追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

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「わんわん!」

「おーい。勝手に行くなー」

 ブラウが走り回る。人が多いから迷子になったら困る。
 ……いや、犬だから大丈夫?
 それにしてもほんとに人が多い。
 私が今いる場所は、街の端から端まで一直線につながっている中央通りだ。
 ちょうど中心は円形の広場になっており、数多くの店が立ち並んでいた。
 遊んでいる子供たちや休憩中の老夫婦、私と同じような旅人に仲睦まじいカップル。
 見渡すといろんな人が目に入る。
 しかし、そんな中でも私の姿は目立ってしまうようだ。
 それはそうか。肩に三本尻尾の黒猫と傍らに白銀の大型犬を連れた銀髪少女なんて。
 むしろ目立たないと思っていた以前の私を叱りたいくらいだ。
 とりあえず近くのベンチに腰掛ける。ブラウが広場を走り回り子供たちを巻き込んでいるのだ。少し休憩しよう。
 ここに来るまでにもいろんなお店があった。その大半は名のある大商会の支店だったり本店だったりするので、一人で入るのをためらってしまった。
 その点、この広場のお店は本当に多種多様だ。知らないものがたくさん売られている。
 よく考えてみれば、私は王都と村とダンジョン都市くらいしか言ったことがないので、知らないもののほうが多い。なのでこういうのは新鮮だ。

「ねぇねぇ。このワンちゃんお姉ちゃんの?」

「ん?」

 声を掛けられ目を向けると、小さい子供たちが集まっていた。
 ブラウが戻ってくるのと一緒に来たようだ。

「そうよ。一応飼い主ってことになるかしら」

「お名前なんて言うの?」

「この子はブラウよ」

「ブラウって言うのね。ブラウとまだ遊びたいのだけど、ダメ?」

「んー、そうねぇ。ブラウも今はお休みしたいみたいだから、少し待ってあげて。その間、私とお話ししてくれない?この街に来たばかりで知らないことがたくさんあるの。教えてもらえないかしら」

「ええ、もちろんよ!私、ニアっていうの」

「ありがとう。私はリリナよ。よろしくね」

 それから一時間ほど子供たちとお話しして、いろいろな事を教えてくれた。
 あそこのお洋服がおしゃれでかわいいだとか、ここのお菓子がおいしくてよくお母さんと行くんだとか。
 スペードさんのお店もオススメされた。平民のご婦人方に人気らしい。あとで行ってみよう。
 話していると子供たちのお母さんが迎えに来たので、今日のところは解散となった。ニアちゃんは小さい商会の娘さんだったみたいで、宣伝してから帰っていった。あの子は将来有名になる気がするわ。
 有意義な時間だった。そろそろ次に行こうとかな。

「お嬢さんは冒険者かな?」

 近くで休憩していたおじいさんが話しかけてきた。
 怪しそうな感じはしない。が、一応警戒しておく。佇まいが普通じゃない。

「そうですよ」

「ほっほっ。そんなに警戒せんでくれんか。わしはただ珍しい髪のお嬢さんと話をしたいだけじゃよ」

「おじいさん。急に声を掛けたら怪しまれるに決まっていますよ。ごめんなさいね、お嬢さん。老人の戯言と思って聞き流してくださって結構ですからね」

「……はぁ」

 おばあさんがそういって微笑む。そのおかげかおじいさんの雰囲気も和らぎ、少し警戒を解いた。
 それでもルナは興味深そうにおじいさんを見ていた。

「よく私が冒険者と分かりましたね」

「これでもわしは元冒険者じゃしな。それに今は鍛冶師じゃ。その装備を見ればすぐにわかるわい」

「冒険者だったんですね。それなら納得です」

「こっちのばあさんも冒険者だったんじゃよ。今はただの隠居じゃがのぉ」

「おじいさんも似たようなものじゃないですか。それよりも……この子を撫でてもいいですか?私も動物が好きで」

「ブラウがいいなら大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

 おばあさんは慣れた手つきでブラウを優しく撫でる。本当に動物が好きみたいだ。
 ブラウも気持ちよさそうに目を細めている。

「……あなたはまだ覚醒していないのね……大丈夫よ……すぐに大きくなれるわ……」

「おばあさん?」

「あら、やだわ。ごめんなさいね。昔の名残でね……」

「い、いや、そうじゃなくて。ブラウのこと何か知ってるんですか?」

「あら。知らずにこの子と一緒に?それじゃ……ううん。その時になったらおのずとわかると思いますよ」

「そうですか……」

「心配しないで。私は『テイマー』だったから動物のことに詳しいだけですよ。この子もそっちの子もあなたが大好きなのですね。ファントムキャットだったかしら?その子。ずっとそばであなたのことを守ってくれていますよ」

