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2章 オダ郡を一つにまとめる
107話 レーニン・ガロリングという男
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スエモリ城の城内にレーニン・ガロリングは追い詰められていた。
「こんなはずでは」
思えば、ワシは貴族の中でも下から数えたほうが早い位であった。
娘のマーガレットがアイランド公国に於ける王侯貴族のハインリッヒ家のラルフの息子であるロルフに見初められるまでは。
あの時から、ワシはハインリッヒ家の親族として出世することとなった。
それから世界は大きく変わった。
今までワシのことを蔑んでいた上の位の貴族の奴らが逆に頭を下げて、道を譲るのが本当に心地良かった。
この権力を絶対に手放す訳にはいかないと心に誓った。
それゆえに、ロルフの息子であるサブローの事もワシなりに世話をしたつもりだった。
3歳の時に奴隷売買に連れて行くまでは。
アイツは、何故、同じ人間を奴隷にするのお爺ちゃんとか濁りきったワシの目と違い心に熱い炎を燃やした決意の目で問いかけてきた。
ワシは、あの時から次代に底知れない不安感を覚えた。
ロルフが死ねば、この男が次の当主となる。
その時、ワシの居場所はあるのかと。
だがそれと同時に絶対にコヤツのことを認めてはならないと思った。
それは、今までのワシを否定する事。
それは、断じて我慢ならないと。
ところがどうだ?
娘を巻き込みクーデターを起こし、挙げ句の果てには、今城内に追い詰められている。
頼りのナバルはチャルチにマリーカと連合を組んでもサブローが急造した城1つ突破できない。
タルカは、ハザマオカから動きがない。
陛下に至っては、便りすらない。
それも当然か。
兵に確認したところ気味の悪い笑い方をする兵士など居なかったのだから。
十中八九、敵の間者。
サブローの手による者だったのだろう。
最後の切り札さえも潰されたワシだが絶対に負けるわけにはいかん。
例え、相手がラルフの時代からの歴戦の将だとしても。
目の前でワシを守る最後の兵も事切れたか。
フッ。
では、真打ち登場と行こうか。
サブロー、貴様をワシは絶対に認めん!
「とうとう貴殿だけとなったな。ガロリング卿。覚悟を決められよ!」
「レイヴァンド卿であれば、相手にとって不足なし。このワシ、自らあのクソガキに引導を渡してくれるわ!」
ガキーン、ガキーン、ガキーンと何度もお互いの打ち合う音が鳴り響く。
「マーガレット様の影に隠れていたが、貴殿も相当な実力者と見える」
「フン。どうして、ワシがマジカル王国との戦いに兵だけを参戦させて、出なかったと思っておる?力を隠すためぞ」
「成程。鳶が鷹を産んだわけでは、なかったということか。若をお止めして良かった」
「安心せよ。貴様を黄泉へと送った後、直ぐにあのクソガキも送ってくれるわ」
ガキーン、ガキーン、ガキーンと幾度となく打ち合う音が鳴り響く城内。
「流石は、将軍と言われただけはある。ワシと互角に打ち合うとはな。だが、息が上がっているようだなレイヴァンド卿」
「はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。長いこと戦場から離れていたブランクが出ただけですよガロリング卿」
「フン。それが命取りになると言うことを教えてやろう!」
「ぐっ(若、侮ってしまいました。レーニンがこれ程とは)」
ガキーン、ザクリという音が聞こえた後、前のめりに膝を屈していたのは、レーニン・ガロリングの方であった。
そして、有り得ない人がここに居た。
「よもや娘のお前に謀られて居ようとは、な」
「お父様、お言葉ですが母とは子を守るものです」
「全く、お前はアイツによく似ている。それでいて、ワシに勝るとも劣らない剣術の腕、どうしてお前が男ではなかったのか。それだけが非常に残念でならん」
