えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

陳留膠着(魏軍)

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 曹仁は、いまいち曹操の考えが読めずにいた。
 どうして、劉備との戦に拘るのか。
 息子の命を救われた曹仁からしてみれば、劉丁は敵であるが恩人でもある。
 要は、甘さが出てしまうものである。
 それは曹操とて同じだと言える。
 曹操は人質になっていた奥方たちを劉備に救ってもらっていた。
 そのことに感謝し、協力関係を結んでいた。
 なのに、5年の停戦を結び、停戦明けと同時に開戦したのである。
 全く訳がわからない。
 それに中原も華北も血を流しすぎた。
 もう血を流したく無い者たちも多い。
 特に、ここ陳留ではそれが随所に出ていて、最終的には逃げ出す始末であった。
 ここに残っているのは、ほぼほぼ曹仁の私兵と曹操のことを慕っている兵だけである。
 華北でも同様で、曹操が魏王になれば、蜀漢と友好関係が築かれると思っていた。
 もう血を流す必要はないと。
 しかし、結果は全くの逆であり、血を求められた。
 密かに抵抗勢力が出来上がるほど内部はガタガタなのである。
 その中、100万もの兵を用意できたのは、ひとえに曹操のカリスマ性によるものだといえよう。

 曹仁「呂布の動きはどうだ?」

 陳宮「あの猪にしては珍しく、動きませんなぁ」

 曹仁「ふむ。如何したものか。あのまま、何もせずに帰られても困る」

 牛金「なら挑発してよぉ。誘き出せば良いんじゃねぇか?」

 陳宮「こちらの猪もたまには良いことを言うものだ」

 牛金「テメェ、殴られてぇのか?」

 陳宮「おー怖い怖い。猪は、すぐに暴力に訴え出るから困りますなぁ」

 王双「牛金!また、殿からお叱りを受けたいのか?堪えろ」

 牛金「チッ。わーってるよ」

 そこに駆け込む1人の傷だらけの伝令兵。

 伝令兵「そ、曹仁、様、に、も、もうしあげ、ます」

 曹仁「その傷はどうした!ゆっくりで良い」

 伝令兵「じょ、汝南城が、しょ、蜀漢軍によって、か、陥落。よ、豫州は、しょ、蜀漢の手に、お、落ちました。ま、満寵、様と、しょ、蔣済、様は、なんとか、ぶ、無事に、だ、脱出。た、助けを、も、求めて、おります。な、何卒、我らをお助け、ください」

 そこまで言って事切れる伝令兵。
 その様子から豫州の凄絶さを物語っていた。

 曹仁「この兵のように豫州には殿に世話になったものが多数いる。恐らく皆死に物狂いで戦ったのであろう。手厚く葬ってやれ。牛金に王双、近くまで来ている満寵たちをここに招くのだ。決して死なせてはならん。追ってに容赦するな」

 牛金「承知した」

 王双「必ずや吉報をお届けします」

 馬に跨り、数人の兵を連れて、裏口からこっそりと出ていく牛金と王双。

 牛金「クソッ。イライラするぜ。あの陰険軍師がよ!でしゃばりすぎだろ!あんなのを重用するとか曹仁様も何考えてんだ!」

 王双「牛金、気持ちはわかるが今は堪えろ。また、揉めたら今度こそ殿に追い出されるぞ」

 牛金「チッ。わーってるよ。アァ。ムシャクシャするぜ」

 王双「牛金、気持ちは同じだ」

 2人は間も無くして、魏の一団と合流する。

 満寵「止まれ、何者だ!」

 牛金「うおっ。満寵様、やめてくださいって。俺です牛金です」

 満寵「牛金でしたか。どうしてこちらに?」

 牛金「傷だらけの兵が陳留城に知らせに来まして、迎えに」

 蔣済「満寵殿。これは」

 満寵「してやられました。陳留城に誰が残っていますか?」

 王双「血相を変えてどうしたんです?」

 満寵「その伝令兵は偽物です!我々が命からがら逃げてきたのです。生き残りなどいるはずがありません。もし、居たとしても敵の策略に使われたと考えるのが自然」

 牛金「待ってくれ、それじゃ今陳留がヤバいんじゃ!?」

 蔣済「さっきからそう言っておる。手遅れになる前に向かうぞ!」

 王双「は、はい。では、付いてきてください」

 その頃、陳留城。

 伝令兵?「良し仮死薬の効果は完璧っと。全く、死んだフリも楽じゃない。えーっと、羅憲隊長に頼まれていたのは、確か陳留城の食糧庫の焼失だったな」

 陳宮「全く油断も隙もありませんねぇ。死人が生き返るとは思いませんからなぁ」

 伝令兵?「!?ゴフッ。馬鹿な。見破られただと」

 陳宮「確かに上は血だらけでしたがねぇ。それだけ出血しているなら血の跡があるはずですよ。それがなかった、このことから企みなのは一目瞭然。残念でしたね役目を果たせずに」

 伝令兵?「へっ。いや、お見それした。間者として素直に潜入しておくべきだったかな」

 陳宮「馬鹿な!?後ろから刺したはず。何故、何ともない」

 伝令兵?「まぁ、密偵が後ろからの接近に気付かないなんて二流だよな。俺の名前は、変装の木兎ミミズク、食客集団闇夜団の1人ってだけ名乗らせてもらおうか。いやぁ、全く。見破られたのは初めてだ。でもよ。アンタ、仲間いねぇだろ?だから逃げられんだぜ。あばよ」

 陳宮「待て!まぁ、未然に防げたから良しとするべきか」

 曹仁「どうした!何があった!」

 陳宮「先程の伝令は敵方の密偵でしてな。逃げられてしまいました」

 曹仁「なんと!?では牛金たちは」

 陳宮「手遅れかもしれませんなぁ」

 牛金「勝手に殺すんじゃねぇよ!曹仁様、ご無事ですか。良かった」

 曹仁「お前たちも無事であったか。豫州は落ちて居なかったのだな。良かった」

 満寵「いえ、そのことについては残念ながら真実です。守り切れず申し訳ありませんでした曹仁殿」

 曹仁「満寵か。お前が無事ならまだ立て直せる。今はゆっくりと英気を養うが良い」

 満寵「お心遣い、痛み入ります」

 こうして、曹仁と満寵は無事に合流することができ、陳宮は密偵と1人で対峙してしまったがために取り逃してしまったのである。
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