おいしい毒の食べ方。

惰眠

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カレー

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 今日は休日。

 僕は、ゆったりとパソコンを目の前にしている。

 もちろん、行っていることは仕事だ。

 一銭の価値も生まれない、隠れた残業。
 かわいく言うなら宿題だろうか。
 学生たちがするように自宅に仕事を持ち込み、一生懸命にパソコンに向かい続けた。

 いくら僕が仕事を終わらせたところで、休日にはメールが送られ、そこから仕事の続きだ。

 書類の丁寧なまとめ直しや、僕が参加しない会議の資料作成をした。

 はっきり言うと、ブラックだろう。

 自宅に仕事を持ち込みたくない僕ではあるが、首の繋がれた犬であることを自覚せざるを得ない。

 僕は、彼女が呼ぶ声で現実に救われる。

「克己さん。入ってもいいですか?」

 彼女はノックして呼び掛ける。

「構わないよ。」

 彼女は、優しく扉を開く。

「今日のお昼はどうする?何か食べたいものはある?」

 僕は悩んで簡単そうな案を出す。

「カレーなんてどうかな?」

「カレーね。たぶん、作れるはず。頑張ってみるね。」

「ありがとう。」

 僕は、軽い感謝の言葉を言い放ち、彼女が扉を閉めるのを静かに見守った。

 そして、思考を巡らせる。

 “たぶん、作れる”
 それだけでも不安要素となるのに加え、曖昧さを加える“はず”という言葉を彼女は使った。

 正直言って、彼女の頑張るに信用度、信頼度というものは期待してはいない。

 紙とペンをとり、慌てて文字を書き起こす。

 カレー。

 これほど簡単なものはないはずだ。

 しかし、彼女だ。
 そこが、問題だ。

 彼女に一度カレーを作らせたとき、出来たものは真っ赤に染まっていた。
 激辛だったのだ。

 僕も知らないような調味料をいつの間にか仕入れていたようで、見ただけで汗が噴き出したのを覚えている。

 僕は、次の日にトイレとお友達になったというトラウマが脳裏をよぎる。

 今からでも、止めにかかろうか。

 しかし、それでは彼女を傷つけてしまう。
 そんな姿を見たくないため、黙って心の準備をするほかない。

 前回は、一言『辛い』と伝えておいたのだ。

 彼女の良いところで、僕の言っていたことは大抵の場合忘れない。

 そこから察するに、辛すぎるということはないはずだ。

 少し安堵し、新たな不安要素が浮上していることに気づく。

 それは、未知だ。

 何もわからないために、大粒の汗を額から滲み出される。

 彼女の笑顔で作る料理姿を思い出すと、自然と笑顔になれるのだが、体の拒否反応は止まらない。

 既知から未知を作る天才の彼女が今回はどのような傑作を作るのかを想像するだけでも日が暮れそうだ。

 僕は、せめて涼しい顔をして食事ができるようにと、パソコンに向き直した。

 楽しげな会話をすることだけに思考を丸投げした。


 静かな部屋にパチパチとタイピングの音を響かせ、彼女が僕を呼ぶ。

 いよいよだ。
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