追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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一章 旅立ち

討伐開始

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 南門では冒険者や住民たちが忙しなく動き回っていた。
 私とメイさんはその中を通り抜け、外壁の上へと向かう。
 門番も状況を理解しているようで、快く通してくれた。

「話が早くて助かるわね。領主もこうだったらいいのだけど」

「仕方ないと思いますよ。辺境の領主はここの運営でかなり仕事が多いって話ですから。対応しきれていないんじゃないですか」

 辺境が栄えているのは領主の手腕によるところが大きい。
 この街だけでなく、貴族社会でも切れ者だと言われているのだとか。
 しかしそれならこの非常事態の対応するはずだが、どうしたというのだろうか。

「ここからならよく見えるわ」

 メイさんが外壁から山を見渡す。
 その瞳は赤く光っていた。特殊な眼を持っているらしい。
 詳しくは教えてもらっていないが、かなり遠くまで見えるそうだ。その分疲れるとも言っていたが。

「どうですか」

「一直線でこの街に向かってきているわ。でも魔物はそんなに強くなさそうね。ゴブリン、コボルト、ブラックドッグがほとんど。あとはオークが三分の一くらいかしら。
 これなら何とかなりそうね。大した脅威じゃないわ」

「そんな簡単に言わないでくださいよ。みんなメイさんやジルさんみたいに強いわけじゃないんですからね。それに魔物の数も多いんですから」

「大丈夫よ。意外と頑張ってくれるわ。何かを守ろうとする人間は強いの。特に冒険者なんかはね。
 ……ん?待って。後ろの方で何か……あれは……」

「何かありました?」

「うん。少しまずいかもしれないわね。近づいてきたからよく見えるのだけど、後ろの方にトロールとワイバーンがいるわ。合わせて五十くらい」

「ワイバーンとトロールってこの辺にはいない魔物ですよね。どうしてこんなところに……」

「やはり魔物を集めているのね。おそらくジャイアントホーンの時と一緒よ。むしろあれは実験だったんじゃないかしら」

「実験ですか?」

「そうよ。普段山奥からあまり出てこないジャイアントホーンを、笛で操って違う場所に移動させる。誰にも気づかれずにね。どうやったかは分からないけど、それは成功した。ジャイアントホーンを森まで移動させることに成功したから、他の魔物でもできる可能性を知った。それで今回はワイバーンとトロールをここに持ってきたんじゃないかしら」

 ワイバーンは火山地帯、トロールは薄暗い洞窟の中にしか現れない魔物だ。
 ジャイアントホーンも人のいる場所には出てこないので、この前の森では移動手段を試していたというわけか。
 そんなことをして何が目的なのだろうか。

「ジルに伝えて来るわ。リリナはここにいて。すぐに戻ってくるから」

「わかりました」

 メイさんが外壁を駆け下りていった。
 それにしてもワイバーンとトロールかぁ……。
 その二体がそろうこと自体あり得ないのだが、そもそも高ランクの魔物だ。
 それがスタンピードに紛れ込んでいるなんて。
 唐突に不安が押し寄せる。大丈夫かなぁ。

「わん!」

 ブラウを抱きしめる。これはやっぱり落ち着くわね。
 こんな時でも変わらないモフモフに安心する。安心しすぎて少し眠くなってきた。
 ダメよ。こんな時にのん気に寝るのは良くないわ。
 あっ、でもメイさんが来るまでならいいかな。少しだけなら……。
 ぐぅ……。

「何してるのかしら、リリナ?」

「はっ!?」

 メイさんがそこにいた。まずい、お説教モードだ。

「こんな時にそんな安らかな表情でブラウに埋まりながら眠ろうとか、いい度胸ね」

「い、いやあのそのですね……。別に眠ろうとしていたとかそういうわけではなくて……少し目を閉じて瞑想していただけといいますか……気合を入れるための精神集中といいますか……その……ごめんなさい!」

 どんなに言葉を取り繕ってもメイさんの表情が変わらなかったので、観念して素直に謝りました。
 いや、ほんと、滅茶苦茶怖いんですからね。ブラウも震え上がるほどなんですから。
 私はメイさんに一生勝てないような気がした。

「まったく……。いくら前線に出ないからと言ってもリリナにもやってもらうことはあるんだから。しゃんとしなさい」

「私、何かするんですか?」

 そんなことは聞いていない。私はここでお手伝い程度のことしたできないのだが。
 そもそも戦えない人間をこんなところに連れて来る必要もないのでは。
 ルナとブラウなら参加できるが。私が近くにいないといけない。
 もしかしてそのために連れてきたのかしら。それなら納得できるけど。

「何を言っているの、あなたは。ちゃんとやることあるからここに連れてきてるのよ。あほなこと言っていないでしっかりしなさい」

「あほって……。それで私は何をすればいいんですか?」

「あなたがやることって言ったら決まってるじゃない」

「?歌うことしかできないですよ?」

「だからそれでしょ。そのために連れてきているの」

「……………………え?
 ……む、無理ですよ。ここからじゃおそらく聞こえないですし、そもそも戦場にも届きませんよ」

 門の周辺はギリギリ聞こえるだろうが、ここから離れてしまうと範囲外だ。
 私の歌が届かないと支援魔法はかからない。
 意外と制限が多いのだ。その分いろいろ自由があるけど。

