だから、私は愛した。

惰眠

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第三章

哀れみ

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 彼は今日も可哀そうなくらいに傷つけられている。
 本当は彼が優しいということを私は知っている。

 優しさのおかげで、この現状を何とかできずにいる。

 きっと弱い立場でいる彼は、自分が簡単にこの現状を何とかできるほどの人物だと錯覚しているのだろう。

 本当は、臆病で何もできずにいるだけというのに、彼はあまりにも健気だ。

 毎日学校に登校するくせして、その実、行われていることはこの現状だ。
 何が楽しくて、ここに遥々やってきているのか、私にはわかりかねる。

 授業道具やその日の科目について忘れることはないまめな性格な癖に、誰にも助けを求めようとはしない。

 周りの人間は彼と関わることが嫌いだ。

 弱い人間に手を差し伸ばすのが優しさだとは聞くが、誰もが進んで自分も弱い人間になりたいとは思わないだろう。
 彼らに口出ししようものなら、彼と同じ目に合うのではないのかという恐怖が襲うのだろう。
 バカげている。

 口を出すのも直接である必要はなく、救い方は様々だとわかるはずだ。

 なんとも嘆かわしいことか。
 思考回路が停止した人間があまりにも多すぎるのだ。

 教師という存在にも飽き飽きする。
 空気を読むということを教わり続けたであろう大人が、何も動かない。

 空気を読みすぎるせいなのかもしれないが、愚かなものだ。

 このクラスの異常性にやって来た初日から気づけない人がいたのなら、それはきっと狂人か全く空気の読めないバカだろう。
 そんな人は、このクラスのほとんどが当てはまらないはずだ。

 このクラスの異常性に浸りきった者たちは、いつも彼を見て安堵する。

 あそこに私はいない。
 あそこに僕はいない。
 あそこに俺はいない。

 いじめているのは少数で、大多数が結託すればその異常は簡単に取り除けるはずだ。

 そんな平和をこのクラスではだれも望んでいない。
 現状が、平和なのだと錯覚し続けている。


 なんとも心地いいものか。

 私にとって、この繰り広げられる愚かな平和は、素敵な魅力がある。

 彼らの罵声は、明らかにクラスメイト達の耳には聞こえているはずだ。
 その罵声を聞けば、肩をびくつかせる数人の姿をいつも見かける。

 愉快だ。

 彼ら数人によって静かに支配されたこの空間は、何とも綺麗なものか。

 しかし、彼は完全には染まらない。
 まだ自分を保っている。

 私は、こんなにも狂ってしまった。
 クラスのせいと言えばそうではあるが、これは私が本来持っていた個性なのだとしたら、納得するものがある。

 人は簡単には変わらない。
 そうよく聞くが、良くも悪くもその通りなのだ。

 このクラスの顔を見れば御覧の通りだろう。

 私は、このクラスで特に異常であり正常だ。

 彼のことは、見て見ぬふりしているのではなく、じっくりと観察している。
 彼らのことをないものするのではなく、しっかりとそこにいると視認し、楽しんでいる。

 私にとってこの空間は、とても居心地が良い。

 理解に苦しむ人ばかりだろうが、つまらない人生にとても輝かしい光を与えてくれたのはここだ。
 何もおきないつまらなさから脱却できた喜びとは、これ以上にない興奮を誘うものだ。

 彼は、余りにも痛快に苦しむ。

 もう彼らにとって、なぜこのような事をしているのかということは、忘れているはずだ。

 それほどまでに彼らは、楽しそうに笑うのだ。

 次のいじめは何をしようか。
 次はどんなに苦しむのか。

 彼らは、無駄な思考を巡らせることが得意なようだ。

 私もそういうことが得意な部類だ。

 小説に書かれた一節から意味を考えるというのが好きでたまらない。

 まるで自身だけが知りえる答えへとたどり着いたような感覚に陥る。

 この空間も同様で、クラスの端から端まで誰がどのようなことを考えているのかということを考えることに時間を割くことが、たまらなく好きなのだ。

 私は、今日も彼の頭の中を探り続ける。
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