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一章 旅立ち
お昼ご飯
しおりを挟む私は心に傷を負いました。さらば、私の平穏……。
「ほ、ほら、リリナ、元気出して。おいしいもの食べに行きましょう。あんまり気にしちゃだめよ」
「……でも」
「実際にそういう人がいるから否定はできないけど、もしかしたらリリナのは当たらないかもしれないじゃない。だから大丈夫よ。もし当たったらまたその時に考えればいいわ」
「……そうします」
沈む気持ちを立て直すべく、私を心配そうに見上げるルナを抱き上げる。
ギューッと抱きしめると心が落ち着く。やはりモフモフはいい……。
ルナも私の気持ちを察してかされるがままである。
ブラウも私の足元でお腹を見せて寝転がっていた。僕のお腹も撫でてくださいと?
当然撫でますとも。この子たちがいてくれてよかったと思う。
私の気持ちが落ち着いたところで目的地を目指す。まずは中央広場から。
近づくにつれてだんだんと人が多くなっていく。お昼時というのもあって、昨日より人が多い。
「さすがにこれだけ人がいっぱいだとお店には入れそうにないですね」
「そうね。屋台で簡単に変えるものにしましょうか」
二人で屋台を探すが、どれも人が多くて時間がかかりそうだった。
キョロキョロと周囲を見渡していると、何か見覚えのある子どもが近づいてきた。
「昨日のお姉ちゃん!」
「あら。え~と……ニアちゃんだったわね。どうしたの」
それにしてもこの人混みの中からよく見つけたものだ。
「ブラウが見えたから、お姉ちゃんもいると思ったの。何か探しているの?」
「お昼ご飯食べようと思って、簡単に食べられそうなものを探しているのだけど……」
「それなら私いいお店を知っているわ!お母さんも今そこのお手伝いをしているの!一緒に行きましょう。そっちのお姉さんも!」
「ありがとう。ニアちゃんって言ったわね。案内してもらえるかしら?」
「もちろんよ!あそこの裏にお店があるの。ついてきて」
ニアちゃんはブラウと並んで先導していく。私たちとは反対側にある大きな商会の店の裏にあるらしい。
商会の店が壁になっているおかげで、知る人ぞ知る穴場のお店となっているみたいだ。
昼は食堂だが、夜は酒場として営業しているから、現地の冒険者が常連に多いとニアちゃんが言っていた。
外観はきれいで、店内も落ち着いた雰囲気がある。人もそんなに多くないためゆっくり食事ができそうだ。
これなら冒険者はあまり寄り付かないように思うが、店長さんが元冒険者だという。なので冒険者にも馴染みやすいお店なのだ。
「うん。いいお店ね。こんなところにあるなんて知らなかったわ。今度は夜に来ようかしら」
「いいですね。夜は夜で楽しそうですね。冒険者の方で賑やかな感じが想像できます」
「お姉ちゃんたち、早く入ろうよ」
「ああ。ごめんなさい。今行くわ」
ニアちゃんが先にお店に入っていった。私たちも後を追う。
それよりブラウも一緒に入っちゃったけどいいのかしら?一応飲食店だから動物は良くないのかと思うのだが。
「お母さん!お客さん連れてきたよ!」
「あら、ニア。いつもはママって呼んでくれるのに今日はどうしたの?