「そこは気にしなくてもいいわ。冒険者の中に拡声魔法を使える人が何人かいるから。その子たちに手伝ってもらうわ。そうすればあなたの歌もみんなに届くでしょう」

 拡声魔法が使えるということは、それなりに風魔法を使いこなしているということになる。
 それなら魔法使いとして戦場に出て、後方支援に徹した方がいいのではないだろうか。
 そんな私のために何人も使ってしまうのはもったいないような……。

「リリナ、言いたいことが全部顔に出てるわよ。あなたは何も気にせず歌ってくれればいいのよ。冒険者の子たちにもちゃんと説明してあるし、その子たちも納得してくれたわ。
 それにあなたの歌があるのとないのじゃ戦況が大きく変化するわ。あなたの歌があれば苦戦しそうな相手でも簡単に倒せるようになるの。それなら魔法使いを何人か使ってでもあなたの歌を戦場に届けたほうがいいのよ。
 戦場に出る冒険者にもそう伝えてあるから、今さらできませんとか言われても困るわ。だから大人しく覚悟を決めなさい」

 まさか、すでに外堀を埋められていたとは。
 メイさん、用意周到過ぎます。私がどうこ答えるかも見越して作戦を立てているなんて。
 これじゃ断れないじゃないですか。

「わかりました。やります。やらせていただきます。でも、そんなに長く歌えませんよ。魔力も声も限界があるんですからね」

「わかっているわ。そこは私とジルに任せてちょうだい。特訓の成果を見せてあげるわ。それに私はここで戦うから、辛くなったら言いなさい」

「メイさんは戦場に行かないんですか?」

「私の場合、ここからの方が戦いやすいのよ。だからここにいるわ。あと、ルナにも魔法で手伝ってもらうわ。その子もいろいろとできるでしょ。期待しているわ」

 ルナにも戦ってもらうことになった。まあ私の肩からは動かないのだが。
 ルナの魔法なら確かにいろいろできるな。幻術と影魔法で足止めに雷で攻撃。
 そう考えると、この子本当に器用な猫ね。
 そこらの人より優秀なんじゃないかしら。

「ニャ~」

「頼りにしてるわよ、ルナ」

 任せろ、と言っているかのように尻尾をピンと立てる。

「わん」

「ブラウは……今はやることないわね。どうしよう」

「くぅ~ん」

「ああ。え、えっと~……そ、そうよ。私が疲れたときの癒し係ね。私の仕事が終わったらたぶん相当疲れていると思うから、そのモフモフで私を癒すの。だから、私の傍にいてね」

「わんわん!」

 これでブラウにもお仕事ができたわね。
 今までで一番大変な仕事になりそうねだわ。
 それでもこれまでよりはやりがいがあると思う。
 私の能力を認めてくれて、その上で頼ってくれているのだから。
 今までとは違う。だから私はその期待に応えたいと思う。
 私の力を信じてくれる人のために。私を頼ってくれる人のために。

「よしっ!やるわよ二人とも」

「ニャッ」

「わん!」

「やる気出たわね。うん、これなら大丈夫そう。そろそろ来るわ。気を引き締めてね」

 今の私に不安はない。ただみんなのために歌うだけだ。
 みんなを支えるのが私の役目。その役目を全うするのみ。

「来たわ。今第一陣が戦っているわ」

 私にはうっすらとしか見えない。まだそれほど遠いが、戦闘音は微かに聞こえる。
 多くの魔物を前にしても一歩も引かず戦い続ける冒険者たちの姿が目に浮かぶ。

「もう少し近づいたら出番よ。あなたたちも魔法を準備しておいて。
 リリナが歌い始めたら、私も攻撃を開始するわ。ルナもそれでお願いね」

「わかりました。ルナ、やるよ。皆さんもよろしくお願いします」

 私を半円状に囲む魔導士のお姉さんたち。
 それぞれが魔法を紡ぐ。私の歌を届けるための魔法を。
 第一陣が下がりながら魔物を誘導する。ちょっとした仕掛けがあるのだ。

「今よ!」

 魔物の誘導に成功したみたいだ。
 土魔法で巨大な壁を作り通り道を制限した。これも何人もの魔導士が協力して作り上げたもの。
 そう簡単に壊れるものじゃない。
 これで冒険者たちは魔物と戦いやすくなった。回り込んでくる魔物の対処をする人、一か所に固まった魔物を討伐するグループ、それと、メイさんが狙う魔物の集団を抑える人たち。
 準備はできた。あとは私が冒険者たちの能力を底上げする。
 体力も筋力も魔力も回復も私の歌で支援する。
 カインたちは理解してくれなかった能力だが、今は信頼してくれる人たちのために。
 その想いが私の魔法を強くしてくれる。
 さぁ、みんな。頑張って!

「――♪――」

 私の声が広がる。門の上から響く歌声はさらに遠くまで。
 その想いは冒険者たちの心に。その声は山を越えてどこまでも。
 拡声魔法によって届けられた歌は戦場全体に響き渡った。

「私も行くわよ。〈フリーズアロー・ミリオン〉」

 ゲンゾウさんに制作してもらった弓は高性能にできたらしい。
 今まで難しかったことが簡単にできるようになったとか。
 いや、この数百万の魔法矢を生み出すのが簡単になったって。ちょっとおかしいでしょ。
 魔物にとっては絶望的な氷矢の雨が戦場に降り注いだ――。









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