561 / 821
5章 天下統一
華北への旅路
しおりを挟む
羊祜が司馬朗を挑発して、家に帰ってくると蔡文姫が荷造りをしていた。
羊祜「叔母様、何処かに行くのですか?」
蔡文姫「えぇ。貴方も一緒に華北にね。せっかく死んだことになったんだから。ここから逃げ出さないとね」
羊祜「監視が緩んだとはいえ。そんな簡単にここから抜け出せるでしょうか?」
蔡文姫「簡単ではないけど。信頼できる人に手紙は送っておいたからね。そんなに期間がかからないうちに来てくれるはずよ。助けてくれるのならだけどね」
羊祜「助けてくれない可能性もあるのですか?」
蔡文姫「まぁ。護衛が見つからなかったとか、ね」
羊祜「護衛ですか?」
蔡文姫「私が助けを求めたのは、匈奴にいた頃に物を売りに来てくれていた商人なのよ」
羊祜「商人とは。物の売買を行う商人ですか?」
蔡文姫「えぇ」
羊祜「叔母様。流石に危険ではありませんか?」
蔡文姫「そうね。でも私たちが安全にここから脱出するには、これほど良い目眩しは無いと思わない?」
羊祜「そうですが、商人が危険を犯してまでこんなところに来ませんよ」
蔡文姫「えぇ。そうね。私もそう思う」
羊祜「それしか手が無いと」
蔡文姫「えぇ。彼が断った時点で終わり。間も無く戦場になるここで、骨を埋めるしか無いわね」
羊祜「・・・。来てくれることを願います」
それから数ヶ月が経ち、司馬家の者たちが行方をくらまし、鍾繇・鍾会父子が兗州軍を再編し始めた頃、蔡文姫が待ち侘びていた人物が来訪する。
???「準備に時間がかかってしまい申し訳ありません。御荷物は2つですね?」
にこやかな笑顔を浮かべる商人の男が居た。
蔡文姫「陶商殿、この度は私の我儘に付き合わせてしまい。誠に申し訳ございません」
陶商「お気になさらず。最近は、配送屋なんてものができましたので、こうして自分で荷物を運ぶのは久しぶりです。鈍っていないと良いのですが」
家先で話していると怪しんだ兗州兵が1人近寄ってきた。
兗州兵「貴様、何者だ!」
突然、兵士に話しかければ、動揺するものだが陶商は、全く動じないどころか。
陶商「商人ですが何か?」
兗州兵「商人だと!?食料はあるか?あるのならあるだけ買いたい!」
陶商「えぇ。ございます。勿論、お買い上げ頂けるのであれば御売りしますよ」
兗州兵「助かる。籠城することになるだろうからな。食料はいくらあっても困らん」
その兵はいくつかの食料をポケットに仕舞い込む。
兗州兵「このことは他言無用で頼む」
陶商「ハハハ。わかりました。こちらとこちらで、明細書を分けて、渡します。そうすればちょろまかしたと思われなくて済むでしょう?」
兗州兵「有難い。こちらも商人が来ていたとだけ伝えよう。道中、巻き込まれぬよう気をつけられよ」
陶商「御心遣い、感謝致します」
こうして、無事兗州兵を切り抜けた陶商は、荷台の中に荷物を運び込むながら2人も招き入れる。
そして。
陶商「良い取引ができました。また宜しくお願いします」
陶商のアドリブに咄嗟に合わせる蔡文姫。
蔡文姫「今、この街はこんな状態ですから次も取引できるかは、わかりません」
陶商「そうですか。それは残念です。早く、平穏を取り戻せることをお祈りしております」
蔡文姫「ありがとうございます」
陶商「では、私はこれで」
蔡文姫「こ、こんなにもらえません」
陶商「いつも、取引してくれている御礼ですので、お気になさらず。それに子供もいらっしゃることですし、何かと入り用でしょう?」
蔡文姫「御心遣い、感謝します。また平穏が訪れたら、取引は必ず陶商殿とさせていただきます」
陶商「嬉しいです」
このやり取りを他の兵士たちが不審に思うことは無く難なく陳留を抜け出すことに成功したのである。
羊祜「あの。陶商殿でしたよね?」
陶商「はい。何でしょう?」
羊祜「その。本当に商人なのですか?みたところ護衛も見当たりませんし」
