眠り姫のキセキ

おりのめぐむ

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真実の扉

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 10月も半ば。
 秋も深まり、肌寒い風。
 人恋しい季節の海。

 静かに聴こえる波の音。
 16歳の誕生日を迎えたその日。
 先生の想い人が亡くなった日でもある。

 閑散としたひと気の無い海。
 追悼の意味を込めて、
 波打ち際から花束を放つ。
 ゆっくりと弧を描きながら優しく受け止めた波に漂う。

「屋上で歌ってた曲は…」

 ポツリと言いかけたまま、口ごもる先生。
 答えるように屋上で響かせた曲を奏でる。
 想いを込めて届くように。

 潤んだ瞳の先生が問いかける。
 その曲の存在の認識を。

「私の父方の祖父が作った曲なんです」

 元ピアニストの祖父とその秘書をやってた父。
 私が生まれてから教わった曲。
 愛するものへ受け継いで欲しいと願った曲。

「もう一度、歌ってくれないか?」

 ほんの少し穏やかになった瞳が望む。
 歌は風に流され、波音と共に溶け込んでいく。
 全てを包み込む大気と海へ。
 目頭を押さえたままの先生が空を仰いだ。
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