御招待ありがとう~書道ガールが洋風異世界へ~

おりのめぐむ

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容疑の民

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 もう、そろそろ限界がきているようです。身体の異変が感じられます。
 正直、立ちっぱなしの上、空腹でクラクラし始めていましたが、現在2回目の食器を拭き取り中。
 あとどれくらいだとちらりと見ると気づいたら作業台に食べ物らしきものが置かれているのが目に入りました!
 もしかするともしかしてなものなのかとつい期待が膨らみます。
 するとアニーさんが私を引っ張ると作業台の方へと促してきました。
 これは食べていいよってことでしょうか? 先輩を差し置いて何たることでしょう!

「いえいえ、まだ食器拭き終わってませんから!」

 とお断りはするものの、無言のまま圧を送ってきます。
 こういう場合は先輩の指示には従わなければいけませんね。
 ちらりと眺めると布に置かれた焦げた固いパン数個とひびの入ったカップには具のかけらが入った汁物のようです。
 それもさっきの大鍋に残ったものを搔き集めて注いだようですね。
 アニーさんは私のやりかけの仕事にさっさと取り組んでいます。
 申し訳ないようですがこっちの様子に本人は全く気にかけてないようです。

「ではお先にいただきます」

 パンに手を伸ばし、手触りに違和感を覚えつつ、早速ひと口……。
 お腹が空いていたので大変嬉しいのですが如何せん、パンが固い。
 本当は見た目から予想はついてましたけどここまでとは。
 フランスパンがさらに乾燥した時のものですか、これは?
 しかも焦げているため、苦い。
 お店だったらどう考えても販売できない訳あり商品でしょう、これは。
 ガジガジと格闘していると作業を終えたアニーさんが横へと並んできました。
 そしてこの固いパンをカップのスープに浸して食べ始めてましたよ、なるほど。
 多少時間がかかったものの、どうにか食べ終えましたが今日の朝食よりも粗食過ぎて小腹が満たされた程度の量はちょっと少なすぎるような気が。
 ですが、それ以外に食べ物らしきものは何もないようなので文句の一つも言えません。
 もしかするとアニーさんはいつもこのような食事を?
 というより、何らかの容疑がかかっているからこのような扱いなのでしょうか?
 ぼんやりと固まっていたらアニーさんが私の手を取り、外へ向かい出しました。
 いつの間にか食べた後も片付いていますし……。
 どうやら元居た場所に戻る様子で手をつかんだまま、足早に進んでます。
 周囲はすっかり暗くなっていて夜空の星明りがかろうじて外を照らすのみ。
 夜道に女の子二人なんて少し危ない気もしますけど。
 そんな心配をよそに無事草小屋に戻りました。
 木で作られた屋根と壁だけの小屋は乾燥した草を保管しているだけの場所の様で、草を詰め込んでいる区切りがあるのみでほぼオープンスペースとなっていてとにかく広い様子。
 乾草を詰めてある脇にどうにか人が通れるスペースがあり、その一番奥になる、草と草の間にアニーさんは入っていきました。
 何気についていくと積んだ草を背もたれにしてしゃがみ込んだアニーさんが手招きします。
 誘われたとおりに移動し、草にもたれてみますとカサっと音が鳴り、そこそこに柔らかくていい感じです。
 アニーさんはそっと私に薄い布をかけるとあっという間に寝息を立てていました。
 どうやらこちらが寝室、ということのようですね。
 野外活動は経験してますがさすがにこのような場所は初めてです。
 乾燥した草のほんの少し甘い匂いは心地よい気もしますが、野外活動にもいろいろあると学び、つくづく世界は広いなぁと感じざるを得ませんね。
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