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一章 旅立ち
ギルドマスター
しおりを挟むあれから私たちはすぐにギルドに向かった。
スタンピードが来るかもしれないのだ迅速に対応しなければならない。
こう見えて足は速いんですよ、私。いつでも逃げられるように足だけは鍛えているんです。
そんなに誇ることじゃないって?そういうことは言わない約束ですよ。
確かにメイさんがものすごい速さで駆け抜けていったけど。しかもジルさんは重い大剣を背負っているのに私と同じくらい速い。
……なんだろう。悲しくなってきた。冒険者としてもっといろいろできるようになろうと思いました。
「もうすぐギルドだ。メイが先行しているが、話がすんなり通っているとは思うなよ。だからとにかく説得するんだ」
「どうやってですか?」
「そんなものは知らん。だがやるしかないぞ。いつ魔物が動き出すかわからないんだ。無駄な時間を使っている余裕はない」
確かに考えている暇はない。
できる限り早く対応してもらわないと。
しかしこれって冒険者だけで勝手に何かしていいものなのだろうか。この街の
領主が動いてくれないとダメなんじゃ……。
まぁ何とかしてくれると信じて、私とジルさんはギルドに入った。
「メイはどこだ?」
「――だから言ってるでしょ!時間がないの!早くギルマスを呼びなさい!」
メイさんの声だ。メイさんがこんな大声を出すなんて。
どうやらうまく伝えられていないみたいだ。
「ですから、こちらも申し上げているように、確証のない話をギルドマスターにお伝えするわけには参りません。証拠となるものをしっかりと提示していただかなければ」
「だから!時間がないって!言ってるのよ!!」
「メイさん!」
メイさんが限界のようだ。手を出しかねない。
ところであの人は誰だろう。どこかで見たことあるような……。
「おい、サブマス。悪いがそんなことしている余裕はないんだ。頭の固いお前を説得している無駄な時間もない。ここを通してもらうぞ」
あ、サブギルドマスターか。それは確かに見たことあるわね。
というか無理やり行くの。ジルさんそれは良くないんじゃ……。メイさんもやる気みたいですね。
うちの子たちも威嚇している。君たちは少し落ち着いてね。ね?
「……はぁ。話を聞いてくれないのですね。まずギルド内での戦闘行為は禁止されています。資格剥奪になってもよろしいのですか?
それと、個人的な本心を言わせていただきますが、はっきり言って迷惑です。他の冒険者に与える影響を考えてください。そんな確証のない話は状況を混乱させるだけです。第一、そんな情報どこから仕入れたんですか?まだ我々ギルドでも魔物の行方を把握できていないというのに。一体誰がそんな突拍子もないことを」
「ミラノさんが力を貸してくれた。ギルドとしてはそれだけで十分じゃないのか?」
「ミラノって……ああ、あの隠居したご老人ですか。その程度でギルドが動くと思わないでください。所詮引退した年寄りです。そんな年寄りの妄言に振り回されていないで、むしろあなた方こそギルドに協力してください」
何だろう。こんなに腹が立つのはいつ以来だ。
あれか。カインに追放されたときか。この人見てると無性にイラつくのはカインと似ているところがあるからか。
自分が優秀だと勘違いして、人の話を聞かず、他人の能力を理解せず、自分の物差しで勝手に決めつける。
それに加えて、あの老夫婦をただの年寄り扱いとは。それがギルドの見解なのか。
私の中にこんなにも怒りという感情があることを初めて知った。これなら何かできそうだ。いつもと違う、攻撃的な詩《うた》が。
「……リリナ?」
「おいおい。リリナ、魔力が漏れてるぞ。少し抑えろ」
いやいや、今ならいい詩ができそうなんですよ。
大丈夫。少しおはなしするだけですから。
ルナもブラウもそんな心配そうな顔しなくていいのよ。
「ほっほ。やはりお嬢さんは見込みがあるのぉ。これだけの魔力を秘めていたとは想定外じゃ」
「おじいさん、そのような事を言っている場合ではないですよ。とにかくまずはあの子を呼んできていただかないと」
「おお、そうじゃったの。そこの娘さん。ちょいとヘンリを呼んできてもらえんかの。ゲンゾウが来たと言ってもらえればすぐに来るじゃろうて」
「え?あっ、はい」
受付嬢が二階に上がっていった。
二人が来たことで少し空気が変わった。周囲の冒険者の何人かは緊張している。
どの人もベテランの方たちだ。若手は何が起こってるか把握できていないみたい。
「リリナさん。大丈夫ですよ。落ち着いて、ゆっくり息を吸ってください」
「……ミラノさん?」
ミラノさんの笑顔につられ、私の心が静かになる。さっきよりも穏やかな気分になった。
それに伴い漏れ出ていた魔力も霧散した。なんか少し疲れたような……。
「普段使わない魔力があふれたせいでしょう。時間が経てば戻りますよ。それまではブラウが支えてあげなさい」
「わん!」
ミラノさんが私を壁際に寄せて座らせると、ブラウが駆け寄り背もたれになってくれる。
やっぱりこのモフモフは最高ですね。私はこのまま様子を見よう。
「勝手な事をしないでいただけますか、ご老人。引退したあなた方が出る幕ではありません。どうぞ、家に帰ってお休みいただいて結構ですよ」
「そういうわけにもいくまい。今回はちと気になることもあるのでの。なぁに、許可ならヘンリに直接もらうわい。小童は大人しくしておれ」
「小童だと?クソ爺が……。あんたらは部外者なんだから今すぐここか――」
「ししょーーーーーー!!」
小さい女の子がものすごい勢いで飛び出してきた。
あれがもしかしてギルマス?
