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2章 オダ郡を一つにまとめる
75話 レーニン・ガロリングの苛立ち
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今日で祭りが終わることを掴んでいたレーニン・ガロリングは、奇襲の準備を着々と進めていた。
「物資と兵は用意できたか?」
「はっ。兵糧は、3ヶ月分。兵は、奴隷や最底辺の農民がほとんどですが1万の大軍を動員できます」
「よしよし。でかした。他の貴族の連中も2千~5千の兵で、続々と参戦すると連絡があった。総兵数は、10万に及ぶだろう。フハハハハ。奴隷や最底辺の農民共も役に立てて嬉しかろう」
「この兵数をマジカル王国との戦いで動員できていれば」
「馬鹿なことを申すな!あのような消化試合に、兵どもの命を散らせるなど馬鹿のやること。死んだロルフの奴も奴隷や農民を多く連れて行き、捨て駒の用に使用したものだ。故に、ハインリッヒ家への恨みは強い。此度の相手は、そのハインリッヒ家なのだ。裏切ることは無かろう」
「ですが、ロルフ祭とやらでは多くの者が集まったと聞きます。油断するのは、宜しくないかと」
「ガイアよ。お前がワシの軍師として、不安に思うのは無理のないことだが。人の気持ちとはそう変わらん。協力を求めたとてクソガキに従うものなどいない。それに、あの男は祭りの最中にも貴族の数人を追い出したとそうだ。戦とは数こそが全て。一思いに首都であるショバタを落として、その首を掻っ切ってくれるわ」
「ありとあらゆることを考えておくのが軍師の役目。レーニン様、くれぐれも油断なさいませんように」
「まぁ、良い。戦が始まれば一瞬だ。3ヶ月分の物資は多いと思うが、戦の準備に関しては、全てガイアに任せると決めたのだ。戦が始まれば、ワシに任せてもらうぞ」
「承知しました。出来うる限りの準備を万全にしておきます」
扉をノックする音の後。
「私です。父上」
「マーガレットか。入るが良い」
「失礼します」
「夜分にどうした?」
「父上、どうか攻めるのは1日お待ちいただけませんか?」
「それはなりませんマーガレット様。祭りの後という油断している状態だからこそ奇襲が成功するのです!」
「それは、重々承知しています。ですが、息子には、堂々とその行いが間違っていると知らしめて、苦しみながら死んで欲しいのです」
マーガレット・ハインリッヒは、思ってもないことを口にする。
本心は、息子のために古い考えの貴族を自分という旗印の元、滅してしまいたいのだ。
しかし、本心を殺して、レーニン・ガロリングが最も喜ぶであろう言葉を選んだ。
「フハハハハ。それは良い。兵数はこちらの方が10倍は多い。奇襲などという卑怯な策など取らずとも踏み潰してしまえと。ガイアよ。奇襲はやめだ!」
「何を言っておられるのですレーニン様!油断している今だからこそ手痛い一撃を与えられるのです。油断してはなりませぬ。絶対に奇襲するべきなのです!」
「いや、ワシはもう決めた。マーガレットの言葉に感銘を受けた。奇襲はやめだ。1日猶予を与えた後、宣戦布告して、堂々と攻めることとする!」
「馬鹿な!?そのようなことをすれば、我らもタルカとナバルの連合軍のようになりますぞ!向こうには、旧御三家も味方に付いたのだ。我らが思う以上に、味方するものは多いかもしれないのですぞ!」
「だとしても数で勝る我らに負けはなかろう。被害が出るのも前線を任せる奴隷や農民が大半だ。奴らの反乱にさえ気をつけて居れば十分であろう」
「戦とは、そういう単純なものではない!数が通用するのなら何故いつもいつも数で勝るガルディアン王国がマジカル王国に負けるのだ!レーニン様は、何も学ばれておらん!戦とは数の優劣で決まるのではない!人の優劣で決まるのだ!」
「えぇい。煩いわ!ワシの軍師の分際で、意見ばかりしよって、衛兵。この男を投獄せよ!」
