御招待ありがとう～書道ガールが洋風異世界へ～

領主の使用人

１０

「なんて綺麗なのでしょう。これはどちらが考えたのですか？」

　ディアさんが驚いたように食卓で声を上げました。
　こんな反応されると逆に戸惑ってしまいます。
　早速、領主さまに提供されるであろう食事を見てそれにひと工夫しただけなのです。
　決して作ったわけではありません。
　さすが使用人のものとは違って素晴らしい料理が並べられておりました。
　一皿一皿丁寧に、そして味見をさせてもらえば比べようもないほど美味しいものでした。
　しいて言うならただ何となく物足りなく感じ、もったいない気がすると思ってしまいました。
　それはフチを囲むような柄の付いたとても高そうなお皿に食材が置かれているだけ。
　もちろん立派なお皿に盛り付けてあるのでそれなりに美味しそうに見えるのですが何というかもう一声欲しいというところです。
　そこでこうしていただければと盛り付けに際して少し口出しをしてしまったのです。
　盛り付けのコツは彩り、高さ、バランス。
　何故これを知っているのかというのは青蘭学園のおかげですけども。
　さすが日本屈指の超名門校ですので隅々まで学びになってます。　
　同じ素材の料理でも見た目が変わるだけでさらに美味しく感じられるということを比較で知りました。
　味は変わらないはずなのに不思議と高級感が増し、そして特別感を得られる。
　ただそれを実践したまでのことです。
　使用人のものとは違ってもっと上品な仕上がりになっただけですけど。
　
「私が少し助言させていただいただけです。大したことではありません」

　けれども食卓に座った役職の皆様は感嘆の声を洩らし続けます。
　あくまで作ったのは料理人の方々、私とアニーさんは運んだだけです。

「これはすぐにでも旦那様に提供できそうですな」

「きっと喜ばれることでしょう」

　そう口々にしながら判定結果が出たようでした。
　どうやら見習いに逆戻りすることはなさそうですが、過剰評価が怖いです。
　この時から何故かアニーさんと私は食事補助以外でも駆り出されることとなり、協力しながらできうる限りを尽くし頑張りましたよ。　
　それから３日後、ディアさん立ち合いの元、執事長から呼び出しがありました。
　ただ私一人だけのため、まるで先生に呼び出されているようで緊張します。
　何か不手際があったのかと、アニーさんと違ってこの国の文化が染みついてないので無意識に侵していてもおかしくありませんからね。
　執事長はもったいぶったように私の前に立つと咳払いをしてから告げました。

「この数日の働きぶりも評価され、旦那様がお目にかかるということです」

　予想は外れ、旦那様、いわゆる領主さまが会ってくれるらしいです。

「……では私に付いてくるように」

　そう促されながら背筋の伸びた後ろを追ったのでした。