信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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3章 タルカ侵攻作戦

1話 タルカ会議

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 サブロー・ハインリッヒに喧嘩をふっかけたデイル・マルの治めるタルカ郡では、招かれざる客がやってきていた。

 デイル「ヒヒッ。まさかこちらの要望通りにきてくださいますとは、思いませんでしたよ。ヴァルカス・フォン・シュタイン軍団長殿」

 立派な顎鬚を撫で回しながらデイル・マルの臣下たちに睨みを効かせるのは、マジカル王国の軍団長が1人、ヴァルカス・フォン・シュタインである。

 ヴァルカス「こちらにも旨みのある話と聞けば、陛下が使者を派遣するのも無理ないこと。しかし、こちらに旨みのない話であった時、どうなるかわかっているのであろうな?」

 デイル「ヘイヘイ。よーく心得ておりますよ。貴方方の欲する物が見つかりましたと言えばどうですぅ?」

 ヴァルカス「ほほぉ。こちらの欲する物が見つかったとな。話を聞く価値ぐらいはあると見えるな」

 デイル・マルの臣下たちは、突然の敵国の使者の到来に縮み上がっている。
 さらに自分たちのことをまるで獲物でも見るかのように獰猛な目で舐め回されたのだ萎縮しているのも無理はない。
 それもそのはず、ヴァルカス・フォン・シュタイン軍団長と聞けば、マジカル王国の魔法騎兵団を率いる団長の1人であり、魔法を付与され重くなった爆撃する槍を軽々と投げまくることから、爆撃槍のヴァルカスと恐れられている男である。

 デイル「えぇ。えぇ。必ず満足いただけるお話ですよぉ。ヒヒッ」

 ヴァルカス「それは楽しみだな」

 敵国の恐ろしい男を前にデイル・マルが普通に話していることもここに集められた臣下たちは、不気味に思えて、より一層居心地の悪い場所となっている。

 デイル「ヒヒッ。今より数ヶ月も前の話になるんですがねぇ。敵対する事になったサブロー・ハインリッヒの治めるハザマオカ砦を急襲した時に急な突風に部下たちの首が刎ね飛ばされてしまいましてねぇ」

 ヴァルカス「急な突風とな?(まさか、こちらで取り押さえている水の民や火の民の他の存在がこの地にいるというのか。惜しい。奴らの使い方も知らぬ馬鹿どもの地に。いっそのこと上に相談して滅ぼすか?いや、ダメだな。陛下の考えは、アイランド公国を緩衝地帯に、魔導兵の実戦練習を兼ねること。来るべき北の蛮族共に備えるためにゆえに秘密裏に裏でガルディアン王国とお互いの兵器利用を目的とした演習と称する戦を定期的に行っているのだ。アイランド公国が調子に乗らないように狙い撃ちする形でな)」

 デイル「えぇ。えぇ。興味がお有りでしょう?何せ。おっと。これ以上は言ってはいけませんでしたかなぁ。ヒヒッ」

 ヴァルカス「(白々しい男だ。こちらがどのようにして魔導兵を作り出しているか知ってる癖に。貴様の呼び出しで無ければわざわざここまで足を運んではいない。だがスパイのお前がこの地の奴らの場にワシを呼び出したのはどういうわけか。今のでお互い詮索しないように話を進めようということは伝わった)フン。貴様はこう言いたいわけだな?マジカル王国以外に魔法を使える存在はいない。ゆえに、そのサブロー・ハインリッヒに我がマジカル帝国が手を貸しているのではないかと」

 デイル「えぇ。えぇ。お認めになられないのでしたら。マジカル王国以外に魔法を使う存在が現れたという事になりますねぇ。いやはや、これをマジカル王国側は許せるのですかねぇ。ヒヒッ」

 デイル・マルの言葉を聞き臣下たちは、マジカル王国を巻き込みサブロー・ハインリッヒに一矢報いるのかと鮮やかな手並みに歓喜していた。

 ヴァルカス「(成程。此奴め。考えたな。我らが好き勝手に風の民を探せるように招き入れる大義名分を与えようということか。相変わらず陰険で、スパイ向きの男だ)断固として許すことはできんな。良いだろう。そういうことであれば、タルカにマジカル王国は兵を送ろうではないか」

 デイル「ヒヒッ。話が早くて助かりますよぉ。馬鹿な陛下の方はこちらで説得しますので、そちらも賢王の説得宜しく頼みますよぉ~」

 馬鹿な陛下と聞き、何人かの臣下たちは胃のあたりを抑えていた。
 こんなことを聞かれれば、不敬罪として首を討たれても仕方ない。
 いくらなんでも自国の王を落として、相手の王を立たせるなど。
 しかし、誰1人として何も物申せない。
 ヴァルカス・フォン・シュタインがとてつもなく怖かったからである。
 やり取りを終えた2人は、誰にもかかれないところで話をしていた。

 ヴァルカス「お前にしては、中々良い策ではないか。クライム・フォン・トッテナムよ」

 デイル「その名で呼ばれたのは久しぶりですねぇ。ヴァルカス卿。賢王は相変わらずで?」

 ヴァルカス「あぁ。宰相と毎日のようにやり合っている」

 クライム「やれやれ、あの宰相も我らがどれだけ水の民と火の民から恩恵を受けているか理解できていると思っていたんですがねぇ」

 ヴァルカス「相も変わらず、殺して魔石を取り出し、幼い子供たちに予防接種と称して埋め込むのはやめろの一点張りだ。あの幼児たちが成長して、我らの力となるというのに反吐が出る。あのような異質な存在。おっと。水の民と火の民がワシたちのお役に立てる機会を奪おうと言うのだからな。さらにここにきて、森に隠れ住む忌々しい奴らまで発見したとは行幸よ」

 クライム「えぇ。えぇ。我らが戦っている間にヴァルカス卿は、索敵部隊を放って、大いにオダ郡を調べると良いですよぉ~」

 ヴァルカス「これで、また陛下の信頼を得られるというもの。だが向こうに魔法を使う奴らがいるのならこちらも魔導兵を貸し出してやろう」

 クライム「いえいえ。虎の子をこんなところに派遣して、寝返られでもしたら厄介ですからねぇ。聞きましたよ。魔道師団長と水の魔石を埋め込んだ女が逃げたという話」

 ヴァルカス「北の蛮族どもの国境線を越えられてしまい追えなくなったのは、厄介だ。だが、たった2人では今頃蛮族どもになぶり殺されていることだろう。女の方は、まぁ奴隷落ちしても問題ない。水の魔石を埋め込まれた女が子供を産んでも子供に魔法は受け継がれないのは、既に研究済みであるからな」

 クライム「ククッ。順調そうで何よりです。もうそろそろ、馬鹿どもを率いるのも飽きてきたので、仲間同士で同士討ちしてもらって、影武者にでも罪をなすりつけて、マジカル王国に帰還させてもらいますよ」

 ヴァルカス「あぁ。それが良かろう」

 こうして、タルカにおけるデイル・マルことクライム・フォン・トッテナムは、マジカル王国の利益のためにオダ郡から風の民を奪うことを画策したのであった。
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