追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

文字の大きさ
25 / 72
一章 旅立ち

お昼ご飯

しおりを挟む

 私は心に傷を負いました。さらば、私の平穏……。

「ほ、ほら、リリナ、元気出して。おいしいもの食べに行きましょう。あんまり気にしちゃだめよ」

「……でも」

「実際にそういう人がいるから否定はできないけど、もしかしたらリリナのは当たらないかもしれないじゃない。だから大丈夫よ。もし当たったらまたその時に考えればいいわ」

「……そうします」

 沈む気持ちを立て直すべく、私を心配そうに見上げるルナを抱き上げる。
 ギューッと抱きしめると心が落ち着く。やはりモフモフはいい……。
 ルナも私の気持ちを察してかされるがままである。
 ブラウも私の足元でお腹を見せて寝転がっていた。僕のお腹も撫でてくださいと?
 当然撫でますとも。この子たちがいてくれてよかったと思う。
 私の気持ちが落ち着いたところで目的地を目指す。まずは中央広場から。
 近づくにつれてだんだんと人が多くなっていく。お昼時というのもあって、昨日より人が多い。

「さすがにこれだけ人がいっぱいだとお店には入れそうにないですね」

「そうね。屋台で簡単に変えるものにしましょうか」

 二人で屋台を探すが、どれも人が多くて時間がかかりそうだった。
 キョロキョロと周囲を見渡していると、何か見覚えのある子どもが近づいてきた。

「昨日のお姉ちゃん!」

「あら。え~と……ニアちゃんだったわね。どうしたの」

 それにしてもこの人混みの中からよく見つけたものだ。

「ブラウが見えたから、お姉ちゃんもいると思ったの。何か探しているの?」

「お昼ご飯食べようと思って、簡単に食べられそうなものを探しているのだけど……」

「それなら私いいお店を知っているわ!お母さんも今そこのお手伝いをしているの!一緒に行きましょう。そっちのお姉さんも!」

「ありがとう。ニアちゃんって言ったわね。案内してもらえるかしら?」

「もちろんよ!あそこの裏にお店があるの。ついてきて」

 ニアちゃんはブラウと並んで先導していく。私たちとは反対側にある大きな商会の店の裏にあるらしい。
 商会の店が壁になっているおかげで、知る人ぞ知る穴場のお店となっているみたいだ。
 昼は食堂だが、夜は酒場として営業しているから、現地の冒険者が常連に多いとニアちゃんが言っていた。
 外観はきれいで、店内も落ち着いた雰囲気がある。人もそんなに多くないためゆっくり食事ができそうだ。
 これなら冒険者はあまり寄り付かないように思うが、店長さんが元冒険者だという。なので冒険者にも馴染みやすいお店なのだ。

「うん。いいお店ね。こんなところにあるなんて知らなかったわ。今度は夜に来ようかしら」

「いいですね。夜は夜で楽しそうですね。冒険者の方で賑やかな感じが想像できます」

「お姉ちゃんたち、早く入ろうよ」

「ああ。ごめんなさい。今行くわ」

 ニアちゃんが先にお店に入っていった。私たちも後を追う。
 それよりブラウも一緒に入っちゃったけどいいのかしら?一応飲食店だから動物は良くないのかと思うのだが。

「お母さん!お客さん連れてきたよ!」

「あら、ニア。いつもはママって呼んでくれるのに今日はどうしたの?
 それにお客さんて、無理やり連れてきたんじゃないわよね?」

「へ、変な事言わないでよ!ちゃんとお誘いしたの。昨日お話ししたお姉ちゃんよ」

 和やかな母娘の会話が聞こえてくる。
 ニアちゃんそっくりの優しそうな女性がいた。

「ニアちゃん。ここにもママって呼んでいる子はいるから、別に恥ずかしいことでもないのよ」

「メイさん、余計な事は言わなくていいですから」

 確かにそう呼んでいるけど。私の場合は小さいころにいなくなっているから、呼び方が変わるようなタイミングがなかったのだ。と、言い訳をさせていただこう。

「ふふっ。初めまして。昨日は娘がお世話になりました。母のナナと申します。本日はぜひ、ゆっくりしていってください」

「ありがとうございます。それと従魔が二匹いるのですが大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫ですよ。ときどきテイマーの方も立ち寄ってくれることがあるので、従魔用のご飯もあるんです。店長が元冒険者ですから、そういう配慮もしているんです」

「それならよかったです」

 他にも従魔連れで来る人がいるらしい。しかもそのためのご飯のあるとはなんともありがたい。
 案内された席に座り、メニューに目を通す。
 ん?よくわからないメニューがいっぱいだ。何だろうこれは。

「……ランチセットにシチュー……サンドイッチ……ステーキは分かる……。”はんばーぐ”に”どんぶり”に”かれー”って何かわかりますか?」

「……聞いたことないわね。どういう料理なのかしら」

「お決まりですか?」

「あの……これって何ですか?」

「ああ。最初は分からないですよね。これはですね、旅の方が教えてくださったんですよ。遠い東の地で親しまれている料理だって。
 ハンバーグはお肉を細かくミンチにして捏ねて焼いたステーキです。とても柔らかくてジューシーで美味しいんですよ。特に子供に大人気で。
 ドンブリはですね、種類が豊富で、東の地で主食として扱われているコメに具をのせて食べるんです。手軽ですぐに作れますし何より量も多くできるので、男性の冒険者の方が依頼前にサッと食べていきます。
 カレーは一番人気ですね。こちらもコメを使っていて特徴的な見た目と匂いですけど、何種類もの香辛料を使って味を作るんです。少し辛いんですがそれがさらに食欲を刺激するんです。
 どれもオススメですよ」

