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一章 旅立ち
小休止
しおりを挟む私たちは今森の中にいる。あいにくの雨で足が止まってしまった。
双子たちが土魔法で小屋を作り休んでいる。急いでいる旅ではないのでゆっくりしようとなった。
出発前にはギルドでブラウの従魔登録もした。特に何事もなく完了し、スペードさんとジルさんにも紹介してある。
二人とも快く受け入れてくれた。スペードさんは犬好きなようで「私にも撫でさせてください」とブラウを撫でまわしていた。
そのせいか出発が少し遅れたが、ここまでは何の問題もなく安全に進むことができた。
……いや、ちょっとおかしなことが。グリッドが静かすぎる。
静かなのはいいけど、ちらちらと私を見るのはどうなの。この前の依頼から様子がおかしい。
まぁ何かあるなら彼から言ってくるでしょう。そんなことより今はルナちゃんのご機嫌取りをしなくては。
ブラウに構いすぎたせいかルナちゃんがご機嫌斜めだ。べ、別にルナちゃんをほったらかしにしていたわけではなく、ブラウが構ってほしそうに私を見るからつい……。
ちゃんとルナちゃんも大好きですからね!!
というわけで、ミーシアさんからいただいた猫じゃらしと私お手製の猫じゃらし二刀流で、ルナちゃんと遊び倒すのです。
「――なぁ。いい加減教えてくれよ。この前のあれといい……あんた何者なんだよ」
ついにしびれを切らしたのか、グリッドが苛立った様子で話しかけて来る。
「私?私は別に……普通のCランク冒険者よ」
「普通のCランクがあんなことできるかよ」
いやいや。もしかしたら他にもできる人がいるかもしれないじゃない。勝手な決めつけは良くないと思うわ。
なんて言ったらいいか考えていると、メイさんが会話に入ってくる。
「リリナ。あまり誤魔化す必要はないと思うわよ。別にあなたが悪いことしていたわけではないし、少しくらい自信を持ちなさい」
「……そういうわけではないんですけど……あれは別に自慢できるようなものでもないし……」
「そんなことないと思うわよ。……まぁ評判が良くなかったのはあるかもしれないけど。他の子たちも気になってるだろうし、リリナが言わないなら私から言っちゃうわね
「ち、ちょっとまっt――」
「あなたたち、『銀の戦剣』は知ってるわね?リリナが所属していたパーティーよ」
ああ。やっぱりみんな驚いてる。
それはそうよね。『銀の戦剣』はいろいろな意味で有名だった。
Aランクパーティーだが、素行の悪いリーダー、傲慢な魔導士、無口な重戦士が特に周囲から注目されていた。
私は私で目立たないように地味に徹していた。唯一カーナだけが人柄・実力ともに評価されていた。
「メイさん。さすがにそれは嘘だってわかるぞ。あのパーティーにこんな女いなかったじゃないか」
ん?メイさんは嘘ついてないのに何で……また忘れてました。
前と姿違うんだって。いつも忘れてしまう。
他の子たちもグリッドと同じことを思ったのかうなずいていた。
「ちゃんといたわよ。ほら、リリナ。見せてあげなさい」
「あ、はい」
メイさんに促され、マジックバッグから懐かしの魔道具を取り出して装着。
すると、私の髪と瞳の色が変わる。前のような黒髪に茶色の瞳になった。
あと追加で真っ黒のローブを着る。
……うわぁ。改めてこの姿見るとさすがにどうかと思うわ。年頃の女の子がする格好じゃないわね。
『紅』の子たちは私の姿を見て目を見開いていた。私の変貌ぶりに驚愕している。
「……地味黒……」
「地味黒って言うなあぁぁぁぁぁぁ!」
さすがに目の前で言われて抑えられなかった。
女の子につける名前じゃないでしょ。地味黒って何よ!いくら私でも傷つくんだからねっ!
私が大声を出すとは思わなかったのか、ノットが腰を抜かしていた。
言った張本人のトージは一目散に逃げだし柱の陰に隠れていた。
ため息をつく。
「……ごめんなさい。少し取り乱したわ」
「い、いや、いいのよ。私もあれはさすがにどうかと思うわ……。トージ、謝っておきなさい」
「……すいませんでした」
トージがその場で見事な土下座をする。
い、いやまあ、別にその……気にしてないわけじゃないけど……もう地味黒とか呼ばれる格好してないからね。もう過去のことよ!
