追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

噂の占い師

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「…………ひどい目に合ったぜ」 

 宿泊客の冒険者たちに笑われながらも降ろしてもらったジルさんは疲れた様子で言った。

「ジルさんの自業自得です。もう少し言葉には気を付けたほうがいいと思いますよ」

「残念だが、俺は社交辞令とかそういうのは苦手でな。取り繕うとかそういうのはしない主義なんだ」

 自慢気に言うことじゃないと思いますが。
 それでも周りから好かれるのはジルさんの人柄ゆえだろう。

「何バカなこと言ってるのよ。これからランク上がったら貴族からの依頼も増えるんだから。もっと頭使いなさい」

「あっ。メイさんおはようございます」

 メイさんが起きてきた。同じ部屋を借りているがメイさんは朝弱い人なのだ。
 だから私がいつも先に起きて、メイさんの目覚まし係をしているのだが、今は依頼もない休暇中みたいなものだ。わざわざ起こす必要もない。

「おはよう。別に気にせず起こしてくれていいのよ。早起きするのが無駄になることなんてないんだから。頼んでいる身で言うことじゃないけど」

「何もない時くらいゆっくりしていいと思いますよ。それにメイさんの寝顔って結構可愛いので、つい見守っちゃうんですよね」

「あ~。確かにな。こいつ寝てるときは子供みたいだからなぁ」

「……へぇ。二人とも。こんなところでする話じゃないってわかってしてるのかしら?」

「「あっ」」

 まずい。朝からお説教モードのメイさんになっている。
 ちょっとジルさん!私に押し付けないでください!今回は共犯じゃないですか!
 どうしようどうしよう。ジルさんが使い物にならない今、私がどうにかしなくてはならない。
 ……まぁ、どうにもならないんだけどね!
 私がおろおろしていると、ブラウがメイさんに駆け寄り、甘えるように飛びついた。

「わん!」

「あら。……まったく。今回はブラウに免じて見逃してあげるわ。次はないわよ?」

「「ハイ!!」」

 よくやったぞブラウ!後でいっぱいモフモフしてあげよう。

「そんなことよりご飯にしましょう」

 ブラウを撫でながらメイさんが席に着いた。
 あっ。ブラウはそのままなんですね。メイさんは本当に犬が好きなようだ。

「今日はこれからどうすんだ?」

「そうですね……今日も街を見て回るくらいしか予定はないですね。ジルさんたちは何か予定は?」

「俺はギルドで模擬戦だな。昨日知り合った冒険者たちとすることになってるんだ。メイはどうする?」

「私も特にないわね」

 ジルさんは人との距離を縮めるのがうまいから、いろんな人と仲良くなれる。
 それでも模擬戦する仲って、早すぎない?
 メイさんはどうやらお暇なようだ。そうだ!

「それなら、私と一緒にお散歩しませんか?昨日言っていた占い師探しましょうよ」

「リリナったら、意外とそういうの信じるのね」

「ええ。だって面白そうじゃないですか」

「まあ、やることもないからいいわよ」

「んじゃま、そういうことで今日の予定は決まったな。夜に戻ってくるようにはしろよ。あと、ついででいいから魔物の噂の情報を聞いてみてくれ。どこでどう広まっているかも気になるしな」

「わかったわ」

 そうですね。意外と街の人の方が知っているかもしれない。
 そうして予定を決めた私たちは食事を終えた。



 ◇◇◇



 現在私とメイさんはスペードさんのお店の前にいた。
 せっかくだから見に行こうと言って二人で訪れたのだ。
 スペードさんのお店は大きい。二階建ての一軒家が四軒並んだのと同じくらいで、中も広かった。
 それに品揃えも豊富だった。食料品と生活雑貨を主に、冒険者の必須アイテムである野営道具など、平民と冒険者に寄り添った品目だ。スペードさんの人柄が出ている。
 それに見たことないものもたくさんあった。いろんな国から取り寄せて販売しているそうだ。
 つい買いすぎてしまったかもしれないが気にしない。

「いいお店でしたね」

「そうね。こんな品揃えのお店なんて王都にもないわ」

「ですね」

 冒険者にとってはとても魅力的なお店だったのだ。また来よう。

「次は何処に行きますか?」

「とりあえず中央広場に向かいましょう。あそこなら何かしらあると思うし」

 今度は中央広場に向かう。昨日行った場所だ。
 また昨日の子供たちがいるかもしれない。もしかしたら老夫婦もまた会えるかも。
 ……いや、それなら工房に向かった方が早いな。
 それにメイさんなら鍛冶師の工房に興味を持つかもしれない。聞いてみよう。

「メイさん。昨日知り合った鍛冶師の方の工房に行ってみませんか?」

「鍛冶師?リリナ、工房なんかに興味あったの?あなた、武器いらないじゃない」

「昨日少しお話ししたんです。お年寄りのご夫婦だったんですけど、少し興味深いお話も聞かせてもらったんです」

 私は昨日話したことをメイさんに説明する。

「へぇ。元冒険者の老夫婦ね。しかも高ランクの。確かに興味深いわね。それに鍛冶師なんでしょ?新しい弓でも作ってもらおうかしら」

 やっぱり食いついた。メイさんは意外とこういう話が好きらしい。
 あのメイさんがワクワクした顔をしている。
 ……いやどうだろう。そんなに表情が変わってないからわからないや。

