えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

司馬仲達という男

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 俺の名か。
 司馬仲達と名乗っておこうか。
 というのも俺にはこの世界で生きた記憶などない。
 気が付いたらこうなっていた。
 この世界では、対して賢くもない俺だが現実世界では、医者の端くれだった。
 いきなり何を言ってるんだと思うかもしれないがこれは現実に起こったことだ。
 現実世界の俺は、とあるゲーム会社の出す三国志の武将を選んで、バッタバタと薙ぎ倒す爽快アクションゲームから三国志にハマった口だ。
 ゆえに真っ先に自分が司馬懿になっていると気付いた時、思わずフハハハハと笑ってしまった。
 しかし、この世界での司馬懿とやらはそんな笑い方をしないそうで、大層不思議がられた。
 ゆえに俺はこの世界に馴染むように言葉を矯正し、賢く見えるように振る舞った。
 戦など経験したこともなく人を救う側だった男だ。
 いきなり人を殺す側に回っても拒否反応しかなかった。
 どうやらここは、俺の知る世界の過去の世界などではなくどこか別次元なのだと思う。
 呪術とやらが蔓延り、それが各国を少しづつ蝕んでいく。
 それを感じ取れる人間も少なく、耐性の無い者には、先程起こったことが書き換わっていたこともあった。
 そんな中で、やはりこの世界では優秀な司馬家だ。
 兄弟も含めて全員が呪術を感じ取れた。
 司馬通の奴は、特に顕著で、都で起こったことを鮮明に馬鹿正直に官吏に話したら頭がおかしいと思われて、官職を取り上げられる始末。
 俺は父と共に呪術を追った。
 父とは、勿論この世界での父、司馬防のことである。
 だが、いつもそれは起こった後、その場に呪術を施した者をついに見つけることはできなかった。
 だから俺は、逆に考えた。
 呪術を追うのではなく近付こうと。
 そしたらいずれは向こうから接触してくるのでは無いかと。
 いざ、そう考え、呪術とやらに傾倒していることをそれとなく仄めかすと寄ってくるのは、下っ端ばかり、それもおそらく何も知らないクラスの。
 あぁいうのは、組織だって行なっているものと相場は決まっている。
 そして、己の心を殺した結果が悪道に走るということだった。
 しかし、殺しには未だ抵抗があった。
 だから人質を取ることを進言するに留まった。
 これが行けなかった。
 初めから赤に走ると決めたのなら人質に取った者を殺して、とことん悪に染まらなければならなかった。
 呪術に傾倒するものは、歪んだ心を持っている。
 心の綺麗なままでは、近付くことすら叶わない。
 現実世界では医者の端くれだった男が殺しに手を染める。
 なんと愚かなことだろう。
 だが、陳琳を殺した辺りから俺の考えは、多くの命を救うためには、小さな命など取るに足らないと思うようになっていた。
 医者失格だ。
 医者とは、どんな命だろうと平等に助ける者。
 決して、殺人など犯してはならないのだ。
 もっと早くに劉義賢と出会うことができていれば、何か変わったのだろうか。
 俺では止めることすら叶わなかった呪術による被害を善の心を持ちながら幾度も止めた秀才。
 あぁいう奴を人は英雄と呼ぶのだろう。
 しかし、不思議な話だ。
 俺の知る世界で劉備に弟は確かに存在する。
 しかし、名前が違うのだ。
 俺が知る世界での劉備の弟の名は、劉亮《リュウリョウ》、字は叔朗《シュクロウ》だったはずだ。
 しかし、この世界では劉亮の存在すらない。
 言い間違えたとか?
 いや、そう考えるにはあまりにも浸透しすぎている。
 劉備に弟が2人いた?
 それなら、それで劉亮も出せば良い。
 すまない。
 話が脱線してしまったな。
 どこまで話した。
 そうだ。
 医者というのは、犯罪者だろうが汚職した官僚だろうが浮浪者だろうが医術を志す者にとって、皆等しく一つの命であり、助ける事に力を注がなければならない。
 そんな俺が善人も善人、真っ当な事を言った陳琳を邪魔になるという短慮な理由で、惨殺したのだ。
 俺の手は、血で染まった。
 それでも奴らからの接触は無かった。
 もっと心を穢せと?
 呪術師は1人として、生かしておいてはならない。
 俺はさらに調べを進め、ある男に行きついた。
 この国を初めて統一した王である秦の始皇帝。
 晩年、不老不死を追い求めて、臣下に密かに暗殺されたはず。
 しかし、この世界での文献に秦の始皇帝は、不老不死を追い求めて、行方不明となり、秦は崩壊したと確かに書いてあった。
 しかし、事実は違う。
 秦の圧政に耐えかねた元六国出身者や劉邦に項羽という英雄が立ち上がり、打倒して前漢の世となるのだ。
 勿論、その時には既に始皇帝は死んでいるが。
 始皇帝が行方不明になったから崩壊した後の国は、新《シン》というらしい。
 秦を新しくするとでも考えたのか?
 また、脱線してしまったな。
 長く生きていると話が長くなるものだ。
 どこまで、話した?
 そうであった。
 呪術に近づくため俺は、下っ端の呪術師ですら利用した。
 その結果、大きくなった件もいくつかある。
 本当に申し訳なく思うが、あのようなものをずっと目の当たりにしてきた俺にとっては、最早滅するためには元を断つしかない事は分かりきっていた。
 行方不明となっている秦の始皇帝を。
 これはあくまで予測だ。
 ゆえに家族以外にこのような話をすることなどできん。
 ましてや、我が子と春華には、呪術の耐性すらなかった。
 ゆえに俺から遠ざける。
 だが、勘のいい女だ。
 俺に何かあると2人とも監視のように付けていた。
 だから徹底的に悪に徹した。
 遠ざけるために。
 結果としては、上々だ。
 昭の奴は、史実と同様に惚れた女に元に向かった。
 師の奴は、先ほど追い出した。
 これで、我が子が巻き込まれる事は無かろう。
 そして、俺の手元には鍾繇のやつが命をかけて、手に入れた怪しげな瓶がある。
 何れ、これが使われていない事を知った暗躍者が俺の前に現れるだろう。
 勝てるかわからない。
 だが、やれるだけのことはやるつもりだ。
 俺が行なった数々のことに対する罪滅ぼしも兼ねて、いや違うな。
 俺は、人を犠牲にしてきたことが間違っていなかったと思いたいのだ罪悪感を消すために。
 どこまで行っても浅ましい。
 現実世界で多くの命を救ってきた俺が随分と薄汚れた人間となってしまった。
 戦争とは、こうも人を荒ませるのか。
 それも、もうすぐ終わる。
 その場に俺は居ないだろう。
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