おいしい毒の食べ方。

惰眠

文字の大きさ
6 / 14
ハンバーグ

しおりを挟む
 僕は、リビングの扉を開く。

 黒く焦げた匂いが漂っていた。

 デミグラスソースの甘く濃厚な臭いが部屋を包んでいたが、その中で特に目立つ匂いだった。

 心の中で予測した。
 きっと、今日の良いところは、形ではなかろうかと。

 僕が、椅子に座るとともにそれは運ばれる。

「ごめんなさい。少し焦がしちゃいました。」

 コトリと音を立てて、その皿が置かれる。

 皿の上には、目を疑いたくなるほどの暗黒物質があった。

 白い皿の一部に穴が開いているかのように錯覚するほどの黒い塊。
 形はと言えば、所々欠けていて綺麗とは言い切れない。
 いくら彩のためにと盛られたサラダが、皿の半分を占めていたとしてもそこに注目がいってしまう。
 その黒い物体が、白い湯気を立ち込めているので辛うじて焼き立てだという情報がわかる。

「いただきます。」

 白い艶やかなご飯が来たときに合わせて、手を合わす。

 始めに麦茶をのどに流し込み、ひっそりと深呼吸をする。

 箸を構え、一カケラ掬う。
 滑らかな動きで、口に運ぶ。
 倒れないようにと足に力を入れる。

「美味い…。」

「でしょ~。自信作なの。」

 確かにおいしい。

 彼女は、ハンバーグをこれまで数えきれないほど作ってきている。
 回数は十分と言っても良いくらい作られてきた。

 だが、ここまで上達するには何か秘訣というものを疑わざるを得ない。

「いつも以上に美味しいね。どうしたの?」

 彼女は、とても満足そうな笑顔で答える。

「ご近所さんからお肉もらったの~。」

「すごいね。」

「確か、ご親戚が畜産関係らしくて、それでお裾分けしてもらったの。」

「何のお肉なの?」

「鳥?」

「鳥か~珍しいね。」

「豚だったかも?いや、牛だったかも。」

「わからないの?」

「頂くときに、聞いたのだけど…。」

「忘れたんだね。そういうこともあるよ。もし、今度聞けたら聞いておいてくれる?」

「もちろん。夫が喜んでくれたんだもの。伝えておくね。」

「ありがとう。」

 さて、僕は何の肉を食べたのだろうか。

 僕は、この謎のひき肉と野菜の塊を口に運ぶ。

 恐怖よりも食欲がそそられる味だった。

 僕は、いつもよりも素早く食事が口に運ばれていった。

 相変わらず、この白飯の噛めば噛むほど生まれる旨味が、よりこの物体のおいしさを引き立たせる気がする。

 僕は、シャキシャキとするサラダとともに、これらを頂いた。

 あまりの美味さに皿ごと食べてしまいそうだった。

 彼女は、まるでいつもと変わらない様子で食事を続ける。

 そして、手を合わせた。

「ごちそうさまでした。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

処理中です...