「へぇ。どれも気になるわね」

「全部食べたいですけど、さすがに二人じゃ多すぎますね」

 説明を聞いて食欲が湧いてきたが量が多いという話だ。冒険者用に作られているからそれも当然なのだが。
 それにしても悩むなぁ……。

「おっ。なんだ。二人も来てたのか」

「ジルさん。模擬戦してたんじゃないですか?」

「全員とやり終わったから腹ごしらえしに来たんだよ。冒険者に人気の店があるっていうからな」

 ジルさんが何人かの冒険者を連れてお店に入ってきた。そのまま私たちの近くに座る。

「まだ頼んでねぇのか?」

「ジルが来たならちょうどいいわ。あなたドンブリ何種類か頼みなさい。それで私とリリナに少し分けて。私たちはそれ以外で何か注文するわ。それで少し分けてあげる」

「お、おう。それは別にいいんだが……」

 メイさんさすがです。それならいろいろ食べられますね。
 ジルさんは大食いだからいっぱい食べるだろうし。
 そう言うことで早速注文しました。私はかれー、メイさんははんばーぐです。
 楽しみだなぁ。ああ、もちろんルナたちのも頼みました。ブラウにはお肉、ルナには小さい魚の乾物。今は痩せるために小さいので我慢してもらいます。
 手軽にできるということで、数分で料理がきた。

「わぁ!おいしそうですね!」

 私の前にはカレーが置かれていた。独特な見た目だが、刺激的な匂いが食欲を駆り立てる。
 ハンバーグもとてもおいしそうだ。これがお肉には見えないが、鉄板の上ではじける油がこれまた食欲をそそる。

「「いただきます!」」

 冒険者特有の食前のあいさつをする。これは自分が倒した魔物を糧に生きるということを忘れないため、常に命に感謝するという意味が込められているらしい。
 冒険者になって初めに教えられることだ。

「これはおいしいわね」

「ほんとですね!すごくおいしいです!」

 メイさんと同じような感想を言う。それしか言葉が出ない。
 こんな料理があったなんて知らなかった。
 これで私の中で旅の目的が増えた。見たことのない料理を食べること!まだ知らない料理がいっぱいある筈だ。見つけてママへの土産話にしようと思った。
 ジルさんの注文したドンブリも完食しました。もちろんおいしくて大満足です。絶対にまた来ようと思いました。

「お前ら、次どこに行くんだ?」

「リリナが鍛冶師のおじいさんと知り合ったみたいで、その工房にお邪魔しようと思っているわ」

「鍛冶師のじいさんか。面白そうだな。俺も行くぜ。新しい大剣でも作ってもらうか」

 どうやらジルさんもおじいさんに興味を持ったみたいだ。しかも言っていることがメイさんと同じである。
 やはり二人はパートナーだなぁ。と、感じた。
 メイさんがジト目を向けてきた。失礼しました。というかなんでそんなにわかるのだろう。顔には出さないようにしているのに。

「鍛冶師のじいさんて、ゲンドウさんか?やめといたほうがいいぜ。あの人偏屈爺ってことで有名だからな。門前払いされた冒険者が後を絶たないって話だ」

 ジルさんについてきた冒険者の人が言った。
 昨日の感じじゃそんな人には見えなかったけど。別人かな?違う鍛冶師のおじいさんがいるのだろう。
 そんな楽観的な考えをしていた私は、あとであんなことになるなんて思いもしなかった――。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界わんこ

洋里
ファンタジー
3匹の愛犬と共に異世界に転移した主人公、小日向真奈が、戸惑いながらも冒険をしていくお話しです。

虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・
恋愛
平民孤児であるセレスティアルは、守護獣シィに力を捧げる【聖女】の一人。しかし他の聖女たちとは違い、儀式後に疲れ果ててしまうため「虚弱すぎる」と、本当に聖女なのか神殿内で疑われていた。 育ての親である神官長が拘束され、味方と居場所を失った彼女は、他の聖女たちにこき使われる日々を過ごす。そしてとうとう、平民が聖女であることを許せなかった王太子オズベルトによって、聖女を騙った罪で追放されてしまった。 命からがら隣国に辿り着いたセレスティアルは、そこで衰弱した白き獣――守護獣ラメンテと、彼と共に国を守ってきた国王レイと出会う。祖国とは違い、守護獣ラメンテに力を捧げても一切疲れず、セレスティアルは本来の力を発揮し、滅びかけていた隣国を再生していく。 「いやいや! レイ、僕の方がセレスティアルのこと、大好きだしっ!!」 「いーーや! 俺の方が大好きだ!!」 モフモフ守護獣と馬鹿正直ヒーローに全力で愛されながら―― ※頭からっぽで

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

処理中です...