17 / 166
1章 第六天魔王、異世界に降り立つ
17話 砦建設
しおりを挟む
サブローの言葉に目を丸くするマリーに再び尋ねる。
「マリーよ。もう一度聞くが魔法で即席の砦を作ることはできるか?」
「言葉の意味がわかりかねます。砦とは何ですか?」
ん?
砦が何かだと?
いや、待て。まさかこの国では砦を築くことは無いのであろうか?
確かに国境に接しているのに、関所らしいものも見当たらぬが。
これが普通であったのか。父よ。すまぬ。無能と罵ったことは謝ろう。
しかし、マリーについて一つわかったことがある。この反応、恐らくマリーたちエルフの住む村・街・国のいずれかは、このアイランド公国の近くにある。
心躍るではないか。弓の扱いに長け、魔法の扱いに長け、近接戦闘にも長ける。得て不得手があろうとそのような者たちを味方にできれば、どれ程の戦力となろうか。楽しみが増えた、な。
「砦とは、防衛拠点のことじゃ」
「防衛拠点?街ではダメなのですか?」
成程、マリーのこの反応で、この国について、また一つわかったことがある。どうやら、この国では、街があるところ以外に砦などの防衛施設を作らないということだ。
「街まで侵入を許して、領民を不安にさせるなど為政者のすることではない。領民を守るため国境近くや立地の良い場所に砦を作り街までの間に迎撃して、領民を安心させるのが為政者というものだ」
「兵を分散させるのは得策では無いのではありませんか?街で受ければ、全ての兵力を動員できますよ?」
「それは間違いでは無いがあくまで最終手段だな。ワシは、領民を悪戯に戦に巻き込むつもりなどない。策を用いて迎撃できるのなら少数だろうが打って出て、敵将を葬る」
「成程、若様のお考えはわかりました。どのような防衛拠点にするつもりでしょうか?」
サブローは、紙を取り出すとスラスラスラと書き込んでいく。山のような小高い丘をジグザグに迷路のように道を作り、馬による移動に制限をかける。さらに丘の上の方には、大きな石を用意しておく。落石攻撃である。それだけでなく弓櫓を作り、弓による攻撃で、頂上に到達するまでに兵士を減らす工夫をした。
「これが砦なのですか?」
「うむ。どうじゃ。マリーの戦闘における魔法もみたいがワシはな。ワシを追いかけて来てくれるであろう家臣たちにもな。自身という手柄を立てさせてやりたいのだ。ヤスもタンザクも負け戦を経験した。皆で勝つ喜びを教えてやりたいのだ」
「若様は、ヤス様とタンダザーク様のケアの事も考えていたのですね。わかりました。このような簡単なもので良いのなら3日もあれば完璧に仕上げられますね」
マリーが自信満々で言うのを聞いて、サブローは嬉々として頷く。
「では、頼む」
結論として、マリーの魔法は鮮やかだった。風魔法で小高い丘を削り歩きやすい道を作り、ところどころで迷わせるような分かれ道を多数用意し、その片方は必ず窪みに行き着くようにした。
なぜ窪みにするか?
それは、魔法と弓を当てやすくするためである。丸い広場みたいになっている窪みで、行き止まりとわかって、引き返そうとしたところに弓や魔法が飛んでくるのである。敵にとってこれ程恐ろしいことはないだろう。
そして、正解の道を進んだからといって、大丈夫かといわれると、その頭上には、土魔法によって作られた大きな丸い岩の塊がある。落石である。手すりや柵などないところに岩が降ってくるのだ。当たれば、たちまち真っ逆さまに落下し、生き残ることは不可能だろう。
「このような感じで如何ですか?」
「期待以上の働きよな」
「お褒めくださり光栄にございます若様」
「にしても魔法とはこのようなことまで可能なのか」
「えぇ。まぁこんな事に魔法を使うのは若様ぐらいでしょうが」
「であるか」
サブローは、ニヤリと笑みを浮かべ眼下を見る。そこは、先程まで何も無かった山のような小高い丘ではなく、罠を張り巡らせ、攻め寄せた敵を葬る防衛拠点なのである。
しかし、この山のような小高い丘を越えなければ、オダ郡にたどり着けないわけではない。だが、そこにオダ郡を治める領主がいたとしたらどうだろうか?
ナバル郡もタルカ郡も狙いはオダ郡を併合し、郡を大きくすることである。そのために領主という存在は邪魔なのである。それが街まで行かずとも殺せて目的が成し遂げられる可能性があったとしたら?
答えは簡単だ。無理をしてでも小高い山を登り、領主であるサブロー・ハインリッヒを討つ。
かつて日の本で織田信長が対峙した今川義元はその上をいく。その戦力差は織田軍2千と今川軍2万5千。約12倍である。だが、これは全体で見たときであり、実際に対峙したのは、織田軍2千と今川軍6千程であり、3倍の差なのだ。それも打てる策を全て使って勝ち得た勝利なのである。
此度は、オダ郡6百とナバル郡とタルカ郡の連合軍3千。5倍の差に見えるが実際こちらの兵数はもっと少ないだろうとサブローは考えていた。
「ククク。最大で10倍の差か。策の見せ所よな」
「若様、楽しそうなところ申し訳ありませんがロー様たちが来たようですよ」
「であるか」
ローたちが到着したのは、3日目。そして、マリーに作らせた砦の完成も3日目。眼下には未だナバル郡とタルカ郡の兵は現れない。さらに勝ちを手繰り寄せるためサブローは集まった皆に追い返す作戦を指示する。
「マリーよ。もう一度聞くが魔法で即席の砦を作ることはできるか?」
「言葉の意味がわかりかねます。砦とは何ですか?」
ん?
