眠り姫のキセキ

おりのめぐむ

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封印された過去

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 先生の戸惑った顔。
 先生の驚いた顔。
 ――先生の少し笑った顔。

 全ては私の勘違いから始まった。
 先生の想い人は母ではなかった。
 その人は遠い昔に泡となって消えたと口にした。

 取り戻せない時間を悔やんで生きて、
 過去と決別しきれないまま過ごしている。
 あまりにも大きかった存在が、
 心のどこかに宿ったまま。

 悲しみの影を垣間見て、
 私は不思議と落ち着いていた。
 伝えきれなかった狂おしいほどの切ない思いが、
 そうさせてるのだと知っていたかのように。

 呪われた身体を持った私だから言える。
 痛いほど分かるその気持ち。

 大切な人の負担になること、
 迷惑をかけるぐらいなら、

 大事だからこそ幸せを願う。

 暗い未来が見通せるなら、
 自らが身を引いて、
 幸せになって欲しい。

 だけど、生かされた身体を持ったから言える。
 重荷を背負いながら初めて気づくこともあるんだって。

 誰かの生きがいになることも、
 励みになることも、
 共に乗り越えようとしてくれる気持ちも。

 ねえ、先生?
 無くしたものは取り戻せないかもしれないけど、
 その人が願ったことを受け継いでいかなきゃいけないと思う。
 いつまでも留まったままじゃ駄目なんだって。
 いつかは目覚めなきゃいけないんだって。
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