「お前がAランクパーティーにいたことは分かった。じゃあなんでやめたんだよ。そんな強いとこにいたのに、なんで俺にバカにされて何も言い返さねーんだよ」
「……私からパーティーを抜けたわけじゃないわ。追放されたのよ。役立たずの給料泥棒はいらないってね。だから私は今一人でここにいるの」
ルナちゃんが私の膝へ。そうね、一人ではなかったわ。
ルナを優しくなでた。心が安らかになる気がする。
「う、嘘だ!あんなことができて役立たずなわけないだろ!俺に弱いって言われて黙ってるのはおかしいだろ!」
「グリッドの言ってることは間違ってないわよ。私は弱いわ。戦う力なんてないし、ブラウを持ち歩くので精一杯よ。私は誰かの後ろで歌うことしかできないもの」
「でも、その歌だって」
「言っておくけど、そんなに万能ではないわよ。確かに魔法使ったりとかできるけれど、魔導士みたいに強くはない。それに歌が届かなかったら効果なんてないの。もっといろいろな使い方があるだろうけど、私自身『歌姫』が何なのかわかってないから。正直役立たずって言われるのも仕方ないと思うわ」
納得がいかないって顔をしている。それに何かに迷っている顔をしている。
私も似たような顔をする時があるからなんとなくわかる。
他の子たちが不安にしてる。彼らは同じ村で育った仲良しさんなのだ。グリッドが心配なのだろう。
うん。いいパーティーだわ。『銀の戦剣』より全然。
あそこは自分本位の人間しかいなかったから。私も含めてね。
この子たちはお互いで支え合おうとしている。少し羨ましいかな。
「……俺、わかんねぇよ。いろんな魔物倒して、負けない奴が強いやつだって思ってた。だから体鍛えて毎日剣振ってきた。強くなりたいから。
でも、あんた見てると違う気もする。なんでかわからないけど、それだけじゃないって思えてくる。……なぁ、強くなるってどういうことだよ。どうすれば俺は強くなれるんだよ」
なんて答えてあげればいいのだろう。
私は別に強くない。グリッドを満足させてあげられるようなものなんて持っていないのだ。
メイさんを見るも、同じように困った顔をしていた。メイさんも少し戸惑っているみたい。
どうにかしてあげたいとは思うけど、私にはできない気がする。
頭をフル稼働して考えていると、グリッドの頭に大きな手が乗せられた。
「はっはっは。なんだなんだ。いい顔になったじゃねぇか少年!」
「あっ。ジルさん」
スペードさんたちと話していたジルさんが戻ってきた。
商人さんたちはもう一つの小屋にいるので、この場にはいなかったジルさんがいつの間に。
しかも話を聞いていたようだ。
「確かに力を持っている奴が強いことは間違いないと思う。しかしそれだけじゃないのも確かだ。じゃあどうすれば強くなれるか。
俺はな、力ってのは人それぞれ違うものだと思っている。目指すものが違うんだからな。商人なら頭を、冒険者なら戦うための術をって感じでな。
ただその力をつけるためには目的がある。なんのために力をつけるのか。意味のない力はただの暴力だ。そうならないためには悩め。とことん悩んで自分が何のために力をつけるのか考えろ。考え抜いたらあとは決意するだけだ。
決意したらあとは目的のために努力すればいいだけだ。必ず強くなれる。簡単だろ?」
「……それだけ?」
「ああ。それだけだ。俺たちは冒険者だからな。英雄になりたいでも、誰かを守りたいでも何だっていいさ。目的も理想もシンプルなのがいい。そのほうが余計なこと考えずに強くなれるからな。
リリナも昨日より顔つきが良くなった。何かを決意した顔だ。これから強くなるぞ。
だからグリッドも今はとにかく考えろ。その分、確実に強くなれる」
ジルさんはそう言って笑った。ここにいる誰よりも説得力のある笑顔だった。
グリッドは何も言わなかった。しかしさっきよりも表情が少し違う気がした。
……これなら大丈夫そうね。よかったわ。
「今日はこのままここで休むぞ。明日には雨が上がるだろうから、そしたらまた出発だ。とりあえず今日のところはゆっくりしてくれ。俺は寝る!」
ジルさんは大声で笑いながら部屋に向かった。さっきの雰囲気とは全く別人のように思えた。
グリッドも自分の部屋に行った。ひとりで考えたいと言って。明日にはいつもの様子に戻ってるかな。
そんなわけで今日はお休みになったことだし、モフモフたちと優雅に遊ぶとしますか。
私はルナを持ってブラウの傍に近寄り、二匹のブラッシングをする。
途中、双子とメイさんも混ざった。
――メイさんがブラウを抱いてお昼寝したことを、私は決して忘れない。
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