「はっ」
「絶対に後悔しますぞレーニン様!」
「父上。感謝致します」
「気にするな。お前があのクソガキを本当はそんな風に思っていた本心も聞けて、嬉しいぞ」
「あの子は、ロルフの亡骸に砂をぶつけましたから」
「そうであったな。よくもまぁあそこまで礼儀知らずなクソガキに育ったものよ」
「私の力が至らず申し訳ありません」
「何を言う。ハインリッヒの血が悪かったのだ。いや、すまぬ」
「いえ」
牢に連れて行かれるガイアを見て、マーガレット・ハインリッヒは申し訳ない気持ちを抱きながらも仕える人間さえ違えば、将来有望であろうガイアが戦で死ぬことは無くなったと安堵する。
しかし、レーニン・ガロリングが奇襲を取り止めようともこの男が奇襲を取りやめることにはならない。
もう1人の公爵家であるモンテロ・ハルトは、戦後での更なる地位の向上のため着々と密かに奇襲の準備を進めていて、行動に移す。
「ククク。馬鹿な女の言葉で奇襲を取りやめるなんて、レーニンの奴も腕が鈍ったものだ」
普段は、温厚そうに見えるモンテロ・ハルトだが心の底では、野心に溢れていて、レーニン・ガロリングとは別にタルカのデイル・マルとある取引をしていた。
内乱で、サブロー・ハインリッヒを討ち取って、タルカが攻められることが無くなれば、ナバルを挟撃して、その土地を折半して、陛下に仕える新たな独立郡守となることを。
しかし、サブロー・ハインリッヒを侮ってはならない。
何故なら。
既に、サブロー・ハインリッヒは、領民たちを密かにゼンショウジではなく最前線から遠く後方支援が主である砦のワシヅへと移動させていた。
今回、新たに加わったテキーラ・バッカスを通して、夜通し酒を飲みに向かったとっておきの場所がワシヅ砦なのである。
ショバタに残っていたのは、サブロー・ハインリッヒを始めとした精鋭2千と奇しくも奇襲に来た敵を殲滅する戦いが初陣となる祭りの参加者であり、此度は、正式な兵ではなく民兵として参加する1500人を合わせて、3500である。
手ぐすね引いて待っていたのは、サブロー・ハインリッヒの方であった。
「物資と兵は用意できたか?」
「はっ。兵糧は、3ヶ月分。兵は、奴隷や最底辺の農民がほとんどですが1万の大軍を動員できます」
「よしよし。でかした。他の貴族の連中も2千~5千の兵で、続々と参戦すると連絡があった。総兵数は、10万に及ぶだろう。フハハハハ。奴隷や最底辺の農民共も役に立てて嬉しかろう」
「この兵数をマジカル王国との戦いで動員できていれば」
「馬鹿なことを申すな!あのような消化試合に、兵どもの命を散らせるなど馬鹿のやること。死んだロルフの奴も奴隷や農民を多く連れて行き、捨て駒の用に使用したものだ。故に、ハインリッヒ家への恨みは強い。此度の相手は、そのハインリッヒ家なのだ。裏切ることは無かろう」
「ですが、ロルフ祭とやらでは多くの者が集まったと聞きます。油断するのは、宜しくないかと」
「ガイアよ。お前がワシの軍師として、不安に思うのは無理のないことだが。人の気持ちとはそう変わらん。協力を求めたとてクソガキに従うものなどいない。それに、あの男は祭りの最中にも貴族の数人を追い出したとそうだ。戦とは数こそが全て。一思いに首都であるショバタを落として、その首を掻っ切ってくれるわ」
「ありとあらゆることを考えておくのが軍師の役目。レーニン様、くれぐれも油断なさいませんように」
「まぁ、良い。戦が始まれば一瞬だ。3ヶ月分の物資は多いと思うが、戦の準備に関しては、全てガイアに任せると決めたのだ。戦が始まれば、ワシに任せてもらうぞ」
「承知しました。出来うる限りの準備を万全にしておきます」
扉をノックする音の後。
「私です。父上」
「マーガレットか。入るが良い」
「失礼します」
「夜分にどうした?」
「父上、どうか攻めるのは1日お待ちいただけませんか?」
「それはなりませんマーガレット様。祭りの後という油断している状態だからこそ奇襲が成功するのです!」
