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「ああ、メル。夕食の時に少し話があるから」
「はい。お母様」

 私もお母様にお話があるのだ。あのギザ歯の素敵な彼を探し出さなくちゃ。名前は分からないけど、とにかく今日のお茶会の参加者の名簿を貰って探さないと。あんな特徴的な彼なら、きっと人に聞けばすぐに分かるはず。
 そんなウキウキワクワクしてた私にお母様は爆弾を落とした。


「お母様……、今、なんて……?」
「貴女の婚約者が決まったの」

 ニコニコ笑顔で話すお母様。お父様もお兄様も渋い顔はしているが納得しているようで反対意見が出てくることはなかった。

「私たちヴィナンシェ子爵家は商会のおかげで財政は潤ってるけど、同じ爵位や男爵位からの圧が酷くてね。そうしたらディスアキア伯爵家が後ろ盾になってくれるというのよ」

 ディスアキア伯爵。古くから存在する由緒正しき貴族とは聞いたことがあるけど、確か前当主があまりいい領主じゃなかったせいで評判が悪い筈。
 商人として才能に満ち溢れてるお母様がそんな伯爵家と縁を結びたいと考えるのはおかしい。

「伯爵家は借金があるそうなのだけど、額を聞けばそう大した金額じゃなかったわ。投資だと思って肩代わりすることになったの」

 それに借金まで!?え、大丈夫なの?
 お母様、錯乱してしまったの?
 でも見た限り、お母様は正気のようだし、かなり乗り気だ。


「歳も1つしか変わらないしきっと仲良くなれるわ」

 ああああ、そうでしたよね!!ヒロインには婚約者がいましたよね??暴力的で独占欲強くて頭悪い礼儀の知らない最終的に私を殺す婚約者が。

 いやああああ、何でお母様は私にそんな婚約者を見つけてきたの!?あれだけ言い寄ってくる男がいるのなら、せめて虫も殺せないような人を見つけてよ!!

 ああ、お母様に言わなくちゃ。私は運命的な出会いを果たしたので婚約はもう少し待ってほしいと。まさか婚約者と会う前日に運命の人と出会うなんて誰だって思わないでしょう??


「明日、ディスアキア夫人と貴女の婚約者と顔合わせするから、うんとおめかしして会いに行きましょうね」
「あ、明日……?」

 急すぎるでしょう??
 断る隙さえ与えない。さすが商会を盛り上げた母は強しだわ。





 そして翌日、使用人たちに用意してもらったドレスや宝石で顔合わせの為に着替えた。

「ああん!!本当にメルティアネス様は愛らしいわ!!」
「まさに妖精の姫にふさわしい愛らしさよ」
「あはは、それは言い過ぎじゃないかな……」

 確かにめちゃくちゃ可愛いけど、自分のことだとどうしても気後れしちゃう。

「お嬢様のこの姿を見れば、お相手の方も骨抜きにされてしまうわね」
「相手は伯爵子息なんでしょ?高貴なお方を見慣れてるでしょうし、私なんてたかがしれてるわ」

 だって伯爵家以上の子息令嬢は皆美形ばかりだ。特に漫画で出てきた主要人物たちは皆群を抜いて美形、美人揃いだったし。
 メルティアネスは所詮可愛いだけの存在で、貴族としての素質も優雅さもない。だからこそ、婚約者にモノ扱いされて乱暴にされたんだし。

 怖い人なんだろうな……凶悪な顔とか?いやもしかしたら見た目は優男で裏で暴力を振るうようなDV男とか?とにかく今回の顔合わせで上手く切り抜けて婚約の話をなかったことにしてもらわないと。



 客間で緊張しながら待っていると、伯爵家の夫人と現当主と婚約者だろう少年が入室した。


「ようこそ、遠くからお越しいただきありがとうございます」
「いえいえこちらこそお招きしていただき感謝しますわ」

 お母様と夫人が挨拶して話し始めた。
 そんな中、私はただただ固まることしかできなかった。




「メルティアネス子爵令嬢。お初にお目にかかります。お、……僕はリューク=ディスアキアと申します」

 婚約者である少年、それは私の運命の人だった。
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