ピンクの髪のツインテールに大工のような仕事着を着ている。しかも少女にしか見えないのだが……。
「ししょう!ヘンリエット、ただいま参上いたしました!本日はどのようなご用件でしょうか!?」
「相変わらずうるさいのぉ。おぬしももうギルマスなんじゃから少しは落ち着かんか」
「元気なのが私の取り柄でありますから!それで本日はどうされたのですか?」
「そうじゃ。魔物について話があっての、少し聞いてくれんか?」
「ししょうの申し出ならよろこんで!今部屋を用意します!
ああ、サブマス。君はもういいです。解任します。お疲れさまでした」
「なっ!?どういことですか!納得がいきません!」
「一連の流れは彼女に聞きました。その上であなたはこのギルドの邪魔になると判断しました。なのではっきり言うとクビです。お疲れさまでした」
サブマスが呆然としている。
いきなりクビにされたらそうもなるか。
「そちらの方々もご一緒に。ししょうの新しい弟子とお見受けしました。今回のことについても何か知っていそうですし、お話を聞かせてください」
「いや、弟子ってわけではないんだが……」
「どうぞ、こちらへ!さぁ!」
そういってメイさんたちを引っ張っていく。
ギルドのお偉いさんたちは人の話を聞かないのだろうか。
ただこの人はこういう性格の人だからだろうか、どこか憎めない。
それよりもどうしてそんなに若いのか気になるのだが。
私たちは奥の部屋に連れていかれた。
◇◇◇
「改めまして、私はこのギルドのマスターをしています、ヘンリエットと申します。
ししょうの弟子です。あとエルフとドワーフのハーフです。珍しいとよく言われます。ですがこの国はいいですね。亜人差別もないですし、私みたいなのでもこうしてギルマスをさせていただけるのですから。実力主義というやつですね。
ところであなたたちはどうやってししょうの弟子になったのですか?私はですね、何十年か前にししょうに勝負を挑んだのですが……何十年前って私こう見えて結構長く生きているんですよ。見た目はこんな少女のようですが、確か百は越えていたと――」
「そろそろいいかのぉ?話が進まんのじゃ}
「ああ!申し訳ございません、ししょう!つい興奮してしまって。それで魔物についてでしたよね。なにかありましたか?」
ギルマスの話を強制的に止め、説明はミラノさんが行った。
簡潔でわかりやすい説明だった。さすがミラノさん。
ギルマスも話を理解したようで、険しい表情を浮かべている。
「なるほど……。話は分かりました。現在魔物は山に集結して今のところ動きはないということですね。それなら今のうちにできるだけやっておきましょう。
まず冒険者に呼びかけ街の防衛準備を行ってもらいます。その間私は領主邸に向かい住民の避難を最優先に、衛兵と騎士団を動かしていただきましょう。
それでよろしいですか?」
「お願いしますね」
ちゃんと仕事ができる人でした。
ギルマスになるだけあるわね。見た目で人を判断してはいけないと学びました。
「魔物の様子は確認してもらってもよろしいですか?万が一動きがあったら伝えてください。
時間との勝負ですね。皆さんの手をお借りします。どうか街の守るためにご協力を」
「「「もちろん」」」
これでもちゃんと冒険者なんです。
戦えないけど、みんなの支援は任せていただきたいと思います。
ギルマスがこれから忙しくなるというので、私たちは退出した。
まだ魔物に動きはないようだ――。
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