「行く前に何か食べましょう。東区だからここから少し遠いし、この子たちもお腹が減った頃でしょ」

「わんわん!」

 ブラウが吠える。今日も元気いっぱいだ。ごはんと聞いて私たちの周りをぐるぐると走り回っている。
 ルナも今日は自分で歩いている。間違いなく重くなってきているのだ。少し運動させないと良くないと思い、今日は心を鬼にして歩かせている。

「ニャ―」

 あぁ。だめっ。そんな目で見つめないでっ。とてつもない罪悪感が。
 耐えろ私。今日だけは我慢するんだ!

「ニャッ!」

「わんわん!」

「あっ、こら!どこ行くの!待ちなさーい!」

 二匹が勝手に走り去っていく。路地裏の細道の向かったようだ。
 なんか前にもこんな光景見た気がするわ。とにかくメイさんと二人で追いかける。
 だんだんと人がいなくなっていき、周りに人の気配がなくなったあたりで二匹が止まった。

「もうっ!急にどうしたの?」

「おや?珍しいお客さんだね。よく僕を見つけられたものだ」

 少年のような声が聞こえた。
 人の気配は全くしなったはずなのにいつの間に?
 メイさんが警戒している。

「僕は最初からここにいたよ?まぁ気配を消すのは得意でね。それに君たちが来るのはなんとなくわかっていたからね。さっきのは社交辞令みたいなものさ」

 少年のような声だが、よく見ると女の子だった。とても中性的な顔立ちで見分けがつかないだろうが、一部特徴的に膨れ上がっているものが見えてしまった。
 ……チッ。
 いけない。思わず舌打ちが。

「せっかく来たんだ。君たちのことを占ってあげるよ。今日は面白いものが見られそうだ」

「……もしかしてあなたが噂の占い師さん?」

「巷ではそういわれているみたいだね。どんな噂かは僕も知らないけれど」

「よく当たる未来を見るって噂よ」

 メイさんが答えると、占い師は少し笑った。

「たしかに未来は見るが当たるとは思っていなかったよ。運がよかったみたいだね」

「そんなことはどうでもいいわ。怪しげな占い師さん、こんな人気のない場所で商売なんてどういうつもりかしら?なにかの罠だったりしないわよね」

「そんなことはないさ。それに商売もしていないよ。お金を取っているわけではないからね。僕はただ少し未来を見るだけだよ」

 占い師はそういって大きな水晶を取り出した。
 確かに怪しげな感じはするが、悪い人には見えなかった。
 メイさんが私に視線を送り、頷く。

「……そう。今はそれでいいわ。リリナ、せっかく見つけたからあとはあなたの好きにしていいわよ」

「お姉さんはいいのかい?」

「私は興味ないもの」

「それじゃ銀のお姉さんの未来を見よう。少し待っていてね」

 なんだか緊張するなぁ。噂の占い師がこんなにすぐ見つかるとは思わなかったし、とんとん拍子話が進んでしまった。
 私の未来ってどんなのだろう。平穏な生活であってくれ。

「……見えた。これはこれは。なんとも波乱万丈な人生だね。銀のお姉さん、これからいろいろな事に巻き込まれるよ。まぁ、大半のことはお姉さんを中心に起きているようにも見えるけど」

「……そんなぁ。私の平穏な人生がぁ」

 泣いてもいいでしょうか。この占い師の言うことって当たるって噂だから、これも当たる確率高いじゃない。
 ほんとどうしてこうなった……。

「近々懐かしい再会をすることになるね。誰かは分からないけど。お姉さんにとっては悪い再会ではないよ。むしろ今後を大きく左右する重要なものだ。その時になって間違った選択をしないように気を付けるといい」

「……再会?誰だろう?」

 そんなに知り合いはいないから限られてくるのだが、想像つかない。

「僕が言えるのはここまでだね。うんうん。面白いものを見せてもらったよ。お礼を言うよ。
 それじゃ僕はこれで。またどこかであったらまた未来を見せてもらうよ」

 そう言って占い師は消えた。まるで霧になったみたいに忽然と。
 その光景に私とメイさんはしばらく呆然としていた――。


 ◇◇◇



「ふふふっ。本当にいいものを見せてもらったよ。リリナさんと言ったかな。彼女とはまた必ず巡り合うだろうね。その時はどんな未来に変化しているかワクワクするね。
 ――君が立ち向かうのは並大抵のものじゃない。それこそ大陸を越えた大きな事件になるかもしれないね。
 僕は君の選択に期待するとしよう。また会う日を楽しみにしているよ」

 ある森の中でそうつぶやいた占い師の姿は輝いていた。
 銀の髪に深紅の瞳、そして四枚の透明な光の羽。
 その姿はまるで御伽話に出てくるような――。





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