陶商「昔は弟が務めてくれていたんですけどね。結婚して、子煩悩になりましてね。それにこうして自分で馬車を引くのは久しぶりなんですよ。昔、良くしていただいた蔡文姫様の頼みでもなければ、こんなこと引き受けませんでしたよ」
蔡文姫「そんな良くしていただいたのは私の方です。匈奴では手に入りにくい平地の物を安価な値段で売ってくださいました」
陶商「安価な値段ではありませんよ。うちでは、あの値段で利益が出るように取引できていただけのことですから」
羊祜「あの。この羽のようなものが描かれた絵は何ですか?」
陶商「それは、私が営んでいる希望商会のロゴです」
羊祜「ろご?」
陶商「ロゴというのは、図案化・装飾化された物のことです」
羊祜「な、成程」
陶商「まずいですね。荷物改めです。流石、最大の規模を誇る街、鄴ですね。曹丕殿の指示でしょうか。少し、床下に隠れていてください」
鄴兵「荷物改めだ。何を運んでいる?」
陶商「お酒と日持ちする干し肉などです」
鄴兵「フン。滞在日数は?」
陶商「1週間ほど」
鄴兵「ほぉ。一応、荷を確認させてもらう」
陶商「どうぞ」
鄴兵「良し。不審な物は無いな。だがこの量だと1週間は多いな。5日だ」
陶商「承知しました」
鄴兵「行ってよし」
無事に鄴の中に入ると陶商は一息つく。
陶商「もう大丈夫ですよ。狭いところに隠れてもらって申し訳ありま」
羊祜「何ですか!?この馬車!寝るところが付いてるだけでも豪華なのにこんな秘密の場所まで付いてるなんて!」
目を輝かせる羊祜に陶商は大人びていて子供らしさを感じなかったので、少し嬉しくなった。
陶商「私がこうするように作って欲しいと形にしてもらったのです。そんなに喜んでもらえると嬉しいですよ」
蔡文姫「こんなに楽しそうな羊祜は初めてです。本当に安全で快適な旅をありがとうございました。この御礼は、いずれ必ず」
陶商「楽しみにしています」
こうして無事に蔡文姫と羊祜の2人を届けた陶商は、持ってきた酒と干し肉を売り捌くと鄴を後にするのだった。
羊祜「叔母様、何処かに行くのですか?」
蔡文姫「えぇ。貴方も一緒に華北にね。せっかく死んだことになったんだから。ここから逃げ出さないとね」
羊祜「監視が緩んだとはいえ。そんな簡単にここから抜け出せるでしょうか?」
蔡文姫「簡単ではないけど。信頼できる人に手紙は送っておいたからね。そんなに期間がかからないうちに来てくれるはずよ。助けてくれるのならだけどね」
羊祜「助けてくれない可能性もあるのですか?」
蔡文姫「まぁ。護衛が見つからなかったとか、ね」
羊祜「護衛ですか?」
蔡文姫「私が助けを求めたのは、匈奴にいた頃に物を売りに来てくれていた商人なのよ」
羊祜「商人とは。物の売買を行う商人ですか?」
蔡文姫「えぇ」
羊祜「叔母様。流石に危険ではありませんか?」
蔡文姫「そうね。でも私たちが安全にここから脱出するには、これほど良い目眩しは無いと思わない?」
羊祜「そうですが、商人が危険を犯してまでこんなところに来ませんよ」
蔡文姫「えぇ。そうね。私もそう思う」
羊祜「それしか手が無いと」
蔡文姫「えぇ。彼が断った時点で終わり。間も無く戦場になるここで、骨を埋めるしか無いわね」
羊祜「・・・。来てくれることを願います」
それから数ヶ月が経ち、司馬家の者たちが行方をくらまし、鍾繇・鍾会父子が兗州軍を再編し始めた頃、蔡文姫が待ち侘びていた人物が来訪する。
???「準備に時間がかかってしまい申し訳ありません。御荷物は2つですね?」
にこやかな笑顔を浮かべる商人の男が居た。
蔡文姫「陶商殿、この度は私の我儘に付き合わせてしまい。誠に申し訳ございません」
陶商「お気になさらず。最近は、配送屋なんてものができましたので、こうして自分で荷物を運ぶのは久しぶりです。鈍っていないと良いのですが」
家先で話していると怪しんだ兗州兵が1人近寄ってきた。
兗州兵「貴様、何者だ!」
突然、兵士に話しかければ、動揺するものだが陶商は、全く動じないどころか。
