えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

華北への旅路

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 羊祜が司馬朗を挑発して、家に帰ってくると蔡文姫が荷造りをしていた。

 羊祜「叔母様、何処かに行くのですか?」

 蔡文姫「えぇ。貴方も一緒に華北にね。せっかく死んだことになったんだから。ここから逃げ出さないとね」

 羊祜「監視が緩んだとはいえ。そんな簡単にここから抜け出せるでしょうか?」

 蔡文姫「簡単ではないけど。信頼できる人に手紙は送っておいたからね。そんなに期間がかからないうちに来てくれるはずよ。助けてくれるのならだけどね」

 羊祜「助けてくれない可能性もあるのですか?」

 蔡文姫「まぁ。護衛が見つからなかったとか、ね」

 羊祜「護衛ですか?」

 蔡文姫「私が助けを求めたのは、匈奴にいた頃に物を売りに来てくれていた商人なのよ」

 羊祜「商人とは。物の売買を行う商人ですか?」

 蔡文姫「えぇ」

 羊祜「叔母様。流石に危険ではありませんか?」

 蔡文姫「そうね。でも私たちが安全にここから脱出するには、これほど良い目眩しは無いと思わない?」

 羊祜「そうですが、商人が危険を犯してまでこんなところに来ませんよ」

 蔡文姫「えぇ。そうね。私もそう思う」

 羊祜「それしか手が無いと」

 蔡文姫「えぇ。彼が断った時点で終わり。間も無く戦場になるここで、骨を埋めるしか無いわね」

 羊祜「・・・。来てくれることを願います」

 それから数ヶ月が経ち、司馬家の者たちが行方をくらまし、鍾繇・鍾会父子が兗州軍を再編し始めた頃、蔡文姫が待ち侘びていた人物が来訪する。

 ???「準備に時間がかかってしまい申し訳ありません。御荷物は2つですね?」

 にこやかな笑顔を浮かべる商人の男が居た。

 蔡文姫「陶商殿、この度は私の我儘に付き合わせてしまい。誠に申し訳ございません」

 陶商「お気になさらず。最近は、配送屋なんてものができましたので、こうして自分で荷物を運ぶのは久しぶりです。鈍っていないと良いのですが」

 家先で話していると怪しんだ兗州兵が1人近寄ってきた。

 兗州兵「貴様、何者だ!」

 突然、兵士に話しかければ、動揺するものだが陶商は、全く動じないどころか。

 陶商「商人ですが何か?」

 兗州兵「商人だと!?食料はあるか?あるのならあるだけ買いたい!」

 陶商「えぇ。ございます。勿論、お買い上げ頂けるのであれば御売りしますよ」

 兗州兵「助かる。籠城することになるだろうからな。食料はいくらあっても困らん」

 その兵はいくつかの食料をポケットに仕舞い込む。

 兗州兵「このことは他言無用で頼む」

 陶商「ハハハ。わかりました。こちらとこちらで、明細書を分けて、渡します。そうすればちょろまかしたと思われなくて済むでしょう?」

 兗州兵「有難い。こちらも商人が来ていたとだけ伝えよう。道中、巻き込まれぬよう気をつけられよ」

 陶商「御心遣い、感謝致します」

 こうして、無事兗州兵を切り抜けた陶商は、荷台の中に荷物を運び込むながら2人も招き入れる。
 そして。

 陶商「良い取引ができました。また宜しくお願いします」

 陶商のアドリブに咄嗟に合わせる蔡文姫。

 蔡文姫「今、この街はこんな状態ですから次も取引できるかは、わかりません」

 陶商「そうですか。それは残念です。早く、平穏を取り戻せることをお祈りしております」

 蔡文姫「ありがとうございます」

 陶商「では、私はこれで」

 蔡文姫「こ、こんなにもらえません」

 陶商「いつも、取引してくれている御礼ですので、お気になさらず。それに子供もいらっしゃることですし、何かと入り用でしょう?」

 蔡文姫「御心遣い、感謝します。また平穏が訪れたら、取引は必ず陶商殿とさせていただきます」

 陶商「嬉しいです」

 このやり取りを他の兵士たちが不審に思うことは無く難なく陳留を抜け出すことに成功したのである。

 羊祜「あの。陶商殿でしたよね?」

 陶商「はい。何でしょう?」

 羊祜「その。本当に商人なのですか?みたところ護衛も見当たりませんし」

 陶商「昔は弟が務めてくれていたんですけどね。結婚して、子煩悩になりましてね。それにこうして自分で馬車を引くのは久しぶりなんですよ。昔、良くしていただいた蔡文姫様の頼みでもなければ、こんなこと引き受けませんでしたよ」

 蔡文姫「そんな良くしていただいたのは私の方です。匈奴では手に入りにくい平地の物を安価な値段で売ってくださいました」

 陶商「安価な値段ではありませんよ。うちでは、あの値段で利益が出るように取引できていただけのことですから」

 羊祜「あの。この羽のようなものが描かれた絵は何ですか?」

 陶商「それは、私が営んでいる希望商会のロゴです」

 羊祜「ろご?」

 陶商「ロゴというのは、図案化・装飾化された物のことです」

 羊祜「な、成程」

 陶商「まずいですね。荷物改めです。流石、最大の規模を誇る街、鄴ですね。曹丕殿の指示でしょうか。少し、床下に隠れていてください」

 鄴兵「荷物改めだ。何を運んでいる?」

 陶商「お酒と日持ちする干し肉などです」

 鄴兵「フン。滞在日数は?」

 陶商「1週間ほど」

 鄴兵「ほぉ。一応、荷を確認させてもらう」

 陶商「どうぞ」

 鄴兵「良し。不審な物は無いな。だがこの量だと1週間は多いな。5日だ」

 陶商「承知しました」

 鄴兵「行ってよし」

 無事に鄴の中に入ると陶商は一息つく。

 陶商「もう大丈夫ですよ。狭いところに隠れてもらって申し訳ありま」

 羊祜「何ですか!?この馬車!寝るところが付いてるだけでも豪華なのにこんな秘密の場所まで付いてるなんて!」

 目を輝かせる羊祜に陶商は大人びていて子供らしさを感じなかったので、少し嬉しくなった。

 陶商「私がこうするように作って欲しいと形にしてもらったのです。そんなに喜んでもらえると嬉しいですよ」

 蔡文姫「こんなに楽しそうな羊祜は初めてです。本当に安全で快適な旅をありがとうございました。この御礼は、いずれ必ず」

 陶商「楽しみにしています」

 こうして無事に蔡文姫と羊祜の2人を届けた陶商は、持ってきた酒と干し肉を売り捌くと鄴を後にするのだった。
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