信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
16 / 166
1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

16話 エルフについて

しおりを挟む
 マリーは、ロー・レイヴァンドに報告した後、その姿を黒髪眼鏡金平糖大好き召使いの姿から金髪碧眼長耳エルフへと姿を変え、サブロー・ハインリッヒを担いで、すぐさま見下ろせる丘の上へと向かう。

「ほぉ、えるふ?とやらはこうも早く動けるのだな」

「私たちは風の精霊様に特に愛されていますから、風が味方してくださるのです。それより若様、苦しかったりはしませんか?」

「心配せずとも良い。マリーのかけてくれた風の魔法とやらで、呼吸できているぞ」

「良かったです。ここまで全力で走ったのは久々ですから若様にどんな被害があるか心配だったのです」

「それよりも驚いたのは、マリーよ。その胸じゃ!どうして、そんなに縮む?」

 サブローのデリカシーのない言葉に呆れながらも答える。

「はぁ、若様って、デリカシー無いですよね?確かに私の胸は小さいですがエルフに大きい胸の人なんて、なかなか居ませんよ。そもそも、大きかったら動く時に邪魔なんで!羨ましいとか無いですからね!」

「でりかしー?という言葉は知らぬが大きいと動きにくいじゃと?胸が大きくて尻が大きいのが女性というものだろう。子供を産んで育てるのだからな。いや、待て帰蝶の奴は小さかったか?」

「デリカシーとは、繊細とか気配りとか配慮って意味です。それにキチョウ?って誰ですか?まさかその歳で、女を引っ掛けたんですか?はぁ、先が思いやられますね」

「そのようなことなどせんわ!まぁ、そのこっちの話だ。デリカシーとやらのことはよくわかったが。申し訳なかったな」

 しかし、子供を産むのには、大きい尻の方が何かと良いと言われてきたし、胸の方もな子供に乳を与えるのだ大きい方が良いと。まぁ、ワシは恒興ツネオキの母の乳を吸って育ったがな。

 恒興とは、信長の家臣でもあり乳兄弟でもある池田恒興イケダツネオキのことであり、信長は、乳母の乳首を噛み破るという癖があり、困らせていたのだが池田恒興の母である養徳院ヨウトクインが乳母となってからは、その癖が治ったそうだ。

 養徳院か。夫と死別してからは父の側室となったから義母でもあるのだがな。アヤツの乳首は噛み破れんかったな。

 噛む方がよく出たのだ。だからそれが普通と思い込んでいたワシの考えを打ち砕いてくれた。他の乳母よりも乳首は凹んでいて、吸い出さねば吸えなかった。

 ん?

 ひょっとして、ワシの吸い方が悪かっただけなのか?

 まぁ、良い。あのような女性を傷付けるやり方を治してくれたのじゃ。感謝しかない。

 恒興の奴、元気にしておるか?

 いや、アイツのことだ織田家を守るために信忠を支えてくれているだろう。

 よもや金柑頭に付いてはいまいよな?

 いやいや、気にしていても仕方ない。ワシはもう元の世界には関わりたくても関わらないのだからな。

 だが、こうやって偶に思い出すぐらいなら許してくれよう。

「若様、着きました」

 マリーの言葉で、1人の世界から解き放たれるサブローは、短く呟く。

「であるか」

 マリーは、眼下に敵が全くいない事からサブローに尋ねる。

「若様、ナバル郡もタルカ郡も見当たりませんが本当に来るのでしょうか?」

「うむ。こちらに向かっているところなのは間違いあるまい。ここまで5日で到着するであろう」

 しかし、惜しいな。これほどの良い地形でありながら砦を築いて居ないどころか物見櫓ものみやぐらすら作らぬとは、な。味方に攻められるなどと全く考えていないとは、な。領主として領民を守るのが仕事であろうに。

 サブローは、つくづく父であるロルフ・ハインリッヒが無能であったことを悔やむ。ここに砦の一つでも作っていれば、牽制どころか脅威となり得たのだ。

 小高い丘、いや山とも言える程険しく、山城を作るに持ってこいの場所なのである。今は、こうして開けていて、下からでも容易に見渡せるゆえに全くその意味をなしていないのだが。

 逡巡している思考をマリーの言葉が呼び戻す。

「若様。敵が来るのに5日ですか。それでは、ロー様たちに知らせるのが少し早かったかもしれませんね」

「いや、構わぬ。マリーだからこそ。ここまで数時間で着いたが。本来ここまで来るのに馬を使っても3日はかかろう。その間、ゆるりと策を考えれるからな」

「そうですか。では若様、私について何か聞きたいことはありませんか?」

「マリーのことについて聞くこと、か。エルフについてなら聞きたいことがあるが」

「私で答えられることであれば構いませんよ」

「では、エルフは皆、マリーのように魔法を使うことができるのか?」

「はいと言いたいところですが答えはどちらとも言えないですかね」

「ん?それは、何故だ?」

「エルフが魔法を使えることに関しては、はいです。ですが、私のようにと言われるといいえとなります」

「ん?何が言いたいのだ?」

「エルフも人と同じで、得て不得手があるのです。少量の風の魔法を使えますがそれを矢に付与することしかできない百発百中の狩人のことをエルフと言い、私が先程使用したように風の魔法を身体に纏わせて、身体を強化することで近接戦闘を得意とする者のことをダークエルフと言い、魔法の才は高位でも弓矢を引き絞る力がなく属性魔法に特化した者たちのことをハイエルフと言います」

「ん?それだとそのどれにもマリーは当てはまらないのではなかろうか?」

「はい。たまにいるそうなのです。弓も扱えて、身体強化の魔法も使えて、適正のある属性の高位の魔法を全て扱える者のことをエンシェントエルフと言います。私はそれなのです。1億人に1人の逸材なんて、チヤホヤされたりしてたのです」

「そんなに強いのならワシが3歳の時に世話係を任された時に、逃げ出せたのでは?」

「えぇ、隙を見て逃げるつもりでした。そうできなくしたのは、他ならぬ若様なんですよ。若様といるとなんだかんだ楽しいのです。それに、若様はヤス様により良い暮らしをさせてやると宣言していましたね。それって、身分の違いはおろか階級制度も取っ払いたいってことなのではありませんか?」

「ククク。マリーよ。うぬは、ほんに聡いな。その通りだ。身分に縛られて、才能ある者が世に埋もれる世界などあってはならん。ワシはな。才ある者なら女だろうが子供。いや亜人でも分け隔てなく用いるぞ」

「全く、若様は退屈しませんね。だから側で見守りたいと思ってしまったのです。3歳でその思考がロルフ様にバレたら矯正される可能性がありましたから。ですが若様の言う通り、タンダザーク様はロルフ様に報告しませんでした。あの時から目星を付けていたのではありませんか?」

 サブローはニヤリと笑みを浮かべ、やがて堪忍したかのように話す。

「タンザクの奴は、奴隷を下に見ていたが鍛錬をサボっていた訳ではないからな。裏でひっそりと鍛錬をしているのを何度も見た。そういう手合いは、力を認めた相手には、一定の礼節を持ち接するからな」

「本当にその通りになっているから驚いているのですが」

「人を見る目には自信があるのでな」

 その後に裏切られることも多いがなと言いたかったがその言葉は飲み込んで、サブローは話を続ける。

「ところでマリーよ。魔法で即席の砦を作れたりはせぬか?」

 その言葉の意味がわからないマリーは、目を丸くするだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...