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一章 旅立ち
発覚
しおりを挟む戦闘が始まってから、三十分くらい経っただろうか。
今なお冒険者たちは戦い続けている。そして私もいまだに歌い続けている。
魔物の数は半分ほどに減ってきた。しかし時間がかかっている。予定ではもう少し早く減るという計算で作戦を立てていた。
理由は分かっている。というか初めに初めに気づいた。
魔物たちの魔法耐性が普通より高かったのだ。
メイさんの魔法矢でもそれほどダメージを与えられなかった。
それでもメイさんは矢を放ち続けている。普段は見れないような焦りの表情を浮かべながらも戦い続けている。
だがそろそろ限界が近い。これ以上は魔力が枯渇するだろう。その前に止めないと。
他の魔導士たちも魔力がもうない。無理をさせるわけにはいかないが、今私の歌が途切れると前線で戦っている冒険者たちが危ない。
増援が来れば持つのだが。
そう思った時、前線に轟音が響く。
ゲンゾウさんが強大なハンマーを持って戦場に立っていた。
普段の老人の雰囲気は消え、その姿はまさしく歴戦の武人であった。
「リリナさん」
私の後ろから声が聞こえた。
いつも通りの穏やかな声。ミラノさんだ。
「もう大丈夫ですよ。少しお休みください。あなたたちも」
その声を聞いて安心した私は歌うのをやめた。
正直言うとかなり限界だった。もう声が枯れ始めていた。
魔導士たちも疲労のせいか座り込んで荒い息を吐いていた。
そんな限界状態の中、私のためにありがとう。
「メイさん、あなたも少し休みなさい。それ以上は危険ですよ」
「私はまだっ!大丈夫だから!」
「……メイさん」
誰よりも無茶をしている。
防衛の要だったメイさんの攻撃が効かなかったのだ。この中で一番つらい心情なのはわかる。
しかし、無理をしてほしくはない。それにこんなにもつらそうなメイさんを見ていたくはない。
お願いだから、一度休んでほしい。そう思って近づくが……。
「来ないでっ!!私は……まだやれるから……大丈夫だから……」
無理して笑顔を作っている。
「メイさん」
ミラノさんが聖母のような表情でメイさんを止める。
「あなたがつらいのはよくわかります。しかし、今のまま無理をするのは違いますよ。一度引いて、対策を立てましょう。大丈夫です。あなたたちの頑張りは無駄にはしません。そのために私たちが来たのですから」
ミラノさんがそう言うとメイさんはようやく弓を下ろした。
悔しそうに顔を歪め今にも泣きだしそうな表情が私の目に焼き付いた。
街の方から大きな足音が聞こえた。
振り返ると、鎧を纏った騎士たちが馬に乗ってこちらに向かってきていた。
騎士団が動き始めたみたいだ。
街に待った増援にホッと息を吐いた。
「時間がかかってしまいましたが、やっと領主を動かすことができました。というよりも領主の息子さんが話を聞いてくれなかったのですがね」
「領主の息子さん?」
「ええ。ご子息がヘンリの対応をしていたのですが、これがまったく……。
『父は忙しい』の一点張りで話が進まず。私たちが訪れてようやく領主まで話が伝わりました」
ミラノさんの話によると、スタンピードが起こるという話が領主の息子の元で止まっていたらしい。
そのせいで領主まで伝わらず、結果こんなに遅い対応となってしまったということだ。
なぜ息子がそんな邪魔をするようなことを。街の危機だという認識はなかったのだろうか。
領主がそのことを知り、息子はかなり怒られたらしい。その上しばらくの謹慎も言い渡されたとか。
