追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

スタンピード

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 ギルマスが動き始めてから一日が経過した。
 冒険者はすぐに行動を起こしたが、領主はまだ説得できていない。
 そんな簡単にいくとは思っていないが、時間はないので早く決断してほしいとは思う。
 しかし急報は唐突にやってくる。

「魔物が行動を開始しました」

 ミラノさんがそういった。
 私たちはすぐに行動したが、すでに街には伝わっていた。
 山を越えてきた旅人が街に広めてしまったらしい。
 現在街中では混乱が起きている。
 いくら何でもタイミングが悪い。領主も動いていないから避難の準備も進んでいない。
 ギルドもマスターが不在で混乱状態になっていった。
 冒険者たちをまとめられる人がいないのだ。その上街でも混乱状態。
 皆の心には不安が募っている。
 まぁこういうときは私の出番だ。ひとまず落ち着かせるための歌を唄おう。
 声に魔力を乗せる。このギルド内に響くように。どんなに騒がしくても私の歌なら全員に届く。

「――♪――♪ー」

 ギルドに静寂が生まれた。
 そして私に注目が集まる。待って、さすがにこの視線の量は耐えられないわ。
 メイさんの後ろに隠れ、顔の前にルナを構える。視線完全防御の完成だ。
 いや別に遊んでいるわけではなくてですね。とりあえず落ち着いてほしかっただけなのでこの後のことはお任せしますよ。
 だからそんな目で見ないでください、メイさん。

「……はぁ。魔物が動き出したわ。早くてもあと五・六時間はかかる筈よ。それまでに防衛と住民の避難を完了させないといけないわ。しかし領主はいまだ動かず。騎士団も衛兵も機能していないわ。だから私たちでどうにかしないといけない。
 理解したなら行動に移しなさい。防衛準備に多めに人手が欲しいわ。住民の避難は私とリリナで何とかするから、多くても十人ほどいればいいわ。
 わかったわね?それじゃ行動開始!」

 わぁ。メイさんかっこいい。
 メイさんの言葉に合わせて冒険者たちが動き始める。
 私たちの前に十人ほどの冒険者が集まりそれ以外は南門の防衛に向かった。
 ゲンゾウさんたちは領主邸に行った。ギルマスを手伝いに行くと言っていた。

「あら。あなたたちはこっちなのね。てっきり魔物を討伐に行くと思っていたわ」

「今の俺たちじゃまだ力不足だ。無理に体を張って邪魔するのならこっちで住民を守るほうがいい」

「ふふっ。成長したわね。大丈夫よ。こっちはすぐに終わるわ。なんせ、リリナがいるもの」

 見覚えがあると思ったら、『紅』の子たちがいた。それとほかの新人冒険者が五人ほど。
 グリッドがあんなこと言うなんて。うんうん。成長したねぇ。
 というか、メイさん。私に期待しすぎですよ。そんな簡単にいかないと思うんですけど。

「ほら、早く行くわよ。まずは街の混乱を収めなきゃ。リリナ、さっきみたいにお願いね。中央広場なら街全体に届くでしょう」

「街全体は無理ですよ。そんな広範囲には届けられませんから。広場周辺くらいまでですかね」

「それならそれでいいわ。落ち着いた住民にも協力してもらいましょう。避難先はゲンゾウさんたちが確保してくれるはずよ。騎士団が動き始めたら、私たちも南門に向かいましょう」

「そうですね」

 いつも以上に慌ただしい中央通りを抜け、広場に到着した。
 そこには荷物を抱えた住民たちがそろっていた。どうやらどこに避難するかを話し合っているみたいだが、少しもめているようだ。

「領主様のところが一番安全だろうが!早く行くぞ!」

「だからその領主様がまだ何も言ってないだろ。それより早くこの街を離れる方が確実だ。街を出るぞ」

 街を出るか領主の元へ向かうかでもめているらしい。
 大人たちの様子を見て、連れてこられた子供たちは不安げな顔をしている。
 皆不安で冷静な判断ができていない。
 まず子供にそんな顔させるのは良くないわ。子どもたちは元気に笑っていないとだめよ。
 できるだけ私に注目を集めたい。歌以外に何か演出を考えないと。

「ニャッ」

 ルナちゃん?ふんふん、なるほどね。あなたそんな器用な事もできるのね。
 それならメイさんにも協力してもらおう。

「メイさん、少しご相談が……」

「……ええ。できないこともないけど……それ必要?」

「もちろんですよ。何より子供たちのためです」

「……わかったわ。リリナがそういうなら」

 メイさんは魔法で、広場に簡易ステージを作ってくれる。
 いきなりできたステージに住民たちの注目が集まる。
 私がステージに立つと、視線が私に集中した。見渡すと、何人かは知っている顔があった。ニアちゃんも見つけた。不安そうな顔をしていたが、私を見て少し柔らかい表情に変化した。
 大丈夫よ。これから笑顔に変えてあげるから。

「――♪――」

 私の歌いだしに合わせてルナが幻術を使う。
 火の玉や水の球がたくさん現れ、多様な形に変化する。
 様々な光を使ってステージを照らしたり、紙吹雪のような氷華を生みだしたりと、え?ちょっと待って。器用過ぎない?なんでそんなことできるのよ。そんな器用な猫さんだったのですか、ルナちゃん。

「わぁ!」

「きれい……」

 子どもたちが笑っている。これなら大成功ね。
 大人たちの言い争いも止まり、私に注目が集まっている。
 完璧ね。最後は派手にいきましょう。ルナ。

「ニャッ」

 色とりどりの花火を生み出す。
 見ている人はこれが幻術だとは気づいていない。
 皆一様に感動している様子だった。
 うん。落ち着いたわね。これなら大丈夫。そう思ってメイさんに視線を送る。
 メイさんは意図を悟って、私の隣に立った。

「皆さんもご存じの通り、この街に魔物が向かってきています。スタンピードが発生しました。
 冒険者たちは南門で防衛準備を進めています。総力を挙げてこの街を守ります。
 ですので、皆さんは領主邸まで避難してください。今はギルドマスターが領主様を説得しています。もうじき騎士団も動くはずです。なので安心して避難してください。
 おそらく他の地区でも住民が不安になっていると思います。なのでここにいる皆さんにも協力していただけないでしょうか。
 皆さんで他の地区の住民に呼びかけ、領主邸まで避難してください。
 お願いします」

 メイさんが頭を下げる。私も同じようにお願いする。
 冒険者だけじゃこの街を守り切れない。おそらくそれは全員が理解している。
 だからこそ、今いる人たちにも協力してもらう。
 皆の心は一つ。この街を守るために。
 住民たちは動き始めた。お年寄りや子供を優先して領主邸まで連れていき、手分けして他の地区の住民に呼びかけを行う。

「これで住民の方は大丈夫ね。グリッド、あなたたちはみんなのお手伝いよ。できるわね?」

「もちろん。子供と年寄り優先で避難させる。行くぞみんな!」

 グリッドは仲間たちを連れて行った。
 本当に変わったなぁ。そう実感した。

「私たちは南門に向かうわよ。門の上からなら私が状況を視れるから」

「そうですね。行きましょう」

 私たちは広場から門に向かって走り出した。




 街に到着するまで、あと四時間――。








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