信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
38 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

38話 感心するセーバス

しおりを挟む
 セーバスの元にもサブロー・ハインリッヒが広く商人を求めているという御触れが届いていた。

「ほほぉ。サブロー様は、こう来ましたか。恐らく、この意図は、旧来の御用商人を一度に集める策であろう。その目的は、民を虐げてきた彼らの地位の失墜。いやはや。こんな小さな文字で、参加するように求めているところにグラン商会が居ては、契約書を良く読み込む商人たちは何か裏があると見て、動かぬ。よもやそこまで考えるとは。8歳の子供と侮っていたのは、ワシもかの。サブロー様は、間違いなくラルフ様を超える才覚の持ち主じゃ。とするとナバルにも攻め込める口実がありつつタルカに狙いを定めたのも。その先を見据えてのことか。いやはや、全く面白い。ワシももう少し若ければ、お側でお支えしたかったものよ」

 サブロー・ハインリッヒの楽市・楽座という新たな施策に深く感銘を受け、悪徳商会の取り潰し、陛下からタルカを攻める大義名分を得た鮮やかさに驚嘆したセーバス。

「それにしても養父上。サブロー様も商売の独占禁止というのは、大きく出ましたね。オダ郡では、グラン商会が長年ロルフ様に賄賂を送り、便宜を図ってもらって幅を聞かせて、他の商会に嫌がらせをしていましたからね」

 孫と話すかのようにゆったりとした口調で話すセーバスの前に座っている17歳ぐらいの少年が今期のマルケス商会の収支決算報告書を纏めながら顎に手を当て、冷静な口調で答えた。

 この青年の名前をルカ・マルケスという。

 元少年奴隷であり、セーバスに買い取られなければ、非力な身体で戦場でこき使われて死んでいただろうと深く感謝し、セーバスのためにマルケス商会を盛り立てることに力を注ぐ青年である。

「それにしても、奴隷の扱いが最低であったロルフ様からあのような傑物が産まれるとは、いやはや長生きはするもんじゃな。ルカや。それが済んだら休むのじゃ」

「お気遣い感謝致します。あの養父上?」

「ルカ、浮かない顔をして、どうしたのじゃ?」

「私は、サブロー様のお力になるのが良いかと思います。養父上が残りの人生をかけて、お支えするに足る人物かと」

「なんじゃ。背中を押しているのかルカよ」

「やらないで後悔するよりもやって後悔する方が良いかと」

「こりゃ一本取られたわい。確かにそうじゃ。しかし、何度も訪ねてくれたレイヴァンド卿を無碍にしているのじゃ。それに悪徳商人の呼び出しから顔を見せておらん。恐らく諦めたのじゃろう」

「なら、こちらから!」

「それはできん。ワシは、判断を間違えたのじゃ。サブロー様をまだまだ小さな子供だと。もう立派にこのオダ郡を治める領主であったのにな。レイヴァンド卿は、サブロー様をよく育ててくれなさった。ラルフ様も喜んでおられよう」

「養父上」

 それ以上は何も言えないとルカは黙り込む、そこにレオが駆け込んでくる。

「親父!兄者!さ、さ、さ、サブロー・ハインリッヒが来た!」

「「サブロー様が!?」」

 全く、予想だにしていないセーバスとルカだが話は、サブロー・ハインリッヒがグラン商会を含む悪徳商人を一切排除した時に戻る。

「やはり、マルケス商会は、来なかったか」

「若、その事で」

「ハッハッハッハ。いやぁ愉快愉快。子供ばかりを買う奴隷商人、いやはや。その実在は、子供を守る商人だったか」

「若、それは待ってください。ってえっ?子供を守る商人とは、どういう事ですか若?」

「ロー爺よ。勿論、あの御触れにも細工をしていたのだ」

「まさか!?」

 ローは、御触れを丁寧に読み込み、小さな文字のところに行き着いた。

「尚、この召集に応じてくれた商会の中にグラン商会、、、、、、、、、、、、」

「若、これはどういう事ですか!?ここに書かれている今回召集に応じてくれた商会の全てが此度集まった者たちばかり」

「ロー爺よ。ワシがただ遊んでいただけとでも思っておったのか?情報は宝だ。ゆえにワシも市場に出て、民から話を聞いて回ったのだ。案外変装すると皆分からんものだな。ペラペラと噂話を聞かせてくれたものだ」

「若には、驚かされてばかりですな。では、粛清対象の全てが今回応じたわけですな」

「うむ。そもそも商人たるものどんなに小さく書かれていても契約書は読み込むものだ。読み込まなかった時点で商人かぶれ、所謂、商人を隠れ蓑にして、悪さをしていた奴らという事よ。まぁ、その中で、歯ごたえのある奴が出てきてくれた方が楽しめたのだがな。簡単すぎて、実に暇であったな」

「若、付き合ってもらいたいところがあります」

「うむ。行くかマルケス商会に」

「全く、若には敵いませんな」

「ロー爺よ。自信を持て、お前には人を見る目がある。まぁマッシュの奴は例外だがな」

「若、まさか本当に面白いってだけで登用したんじゃないでしょうな」

「さぁな」

 マッシュの奴は、仕える男に恵まれなかっただけのことだ。

 あれだけ部下に人望があるのだ。

 まぁ、名前が面白かったのは、大きな採用基準ではあったがな。

 こうして、サブロー・ハインリッヒはロー・レイヴァンドと共にマルケス商会を訪れたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...