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Chapter5 色欲の唇
第57話 七人の人間を選んだ存在
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「アスモデウス、だったな? お前はいつから怜奈と一緒にいる?」
黒時は怜奈を放置する形でベッドの上から降り、横に立つ美女の姿をした悪魔を見据え言った。
局部を黒いプロテクターのようなもので隠しているだけのその姿は、つい惹かれるものがあるが、既に黒時は冷め切っている。
というよりも、本来の自分を取り戻している。興奮もどぎまぎもしない。今なら平常心で怜奈を抱くことができそうだ、とそう思った。
まあ、そう思いながらやってみればああなってしまったわけだが。
『いつから? うーん、そうねえ。この世界で彼女が初めて自慰をした時から、かしら』
「洗脳でもしてるのか?」
『どういうことかしら?』
「怜奈がお前に従うように、洗脳でもしてるんじゃないのか?」
『うふふ。面白いことを言うわね、でも残念。私は何もしていないわ。彼女も言っていたでしょう? 私たちは友達なのよ』
「俺が信じるとでも?」
『さあ? 別に私にとっては、あなたが信じるか信じないかなんてどうでもいいもの。お好きにどうぞ』
黒時はアスモデウスの言っていることを信用したわけでもないし、そもそも友達という概念も理解できないのだが、それでもどうやら怜奈とこの悪魔にはなんらかの利害関係があるということは理解できた。
もしも洗脳によって怜奈がアスモデウスに操られているのなら、洗脳を解く方法を探す必要があったが、そうではないのなら発生している利害関係を把握せねばならない。
面倒ではあるが、洗脳よりかは幾分かましだろう。
結果を出すための手段が分かっているのと分かっていないのとでは、そこに費やす労力は雲泥の差なのだ。
「く、黒時様、どうされたんです? あの、私、もう我慢の限界で、だから、お願いです、早く……」
黒時は怜奈を一瞥する。
突然の悪魔出現に気を取られたが、怜奈のこの変わりようもいささか気になる。
まるで自分を敬っているかのような、崇めているかのような、そんな感じがする。つい先程までは敬語など使わず、年上と年下といった様子だったのに、これでは主従だ。主に懇願する奴隷だ。
「洗脳はしてない……、なら、他に何かしたのか? 明らかに様子が変だが」
『私は何も。したのはあなたでしょ?」
「どういうことだ?」
『直接的でも間接的でもない。でも、怜奈がこうなったのはあなたのせい。あなたがあなたらしくこの世界で生きているせいよ』
アスモデウスの言葉の意味が黒時にはまったく分からなかった。
怜奈に施した【何か】を隠す為に適当なことを言っているのだろうか。そう思って黒時は、更に探りを入れようとしたが、意外にもアスモデウス自ら説明を始めた。
『怜奈は知っているのよ。この世界の七人の人間のことを。選ばれた七人の人間、そしてそれらを選んだ存在。彼女は知っているの』
「お前が教えたのか?」
『ええ、そうよ。でも私が教えたのはそれだけ。七人の人間を選んだ存在と七人の人間が誰なのかは教えていないわ。私も知らないもの』
合点がいった。怜奈は分かっているのだ。誰が七人の人間を選んだ存在であるのかを。
だから、怜奈の態度が著しく変化した。
つまり彼女は、自分を選んだ存在を崇め奉っていたということだ。
「だが待て。そのことと、俺が俺らしく生きていたことになんの関係がある? 怜奈が七人の人間を選んだ存在が俺であると気付いているのなら、それは関係ないだろ」
『聡明なようで、少し間抜けなのかしら? あなたがあなたらしく生きている、だから怜奈は気付いたのでしょう? だって、あなた普通の人間とはちょっとずれてるじゃない』
普通の人間とはちょっとずれている、それゆえに怜奈は黒時のことを七人の人間とは別物だと考えたのである。いや、思い込んでいたのである。
怜奈が黒時と妬美に出会った時、彼女はそれまで誰にも出会っていなかったわけなので(ラブホテル街で瑠野は怜奈の存在に気付いていたが怜奈は気付いていなかった)、黒時が別の存在であると決め付けるのはあまりにも不自然過ぎたのだけれど、そのことに本人は気付いていない。
黒時とこの世界で出会えた喜びが、全ての不自然さを掻き消したのだ。
黒時は、普通の人間とはちょっとずれている。
だから、彼は七人の人間とは別の存在である。これはきっと、彼女にとってただの辻褄合わせといったところだったのだろう。
