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2章 オダ郡を一つにまとめる
66話 中級コースのゆくえ
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初級コースが終わり、女ばかりの中級コースというだけでなく、相撲でのぶつかり合いや的当てでの絶技と違い、変わり映えのしない馬が走るだけというのに、観客たちはいまいち盛り上がりに欠けていた。
「おいおい、人が馬に乗って、真っ直ぐ走るだけのを見るってのは、つまらねぇな」
「はぁ。こんなことなら相撲を最終日に持ってきて欲しかったですわ」
「私の私のセル君が落馬しちゃった。推しの居ない競技に興味ないよぉ~」
「セル、惜しかったな。全部そつなくできるわけじゃねぇ。おれぁ。お前の父ちゃんでほんと幸せだぁ~」
まぁ、全く盛り上がってないわけではないか。
あのようにセルの推しと父親には。
うーん。
しかし、領民を楽しませるのも兼ねた祭りだったのだが、ここまで盛り上がりに欠けるとはな。
無理をしてでも競争にするべきだったか。
いや、それで怪我をしたら元も子もない。
これも仕方ないことだな。
領民のことを思いやれない者など人の上に立ってはならんからな。
「領主様~。一つ提案があるのですがお聞き届けいただけますか~」
あの気の抜けたような間延びした声の持ち主は、登録名、ウマスキであったか?
提案とは、何やら面白いことをやってくれそうだな。
「うぬは、ウマスキであったな?遠慮なく申すが良い」
「では、僭越ながら初級コースをクリアした者たちは、愛馬に乗って、走らせることができるということは、証明できたはずです。そこで、ここにいるこの50人で、愛馬を一頭選んで、競争をしたいと思うのですが如何でしょうか?」
ほぉ。
まさか、そちらから競争の提案が来るとは、願ったり叶ったりではあるが。
「馬同士の意地のぶつかり合い。そそられますわ~」
「おいおい。何だよ。その面白そうな提案はよ。最高じゃねぇか。嬢ちゃん!」
「私の推しは、セル君だけ。お馬さんの推しを作るのもアリかな」
「走るだけでも難しそうなのに外周一周の競争か。欲を言えば、ここにセルが居たらなんて考えちまうな」
観客達も熱狂しているか。
水を差すのは、野暮か。
しかし、これを無視するわけには行かない。
「ゴホン。観客の皆の気持ちはわかる。だが、これだけは確認をせねばならん。先程の真っ直ぐ走るのとは、異なり中級は外周を一周走ることとなる。急な曲がりに対応できず落馬する者もでよう。そこは、許容できるが競争となると隣を走る。踏まれる危険性がある以上、安易にその提案を飲むことはできん。ワシは、領主だからな。選手の前に領民であるうぬらを危険に晒すわけにはいかん」
サブロー・ハインリッヒの言葉に説得力があると判断した領民たちは一気にクールダウンしていく。
「確かにそうだよなぁ。あぁ、見たかったけどこればっかりは領主様が正しいってもんだな」
「馬同士の意地のぷつかり合いを見れませんの?」
「そ、そうだよね。セル君がダメだったからって、馬に浮気するのはダメだよね」
理解のある領民で嬉しいがワシとしても残念だ。
馬の競争を見たかったのもまた事実なのでな。
まぁ、これだけ言えば。
「では、領主様。これより、1人づつ外周を愛馬にて、走ります。見事走り切ることができれば、競争をお認め頂けますか?」
ほぉ。
そうきたか。
だが、中級を難なくこなせるのなら自由自在に操れるという証明にもなろうな。
ここまでの覚悟なら受けねばならんな。