陶商「商人ですが何か?」
兗州兵「商人だと!?食料はあるか?あるのならあるだけ買いたい!」
陶商「えぇ。ございます。勿論、お買い上げ頂けるのであれば御売りしますよ」
兗州兵「助かる。籠城することになるだろうからな。食料はいくらあっても困らん」
その兵はいくつかの食料をポケットに仕舞い込む。
兗州兵「このことは他言無用で頼む」
陶商「ハハハ。わかりました。こちらとこちらで、明細書を分けて、渡します。そうすればちょろまかしたと思われなくて済むでしょう?」
兗州兵「有難い。こちらも商人が来ていたとだけ伝えよう。道中、巻き込まれぬよう気をつけられよ」
陶商「御心遣い、感謝致します」
こうして、無事兗州兵を切り抜けた陶商は、荷台の中に荷物を運び込むながら2人も招き入れる。
そして。
陶商「良い取引ができました。また宜しくお願いします」
陶商のアドリブに咄嗟に合わせる蔡文姫。
蔡文姫「今、この街はこんな状態ですから次も取引できるかは、わかりません」
陶商「そうですか。それは残念です。早く、平穏を取り戻せることをお祈りしております」
蔡文姫「ありがとうございます」
陶商「では、私はこれで」
蔡文姫「こ、こんなにもらえません」
陶商「いつも、取引してくれている御礼ですので、お気になさらず。それに子供もいらっしゃることですし、何かと入り用でしょう?」
蔡文姫「御心遣い、感謝します。また平穏が訪れたら、取引は必ず陶商殿とさせていただきます」
陶商「嬉しいです」
このやり取りを他の兵士たちが不審に思うことは無く難なく陳留を抜け出すことに成功したのである。
羊祜「あの。陶商殿でしたよね?」
陶商「はい。何でしょう?」
羊祜「その。本当に商人なのですか?みたところ護衛も見当たりませんし」
陶商「昔は弟が務めてくれていたんですけどね。結婚して、子煩悩になりましてね。それにこうして自分で馬車を引くのは久しぶりなんですよ。昔、良くしていただいた蔡文姫様の頼みでもなければ、こんなこと引き受けませんでしたよ」
蔡文姫「そんな良くしていただいたのは私の方です。匈奴では手に入りにくい平地の物を安価な値段で売ってくださいました」
陶商「安価な値段ではありませんよ。うちでは、あの値段で利益が出るように取引できていただけのことですから」
羊祜「あの。この羽のようなものが描かれた絵は何ですか?」
陶商「それは、私が営んでいる希望商会のロゴです」
羊祜「ろご?」
陶商「ロゴというのは、図案化・装飾化された物のことです」
羊祜「な、成程」
陶商「まずいですね。荷物改めです。流石、最大の規模を誇る街、鄴ですね。曹丕殿の指示でしょうか。少し、床下に隠れていてください」
鄴兵「荷物改めだ。何を運んでいる?」
陶商「お酒と日持ちする干し肉などです」
鄴兵「フン。滞在日数は?」
陶商「1週間ほど」
鄴兵「ほぉ。一応、荷を確認させてもらう」
陶商「どうぞ」
鄴兵「良し。不審な物は無いな。だがこの量だと1週間は多いな。5日だ」
陶商「承知しました」
鄴兵「行ってよし」
無事に鄴の中に入ると陶商は一息つく。
陶商「もう大丈夫ですよ。狭いところに隠れてもらって申し訳ありま」
羊祜「何ですか!?この馬車!寝るところが付いてるだけでも豪華なのにこんな秘密の場所まで付いてるなんて!」
目を輝かせる羊祜に陶商は大人びていて子供らしさを感じなかったので、少し嬉しくなった。
陶商「私がこうするように作って欲しいと形にしてもらったのです。そんなに喜んでもらえると嬉しいですよ」
蔡文姫「こんなに楽しそうな羊祜は初めてです。本当に安全で快適な旅をありがとうございました。この御礼は、いずれ必ず」
陶商「楽しみにしています」
こうして無事に蔡文姫と羊祜の2人を届けた陶商は、持ってきた酒と干し肉を売り捌くと鄴を後にするのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる