いたママは、とても愛おしそうに、そして優しく微笑んでいた。
 この時のママの言葉を、私は覚えている。いや、今思い出したと言ったほうが正しいかも。

「ふふっ。そうね。すごくいいと思うわ。
 ――ねぇ、リリナ。世界ってね、とっても広いのよ。ママの故郷も海を越えた先の大陸にある。パパと冒険者として旅をしていても、行っていないところはまだたくさんあるわ。
 だからリリナもいろんなところを旅しなさい。人も街も食べ物も全然違う。だから自分の目で見て感じるの。そのほうが絶対楽しいわ。
 それでリリナが感じたもの、ママの知らないことをたくさんお話ししてね。
 ママとの約束よ。」

「うん!!」

 とても幸せそうな笑顔を浮かべてうなずいた私。
 そうだ。ママと約束したんだった……。
 冒険者になって二年、王都周辺を拠点にしていたから旅なんて全然できていない。
 ――そうして思考を巡らしていると、場面が移り変わった。
 大泣きして顔をぐちゃぐちゃにしている私。
 視線の先には少し大きな荷物を持っているママの姿。

「……やだよぉ。リリをひとりにしないで……。ママといっしょにいく!リリもつれてってよっ!!」

「……ごめんなさい。リリナ、あなたを連れていくことはできないわ。パパのところに行くの。とっても危険なのよ。だからおうちにいてくれないかしら。」

「いやっ!!ママといっしょにいるのっ!!!」

 ママは優しく慰めようとするが、それでも泣き止むことはなかった。
 だってママとお別れなんて嫌だったから……。
 そんな私をママはそっと抱きしめてくれた。

「……ねぇ、リリナ。ママとの約束覚えてる?」

「……うん」

「なら、リリナが冒険者になって、旅をするようになったら、ママを探して逢いに来て。
パパがいろんなところに行く人だから……どこにいるかは教えてあげられないけど。リリナなら絶対に見つけてくれるって信じてる。リリナが逢いに来てくれるのずっと待ってるから。
 もう一回約束しましょう。大きくなってリリナの――」

 最後に見たのは、ママの瞳。とてもきれいで吸い込まれそうな深い蒼の瞳だった。その眼差しに、幼いながらも幻想的な雰囲気を感じていた。
 そして私は、ママとの別れの途中で夢から醒めたのだった……。
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