普通とはちょっとずれた人間なんて、この世界では普通なのだから。
黒時は怜奈を放置する形でベッドの上から降り、横に立つ美女の姿をした悪魔を見据え言った。
局部を黒いプロテクターのようなもので隠しているだけのその姿は、つい惹かれるものがあるが、既に黒時は冷め切っている。
というよりも、本来の自分を取り戻している。興奮もどぎまぎもしない。今なら平常心で怜奈を抱くことができそうだ、とそう思った。
まあ、そう思いながらやってみればああなってしまったわけだが。
『いつから? うーん、そうねえ。この世界で彼女が初めて自慰をした時から、かしら』
「洗脳でもしてるのか?」
『どういうことかしら?』
「怜奈がお前に従うように、洗脳でもしてるんじゃないのか?」
『うふふ。面白いことを言うわね、でも残念。私は何もしていないわ。彼女も言っていたでしょう? 私たちは友達なのよ』
「俺が信じるとでも?」
『さあ? 別に私にとっては、あなたが信じるか信じないかなんてどうでもいいもの。お好きにどうぞ』
黒時はアスモデウスの言っていることを信用したわけでもないし、そもそも友達という概念も理解できないのだが、それでもどうやら怜奈とこの悪魔にはなんらかの利害関係があるということは理解できた。
もしも洗脳によって怜奈がアスモデウスに操られているのなら、洗脳を解く方法を探す必要があったが、そうではないのなら発生している利害関係を把握せねばならない。
面倒ではあるが、洗脳よりかは幾分かましだろう。
結果を出すための手段が分かっているのと分かっていないのとでは、そこに費やす労力は雲泥の差なのだ。
「く、黒時様、どうされたんです? あの、私、もう我慢の限界で、だから、お願いです、早く……」
黒時は怜奈を一瞥する。
突然の悪魔出現に気を取られたが、怜奈のこの変わりようもいささか気になる。
まるで自分を敬っているかのような、崇めているかのような、そんな感じがする。つい先程までは敬語など使わず、年上と年下といった様子だったのに、これでは主従だ。主に懇願する奴隷だ。
「洗脳はしてない……、なら、他に何かしたのか? 明らかに様子が変だが」
『私は何も。したのはあなたでしょ?」
「どういうことだ?」
『直接的でも間接的でもない。でも、怜奈がこうなったのはあなたのせい。あなたがあなたらしくこの世界で生きているせいよ』
アスモデウスの言葉の意味が黒時にはまったく分からなかった。
怜奈に施した【何か】を隠す為に適当なことを言っているのだろうか。そう思って黒時は、更に探りを入れようとしたが、意外にもアスモデウス自ら説明を始めた。
『怜奈は知っているのよ。この世界の七人の人間のことを。選ばれた七人の人間、そしてそれらを選んだ存在。彼女は知っているの』
「お前が教えたのか?」
『ええ、そうよ。でも私が教えたのはそれだけ。七人の人間を選んだ存在と七人の人間が誰なのかは教えていないわ。私も知らないもの』
合点がいった。怜奈は分かっているのだ。誰が七人の人間を選んだ存在であるのかを。
だから、怜奈の態度が著しく変化した。
つまり彼女は、自分を選んだ存在を崇め奉っていたということだ。
「だが待て。そのことと、俺が俺らしく生きていたことになんの関係がある? 怜奈が七人の人間を選んだ存在が俺であると気付いているのなら、それは関係ないだろ」
『聡明なようで、少し間抜けなのかしら? あなたがあなたらしく生きている、だから怜奈は気付いたのでしょう? だって、あなた普通の人間とはちょっとずれてるじゃない』
普通の人間とはちょっとずれている、それゆえに怜奈は黒時のことを七人の人間とは別物だと考えたのである。いや、思い込んでいたのである。
怜奈が黒時と妬美に出会った時、彼女はそれまで誰にも出会っていなかったわけなので(ラブホテル街で瑠野は怜奈の存在に気付いていたが怜奈は気付いていなかった)、黒時が別の存在であると決め付けるのはあまりにも不自然過ぎたのだけれど、そのことに本人は気付いていない。
黒時とこの世界で出会えた喜びが、全ての不自然さを掻き消したのだ。
黒時は、普通の人間とはちょっとずれている。
だから、彼は七人の人間とは別の存在である。これはきっと、彼女にとってただの辻褄合わせといったところだったのだろう。
普通とはちょっとずれた人間なんて、この世界では普通なのだから。
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