信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

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2章 オダ郡を一つにまとめる

78話 奇襲

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 反サブロー連合の最大勢力の一つである公爵家のモンテロ・ハルトは、夜の闇に乗じて、密かに出立し、サブロー・ハインリッヒの本拠地であるショバタ城周辺にて、空が明るくなるのを待っていた。

「夜もかがり火をたいて、警戒してるとは。ナバルとタルカをまぐれで撃退したとはいえ、やるじゃないですか。マル卿と連絡はついたか?」

「はい。マル卿は『兵は出さん。内輪揉めの隙を付く、野蛮な真似はせん』と」

「一度負けたぐらいで、新興貴族がそこまで頑なですか。何でしたっけ、ハザマダケでしたか」

「ハザマオカ砦であります!」

「そうそう。それです。たまたま突風が運悪く首に当たって斬られた程度で。好機を逃しますか。まぁ、良いでしょう。それなら俺が何れ利用してやるまでのこと。ショバタ城の動きは?」

「兜と鎧を来た兵士が城壁に見える程度で、目立った動きは」

「成程、ガキの浅知恵で、かがり火を炊いて、警戒はしたものの。その実、油断してるってことか。間も無く明朝、ん?外に放置されている弓櫓?あそこに誰か詰めているか?」

「無人であります」

「ククク。つくづく運が俺に傾いてきた。ロルフが連れて参戦したマジカル王国との戦いで、常備兵4500の中に多くの弓兵がいたのだろう。準備もできず我々とやり合おうと考えるなどガキとは、何と愚かなことであろう。祭りなど開いて、最後は楽しめたか。直ぐに、父と同じところに送ってやるよ」

「全くであります」

「こちらの弓兵隊を密かに弓櫓に向かわせ制圧し、城壁の兵を一気に仕留めるのだ」

「了解であります」

 モンテロ・ハルトは、外に放棄されていた弓櫓を奪取し、そこから城壁にいる兵へ弓を浴びせた。
 次々と倒れていく兵を見て、モンテロ・ハルトは高らかに笑いながら城内への突撃の準備を始める。

「フハハハハ。潰せ潰せ潰してしまえ!城内の女子供は、戦利品として、お前らにくれてやる。男は捕らえて労働力に。最優先は、サブロー・ハインリッヒの首だ。行くぞ!」

 モンテロ・ハルトは、何の躊躇いもなく城内へと雪崩れ込んで、目にした光景に唖然となる。

「なっ!?だ、誰もいないだと?」

「いえ、モンテロ様、そんなことはないであります。路地の方から視線を感じるであります」

「何だと!?伏兵か。弓を放て!」

「視線を感じなくなったであります」

「では、路地に確認に行くとしよう」

 そこで見た光景にモンテロ・ハルトは、憤慨する。

「なっ!?これは、案山子だと!?舐めやがって、他のところはどうだ?」

「こちらも案山子であります」

「まさか!?急ぎ城壁の兵を調べるのだ!」

「了解であります」

 調べて、戻ってきた兵の告げた言葉に、モンテロ・ハルトは理解した。

「やはり、そちらも案山子だったか」

「はいであります」

「夜の間から中の様子は全く動きはなかったのだな?」

「そうであります」

「だとしたら奇襲の警戒をして、ショバタ城を捨てたのか?本拠地を捨てて、何処へ?」

「フジヤマサンに城が現れたであります」

「なっ!?ここの後方の山に城だと!」

 報告を受けたモンテロ・ハルトが外に出て、フジヤマサンを見る。
 そこは、サブロー・ハインリッヒが後方に支援のために建造したワシヅ砦である。

「あのガキは、ショバタ城を攻めた奴を閉じ込める気だったのか。クソ。罠に嵌められたのだな」

「モンテロ様、それなら直ぐに打って出るであります」

「やめよ!山城とは、攻め辛い。ここを仮城として、取り返しに来たサブロー・ハインリッヒを迎え撃つ。しかし、一体いつの間に、あんなものが?昨日まで無かったはず」

 それもそのはず。
 エルフの魔法とは、マジカル王国なんかと比べものにならないぐらい高度なもので、砦の多くを認識阻害の魔法で、見事に隠蔽していたのである。
 そして、それは現在ショバタ城周辺に隠れているサブロー・ハインリッヒたちも同様である。

「良し。ここまでは計画通りだな」

「まさか、このような魔法があるとは」

「この魔法を魔法師どもが使ってこなかったのは幸いだ。こんなもの使われていれば、マジカルキラーなどと呼ばれている俺ですら討ち取られていたかもしれん」

 ルイス・ヴェルトハイムとゴルド・グロスターがマリーの魔法に感心している。

「無理ですよ。こんな高度な魔法、あんな魔法崩れの国に使えるわけありません。私たちエルフが守り続けてきた初級の魔法書を盗んだ程度の国なんかには」

「エルフの魔法書を盗んだ?」

「えぇ。数100年前のことです。里に賊が入り込んだのは。手引きしたのがランフェスターというエルフの男だと判明した時には、既に里を遠く離れた後だったそうです。子供にも読み書きで教える魔法だったので鍵を付けていなかった初級の魔法書だけがゴッソリと持ち出されて、それから直ぐのことです。魔法大国などと言うあの忌々しい国ができたのは」

「そうであったか。辛かったなマリーよ。ワシに尽くしてくれるうぬのために何かしてやりたいと思っていたところだ。何れ、ワシがマジカル王国を滅ぼして大切な魔法書を取り返してやろう」

「若様。ありがとうございます。そのお言葉だけで、励みとなります」

「なら、良かった。フジヤマサンのワシヅ砦を見て、ショバタ城への籠城を選んだ哀れなモンテロ・ハルトを今宵討ち取る。全員配置につき、夜を待ち、南門以外に火をかけて、南門に集合せよ!うぬらの働きに期待する」

 新兵全員が生唾を飲み込み緊張に耐える中、敵大将首の1人モンテロ・ハルトを討つ戦いが幕を開ける。
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