まぁその話はこれくらいにして。騎士団が来たことで前線で戦っていた冒険者たちが入れ替わりで戻ってきた。
「冒険者たちも戻ってきましたね。一度下に降りましょう。この街の領主も来ているでしょうし。作戦を練り直しましょう」
「いいんですか?魔物の様子とか見てなくて」
「大丈夫ですよ。私の従魔がいますから」
「ミラノさんの従魔?いたんですね。てっきり近くにいないから解放してたのかと思いました」
「私もそうしようと思っていたのですが、従魔の方からつながりは残しておいてほしいと言われました。何かあった時にすぐ駆けつけられるようにと」
「そうなんですか。主思いのいい子ですね」
「過保護なだけですよ。私ももういい年なのに。しかし今回は助かりましたね。おかげで何とかなりそうです」
下に着くと戦っていた冒険者たちが神官の回復魔法を受けていた。
軽い傷や疲労を軽減してもらっているのだろう。
お疲れさまでした。
「おお。ここにいたか」
「ジルさん」
「いやぁ、なかなか手強いな。低ランクの魔物ばかりだからって油断したぜ。まさかあんなに魔法耐性が高いなんてな」
ジルさんがそう言うと、メイさんの表情が暗くなる。
かなり気にしているみたいだ。
「なんだ、メイ。気にしてんのか?」
「……別に」
「隠してもわかるぞ。なんせ相方だからな。まぁ今回に限って言えば仕方ないだろ。魔法耐性が高いなんて誰にも予想はできないんだからな」
「でも!私は……」
「変に責任感じてんなよ。想定より多く倒せなかったかもしれないが、倒せなかったわけじゃない。この中で誰よりも一番魔物を倒してるのはメイだぞ。そこは誇ってもいいだろう。もし失敗したとでも思ってるなら次に生かせ。まだ何も終わっちゃいないからな」
「………………わかったわ」
おお、さすが相方。
いつもはメイさんを怒らせることが多いが、なんだかんだ言って一番メイさんに言葉を届けられるのはこの人だ。
本当にいいコンビだなぁ。こういうところは羨ましく感じる。
私もこういう仲間が欲しかったなぁ。
そう思うと、ブラウとルナが体をこすりつけて来る。
自分がいるよと言っているみたいだ。
大丈夫。わかってるよ。
とりあえず撫でる。モフモフ、モフモフ。
「で、どうすんだこの後は。じいさんが一人で何とかできるのか?」
「若い時であればそれも可能でしょうが、今は無理でしょう。なのでまだ皆さんのお力をお借りしますよ」
「わかった。それなら今はとにかく休むしかねぇな」
ジルさんが大の字になって寝転がる。いやいや、力抜きすぎじゃないでしょうか。
もう少し緊張感があってもいいと思うのですが。
それに領主さまも来ているとミラノさんが言っていたのですけど。
「――冒険者諸君」
低く力強い声が聞こえた。
どことなく威厳を感じる声だった。
「この度は対応が遅れたこと、申し訳なく思う。立場上この頭を下げることはできないが、了承してほしい。無論、言い訳をするつもりはない。私の失態である。
しかし、今だ街は形を残している。これは諸君ら冒険者の奮闘の証だ。この街の領主として誇らしく思う。
ここからは我が騎士団も戦場に立つ。無茶を言うが、街を、そして民を守るため諸君らの手を借りたい。まだ立ち上がれるものは我らと共に戦ってほしい。期待している」
領主はそういい残して、戦場に向かった。
さすが貴族。言うことが違う。今の言葉で冒険者たちの戦意が戻った。
「いやぁ、お貴族様から期待しているなんて言葉が出るなんてな。あんなこと言われたら立ち上がらないわけにはいかねぇ。男が廃るってもんだ」
ジルさんが立ち上がった。さっきまで疲れた様子だったのに目つきが変わった。
それはいいけど、もう少し休憩した方がいいのでは?
