眠り姫のキセキ

おりのめぐむ

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高鳴る想い

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「…お母さん、先生連れてきたよ」

 堅く瞳を閉ざして横たわる母の耳元で囁く。
 彼は少し離れた位置で立ち尽くしたまま。
 結局、こっちを見ようともしないまま、病室を抜け出していた。
 …そんなに母のことが好きだったの?
 あとを追いかけようとして飛び出した途端、何かの衝撃。

「宮村さん、大丈夫だった?」

 顔なじみの看護師長。
 謝罪し、周囲を見回しながら先生の姿を探す。

「橘川さんならきっとベランダよ」

 看護師長の言葉通り、休憩所フロアからのベランダにいた。
 手すりにもたれたまま、ぼんやりと遠くを見つめている。
 涼しくなった風が先生の髪をなびかせていた。
 その姿が何だか寂しげ。
 黙ったままの背中にギュッとしがみつく。

「私、先生を救いたかったの」

 母と会うことで解決できるなら。
 閉ざしたままの想いが開放できるなら。
 ――彼の心が救われるなら。

 想い人が横たわった姿なんて見たくなかったかもしれない。
 頭の中で後悔の念が過ぎる。
 余計なことをしてしまったんだ。
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