御招待ありがとう~書道ガールが洋風異世界へ~

おりのめぐむ

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沈黙の邂逅

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 その後もしつこく繰り返しました。どんなに冷たい反応があろうと諦めません。
 きちんと説明できればいいのですが簡潔に知らせるには名前以外に伝えられませんから。
 文字の練習も同じこと、納得いくまで粘る。自分ができることを諦めない。
 幼稚園の時、初めて書道パフォーマンスを見た時から夢を抱き、習字を通して学びましたよ。
 日々の積み重ねが今の私を作っているのを体感してますので絶対に!
 もちろん全てが完璧ではないですけど、今の自分ができることはやってみるがモットーです!
 食事の度、服を引っ張り名前を伝える。
 これを毎回繰り返すと流石に不審な巫女さんもおかしいと感じたと思います。
 冷ややかな態度から再び怪訝そうな顔つきへと戻っていきました。

「ご兄弟などいませんが」

 その言葉に私はようやく動かせるようになった首を前後に動かします。
 ますます怪訝そうになった巫女さんに対してアニーさんと繰り返したつもりです。

「兄弟はいません!」

 語気を荒げて繰り返す巫女さんに対して頷きます。
 不審そうな表情で見つめられながらもアニーさんと声にならない言葉を伝えます。

「……ご兄弟ではないのですか? 探しているのは……」

 その言葉に大きく頷き、名前を繰り返します。
 ですが巫女さんは首をかしげながらその場を去って行ってしまいました。
 それからしばらくして巫女さんが焦ったように戻ってきました。

「そのものはもしかして……」

 巫女さんが徐に私の足元の方面を指差します。
 もちろん、その方向に思い切り顔を向けることはできません。
 巫女さんはそっと私の背中に手を回します。
 そしてゆっくりと腰を支点にして抱き起こしました。
 急に視界が開けます。
 天井と壁周りしか見えなかった空間が広がりました。
 あちら側にもスペースがあったってことが発覚です!!
 先程、巫女さんの指差した方向を見つめると向こう側にこちらと対になるようにベッドがありました。
 足元をこちらに向けて誰かが横たわっているのが視界に入ります。
 遠目ではっきりとした姿を見たわけではないのに心臓がドキドキし始めました。
 あそこにいるのはもしかして!!!
 動けるはずもないのに全身に熱がこもり、その場所に近づきたくて体が反応します。
 思わず片手を伸ばし、声を発そうと力が入ります。

「あ、に、……さぁ、……んんん」

 きっとこの掠れた声は数メートル離れた相手には届かないでしょう。
 けれどもそう叫ばずにはいられなかったのです。
 アニーさんであって欲しい。そう願わずにはいられなかったから。
 言葉にしても相手には何の反応もなく、結局は誰だかも判りません。
 近づきたいのに動けない。もどかしさに涙が溢れてきます。

「あの者は貴方の傍で倒れていたそうです」

 巫女さんの言葉に確信しました。
 絶対にアニーさんだと!
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