「私も行くわ」
「メイさんはダメです。まだ休んでください」
このお姉さんは何を言っているのだろうか。
もう魔力がほとんどないのに戦場に立とうとしている。
さすがにその状態では認められません。なのでブラウに抑えさせる。
「ブラウ」
「わん!」
「ちょっと!? ブラウ、離れなさい。リリナ、怒るわよ!」
「メイさんが怒ってもダメなものはダメです。今はちゃんと休んでください。
……私に無茶するなっていうんですから……メイさんもそうしてください……」
私がそう言うとメイさんも押し黙った。
おっ。これは効果覿面だ。今後の参考にしよう。
「……もう。しょうがないわね。その代わりブラウは少し借りるわね」
メイさんがブラウを抱きしめて横になった。
これは寝るな。確実にお休みモードになったわ。まあいいけど。少しだけですからねっ。ブラウは私のなんですから。
「メイは寝たのか。じゃあ俺は行ってくるぞ」
「気を付けてくださいね」
「わかってるさ。メイをよろしくな」
ジルさんが戦場に向かった。
先ほどから轟音が鳴り響いているが大丈夫なのだろうか。
「大丈夫ですよ。これはあの人がはしゃいでいるだけですから。もしかしたらもう半分くらいは魔物を倒しているかもしれませんね」
「……そうですか」
ゲンゾウさんが暴れん回っているらしい。
それならいいのだが。いや、果たしていいのだろうか。
疑問に思っていると、頭上が影に覆われた。
上を見ると動物の腹部で視界が埋め尽くされた。
「え?」
私たちの近くに着地する。
よく見るとそれはグリフォンだった。
うわぁ。聖獣だぁ。初めて見たぁ。なんかうっすら光ってるぅ。……思考が停止した。
「あら。どうしたのですか?」
「魔物が増えたぞ。リザードマンとワイバーンだ。
それとダンジョンを見つけた。怪しい魔力だったからすぐにわかった。ダンジョンから魔物が出現している。まだ何か出て来るぞ。気をつけろ」
「――しゃべるの!?」
「年を経た聖獣は言葉を話すようになるんですよ。そしてこの子は私の従魔です。
名前はグリフと言います。仲良くしてくださいね」
へぇ。ミラノさんの従魔ってグリフォンだったんですね。グリフォンだからグリフとか安直なんて思ってないですからね。
それよりそのグリフさんすごく重要な事言いましたよね?
「それにしてもダンジョンですか。懸念が当たってしまったことを喜んだらいいのか……。とにかくダンジョンをどうにかしないとこのスタンピードは終わりませんね」
「つまりダンジョンを攻略しないと魔物が増え続ける一方って言うことですか。それは一大事ですね」
驚きすぎて逆に落ち着いてしまった。
「そんなことありませんよ。どこかで途切れるはずです。例えば階層主クラスの魔物が出て来るとか」
あの、そういうこと言うと出て来るってよく言うんですが。今完全に”ふらぐ”立ちましたよね。
「来たぞ。アースドラゴンが三体。そんなに大きくはないからまだ成竜ではないな。今なら簡単に倒せるぞ」
「そんな簡単に言わないでくださいよ!」
アースドラゴンが出てきたことで前線に出ていた人たちが一度撤退してきた。
ジルさんやゲンゾウさんも一緒に戻ってきた。
「わしもさすがに年じゃの。大して暴れとらんのに疲れてきたわい」
「じゃあじいさんはそこで休んでな。あのトカゲは俺がもらうからよ」
「バカを言うな小僧。まだまだいけるわい」
いや、そこで言い争っていないで早くどうにかしましょうよ。
騎士団の方たちとかあれ見て委縮しちゃってますし。
さすがにリザードマンとワイバーンに加えアースドラゴンというトカゲオンパレードを見て動揺している人が多い。
「じゃあ競争だな。俺の勝ちだろうがな」
「まだ小僧には負けぬわ」
「「行くぞ!」」
ジルさんとゲンゾウさんが飛び出そうとしたところで、トカゲたちに閃光が走った。
何事かと見ると、目の前にあったトカゲたちが細かく刻まれていた。
「――めっちゃダッシュして辺境まで来たらなんすか。いきなりスタンピードに合うわ、トカゲオンパレードに遭遇するわ。何かお祭りでもやってたんすか?」
聞き覚えのある女の子の声がした。
声の方に視線を向け特徴的なその話し方をする女の子は。
「――カーナ!?」
私の元パーティーメンバーにして、友達の女の子がそこにはいた。
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