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絶叫が響き渡る3秒前
しおりを挟む「チアキ=レジェクト殿!!」
国王陛下が王座から降りてきてチアキ様の前にやってきました。
「我が愚息と臣下の数々の非礼を深くお詫び申す」
まさか国王陛下がこんな大勢の前で謝罪するなんて夢にも思いませんでした。でも考えてみればそれだけ酷いことをチアキ様にしでかしてるんですよね。
「そうですね。こんなに数多の非礼を受けるとは思いませんでしたよ。本当に我が国に喧嘩を売ってるのかと思いましたし」
わぁ、初めて聞いたチアキ様の敬語ですが相手を敬う気持ちが全く込められてませんね。こんな棘を隠す気のない毒気たっぷりの敬語は初めてです。
「まさか、レジェクト殿の国に戦争をしかけるなどありえん」
「いやでもそこの馬鹿な子どもが俺を処刑するって言ってましたが?これって国際問題ですよね?」
いやチアキ様もローヒインさんの首を刎ねるとか言ってましたよね?というか実行しそうになってましたし。でもそれを言ったら私の首が飛ぶので絶対に言いませんが。
「む、息子が非礼を……、ほ、本当にすまなかった」
「安心しました。もしそんなことになればこのパーティー会場が鮮やかな緋色で咲乱れるところでした」
うわぁ……それってつまりお馬鹿なことを言った殿下をザシュッと殺っちゃうってことですよね?察しの良い国王陛下や傍に控える宰相が震えている。そんな中「お花を用意してくれるのかな?」と言いそうな顔で能天気に構えているローヒインさんに呆れるしかありませんでした。
「そういえば国王陛下は以前シキ元帥とお会いしたことがありましたよね。どうでした?我が国のトップは」
すると国王陛下の威厳はどこに行ったのか顔を真っ青にして震えている。そんなに恐ろしい人なのだろうか。正直言ってチアキ様より怖い人が想像つかないです。
「全て話せばどうなることでしょうね。ああ見えてシキ元帥は荒い気性の持ち主ですからね」
「レジェクト殿!!どうか!!どうか温情を!!」
「俺も虚偽の報告を我が元帥にするわけにはいきませんからね」
「そこをどうか!!このままではこの国は滅んでしまう!!」
懸命に訴える国王陛下ですがチアキ様が心打たれ温情を……というタイプではないことは分かり切っています。
……もし国王陛下の考えてる通りのことになれば戦争になるのでしょうか?私の父は私が物心つく前に戦争で亡くなってますし、母一人で私を育てて心労から弱ってしまい、流行り病にかかって後を追う様に亡くなりました。出来ることなら戦争なんて起きてほしくないです。それがチアキ様の祖国となれば尚更。そう思っているとチアキ様が少し考えたような素振りをして話し始めました。
「……まぁ俺も気に入った女の故郷を滅ぼすほど鬼でもないので」
気に入った人、という言葉に周りの人々が反応しました。その中にはローヒインさんとエリザマス公爵令嬢も含まれていて、しかもお二人とも嬉しそうに顔を赤らめています。
え、あれだけチアキ様が容赦なく言葉のナイフで一刀両断しているのにダメージを受けていないですと……!?
いやもしかしたらさっきまでのはチアキ様の歪んだ愛情なのかもしれない。……チアキ様の気に入った人、か。そんな人がいたなんて全然気づかなかったです。チアキ様がこの国に気に入った人がいたなんて本当に知らなかったです。少しくらい話してほしかったなって思うのは傲慢でしょうか?一緒にお茶をしていたのにそんな話は一切出てこなかったので。……モヤモヤするのはやっぱり信用されてなかったのかな、と思うからでしょうか?
それにしてもチアキ様の気に入った女、ですか……
うん、ご愁傷さまとしか言えないです。いやだって素でアレですからね。人を虐めるのを無自覚に楽しんでいる人がまともな神経で人を愛でることなんてしない。絶対にしないですよ。捻じれに捻じれて歪みまくってますよ確実に。
その生贄にお二人がなってくれるのでしたら私ならどうぞどうぞとお渡しします。お二人も乗り気ですしそれで戦争が回避できるのであれば。国王陛下と宰相も同じ考えなのか身を乗り出して言い放ちました。
「お気に召した人がいるのなら、ぜひその者を差し出します!!」
「そうだ!!こちらには光の魔法保持者に国一番の美しき公爵令嬢もいる!!本人たちも望んでいるようだ!!ぜひ伴侶に……」
「……冗談はほどほどにしてほしいなぁ」
ついに敬語すらなくなってしまいました。不敬だとは分かっていても国王陛下も宰相も他の貴族の方々も何も言いません。
そんなことを言えば火薬庫に特大の砲弾を投げ込むようなものですからね。
「君たちはさっきから何を見ていたワケ?どこをどう見たら俺が彼女たちを気に入ってるように見える?人の男を平気で奪うような略奪者に男の為に平気で国を売る裏切者を、この俺が気に入ると思う?」
「そ、それでは一体誰を……?」
チアキ様と関わっていた女性なんて他にいるんでしょうか?……まさか皇妃とか言わないでしょうね?いやチアキ様なら相手が人妻だろうが気に入ったのならどんな手段を使っても手に入れそうな気もします。え?そんなことしたらさっき言ってた国際問題になるのでは?
チアキ様と国王様のやりとりに冷や冷やしているといつの間にかチアキ様が私の前に立っていました。
「というワケでこの娘を貰ってくね」
「え?」
そう言ってチアキ様が肩を抱いたのは何故か私でした。
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