砦が何かだと?
いや、待て。まさかこの国では砦を築くことは無いのであろうか?
確かに国境に接しているのに、関所らしいものも見当たらぬが。
これが普通であったのか。父よ。すまぬ。無能と罵ったことは謝ろう。
しかし、マリーについて一つわかったことがある。この反応、恐らくマリーたちエルフの住む村・街・国のいずれかは、このアイランド公国の近くにある。
心躍るではないか。弓の扱いに長け、魔法の扱いに長け、近接戦闘にも長ける。得て不得手があろうとそのような者たちを味方にできれば、どれ程の戦力となろうか。楽しみが増えた、な。
「砦とは、防衛拠点のことじゃ」
「防衛拠点?街ではダメなのですか?」
成程、マリーのこの反応で、この国について、また一つわかったことがある。どうやら、この国では、街があるところ以外に砦などの防衛施設を作らないということだ。
「街まで侵入を許して、領民を不安にさせるなど為政者のすることではない。領民を守るため国境近くや立地の良い場所に砦を作り街までの間に迎撃して、領民を安心させるのが為政者というものだ」
「兵を分散させるのは得策では無いのではありませんか?街で受ければ、全ての兵力を動員できますよ?」
「それは間違いでは無いがあくまで最終手段だな。ワシは、領民を悪戯に戦に巻き込むつもりなどない。策を用いて迎撃できるのなら少数だろうが打って出て、敵将を葬る」
「成程、若様のお考えはわかりました。どのような防衛拠点にするつもりでしょうか?」
サブローは、紙を取り出すとスラスラスラと書き込んでいく。山のような小高い丘をジグザグに迷路のように道を作り、馬による移動に制限をかける。さらに丘の上の方には、大きな石を用意しておく。落石攻撃である。それだけでなく弓櫓を作り、弓による攻撃で、頂上に到達するまでに兵士を減らす工夫をした。
「これが砦なのですか?」
「うむ。どうじゃ。マリーの戦闘における魔法もみたいがワシはな。ワシを追いかけて来てくれるであろう家臣たちにもな。自身という手柄を立てさせてやりたいのだ。ヤスもタンザクも負け戦を経験した。皆で勝つ喜びを教えてやりたいのだ」
「若様は、ヤス様とタンダザーク様のケアの事も考えていたのですね。わかりました。このような簡単なもので良いのなら3日もあれば完璧に仕上げられますね」
マリーが自信満々で言うのを聞いて、サブローは嬉々として頷く。
「では、頼む」
結論として、マリーの魔法は鮮やかだった。風魔法で小高い丘を削り歩きやすい道を作り、ところどころで迷わせるような分かれ道を多数用意し、その片方は必ず窪みに行き着くようにした。
なぜ窪みにするか?
それは、魔法と弓を当てやすくするためである。丸い広場みたいになっている窪みで、行き止まりとわかって、引き返そうとしたところに弓や魔法が飛んでくるのである。敵にとってこれ程恐ろしいことはないだろう。
そして、正解の道を進んだからといって、大丈夫かといわれると、その頭上には、土魔法によって作られた大きな丸い岩の塊がある。落石である。手すりや柵などないところに岩が降ってくるのだ。当たれば、たちまち真っ逆さまに落下し、生き残ることは不可能だろう。
「このような感じで如何ですか?」
「期待以上の働きよな」
「お褒めくださり光栄にございます若様」
「にしても魔法とはこのようなことまで可能なのか」
「えぇ。まぁこんな事に魔法を使うのは若様ぐらいでしょうが」
「であるか」
サブローは、ニヤリと笑みを浮かべ眼下を見る。そこは、先程まで何も無かった山のような小高い丘ではなく、罠を張り巡らせ、攻め寄せた敵を葬る防衛拠点なのである。
しかし、この山のような小高い丘を越えなければ、オダ郡にたどり着けないわけではない。だが、そこにオダ郡を治める領主がいたとしたらどうだろうか?
ナバル郡もタルカ郡も狙いはオダ郡を併合し、郡を大きくすることである。そのために領主という存在は邪魔なのである。それが街まで行かずとも殺せて目的が成し遂げられる可能性があったとしたら?
答えは簡単だ。無理をしてでも小高い山を登り、領主であるサブロー・ハインリッヒを討つ。
かつて日の本で織田信長が対峙した今川義元はその上をいく。その戦力差は織田軍2千と今川軍2万5千。約12倍である。だが、これは全体で見たときであり、実際に対峙したのは、織田軍2千と今川軍6千程であり、3倍の差なのだ。それも打てる策を全て使って勝ち得た勝利なのである。
此度は、オダ郡6百とナバル郡とタルカ郡の連合軍3千。5倍の差に見えるが実際こちらの兵数はもっと少ないだろうとサブローは考えていた。
「ククク。最大で10倍の差か。策の見せ所よな」
「若様、楽しそうなところ申し訳ありませんがロー様たちが来たようですよ」
「であるか」
ローたちが到着したのは、3日目。そして、マリーに作らせた砦の完成も3日目。眼下には未だナバル郡とタルカ郡の兵は現れない。さらに勝ちを手繰り寄せるためサブローは集まった皆に追い返す作戦を指示する。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる