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一章 旅立ち
老夫婦からの情報提供
しおりを挟む簡単に作れるということだったので、一時間くらいでお菓子を作り終えテーブルに戻ってきた。
ミラノさんは冒険者時代のことを少し教えてくれた。帝国の森には珍しい魔物がいるとか、連合にはおいしいものがいっぱいあるとか。
あと、教国は従魔連れで入るのは危ないと言われた。魔物を連れていると異端者扱いをされて下手すると攻撃されるらしい。
いや、異端者って……私別に信者というわけではないからそんなこと言われても困るのだが……。とりあえず教国はいかないようにしよう。
ミラノさんたちでも大陸を越えたことはほとんどないと言っていた。獣大陸に一度行ったくらいだと。そもそも魔大陸に行こうとも思わないらしい。
それくらい危ないところだということだ。SSランクの『銀葬の剣聖』について知っているかと思ったが、名前だけしか知らなかった。
そんなすぐにママの情報がつかめるわけでもない。気長に探すとしよう。
ジルさんたちの武器制作会議は終わっていた。私と同様にゲンゾウさんの冒険者時代の話を聞いていた。
「おお。戻ってきたようじゃのぉ。お嬢さんも座りなさい。今大事な話をしているところじゃ」
「大事な話ですか?」
「ええ。ゲンゾウさんが気になる情報を持っていたの」
ゲンゾウさんが持ってる気になる情報って何だろう。そもそも私たちに関係しているもの?
「今街で噂になっているじゃろう。最近魔物が増えていることについてじゃ」
「……それですか。ご存じだったんですね」
「これでも元冒険者じゃ。ギルドには古い知人がおる。この辺境だけでなく、他の地方にもな。それでいろいろと情報が送られてくるんじゃ。何かあったときのために手を貸してくれと。
わしは引退したというのに、まったく……」
高位冒険者だったということで、引退されても頼られているのだろう。それに重要な情報を送ってくるということは、相手もギルマス並みに偉い人じゃないかな。
もしかして私、滅茶苦茶すごい人に気に入られているの?
今さらながらに気づき、ちょっと動揺。
「それで?魔物が増えている原因はわかるのか?」
「そんなものは知らんよ。それを調べるのは今の若者たちの仕事じゃ。わしは送られてくる情報から想像するしかできん」
「なんだ。根本的な解決にはならねぇか」
「それはおぬしたちでどうにかせい。じゃがの……少し気になることもあっての」
「気になることですか?」
「うむ。ダンジョン都市は知っているじゃろ?あそこでちと問題があったみたいじゃ」
「ダンジョン都市って、ここから真逆の方角じゃねぇか。こことなんか関係あるのかよ」
今さらだけどジルさんすごい馴れ馴れしくなってません?大丈夫なんですか?
それに関してはゲンゾウさんがいいといったらしい。メイさんが教えてくれた。
「それは分からん。可能性は限りなく低い話じゃからな。
……ダンジョン都市で新ダンジョンが発見された。しかも誰かが人工的に造ったものじゃ」
「「「!?」」」
ダンジョン都市のダンジョンは自然発生したものを利用して、あくまで利益を生みだすために人工的に造り替えられたものだ。
一から作るなどありえない。そんなことが可能なのだろうか?
「そのダンジョンは全体的に異様な魔力で覆われていて、中の魔物は異常に魔法耐性が高かったそうじゃ。報告をした冒険者はAランクパーティーだったようじゃが、倒すので精一杯だったという話じゃ」
「Aランクパーティーがギリギリのダンジョンかよ。Sランク数人は必要だな」
「一人がとても優秀じゃったから生き残ったみたいじゃ。一階層の階層主を倒して転移したらしい。出現した魔物もおかしくての。一階層でフロアにオーガ、階層主にキマイラが出現したと。キマイラは目で追えないくらいの速さで移動すると言っていた。相当苦戦したんじゃろうな」
「それは……確かによく生きて帰ってこれたな。しかしそれだけじゃ人工ダンジョンというのは分からないだろう。どうして断言しているんだ?」
「転移間際にローブを纏った怪しい人影を見たようじゃ。わかったのは黒髪ということだけ。その人物はダンジョンの奥に消えていったそうじゃ」
「怪しいな。というか危険なダンジョンに一人、しかも自由に行動してるとか完全に犯人そいつじゃねぇか」
そうとしか思えない。怪しすぎるわ。でも黒髪っていうのは気になる。
どうしてローブを纏っているのに髪の色は判明したのだろうか。それにダンジョンの中ってくらいから黒髪ってわからないのでは?
