追放歌姫の異世界漫遊譚

あげは

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二章 水の都

プロローグ

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 ――ある森の中。


「どっちに逃げた?」

「こっちじゃないか」

「よし。追うぞ。絶対に逃がすなよ。売れば金になるからな」

 数人の小汚い格好の男たちが走り去って行った。

「何なのよ、まったく。いくらあたしが最高にかわいいからってしつこい男たちね。
 これだから人間っていうのは困るわ! あたしは暇じゃないのよっ!」

 そう言って少女はその場から立ち去った。
 その少女の背中にはきれいな羽が生えていた――。



 ◇◇◇



「はぁ……はぁ……」

「今日はこんなもんすかね。終わりにするっすよ」

「ちょっと……私……素人なんだから……少しは手加減とか……したっていいじゃない」

「そんなこと言ってたら強くなんてなれないっすよー」

 カーナがからかうように言ってくる。
 私、強くなりたいとは言ったけど剣士になりたいなんて一言も言ってない。
 文句を言ってやろうとキッと睨むが、カーナは飄々としていて全く気にしていない。
 とにかく疲れたのでブラウに埋もれて休むことにする。
 大きくなってからのブラウは最高のモフモフとなった。聖獣だからいつも清浄に保たれるらしい。何それずるい。
 このモフモフに埋もれルナちゃんを抱きしめながら寝るのが今一番の癒しなのだ!

「もっふーん! あぁ、癒されるわぁ……」

「……リリィ、顔がやばいっすよ」

 失敬な。そんな乙女を捨てたような顔なんてしてません。
 おっと、いけない。私たちが今何をしているか説明してませんでした。
 私たちは今水の都アタランティアに向かう途中です。これがなかなか大変な道のりなのです。
 まず辺境から南の森を越え、途中の村で休み、次は山を越えます。山を越えた先が樹海になっています。そこを越えると普通の森に戻ります。そこを抜けるとアタランティアの前にある最後の街に到着します。そこで最後の休憩を挟み、街道沿いに歩けば目的地に到着です。
 ここでおかしな道があったことに気付いているでしょうか。そうです。山を越えて
 樹海とかおかしいです。
 それなのになぜこの樹海を通るのか、それは私たちが現在迷子でこの樹海にいるからです。なぜ迷子になったのかは聞かないでください。
 普通はこんな道通りません。山すら越えません。時間はかかるが全部を迂回していく道があるのです。
 しかし、今回はカーナが近道とか言ってこのルートになりました。全面的にカーナのせいですね。そういうことです。はい。
 ということなので空いた時間に剣術の練習をしているというわけです。せっかくゲンゾウさんに刀をいただいたわけですし。

「そんな誰に説明しているのかわからないっすけど、勝手に自分のせいにしないでほしいっすね。リリィだって納得してこのルートに決めたじゃないっすか。同罪っすよ」

「樹海があるなんて知らないわよ。だいたいブラウがいるから三日で山越えられるとか言って地図もなく来たのはカーナでしょ。それでシーフとかよく言えたわね」

「あー! リリィが言っちゃいけないこと言ったっす。自分は頭の中に地図があるから大丈夫なんすよ。リリィこそ大した地図持ってなかったくせに」

「私は一般的に売られている地図があれば十分なのよ。それなのにこんなルートで来るから」

「なんすか!」

「なによ!」

 こうしていつも不毛な争いが絶えないのだ。
 それに今は止める人もいない。なので見かねたブラウがよく止めに来る。お腹がすいているときだけ。

「わん!」

「ん? どうしたの? お腹すいた……って食べたばかりよね」

 ブラウが吠えた。耳をピクピクと動かしている。

「……何か聞こえるっすね。足音っす……それも結構な数」

「魔物?」

「いや、おそらく人っすね。走り回って何かしているみたいっすけど」

 こんなところで何をするっていうのだろうか。
 しかし人がいるのならちょうどいい。道を尋ねましょう。

「……リリィ。もう少し警戒心を持ってほしいっすね。こんなところで何かしてるって、明らかに何かおかしいじゃないっすか」

「……そ、そんなことわかってたわよ。冗談よ、冗談」

 だからそんなジト目で見つめないで。ブラウも。
 ルナちゃんもそんな目で見ないで。悲しくなるじゃない。

「それよりこっちに来るっすよ」

 カーナがそう言うと、数人の男が姿を見せた。なかなか小汚い格好をしている。

「おっと。こんなところに人がいるとはな。一つ聞きたいことがあるんだが、桃色の髪をした美少女は見なかったかい?」

「……見てないっすね」

「ふむ。嘘をついている様子はないな」

 一人の男が訪ねてきた。おそらくこいつらのリーダーなのだろう。
 他数人はその後ろで何かこそこそと話し合っている。
 するとリーダーに何か耳打ちをした。

「……ほう。確かにそいつはいいが、依頼主がなんていうか。まあいいか」

 リーダー格の男が何かを指示すると、私たちを囲むように動き始めた。

「……なんのつもりかしら」

「なに。桃色の美少女が見つからないってことで代わりを用意しようと思っただけさ」

 なるほど。そっち系の人たちみたいね。
 カーナがいつの間にか小太刀を構えていた。

「生憎っすけど、自分らにはそういう趣味はないんで、お帰り願うっすよ」

「嬢ちゃんたちがどれほど強いかは知らないが、この人数を相手にする気かい?」

「正直、相手にもならないっすね」

 カーナが挑発する。
 男たちはバカにされて怒ったのか武器を構え始めた。
 私は後ろで大人しくしていよう。
 ん? ブラウがうずうずしている。ここはお願いしようかしら。

「カーナ」

「リリィ。どうした……そういうことっすね。了解っす」

「なんだ? 怖気づいたのか?」

「そんなわけないでしょ。――ブラウ」

「ウオォ―――――――ン!!!」

 ブラウが威圧を込めた遠吠え。
 かなり響いたわね。気を付けないと鼓膜が大変な事になりそうだわ。
 気づいたら男たちが倒れていた。気絶しているみたいだ。

「これで終わりとか。骨のないやつばかりっすね。とりあえずこんなの放っといて移動するっすよ」

 気絶した男たちは放置し、私たちは場所を移す。
 また襲ってきたら困るからね。
 少し移動すると開けた場所に小さな水場があった。
 私たちはそこに向かい、今日はそこで休むことにした。

「なんかいるっすね」

「そうね」

 小さな水場の中心で水浴びをしている女の子の姿。
 桃色の髪の儚げな少女。
 待って。これって……。

「……リリィ。また何か面倒な事になりそうっすね」

「……やめて。それを言わないで」

 美少女がこちらに気づいた。

「何よ! また人間じゃない! あたしがかわいいからってこんなところまで追いかけて来るなんてほんとしつこい! 迷惑よ! 消えなさい!」

 儚げな様子とは裏腹に、かなりのお転婆少女のようだ。
 しかもいきなり勘違いでお怒りなご様子。
 はぁ……。どうしてこうなった……。











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