だから、私は愛した。

惰眠

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第三章

楽しみ

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 私は毎日、彼が傷つく瞬間が待ち遠しい。

 朝早くに学校に着いた時から、今日どんな事件が起きるのか妄想にふけることを唯一の楽しみとしている。

 彼らが、どんな発想で彼のことをいじめようとするのか耳を傾け、頭の中で予習をする。

 常日頃からの努力により、私の妄想力というのはレベルの高いものとなっている。

 彼らが話す言葉から、どのようなことが始まるのかを想像し、そこから本当に実行に移せそうなことを厳選する。
 だが、真にその通りに事が運んだなら、つまらないと思ってしまう私は、あまりにもわがままなのだと自覚している。

 恐らく、彼らは登校してこの場に着くまでに何度もその話で計画を立て続けているのだろう。
 そのため、たまに私の知らない事態へと発展していく瞬間があれば、心の中で飛び跳ねること間違いなしだ。

 彼はきっとここに来るまでに何もおきないでほしいと願っていることだろう。
 彼の願いはいつも敵わないというのに。

 例え、彼が七夕や絵馬に願いを書いたとしても、神社やお寺でお祈りをしたところでそんな願い事は聞いてくれない。
 私が許さない。

 彼が苦しむことが唯一の楽しみの私からしたら、彼の幸せは一番望まない姿だ。

 もし、そのようなことが起きそうなら、丑の刻参りでもして笑顔で呪うことだろう。


 私の前は常に平和だ。
 彼らは笑顔で彼のことをいじめ、彼は顔を歪め辛そうだ。


 人は恨みを持てば多くのものは根に持つものだ。

 彼らがそうしたように、彼もいつか大きな復讐を力にその動力をどこかに移すのだろう。

 もし彼が、彼らに死よりも恐ろしい復讐をする瞬間があるとすれば、私はぜひともその場に着かせてほしい。
 この目で、この体で、その時を待ち望む。

 私は、酷くどす黒い悪に染まってしまった。
 彼が染まらない代わりのようで、とても嬉しく思う。

 彼がいつか壊れてしまうのではないのかという心配はあるが、そのすれすれを責める彼らがとても素晴らしい。
 ここまでされても、彼は欠かさず学校には通うのだ。

 私の見えない所での親からの教育のせいかもしれないが、彼らの手加減のお陰と言ってもよいはずだ。


 私は毎日が楽しくて仕方がない。

 小学生が今日の献立の欄で好きな食材を見つけた時のわくわくに近しいものがある。

 彼らはあまりにも原始的で、醜く彼を責めるが、それが彼にとってはちょうどいいのだ。
 まるで猿のような彼らは、本能で彼の限界を悟るように程よくいじめる。

 自身が先生やその他の大人たちの標的にならないための保身かもしれないが、それが彼にとっては厄介なのであろう。
 または、彼はこれに快感を覚えているのかもしれない。

 いくら私でも、心の中まではわからない。

 想像しようにも限界はある。

 彼においては、誰とも会話をしようとはしないため、彼の感情を知るすべはないに等しい。
 それ故に、彼の趣味やその他の情報なんかも、ほとんど知らぬまま、私は永遠にも近い一目ぼれとやらを続けるのだ。

 彼が今までに好意を持った相手がいたのなら、例え同性であったとしても私は今の彼と同じく楽しい目に合わせてやりたい。
 もちろん、たっぷりの羨ましさを込めることは間違いない。


 私は、たまに彼との関係をどうしたいのか悩む瞬間が訪れる。

 そのたび、彼の顔を見ると忘れてしまえるのだ。

 まるで、大好きなペットにまた会えたかのようなその感情を持って彼のことを見つめる。
 恐らく彼には一切伝わらないであろうその感情は、私の深く闇の中で何者も染めることのできない自我の一つだ。

 彼は今日も酷い顔をしている。
 傷や汚れといった意味も含めるが、感情が表に出ているさまも含まれている。

 彼の涙一つで私はどれだけ笑顔になれることか。

 彼が苦しみ、むせび泣く姿を見るためなら、わざと近づき、優しくなだめることだろう。
 そして、私は彼を救わないのだ。

 見放さず、決して助けず、今までと同様の距離を続け、彼から程よく嫌われ続けたなら、私は毎日を充実したものとして新たな休日を作りたくなるだろう。

 彼は、今日も笑顔を見せない。

 とても残念なくらいにうれしい。

 たまに油断して、笑顔にでもなってくれたなら、現実という落差のお陰で、彼はもっとおかしくなってしまえるだろう。

 それが楽しみなのだ。
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