「それは、重々承知しています。ですが、息子には、堂々とその行いが間違っていると知らしめて、苦しみながら死んで欲しいのです」
マーガレット・ハインリッヒは、思ってもないことを口にする。
本心は、息子のために古い考えの貴族を自分という旗印の元、滅してしまいたいのだ。
しかし、本心を殺して、レーニン・ガロリングが最も喜ぶであろう言葉を選んだ。
「フハハハハ。それは良い。兵数はこちらの方が10倍は多い。奇襲などという卑怯な策など取らずとも踏み潰してしまえと。ガイアよ。奇襲はやめだ!」
「何を言っておられるのですレーニン様!油断している今だからこそ手痛い一撃を与えられるのです。油断してはなりませぬ。絶対に奇襲するべきなのです!」
「いや、ワシはもう決めた。マーガレットの言葉に感銘を受けた。奇襲はやめだ。1日猶予を与えた後、宣戦布告して、堂々と攻めることとする!」
「馬鹿な!?そのようなことをすれば、我らもタルカとナバルの連合軍のようになりますぞ!向こうには、旧御三家も味方に付いたのだ。我らが思う以上に、味方するものは多いかもしれないのですぞ!」
「だとしても数で勝る我らに負けはなかろう。被害が出るのも前線を任せる奴隷や農民が大半だ。奴らの反乱にさえ気をつけて居れば十分であろう」
「戦とは、そういう単純なものではない!数が通用するのなら何故いつもいつも数で勝るガルディアン王国がマジカル王国に負けるのだ!レーニン様は、何も学ばれておらん!戦とは数の優劣で決まるのではない!人の優劣で決まるのだ!」
「えぇい。煩いわ!ワシの軍師の分際で、意見ばかりしよって、衛兵。この男を投獄せよ!」
「はっ」
「絶対に後悔しますぞレーニン様!」
「父上。感謝致します」
「気にするな。お前があのクソガキを本当はそんな風に思っていた本心も聞けて、嬉しいぞ」
「あの子は、ロルフの亡骸に砂をぶつけましたから」
「そうであったな。よくもまぁあそこまで礼儀知らずなクソガキに育ったものよ」
「私の力が至らず申し訳ありません」
「何を言う。ハインリッヒの血が悪かったのだ。いや、すまぬ」
「いえ」
牢に連れて行かれるガイアを見て、マーガレット・ハインリッヒは申し訳ない気持ちを抱きながらも仕える人間さえ違えば、将来有望であろうガイアが戦で死ぬことは無くなったと安堵する。
しかし、レーニン・ガロリングが奇襲を取り止めようともこの男が奇襲を取りやめることにはならない。
もう1人の公爵家であるモンテロ・ハルトは、戦後での更なる地位の向上のため着々と密かに奇襲の準備を進めていて、行動に移す。
「ククク。馬鹿な女の言葉で奇襲を取りやめるなんて、レーニンの奴も腕が鈍ったものだ」
普段は、温厚そうに見えるモンテロ・ハルトだが心の底では、野心に溢れていて、レーニン・ガロリングとは別にタルカのデイル・マルとある取引をしていた。
内乱で、サブロー・ハインリッヒを討ち取って、タルカが攻められることが無くなれば、ナバルを挟撃して、その土地を折半して、陛下に仕える新たな独立郡守となることを。
しかし、サブロー・ハインリッヒを侮ってはならない。
何故なら。
既に、サブロー・ハインリッヒは、領民たちを密かにゼンショウジではなく最前線から遠く後方支援が主である砦のワシヅへと移動させていた。
今回、新たに加わったテキーラ・バッカスを通して、夜通し酒を飲みに向かったとっておきの場所がワシヅ砦なのである。
ショバタに残っていたのは、サブロー・ハインリッヒを始めとした精鋭2千と奇しくも奇襲に来た敵を殲滅する戦いが初陣となる祭りの参加者であり、此度は、正式な兵ではなく民兵として参加する1500人を合わせて、3500である。
手ぐすね引いて待っていたのは、サブロー・ハインリッヒの方であった。
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