「……お二人は有名な冒険者だったんですか?」

『テイマー』だったなんて。それならわかるのは当然だわ。ルナのこともすぐわかったみたいだし。きっとAランク以上の冒険者だったに違いない。

「なあに。昔のことじゃよ。そんなことより、お嬢さん。あんた、武器は使わんのかね?ばあさんみたいに『テイマー』というわけでもなさそうじゃしの」

「私はちょっと特殊な魔法が使えるので、武器はいらないんです。戦う力もないですし。なので護身用の短剣くらいしか持っていないです」

「そうかい。残念じゃのぉ。お嬢さんに合いそうな武器を作れそうな気がしたんじゃが。久しぶりに槌を持つ気にもなったしのぉ。せっかくじゃ何かあったらわしの工房に遊びに来るといい。ばあさんの話し相手になってくれるだけでもいいからの」

「ふふっ。そうですね。ぜひ、いらしてください。その子たちもつれて。テイマー特製のお菓子の作り方もお教えしますから」

「それはぜひ!伺わせていただきます!」

 テイマー特製お菓子!それはぜひとも教えていただきたい。
 そうすればこの子たちのおやつの出費が減るわ。
 それより私に合う武器って何だろう?私武術とか全く分からないけど。
 ママに護身術を教えてもらったくらいかしら?あぁ。ママの剣術を見たことはあるわね。
 なんだっけ?イアイ?とかそんな名前だった気がするけど。私にはできそうにないからあまり覚えてないや。
 老夫婦のいる工房は東区の端の方にあると言っていた。ちょっと遠いので今度時間ができたときにお邪魔しよう。

「そろそろ帰ろうか。お腹も減ったしね」

「わん!」

 老夫婦と話していたら意外と時間が経っていた。もう日が暮れかけている。
 夜ご飯はメイさんたちと食べる約束をしているので早く帰らないと。
 スペードさんのお店は明日にでもメイさんと行こう。
 ブラウを先頭に私たちは人の減った中央通りを宿に向かって歩いて行った。


 ◇◇◇


「――噂ですか?」

「ああ、そうだ。少し気になる噂を耳にしてな。俺たちの知らない話じゃなかったからいろいろ聞いて回ってたんだ」

「なるほど。だから遅くなったんですね」

 宿の一階にある酒場で、ジルさんとメイさんと一緒に食事をしていた。
 予定より二時間ほど遅くなったのはそういう理由だった。
 私は遅れたくらいで怒ったりはしません。その時間モフモフしていたんですから。
 久々の一人モフモフタイムでした。至福の時間……。

「それでどんな噂だったんですか?私も知っている話だって……」

「ああ。ここ最近、辺境周辺の森や山、魔物が増えているって話だ。まだ噂程度だし原因もわからないが、これ以上話が広がるようなら領主様が調査隊を派遣することになるらしい。
 ……どうだ?聞いたことある話だろ?」

「……ええ、そうですね。まるっきりに似たような話を前に聞いたような気がします」

 やっぱりここでも事件に巻き込まれそうな予感。あの笛の所有者も見つかっていない。
 どうしてこんなことになるのだろうか。私は平穏に旅をしたいだけなのに。

「リリナ、顔に出てるわよ。あなたのお供を見たら平穏な旅はできないと思いなさい」

 メイさんが的確なツッコミを入れる。
 そうですよね。わかっていましたとも。でもモフモフには抗えないのでこの子たちは手放しません。

「もう一つ面白そうな噂があるんだが」

「?何ですか?」

 ジルさんがもったいぶる。
 何かあるのは分かるが、わかっていても気になってしまう。

「実はな、この街のどこかに怪しげな格好をした占い師がいるらしい」

「占い師ですか?」

「そうだ。この占い師は、その人の未来を見るっていう話だ。それが意外と当たるらしい」

「へー」

 未来を見る占い師かぁ。どうやって見てるんだろう。魔法かな、それともなんか不思議な力かな。どっちにしたって当たるんならすごいと思う。

「そんな信憑性のない話、よく信じようと思うわね。適当に言ったことがたまたま当たったんでしょ」

「うわぁ。面白味のないこと言うなよ。どうせならお前に恋人ができるか見てもらえばいいじゃねぇか。……まぁそんなんじゃ到底できそうにないと思うけどな」

「……へぇ。いい度胸ね、ジル。ちょうど弓の訓練に使えそうな的を探していたのよ。あなたを縛って木に括り付けて的にしてあげる。ほら、大人しくしなさい」

「ひぃっ!?」

 ジルさん、なんでいつも余計な事言って怒らせるんですか。
 あなたが悪いんですから、そんな目で見ても助けてあげませんからね。
 でも、占い師は気になるなぁ。どこにいるんだろう。探してみようかな。
 私は占い師について考えながら部屋へ戻った。
 ……翌朝、ジルさんがボロボロの姿で裏庭の木につるされていたことについては触れなかった。










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