「良かろう。うぬの提案を受けよう。但し、競争となれば、新たなルールを加えるが構わぬか?」
「はい。その辺りのことは、私たちのことを考えてくださっている領主様にお任せします」
「良し。ならば、まずはこの中級で馬を乗りこなせてみせよ」
「必ずや。提案をお受けいただけた御期待にお応え致します」
ふっ。
きちんと礼儀も弁えた良い娘であるな。
じゃじゃ馬ではあろうが。
思えば、帰蝶の奴も馬に跨り、ワシと一緒に出かけたものだ。
こうして、ワシが帰蝶のことを懐かしむように、アヤツも今頃、ワシのことを懐かしんでくれているのであろうか。
現実世界のとある某所。
「帰蝶様。明智光秀が本能寺にて、謀反にございます!」
「そう。あの人は無事ではないのね」
「わかりません。小姓頭である蘭丸様、その兄弟である力丸様・坊丸様、その他にも大勢のものが大殿を守るために奮戦なされた上、討ち死にしたと。ですので、おそらく大殿も」
「十分よ。光秀のことを誰よりもわかっているのは私だもの。謀反を起こして、逃げ場を残す馬鹿じゃないわ」
「何故、明智の奴は謀反を」
「唆されたって思ってるなら間違いよ。光秀は、元来野心家ですもの。うちの人が油断した隙を付いたのよ。これも乱世、仕方のないこと」
初めの夫は、父に殺され。
次の夫は、幼馴染に殺されるなんて、私の運命も相当数奇なものね。
「帰蝶様!信忠様が、大殿の救援に手勢を引き連れて、向かったところを明智の反攻の前に二条城に追い詰められ、自害なされました」
「長益《ながます》、それをどうして共にいた貴方が告げに来たのと恨み言を言いたいのだけれど」
「申し訳ありません。しかし、私めは至って逃げたわけでは、信忠様より言伝を賜りまして」
「もう良いわ。全員、この場から出ていきなさい」
三郎、私が愛した人は、先に逝ってしまったのね。
でも、貴方のことだから光秀の好きにはさせなかったのでしょうね。
恐らく、首が見つからないようにするなんてことはしたんじゃないかしら。
信忠、貴方は心優しいから勝てない戦だとわかっていても父を助けようとしたのね。
そして、貴方のこと、二条城に逃げて、帝様を御退去させて、三郎同様に首が見つからないようにしたんじゃないかしら。
立派だったわ。
光秀の残念がる姿が目に浮かぶもの。
さぁ、私も私の務めを果たさないと。
私もひっそりと表舞台から消える。
これで、三郎の望んだ天下布武による天下統一の夢も潰えて、再び乱世に逆戻り。
誰が抜きん出て天下を取るのかしらね。
あぁ、意識がもう。
2人もこうして、痛い思いをしながら亡くなったのね。
ほんと、腹切りなんて、誰が決めたのかしらね。
痛すぎる。
「おいおい、人が馬に乗って、真っ直ぐ走るだけのを見るってのは、つまらねぇな」
「はぁ。こんなことなら相撲を最終日に持ってきて欲しかったですわ」
「私の私のセル君が落馬しちゃった。推しの居ない競技に興味ないよぉ~」
「セル、惜しかったな。全部そつなくできるわけじゃねぇ。おれぁ。お前の父ちゃんでほんと幸せだぁ~」
まぁ、全く盛り上がってないわけではないか。
あのようにセルの推しと父親には。
うーん。
しかし、領民を楽しませるのも兼ねた祭りだったのだが、ここまで盛り上がりに欠けるとはな。
無理をしてでも競争にするべきだったか。
いや、それで怪我をしたら元も子もない。
これも仕方ないことだな。
領民のことを思いやれない者など人の上に立ってはならんからな。
「領主様~。一つ提案があるのですがお聞き届けいただけますか~」
あの気の抜けたような間延びした声の持ち主は、登録名、ウマスキであったか?