「そのダンジョンの調査をしたのはどのパーティーなのかしら。Aランクならそれなりに有名ですよね?」
「おお。それなら王都で名が広まっている『銀の戦剣』というパーティーじゃよ」
「……ぇ?」
「あら」
聞いたことあるとかそういう次元じゃない。
そんな危ないことしたって、カーナは大丈夫なのかしら。
「……そのパーティー……私が所属していたとこなんです……。あの、カーナっていう女の子は無事なんですか……?」
「お?そうじゃったのか。幸い誰も酷い怪我をしなかったそうで、教会の回復魔法を受け数日で完治じゃそうじゃ。それにカーナという子がこの報告者じゃよ。一人でパーティーメンバーを連れて帰ってきたそうじゃ」
「……そうですか……よかった……」
カーナが無事ならそれで。他とはそこまで仲良くできなかったけど、あの子だけははっきりと友達と言えるほど仲良くなった。本当に無事でよかった。
それにしても一人で仲間を連れて帰るなんて、カーナってばそんなに強かったのね。いつも手を抜いているとは思ったけど。ということは一人が優秀だったってカーナのことかしら。
「お嬢さんがどうしてそのパーティーを抜けたのかは知らんが、その依頼が終わったあと『銀の戦剣』は解散したみたいじゃぞ」
「「あら」」
驚きすぎて、メイさんと私の感想が被ってしまった。
解散?どうして?そしたらカーナは今何しているのかしら?
「何があったかは知らんが、そのパーティーはもうないということじゃな。あまり気にすることはないと思うがの。お嬢さんが悪いわけでもなかろう」
「……そうですね」
「そんなことより、悪いが話を戻すぞ。気になることがある。じいさんがそんな話をしたってことは、何か関係してることがあるんだろう。考えてみたが……まさか、なんてことは言わないだろうな?」
ジルさんは今の話を聞いて分かったのだろうか。
メイさんもジルさんの言葉を聞いて何か気づいたのか神妙な顔をしている。
ミラノさんは穏やかな表情。なんか安心するけど、このおばあちゃん笑顔以外で表情とか変化するのかしら。想像つかない。
「まさしくおぬしの考えた通りじゃよ。あくまでも可能性の話じゃ」
「おいおい、嘘だろ。この辺境にダンジョンが造られたかもしれないということか。それはさすがに考えられないぞ」
「じゃが、この辺境では日常的に魔物の討伐がされている。それなのに急激に魔物が増えるなど、どこからか連れて来る以外考えられん。それならダンジョンから魔物があふれ出したと考えるのが妥当じゃないかな。人口ダンジョンが造られたという仮説も立てられたことじゃしの」
うん。確かにまさかと言いたくなるような話である。
意図的にダンジョンを造って魔物をあふれさせるなんて、何が目的なのだろうか。
ましてやそんなことが可能なのか――もしかして。
「ジルさん。この前のと関連してるとは考えられませんか?」
「この前のって……笛のやつか」
「笛とはなんじゃ?」
ゲンゾウさんに前の依頼について説明する。
聞いているうちにゲンゾウさんの表情が険しくなってくる。
「……笛の音で魔物を操る……前にもどこかで聞いたような」
「――リリナさん。その音を聞いて不快に感じませんでしたか?」
ミラノさんが真剣な表情を浮かべ聞いてきた。こんな顔もするのかと考える暇もなく、その表情に少し圧倒されてしまった。
「た、確かに不快な感じがしました。でも私だけでしたよ。メイさんたちは何も感じなかったみたいです」
「そうですか……やはり……」
「おい、ミラノ。もしや……?」
「ええ。私たちが冒険者時代に一度聞いたことがあります。私も不快に感じた音です。おそらく従魔を連れている人はそう感じるのではないのでしょうか。魔物を操る音ということですし、何かしら関係していると思います」
一気にことが大きくなってきた気がするわ。
ミラノさんたちが現役の頃だと何年前の話?十年とか、もっとじゃないかしら。
何か大変なことが起きるのだろうか。
わからない。わからないことがこんなにも怖いだなんて、思ってもみなかった。
「今は情報が少ない。確かに首謀者の目的は分からないが、俺たちだけでも何かあった時のために備えておくべきだ。そうだろ、メイ?」
「そうね。私たちは冒険者だもの。生きるための準備を怠らないようにするのは当然よ。リリナ、何か起こりましたってなった時に、何もできないんじゃ困るわ。せめて何があってもいいように心の準備だけはしておきなさい」
「――わかりました」
そうだよね。覚悟だけはしておかないと。私は弱いから守ってもらうことになるだろうけど、せめて守ってくれるこの子たちの支えにならないと。
ルナとブラウがいるなら私は大丈夫。
「わしも備えておくとしよう。この街で何かあればわしらも出ることになるからの。
それと、おぬしたちの武器は三日で作る。少し無理をするが早いほうがいいじゃろう」
「もう年なんですから考えて無茶してくださいね」
「わかっておるわい」
「じいさん、頼むぜ」
「よろしくお願いします」
「うむ。任されよ」
そうして老夫婦とのお話は終わった。
私は不安を抱えながら宿へと戻った。
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