それにお客さんて、無理やり連れてきたんじゃないわよね?」
「へ、変な事言わないでよ!ちゃんとお誘いしたの。昨日お話ししたお姉ちゃんよ」
和やかな母娘の会話が聞こえてくる。
ニアちゃんそっくりの優しそうな女性がいた。
「ニアちゃん。ここにもママって呼んでいる子はいるから、別に恥ずかしいことでもないのよ」
「メイさん、余計な事は言わなくていいですから」
確かにそう呼んでいるけど。私の場合は小さいころにいなくなっているから、呼び方が変わるようなタイミングがなかったのだ。と、言い訳をさせていただこう。
「ふふっ。初めまして。昨日は娘がお世話になりました。母のナナと申します。本日はぜひ、ゆっくりしていってください」
「ありがとうございます。それと従魔が二匹いるのですが大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。ときどきテイマーの方も立ち寄ってくれることがあるので、従魔用のご飯もあるんです。店長が元冒険者ですから、そういう配慮もしているんです」
「それならよかったです」
他にも従魔連れで来る人がいるらしい。しかもそのためのご飯のあるとはなんともありがたい。
案内された席に座り、メニューに目を通す。
ん?よくわからないメニューがいっぱいだ。何だろうこれは。
「……ランチセットにシチュー……サンドイッチ……ステーキは分かる……。”はんばーぐ”に”どんぶり”に”かれー”って何かわかりますか?」
「……聞いたことないわね。どういう料理なのかしら」
「お決まりですか?」
「あの……これって何ですか?」
「ああ。最初は分からないですよね。これはですね、旅の方が教えてくださったんですよ。遠い東の地で親しまれている料理だって。
ハンバーグはお肉を細かくミンチにして捏ねて焼いたステーキです。とても柔らかくてジューシーで美味しいんですよ。特に子供に大人気で。
ドンブリはですね、種類が豊富で、東の地で主食として扱われているコメに具をのせて食べるんです。手軽ですぐに作れますし何より量も多くできるので、男性の冒険者の方が依頼前にサッと食べていきます。
カレーは一番人気ですね。こちらもコメを使っていて特徴的な見た目と匂いですけど、何種類もの香辛料を使って味を作るんです。少し辛いんですがそれがさらに食欲を刺激するんです。
どれもオススメですよ」
「へぇ。どれも気になるわね」
「全部食べたいですけど、さすがに二人じゃ多すぎますね」
説明を聞いて食欲が湧いてきたが量が多いという話だ。冒険者用に作られているからそれも当然なのだが。
それにしても悩むなぁ……。
「おっ。なんだ。二人も来てたのか」
「ジルさん。模擬戦してたんじゃないですか?」
「全員とやり終わったから腹ごしらえしに来たんだよ。冒険者に人気の店があるっていうからな」
ジルさんが何人かの冒険者を連れてお店に入ってきた。そのまま私たちの近くに座る。
「まだ頼んでねぇのか?」
「ジルが来たならちょうどいいわ。あなたドンブリ何種類か頼みなさい。それで私とリリナに少し分けて。私たちはそれ以外で何か注文するわ。それで少し分けてあげる」
「お、おう。それは別にいいんだが……」
メイさんさすがです。それならいろいろ食べられますね。
ジルさんは大食いだからいっぱい食べるだろうし。
そう言うことで早速注文しました。私はかれー、メイさんははんばーぐです。
楽しみだなぁ。ああ、もちろんルナたちのも頼みました。ブラウにはお肉、ルナには小さい魚の乾物。今は痩せるために小さいので我慢してもらいます。
手軽にできるということで、数分で料理がきた。
「わぁ!おいしそうですね!」
私の前にはカレーが置かれていた。独特な見た目だが、刺激的な匂いが食欲を駆り立てる。
ハンバーグもとてもおいしそうだ。これがお肉には見えないが、鉄板の上ではじける油がこれまた食欲をそそる。
「「いただきます!」」
冒険者特有の食前のあいさつをする。これは自分が倒した魔物を糧に生きるということを忘れないため、常に命に感謝するという意味が込められているらしい。
冒険者になって初めに教えられることだ。
「これはおいしいわね」
「ほんとですね!すごくおいしいです!」
メイさんと同じような感想を言う。それしか言葉が出ない。
こんな料理があったなんて知らなかった。
これで私の中で旅の目的が増えた。見たことのない料理を食べること!まだ知らない料理がいっぱいある筈だ。見つけてママへの土産話にしようと思った。
ジルさんの注文したドンブリも完食しました。もちろんおいしくて大満足です。絶対にまた来ようと思いました。
「お前ら、次どこに行くんだ?」
「リリナが鍛冶師のおじいさんと知り合ったみたいで、その工房にお邪魔しようと思っているわ」
「鍛冶師のじいさんか。面白そうだな。俺も行くぜ。新しい大剣でも作ってもらうか」
どうやらジルさんもおじいさんに興味を持ったみたいだ。しかも言っていることがメイさんと同じである。
やはり二人はパートナーだなぁ。と、感じた。
メイさんがジト目を向けてきた。失礼しました。というかなんでそんなにわかるのだろう。顔には出さないようにしているのに。
「鍛冶師のじいさんて、ゲンドウさんか?やめといたほうがいいぜ。あの人偏屈爺ってことで有名だからな。門前払いされた冒険者が後を絶たないって話だ」
ジルさんについてきた冒険者の人が言った。
昨日の感じじゃそんな人には見えなかったけど。別人かな?違う鍛冶師のおじいさんがいるのだろう。
そんな楽観的な考えをしていた私は、あとであんなことになるなんて思いもしなかった――。
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