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容疑の民
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「アニーだ。審判まで一緒にここにいろ!」
背後にいたBさんがそう言いながら私の背中を押し、その勢いで前のめりになり、持っていた荷物は投げ出され膝をついてしまいました。
本当に乱暴な方たちですよね! ムッとしつつも近くにいる人影に目が奪われます。
アニーと呼ばれた女の子は一つにまとめた荒い三つ編みに髪を結っていて、薄汚れた顔につぶらな瞳と少し上向きの鼻、小さく結んだ口でこちらをじっと見ていました。
「二人とも命が惜しければ早いところ本当のことを言うんだな!」
「もう審判まであと2カ月もないから、わかってるな!」
捨てセリフのようにAさんが悪態をついた後、Bさんと共に去っていきました。
私はとりあえず立ち上がると目の前のアニーさんに声を掛けました。
「えっと、アニーさん、初めまして。私は橘窓香です」
かろうじて顔が見える明るさの中、握手をするために手を伸ばします。
状況は全く分かりませんがとりあえずは挨拶ですね。
紹介されたお仲間と判断しての行動です。
一応、微笑んだつもりだったのですが戸惑ったように一歩下がり、ただただ私を見つめるだけでした。
村に到着した際は全体で簡単に挨拶した程度だったので何かやり方が間違ってますかね?
現地特有のご挨拶というものが合って作法が違っていた、とか?
あ、もしかすると言葉の問題でしょうか?
先程から通じたつもりだったのでついそのまま話しかけてしまいました。
海外なのに全ての方々が日本語が解るとは限りませんよね。
つい調子に乗ってしまいました。よくよく考えるとそうですよね。
そこで英語で言い直そうとしていたらそれより先に大きくお腹の音が響き渡りました。
「わははははっ……」
ごまかしようもないのでこれはもう笑うしかないです。ただただカラ笑いするしかない。
こんな恥ずかしい状況の中、アニーさんは顔色一つ変えずにじっと見つめたままです。
もう気まずくて何だか悪いことをしてしまったかのような感覚になってしまいます。
けれど空腹は空腹です。朝以来、何も食べてませんからね。
時計がないのでわかりませんが薄暗さからいって夕食の時間帯を過ぎていることに間違いはないと思います。
とはいえ、何らかの容疑がかかっている私にとってそれにありつけるかは不明。
まさかこの小屋にある莫大な草を食べるってことはないでしょう。
途方に暮れて笑顔が引き攣っていくのを肌で感じます。きっと呆れてしまいますよね、当たり前に。
そういえば確かこのアニーさんは審判まで一緒に、と言ってましたよね?
ということは同じく何らかの容疑者でここにいる先輩ってことでしょうか。
雰囲気的に悪いような人には見えず、何故ここにいるのかさっぱり判りませんけど。
でも聞くに聞けませんよね、こういうことって。初対面では特に。
気まずい空気が流れる中、身動きすら取れない今、思考を巡らすことしかできません。
少し悶々としていたらアニーさんが突然、無言のまま、手を引っ張りました。
驚きつつもその力加減から無理やりということではなく、どうやら小屋から出て別の場所へ移動させたいようです。
促させるまま、連れられて行きますと先程通ってきた道にあった大きな建物の前に到着。
頑丈な石造りの屋敷らしく、外から見える窓からはぽつぽつと明かりが灯っていて影がちらちら動き、中に人がいる様子。
その一角の裏口らしきドアをトントンとアニーさんが叩きましたが何の反応もないまま。
それでもしばらく叩き続けるとようやく物音が聞こえてきました。
背後にいたBさんがそう言いながら私の背中を押し、その勢いで前のめりになり、持っていた荷物は投げ出され膝をついてしまいました。
本当に乱暴な方たちですよね! ムッとしつつも近くにいる人影に目が奪われます。
アニーと呼ばれた女の子は一つにまとめた荒い三つ編みに髪を結っていて、薄汚れた顔につぶらな瞳と少し上向きの鼻、小さく結んだ口でこちらをじっと見ていました。
「二人とも命が惜しければ早いところ本当のことを言うんだな!」
「もう審判まであと2カ月もないから、わかってるな!」
捨てセリフのようにAさんが悪態をついた後、Bさんと共に去っていきました。
私はとりあえず立ち上がると目の前のアニーさんに声を掛けました。
「えっと、アニーさん、初めまして。私は橘窓香です」
かろうじて顔が見える明るさの中、握手をするために手を伸ばします。
状況は全く分かりませんがとりあえずは挨拶ですね。
紹介されたお仲間と判断しての行動です。
一応、微笑んだつもりだったのですが戸惑ったように一歩下がり、ただただ私を見つめるだけでした。
村に到着した際は全体で簡単に挨拶した程度だったので何かやり方が間違ってますかね?
現地特有のご挨拶というものが合って作法が違っていた、とか?
あ、もしかすると言葉の問題でしょうか?
先程から通じたつもりだったのでついそのまま話しかけてしまいました。
海外なのに全ての方々が日本語が解るとは限りませんよね。
つい調子に乗ってしまいました。よくよく考えるとそうですよね。
そこで英語で言い直そうとしていたらそれより先に大きくお腹の音が響き渡りました。
「わははははっ……」
ごまかしようもないのでこれはもう笑うしかないです。ただただカラ笑いするしかない。
こんな恥ずかしい状況の中、アニーさんは顔色一つ変えずにじっと見つめたままです。
もう気まずくて何だか悪いことをしてしまったかのような感覚になってしまいます。
けれど空腹は空腹です。朝以来、何も食べてませんからね。
時計がないのでわかりませんが薄暗さからいって夕食の時間帯を過ぎていることに間違いはないと思います。
とはいえ、何らかの容疑がかかっている私にとってそれにありつけるかは不明。
まさかこの小屋にある莫大な草を食べるってことはないでしょう。
途方に暮れて笑顔が引き攣っていくのを肌で感じます。きっと呆れてしまいますよね、当たり前に。
そういえば確かこのアニーさんは審判まで一緒に、と言ってましたよね?
ということは同じく何らかの容疑者でここにいる先輩ってことでしょうか。
雰囲気的に悪いような人には見えず、何故ここにいるのかさっぱり判りませんけど。
でも聞くに聞けませんよね、こういうことって。初対面では特に。
気まずい空気が流れる中、身動きすら取れない今、思考を巡らすことしかできません。
少し悶々としていたらアニーさんが突然、無言のまま、手を引っ張りました。
驚きつつもその力加減から無理やりということではなく、どうやら小屋から出て別の場所へ移動させたいようです。
促させるまま、連れられて行きますと先程通ってきた道にあった大きな建物の前に到着。
頑丈な石造りの屋敷らしく、外から見える窓からはぽつぽつと明かりが灯っていて影がちらちら動き、中に人がいる様子。
その一角の裏口らしきドアをトントンとアニーさんが叩きましたが何の反応もないまま。
それでもしばらく叩き続けるとようやく物音が聞こえてきました。
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