「私も初めはそう思っていました。どうして男ではなかったのかと。でも今は女で良かったと思っています。こうして、大切な息子を授かることもできましたし、死別してしまいましたが愛しい伴侶とも出会えましたから」
「フッ。そうか。変わったな。『私は将来、女で初めての将軍になるのよ』なんて、言ってたじゃじゃ馬が。もう、目が霞んできよった。我が娘ながら実に鋭い一撃じゃった。見事だ」
「お父様、安らかにお眠りを。ロー、何をしているの?へばっている場合ではないでしょう!ナバルがチャルチとマリーカを引き連れた連合軍で攻めているのよ。忠臣を早々に失わせてはなりません!サブローに直ぐに戻るように伝えなさい!」
「ま、マーガレット様。しかし、それでは」
「私のことなら大丈夫よ。早く行きなさい」
「しょ。承知しました」
ロー・レイヴァンドがその場を後にするとマーガレット・ハインリッヒは、レーニン・ガロリングの亡骸を抱えて、咽び泣く。
「権力に取り憑かれて、実の娘に殺しをさせるなんて、本当に馬鹿なお父様なんだから。サブローは、きっとこのオダをもっともっと良くしていくでしょう。どうか、あっちで私の愛しい人と見守っていてください。そして、大いに自らの行いを悔いてください。さようなら」
マーガレット・ハインリッヒは、たくさん泣いた後、身嗜みを整えると反乱軍に通達。
父、レーニン・ガロリングがロー・レイヴァンドと激闘の末に討ち死にしたと。
だが、ショバタ城の制圧と共に、強行軍だった政府軍は、後方の危機にその場を去ったことからスエモリ城も奪還したと。
しかし、今だけは戦を忘れて、父のために喪に服すことを許して欲しいと。
反乱軍は、これを受けナバルに攻められている政府軍からのさらなる侵攻はないと判断して、マーガレット・ハインリッヒの提案を受け入れるのだった。
サブロー・ハインリッヒの治世に反対する貴族全てを道連れにするまで、マーガレット・ハインリッヒは、茨の道を突き進むのである。
「こんなはずでは」
思えば、ワシは貴族の中でも下から数えたほうが早い位であった。
娘のマーガレットがアイランド公国に於ける王侯貴族のハインリッヒ家のラルフの息子であるロルフに見初められるまでは。
あの時から、ワシはハインリッヒ家の親族として出世することとなった。
それから世界は大きく変わった。
今までワシのことを蔑んでいた上の位の貴族の奴らが逆に頭を下げて、道を譲るのが本当に心地良かった。
この権力を絶対に手放す訳にはいかないと心に誓った。
それゆえに、ロルフの息子であるサブローの事もワシなりに世話をしたつもりだった。
3歳の時に奴隷売買に連れて行くまでは。
アイツは、何故、同じ人間を奴隷にするのお爺ちゃんとか濁りきったワシの目と違い心に熱い炎を燃やした決意の目で問いかけてきた。
ワシは、あの時から次代に底知れない不安感を覚えた。
ロルフが死ねば、この男が次の当主となる。
その時、ワシの居場所はあるのかと。
だがそれと同時に絶対にコヤツのことを認めてはならないと思った。
それは、今までのワシを否定する事。
それは、断じて我慢ならないと。
ところがどうだ?
娘を巻き込みクーデターを起こし、挙げ句の果てには、今城内に追い詰められている。
頼りのナバルはチャルチにマリーカと連合を組んでもサブローが急造した城1つ突破できない。
タルカは、ハザマオカから動きがない。
陛下に至っては、便りすらない。
それも当然か。
兵に確認したところ気味の悪い笑い方をする兵士など居なかったのだから。
十中八九、敵の間者。
サブローの手による者だったのだろう。
最後の切り札さえも潰されたワシだが絶対に負けるわけにはいかん。
例え、相手がラルフの時代からの歴戦の将だとしても。
目の前でワシを守る最後の兵も事切れたか。
フッ。
では、真打ち登場と行こうか。
サブロー、貴様をワシは絶対に認めん!