提案とは、何やら面白いことをやってくれそうだな。
「うぬは、ウマスキであったな?遠慮なく申すが良い」
「では、僭越ながら初級コースをクリアした者たちは、愛馬に乗って、走らせることができるということは、証明できたはずです。そこで、ここにいるこの50人で、愛馬を一頭選んで、競争をしたいと思うのですが如何でしょうか?」
ほぉ。
まさか、そちらから競争の提案が来るとは、願ったり叶ったりではあるが。
「馬同士の意地のぶつかり合い。そそられますわ~」
「おいおい。何だよ。その面白そうな提案はよ。最高じゃねぇか。嬢ちゃん!」
「私の推しは、セル君だけ。お馬さんの推しを作るのもアリかな」
「走るだけでも難しそうなのに外周一周の競争か。欲を言えば、ここにセルが居たらなんて考えちまうな」
観客達も熱狂しているか。
水を差すのは、野暮か。
しかし、これを無視するわけには行かない。
「ゴホン。観客の皆の気持ちはわかる。だが、これだけは確認をせねばならん。先程の真っ直ぐ走るのとは、異なり中級は外周を一周走ることとなる。急な曲がりに対応できず落馬する者もでよう。そこは、許容できるが競争となると隣を走る。踏まれる危険性がある以上、安易にその提案を飲むことはできん。ワシは、領主だからな。選手の前に領民であるうぬらを危険に晒すわけにはいかん」
サブロー・ハインリッヒの言葉に説得力があると判断した領民たちは一気にクールダウンしていく。
「確かにそうだよなぁ。あぁ、見たかったけどこればっかりは領主様が正しいってもんだな」
「馬同士の意地のぷつかり合いを見れませんの?」
「そ、そうだよね。セル君がダメだったからって、馬に浮気するのはダメだよね」
理解のある領民で嬉しいがワシとしても残念だ。
馬の競争を見たかったのもまた事実なのでな。
まぁ、これだけ言えば。
「では、領主様。これより、1人づつ外周を愛馬にて、走ります。見事走り切ることができれば、競争をお認め頂けますか?」
ほぉ。
そうきたか。
だが、中級を難なくこなせるのなら自由自在に操れるという証明にもなろうな。
ここまでの覚悟なら受けねばならんな。
「良かろう。うぬの提案を受けよう。但し、競争となれば、新たなルールを加えるが構わぬか?」
「はい。その辺りのことは、私たちのことを考えてくださっている領主様にお任せします」
「良し。ならば、まずはこの中級で馬を乗りこなせてみせよ」
「必ずや。提案をお受けいただけた御期待にお応え致します」
ふっ。
きちんと礼儀も弁えた良い娘であるな。
じゃじゃ馬ではあろうが。
思えば、帰蝶の奴も馬に跨り、ワシと一緒に出かけたものだ。
こうして、ワシが帰蝶のことを懐かしむように、アヤツも今頃、ワシのことを懐かしんでくれているのであろうか。
現実世界のとある某所。
「帰蝶様。明智光秀が本能寺にて、謀反にございます!」
「そう。あの人は無事ではないのね」
「わかりません。小姓頭である蘭丸様、その兄弟である力丸様・坊丸様、その他にも大勢のものが大殿を守るために奮戦なされた上、討ち死にしたと。ですので、おそらく大殿も」
「十分よ。光秀のことを誰よりもわかっているのは私だもの。謀反を起こして、逃げ場を残す馬鹿じゃないわ」
「何故、明智の奴は謀反を」
「唆されたって思ってるなら間違いよ。光秀は、元来野心家ですもの。うちの人が油断した隙を付いたのよ。これも乱世、仕方のないこと」
初めの夫は、父に殺され。
次の夫は、幼馴染に殺されるなんて、私の運命も相当数奇なものね。
「帰蝶様!信忠様が、大殿の救援に手勢を引き連れて、向かったところを明智の反攻の前に二条城に追い詰められ、自害なされました」
「長益《ながます》、それをどうして共にいた貴方が告げに来たのと恨み言を言いたいのだけれど」
「申し訳ありません。しかし、私めは至って逃げたわけでは、信忠様より言伝を賜りまして」
「もう良いわ。全員、この場から出ていきなさい」
三郎、私が愛した人は、先に逝ってしまったのね。
でも、貴方のことだから光秀の好きにはさせなかったのでしょうね。
恐らく、首が見つからないようにするなんてことはしたんじゃないかしら。
信忠、貴方は心優しいから勝てない戦だとわかっていても父を助けようとしたのね。
そして、貴方のこと、二条城に逃げて、帝様を御退去させて、三郎同様に首が見つからないようにしたんじゃないかしら。
立派だったわ。
光秀の残念がる姿が目に浮かぶもの。
さぁ、私も私の務めを果たさないと。
私もひっそりと表舞台から消える。
これで、三郎の望んだ天下布武による天下統一の夢も潰えて、再び乱世に逆戻り。
誰が抜きん出て天下を取るのかしらね。
あぁ、意識がもう。
2人もこうして、痛い思いをしながら亡くなったのね。
ほんと、腹切りなんて、誰が決めたのかしらね。
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