おいしい毒の食べ方。

惰眠

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ハンバーグ

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 僕は、リビングの扉を開く。

 黒く焦げた匂いが漂っていた。

 デミグラスソースの甘く濃厚な臭いが部屋を包んでいたが、その中で特に目立つ匂いだった。

 心の中で予測した。
 きっと、今日の良いところは、形ではなかろうかと。

 僕が、椅子に座るとともにそれは運ばれる。

「ごめんなさい。少し焦がしちゃいました。」

 コトリと音を立てて、その皿が置かれる。

 皿の上には、目を疑いたくなるほどの暗黒物質があった。

 白い皿の一部に穴が開いているかのように錯覚するほどの黒い塊。
 形はと言えば、所々欠けていて綺麗とは言い切れない。
 いくら彩のためにと盛られたサラダが、皿の半分を占めていたとしてもそこに注目がいってしまう。
 その黒い物体が、白い湯気を立ち込めているので辛うじて焼き立てだという情報がわかる。

「いただきます。」

 白い艶やかなご飯が来たときに合わせて、手を合わす。

 始めに麦茶をのどに流し込み、ひっそりと深呼吸をする。

 箸を構え、一カケラ掬う。
 滑らかな動きで、口に運ぶ。
 倒れないようにと足に力を入れる。

「美味い…。」

「でしょ~。自信作なの。」

 確かにおいしい。

 彼女は、ハンバーグをこれまで数えきれないほど作ってきている。
 回数は十分と言っても良いくらい作られてきた。

 だが、ここまで上達するには何か秘訣というものを疑わざるを得ない。

「いつも以上に美味しいね。どうしたの?」

 彼女は、とても満足そうな笑顔で答える。

「ご近所さんからお肉もらったの~。」

「すごいね。」

「確か、ご親戚が畜産関係らしくて、それでお裾分けしてもらったの。」

「何のお肉なの?」

「鳥?」

「鳥か~珍しいね。」

「豚だったかも?いや、牛だったかも。」

「わからないの?」

「頂くときに、聞いたのだけど…。」

「忘れたんだね。そういうこともあるよ。もし、今度聞けたら聞いておいてくれる?」

「もちろん。夫が喜んでくれたんだもの。伝えておくね。」

「ありがとう。」

 さて、僕は何の肉を食べたのだろうか。

 僕は、この謎のひき肉と野菜の塊を口に運ぶ。

 恐怖よりも食欲がそそられる味だった。

 僕は、いつもよりも素早く食事が口に運ばれていった。

 相変わらず、この白飯の噛めば噛むほど生まれる旨味が、よりこの物体のおいしさを引き立たせる気がする。

 僕は、シャキシャキとするサラダとともに、これらを頂いた。

 あまりの美味さに皿ごと食べてしまいそうだった。

 彼女は、まるでいつもと変わらない様子で食事を続ける。

 そして、手を合わせた。

「ごちそうさまでした。」
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