「とうとう貴殿だけとなったな。ガロリング卿。覚悟を決められよ!」
「レイヴァンド卿であれば、相手にとって不足なし。このワシ、自らあのクソガキに引導を渡してくれるわ!」
ガキーン、ガキーン、ガキーンと何度もお互いの打ち合う音が鳴り響く。
「マーガレット様の影に隠れていたが、貴殿も相当な実力者と見える」
「フン。どうして、ワシがマジカル王国との戦いに兵だけを参戦させて、出なかったと思っておる?力を隠すためぞ」
「成程。鳶が鷹を産んだわけでは、なかったということか。若をお止めして良かった」
「安心せよ。貴様を黄泉へと送った後、直ぐにあのクソガキも送ってくれるわ」
ガキーン、ガキーン、ガキーンと幾度となく打ち合う音が鳴り響く城内。
「流石は、将軍と言われただけはある。ワシと互角に打ち合うとはな。だが、息が上がっているようだなレイヴァンド卿」
「はぁ。はぁ。はぁ。はぁ。長いこと戦場から離れていたブランクが出ただけですよガロリング卿」
「フン。それが命取りになると言うことを教えてやろう!」
「ぐっ(若、侮ってしまいました。レーニンがこれ程とは)」
ガキーン、ザクリという音が聞こえた後、前のめりに膝を屈していたのは、レーニン・ガロリングの方であった。
そして、有り得ない人がここに居た。
「よもや娘のお前に謀られて居ようとは、な」
「お父様、お言葉ですが母とは子を守るものです」
「全く、お前はアイツによく似ている。それでいて、ワシに勝るとも劣らない剣術の腕、どうしてお前が男ではなかったのか。それだけが非常に残念でならん」
「私も初めはそう思っていました。どうして男ではなかったのかと。でも今は女で良かったと思っています。こうして、大切な息子を授かることもできましたし、死別してしまいましたが愛しい伴侶とも出会えましたから」
「フッ。そうか。変わったな。『私は将来、女で初めての将軍になるのよ』なんて、言ってたじゃじゃ馬が。もう、目が霞んできよった。我が娘ながら実に鋭い一撃じゃった。見事だ」
「お父様、安らかにお眠りを。ロー、何をしているの?へばっている場合ではないでしょう!ナバルがチャルチとマリーカを引き連れた連合軍で攻めているのよ。忠臣を早々に失わせてはなりません!サブローに直ぐに戻るように伝えなさい!」
「ま、マーガレット様。しかし、それでは」
「私のことなら大丈夫よ。早く行きなさい」
「しょ。承知しました」
ロー・レイヴァンドがその場を後にするとマーガレット・ハインリッヒは、レーニン・ガロリングの亡骸を抱えて、咽び泣く。
「権力に取り憑かれて、実の娘に殺しをさせるなんて、本当に馬鹿なお父様なんだから。サブローは、きっとこのオダをもっともっと良くしていくでしょう。どうか、あっちで私の愛しい人と見守っていてください。そして、大いに自らの行いを悔いてください。さようなら」
マーガレット・ハインリッヒは、たくさん泣いた後、身嗜みを整えると反乱軍に通達。
父、レーニン・ガロリングがロー・レイヴァンドと激闘の末に討ち死にしたと。
だが、ショバタ城の制圧と共に、強行軍だった政府軍は、後方の危機にその場を去ったことからスエモリ城も奪還したと。
しかし、今だけは戦を忘れて、父のために喪に服すことを許して欲しいと。
反乱軍は、これを受けナバルに攻められている政府軍からのさらなる侵攻はないと判断して、マーガレット・ハインリッヒの提案を受け入れるのだった。
サブロー・ハインリッヒの治世に反対する貴族全てを道連れにするまで、マーガレット・ハインリッヒは、茨の道を突き進むのである。
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